気候変動に関する国連COP27会議結果報告
2022/11/21
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- 2022年11月6日〜11月18日にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)は、2週間の会期を延長して週末にもつれ込み、日曜日の未明にようやく合意に達しました。今回のCOP27は、ホスト国が温暖化の影響に脆弱なアフリカ開催ということもあって、特に気候災害の「損失と損害」への対応が焦点となり、「損失と損害」に関する新基金の設立が決まりました。一方で昨年グラスゴーCOP26会議でパリ協定の長期目標を事実上1.5度に強化したことや石炭火力の段階的削減に合意したことなどをさらに進展させる決定も望まれましたが、残念ながら緩和に関してはグラスゴー合意を上回る決定はなされませんでした。一方で4万人が参加するという巨大な脱炭素祭典と化しているCOP会議の非国家アクターの動きはますます活発です。これら3点を中心に報告します。
「損失と損害」COPと言われたCOP27
2015年に採択されたパリ協定は、2021年末のCOP26(イギリス・グラスゴー)で積み残されたルールが合意されてパリ協定は完成しました。そのため今回のCOP27では、定められたルールをどのように実施していくかの実施の詳細を決める会議でした。
その中で、開催国エジプト議長が最も力を入れたのが、温暖化による「損失と損害」です。損失と損害とは、温暖化の影響に備える「適応」をしていてももはや防ぐことのできない破壊的な被害がもたらされていることに対し、どのように対応していくかというものです。
2022年はパキスタンの大洪水などをはじめとして、世界各地で温暖化が深刻度を増した洪水や干ばつによる森林火災が相次いでいます。特にその被害は、アフリカや中央アジア、小さな島国などの低開発途上国に大きなダメージを与えており、自力ではなすすべもない低開発途上国が多くあります。これらの低開発途上国はそもそも開発が進んでいないので、温室効果ガスを排出しておらず、温暖化に対する責任はほとんどありません。そのためパリ協定の下で、国際社会の公正な支援を強く求めています。
COP会議初日にホスト国エジプトの議長は、パリ協定の議論の中では初めて「損失と損害」に対する資金支援についてCOP27の正式なアジェンダ(議題)として議論することを発表しました。実はパリ協定の8条として定められている「損失と損害」は、先進国の立場からすれば、ともすれば気候変動で発生した被害に対する補償責任につながるため、できる限り専門的な知見の面での支援だけに限りたいと考えています。そのためこれまで「損失と損害」に対する資金支援の話は全く進んでいなかったのですが、それが今回初めて正式のアジェンダとして議論されることになりました。
しかし議論は難航を極めました。途上国は損失と損害に特化した新たな資金支援組織(資金ファシリティと呼ばれている)の立ち上げを強く求めました。一方で先進国は、何が既存の人道支援や防災では足りないのか、まず分析して、そのうえでどのような資金支援がどの形で求められていくのか、2年かけて議論するプロセスを立ち上げようと提案しました。すなわち具体的な資金支援組織の立ち上げか、何が必要か議論するプロセスか、という2項対立で交渉は膠着しました。
2週目の最終日直前になって、欧州連合が動き、「もっとも脆弱な国々に対する損失と損害基金」の立ち上げを提案したのです。これは大きな譲歩に見えますが、二つ条件がありました。一つは資金拠出のドナーは、これまでは主に先進国だけでしたが、それを広く拡大し、たとえば国際航空船舶税や化石燃料税などの革新的資金や、暗に中国などの新興国も出し手になるよう促す内容です。そしてもう一つは、資金の受け手は脆弱な国々、たとえば小島嶼国連合や低開発途上国などに限る、というものです。この提案は小島嶼国や低開発途上国には歓迎されましたが、その他の途上国、特にボリビアや中国らの新興国グループやサウジアラビアなどのアラブ諸国グループは大反対でした。
会期延長の土曜日になってから出された議長の新テキストは、「損失と損害にフォーカスしたファンド(基金)を2023年COP28に設立する」というもの。ただしドナーは、先進国も含めて、既存の資金メカニズムや多国間・二国間組織、NGOから民間まで幅広く想定されています。しかし資金の受け手は、脆弱国に限らず、広く途上国対象となっていました。
損失と損害に特化したファンドを設立するまで譲歩した先進国側には受け入れがたく、再度交渉が行われ、日付をまたいだ翌日日曜日未明に、新たな議長テキストが提示されました。その中では、資金の受け手は「途上国の中でも特に脆弱な国々」と言葉が変えられ、結果としてこれで、今回初めて「損失と損害」に対する資金支援のファンドが立ち上がることが決まりました。
パリ協定では決まられなかった「損失と損害」に対する資金支援のファンドが立ち上がる決定がなされたことは、いわば歴史の転換点といっても過言ではありません。
実は、この損失と損害の新ファンド設立は、2030年に向けて特に新興国に対して削減目標引き上げを迫りたい先進国にとっては、目標(NDC)引き上げを強く要請する決定を得るために必要な妥協という面もありました。
