【COP27】1週目報告
2022/11/13
- この記事のポイント
- 2022年11月6日〜11月18日にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されている国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)の1週目が終わりました。特に気候危機による「損失と損害」への対応が焦点となっているCOP27の一週目の議論内容と、その他の注目点として「緩和」と国連による「ネットゼロの定義」の二つを報告します。
「損失と損害」COPと言われるCOP27
2015年に採択されたパリ協定は、2021年末のCOP26(イギリス・グラスゴー)で積み残された市場メカニズム(6条)などが合意されてパリ協定の「ルールブック」策定作業はひとまず完了しました。そのため今回のCOP27では、定められたルールをどのように実施していくかの実施の詳細を決める会議となります。
詳細な実施ルール作りは通常は粛々と実施されていくものですが、今回は開催国が温暖化の影響に非常に脆弱なアフリカでの開催とあって、最も焦点が当たっているのが、温暖化による「損失と損害」です。損失と損害とは、温暖化の影響に備える「適応」をしていてももはや防ぐことのできない破壊的な被害がもたらされていることに対し、どのように対応していくかというものです。
2022年はパキスタンの大洪水などをはじめとして、世界各地で温暖化が深刻度を増した洪水や干ばつによる森林火災が相次いでいます。特にその被害は、アフリカや中央アジア、小さな島国などの低開発途上国に大きなダメージを与えており、自力ではなすすべもない低開発途上国が多くあるのです。しかもこれらの低開発途上国はそもそも開発が進んでいないので、温室効果ガスを排出しておらず、温暖化に対する責任はほとんどありません。そのためパリ協定の下で、国際社会の公正な支援を強く求めているのです。
COP会議初日にホスト国エジプトの議長は、「損失と損害」に対する資金支援について今回のCOP27で正式なアジェンダ(議題)として議論することを発表しました。これに反対する国はなかったようでスムーズにアジェンダに挙げられたことからも、各国が損失と損害に対する資金支援に取り組む必要があると考えていることが伺えました。
しかし1週目の議論は先進国と途上国で平行線をたどっており、合意できる気配を見せていません。途上国は損失と損害に特化した新たな資金支援組織(資金ファシリティと呼ばれている)の立ち上げを強く求めています。一方で先進国は、何が既存の人道支援や防災では足りないのか、まず分析して、そのうえでどのような資金支援がどの形で求められていくのか、2年かけて議論するプロセスを立ち上げようと提案しています。
実はパリ協定の8条として定められている「損失と損害」は、先進国の立場からすれば、ともすれば気候変動で発生した被害に対する補償責任につながるため、できる限り専門的な知見の面での支援だけに限りたいと考えています。一方途上国側は、具体的な救済措置を資金面でも得たいという希望があり、相当に難しい交渉なのです。
2週目になって大臣級によるハイレベル会合でこれらがどのような解決を見せるか、予断を許しません。この損失と損害に何らかの進展がない限り、他のアジェンダも合意に至らないと考えられ、最も注目を集める点となっています。
2030年の削減目標強化につながるか
そしてCOP27で欠かせない注目点が、パリ協定が目指す目標、つまり、世界の気温上昇を「2℃より充分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求する」ことに向けて、明らかに足りていない各国の2030年目標強化を引き続き促していけるかどうかです。パリ協定の下で国々は、温室効果ガス排出量削減目標を中心とする気候変動への取り組みを、NDC(Nationally Determined Contributions)と呼ばれる削減目標として提出することが求められています。
各国は前回のCOP26までに、2030年削減目標を引き上げましたが、それでも世界の削減目標量は足りず、COP27に向けて各国に対して更なる削減量の積み増しが要請されたのです。COP27の直前に、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局が発表した報告書によると、COP26以降、目標を改定した国は24カ国にのぼりました。しかし、提出し直された各国の削減目標が実施されたとしても、世界は、2.1〜2.9℃の気温上昇を経験することになると予測されています。
こうした現実があるため、今回のCOP27でも更なる削減量の積み増しに向けたメッセージを出すかが焦点となります。その議論の主要な舞台は、前回のCOP26の決定によって、各国の取組みを強化していくための「緩和作業計画」の策定というアジェンダがあります。1週目には各国の主張がすべて反映された文書が3回にわたって出されましたが、特に先進国と新興国の対立が激しく、こちらも合意の気配を見せていません。大量に排出する新興国などを念頭に、各国に1.5度に沿ったNDCを出すことを促す文章を入れたい先進国に対し、新興国は強く反対。2030年まで毎年目標強化の議論を続けようという先進国に対し、1~2年で終わらせようとする新興国。隔たりはまだまだ大きい状態で、2週目に入っていきます。
またCOP決定の前文となるカバー決定において、昨年のCOP26では、「石炭火力の段階的削減」などの実質的に削減につながる文言が入って注目を集めましたが、COP27のカバー決定にも、削減目標の強化につながる内容が入るのかが2週目の焦点になってきます。
交渉「外」でのイニシアティブ/パートナーシップ等の発表
3つ目は、昨年に引き続き、交渉の「外」で発表されるイニシアティブやパートナーシップの発信です。近年のCOPでは、国連会議としての正式な合意とは別に、会期中に自主的に有志で発表される様々なイニシアティブやパートナーシップ等の発表も重要な要素となってきています。それは、各国政府だけでなく、非国家アクターと呼ばれる企業、自治体、市民団体、消費者団体、労働組合など、様々な主体が互いに連携して発表されるケースが増えています。
特に今年注目を集めているのは、国連のグテーレス事務総長が主導したネットゼロの定義が発表されたことです。これは2050年ネットゼロが世界共通の目標になったことを受け、ネットゼロをめざすさまざまな産業などのイニシアチブやプラットフォームが設立されていますが、その内容は玉石混交で、グリーンウオッシング(見せかけの環境対策)も少なくないといわれています。これに対して国連では、グテーレス事務総長自らが委員を任命し、普遍的なネットゼロを明確に定義する「非国家アクターによるネットゼロ排出宣言に関するハイレベル専門家グループ」を昨年のCOP26会議で設立。今回COP27会議始まってすぐの11月8日に、そのネットゼロの提言書が発表されたものです。
その他ネットゼロを目指す世界の金融機関が集まって発表したGFANZ (Glasgow Financial Alliance for Net Zero ) も脱炭素へ向かう移行(トランジション)をどう評価するかなどを示した報告書を3つ発表しました。これらは世界の機関投資家が企業の脱炭素化を評価する上で、大きな影響があると考えられるので、こちらも注目です。
COP27の1週目はまだ合意の姿を全く見せていませんが、待ったなしの温暖化に歯止めをかけられるのか、実りある合意を期待したいと思います。