化石燃料全体の「段階的削減」は入らず
前回COP26において出た例外的な成果の一つが、決定文書の中に「(CCS等の)対策をしていない石炭火発の段階的削減」についての言及が入ったことでした。国連の気候変動枠組条約の交渉では、特定の技術や燃料について方針を出すことは非常に合意が難しいため、避けられることがこれまでは多かったのです。しかし、近年形成されつつある「電力部門の脱炭素化は先行しなければならない」という国際的なコンセンサスを受け、昨年のCOP26では議長国がこの問題を重視したこともあり、石炭火発の段階的削減への言及が入りました。
今回のCOP27では、そのCOP26での文言から、さらに踏み込んだ発信ができるのかどうかが注目されました。特にエネルギー危機を受けて、各国中でエネルギー安全保障への不安が高まる中、それでも移行を強く打ち出せるかがカギでした。
交渉の中では、この点を強く推す国々はいました。島嶼国や、EUや、コロンビア、チリなどを含むAILACと呼ばれるグループなど。最後の局面ではアメリカですら、「(対策のされていない)化石燃料の段階的廃止」を支持していました。しかし、その他の国々の強い支持は得られず、議長国もこれを重視しませんでした。サウジアラビアは、エネルギーに関して言及したセクションを丸ごと削除することを要求しました。結果として、合意が得られなかったため、最終的にはCOP26の時と同じ表現にとどまりました。
深刻化する気候危機の中で、今一歩、化石燃料からの移行について強いメッセージを打ち出すことに、COP27は失敗したことになります。
足りない削減努力を強化していくための「計画」は弱いプロセスに
COP27開始直前に発表された条約事務局による報告書において、この1年間で目標を引き上げた国々は20か国以上あるにもかかわらず、世界中の国々の削減目標を足し合わせても「世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える」という目標にはまだ足りないことが示されていました。
こうした事態を何とか改善するために、今回のCOP27では「緩和作業計画(Mitigation Work Programme)」と呼ばれるものを作ることになっていました。「作業計画」と言いつつも、実際には削減量が足りていない事態に対して国際的に検討を行う対話プロセスを作ることが、会議の序盤から大きな方向性としては出ていました。
EU、アメリカなどの先進国の本音としては、この緩和の作業計画を通じて、経済的なライバルでもある中国やインドの削減対策強化を促したい思いがありました。しかし、こうした姿勢は、先進国による不十分な削減対策の責任転嫁であるとして強く警戒する新興国は、この緩和作業計画での話し合いが、結果として削減目標の引き上げを呼びかけるものにはならないという条件を付けようとしていました。最も影響を受ける島嶼国や後発開発途上国は、責任の差異を重視しつつも、セクター毎(エネルギー部門、農業・森林部門など)の具体的な検討を含む、重厚なプロセスを求めていました。
このように、全ての国が削減努力不足を認識しつつも、それぞれの意見の対立によって、緩和作業計画に関する交渉は難しいものとなりました。
最終的には、時間切れに近い形でこれ以上の交渉は難しくなり、この緩和作業計画が「新しい目標やゴールを課すものではない」という限定が入るなど、この緩和作業計画というプロセスが生み出せる成果が部分的に制限されることになってしまいました。
2026年まで、毎年最低2回の対話が、COPおよび補助機関会合に合わせる形で開催されるほか、追加で、既存の気候変動関連イベント(近年開催されている国連の気候ウィークなど)と合わせる形であれば、対話を開催することになります。
内容としてはかなり弱いもので、各国の強い意志がなければ、単なる形骸化した会合になってしまう可能性を否定できません。上述の「化石燃料の段階的削減」に加えて、この分野においても、COP27は気候危機の深刻度に見合った結果を打ち出すことに失敗したと言えます。
しかし、1年を通じて「対話」を行った後、各年のCOPでは決定を出せることになっています。そこに政治的意思があれば、目標やゴールを「課さ」ずとも、新たな取り組みを促す決定は最低限出すことができるはずです。
非国家アクターも緩和と適応の実践が求められる時代へ
今回のCOP27でも、企業、自治体、市民団体など国家政府以外の主体を指す「非国家アクター」が大きな存在感と役割を発揮していました。
国連のもとで非国家アクターの取り組みを先導するハイレベル気候チャンピオンが2020年6月に始めたキャンペーン「Race To Zero(ゼロへのレース)」には、気温上昇を1.5℃に抑える科学のシナリオに沿う削減目標を持ち、2050年までのネットゼロ実現に向けてただちに行動を起こすことを約束した非国家アクターが、11,309(2022年9月時点)参加しています。この1年間で2倍近くに増えました。
一方で課題となっていたのは、ネットゼロの定義とその実現に向けた取り組みの信頼性です。
11月8日、グテーレス事務総長は、非国家アクターのネットゼロ宣言がグリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)とならないための基準が書かれた提言書を発表したのです。
これは、昨年COP26でのグテーレス国連事務総長の呼びかけにより、今年3月に立ち上がった16人の専門家グループが、世界各地の様々な組織との議論を経て作ったものです。いわゆる、国連が示すネットゼロの定義と言えます。
10項目からなる提言書には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が示す1.5℃シナリオに沿うネットゼロ目標のもと、5年ごとの計画を公開し進捗を管理することのほか、カーボンクレジットは自組織の削減目標に使ってはならないこと、化石燃料の段階的廃止と再生可能エネルギーの増加を目標に含むこと、自組織と異なる方針を持つ所属団体に積極的な気候変動対策を求めることなどが含まれます。
これにより、急速な高まりを見せてきた非国家アクターのネットゼロへの削減策は、これからその質が問われることとなります。
さらに、もう一つの大きな柱として盛り上がりを見せたのは、気候変動の影響への適応策を強化し、それらの影響に耐えうる社会の「レジリエンス(強靭性)」を高めていくための取り組みです。
11月8日、COP27議長国エジプトがハイレベル気候チャンピオンとの連携のもと「シャルムエルシェイク適応アジェンダ」を発表。これには、気候変動の影響への適応策に関する30の目標が掲げられ、2030年までにその実現を目指し、国家政府およびあらゆる非国家アクターに行動を呼びかけるものです。
ハイレベル気候チャンピオンが2021年1月に立ち上げたもう一つのキャンペーン「Race To Resilience(レジリエンスへのレース)」は、2030年までに気候変動の影響に脆弱なコミュニティにいる40億人がレジリエンスのある暮らしを実現することを目指しています。キャンペーンに参加する34のパートナー団体が、農業や水、資金など様々な分野でプロジェクトを実施しています。「シャルムエルシェイク適応アジェンダ」は、このRace To Resilienceとも協働し、非国家アクターによる適応策を促進していくこととなります。
11月17日には、COP27議長やハイレベル気候チャンピオンらのもと、COP27期間中の非国家アクターの成果を総括するハイレベルイベントが開催されました。
このイベントでハイレベルチャンピオンは、上に述べた二つのキャンペーンに参加する非国家アクターの取り組みについて、その進捗に関するデータを収集・提供する「データエクスプローラー(Data Explorer)」を今年の年末に向けて公開すると発表しました。
このように、パリ協定のもとで各国政府に目標の引き上げと実行の進捗管理が求められているのと同じように、非国家アクターにも、より信頼ある説明を担保する取り組みが、緩和と適応の両面から求められていくでしょう。
現地で参加したWWFジャパンオフィサーのコメント
WWFジャパン 専門ディレクター(環境・エネルギー) 小西雅子
「洪水や森林火災などの世界で相次ぐ大災害はもはや科学的にも温暖化の寄与が明らかとなり、特に自力では対応できない脆弱国にとっては存続の危機にまでなっています。COP27で、パリ協定で決めることのできなかった「損失と損害」に対する資金支援の話が進んだことは気候変動の交渉の中で大きな転換点です。日本の持つ気象関連など防災技術は大きく貢献でき、かつビジネスチャンスが広がることにもなります。日本国内でもこの途上国に対する「損失と損害」支援に強く関心が高まることを期待します」
WWFジャパン 気候エネルギー・海洋水産室長 山岸尚之
「COP27は、難しい議論をしているように見えても、本質的には割とシンプルなことを議論していました。気候変動の影響ですでに被害が出ている中で、それをどうやって救済していくのか。各国の削減努力が足りていない中で、それをどうやって強化していくのか。細部はもちろん専門的な議論になりますが、最終的には、この2つの問いにどこまで真剣に政治リーダーが向き合って答えを出すかの会議です。そして、その問いは、COP27終了後は各国がそれぞれの国に持ち帰って検討するべき問いでもあります。日本も、まだまだ脱炭素化に向けた政策が不足しています。いまこそ、カーボン・プライシングなどの強力な政策を導入し、今COP27の一つのテーマであった約束の「実施(implementation)」をするべきです。」
WWFジャパン 気候・エネルギーグループ 非国家アクタープロジェクト担当 田中健
「COP27の期間中、交渉の外では、非国家アクターが大きなエネルギーを放っていました。特に今回は、「実施のCOP」と呼ばれていただけに、非国家アクターの間でも、実のある、質の高い取り組みへの機運が高まったことを強く感じました。そして、気候変動の影響へのレジリエンスを高める取り組みは、これまでにも増して非国家アクターにも求められるようになっています。もはや宣言だけでは先進的とは見てもらえません。世界が向かう脱炭素化のレースに、いち早く参加し、確実で信頼性のある取り組みを進めていける野心が問われています。そのことが、ひいては各国政府の野心と実施をも後押しする「野心のループ(Ambition Loop)」を強くすると期待しています。」