森林破壊と土地転換のないサプライチェーン - 持続可能な農林産品の調達と消費に向けた、行動のためのガイド - 報告書の発表
2022/11/10
- この記事のポイント
- 2010年、消費財流通業界のグローバルネットワーク、コンシューマーグッズフォーラム(CGF)にて、サプライチェーンにおける森林破壊ゼロを多くの企業が共同声明として宣言しました。そこから12年が経った今、何らかの森林破壊ゼロ宣言を掲げる大企業は約6割、その宣言に伴う具体的な行動は更に後れを取っています。一方、森林、草原、サバンナ、湿地など、あらゆる陸上生態系の破壊も食い止めなければ、生物多様性の回復や、気温上昇を1.5度未満に抑える目標は達成できないとの見方が強まっています。企業は自社のサプライチェーンの持続可能性を確保する取組みを加速させ、行政や生産農家へも適切な要請や支援を行ない、影響力を最大限に活用することが求められています。
持続可能でない農業生産が、世界の自然破壊の主な原因となっている
人の暮らしは、農業や林業によって生産される様々な原料を使って成り立っています。日本では特に、海外で生産されたものに頼っており、純粋に国内で生産された材料だけでできている製品を手にすることはほとんどありません。しかし、この原材料がどこで作られ、どのようにして手元に届いたのか、意識することも、知る機会もあまりないのではないでしょうか。
日本に限らず、世界の主な先進国においても、近代的な暮らしを支える原材料は、生産国の土地に大きな影響を与えています。WRIの報告書によると2001年から2015年の間に、世界の森林被覆の減少の実に39%に上る、1億2300万ヘクタールは、農業コモディティの生産が原因となっています。以下のグラフは、これら農業コモディティごとに、自然の森などの生態系の破壊面積を表しています。最大の原因が放牧地を伴う牛肉生産、続いてパーム油、大豆となっており、このトップ3のコモディティだけで全体の50%を超えています。6割以上の食料を輸入に頼る日本(カロリーベース、2019年)も、これら産品の消費地になっていることは間違いありません。
農林産品を扱う企業の取組みの拡大が鍵を握る
食料やエネルギーの安全保障がいまだかつてないほど重要性を増しており、これらに配慮しながら環境保護を進めることは、簡単ではないかもしれません。しかし長い目で見ると、今から意識して生産・消費をしていかなければ、将来的にはビジネスや暮らしに深刻な影響を与えることになりかねません。
消費国である日本でも、より多くの企業が以下のような取組みを通じ、対応することが求められています。
1) 方針設定
自社およびグループ全体の全てのサプライチェーンから、森林破壊、土地転換、そして人権侵害をなくすことを徹底させる方針を策定し、「サステナブル調達」に関するコミットメントを発表・公開する。
この際、「この日付以降の森林破壊・土地転換・人権侵害は受け付けない」というカットオフ・デートと、「この日までにこのコミットメントを達成する」というターゲット・デートの、二つの期限を設けることが重要。
2) 確実な実行
設定した方針とその実施をすべてのサプライヤーに浸透させ、サプライチェーンの透明性を高める。
この際、最終顧客が誰であろうとも、そのサプライヤーのグローバルフットプリントにおいて、森林破壊・土地転換と人権侵害のないコモディティのみを生産・販売することを保証することまで求める。すなわち、自社向けのサプライだけが森林破壊・土地転換のないものであることに留まらない。
3) 広く開示・報告
方針に対する進捗状況と成果を定期的に公開する。
これらはAFi(アカウンタビリティ・フレームワーク)という、持続可能なサプライチェーンへの取組み方をよりわかりやすくするために作られたツールの、3つの基本ステップです。標準化された共通言語を用いて、地域やコモディティの垣根を越えて、共通の手順を通じて共通のゴールを目指すイニシアチブで、欧米の大手企業の森林破壊ゼロコミットメントに活用される例も増えてきています。
※AFiについて詳しくはこちら:森林セミナー「世界の潮流からみる『サステナブル調達』のあり方」開催報告
行政や金融機関などを動かす力を発揮することも求められる
自社のサプライチェーンへの取組みが進めば、その影響力を更に拡大する機会が広がります。同業他社を含めた業界内で協力し、いわゆる「セクターアプローチ」で改善の範囲を拡大したり、共同声明の形で行政や金融機関などに対して提言を行ったりすることで、関与を促す役割を実行することが求められます。
ブラジルの飼料会社3社がすべての大豆由来製品を森林破壊・土地転換ゼロに
欧州のサケ業界の例
ブラジルのサケ飼料生産を行っていたCJ Selecta 社、Caramuru 社、Impoca/Cervejaria Petropolis 社の3 社は、元々欧州のサケ業界向けに、森林破壊・土地転換のない飼料を提供していましたが、2021年に3社は、生産するものはすべて、森林破壊・土地転換のない大豆とすることを決定しました。この新たなコミットメントは、サステナブルな調達の確保からサステナブルサプライヤーに転身するまでの、セクターアプローチでの著しい進展を示しています。
このコミットメントを通じて、欧州サケのサプライチェーンに限らず、3社の大豆事業全体が、すべての市場において同じ基準を満たすもののみを流通させることを約束しています。2020年8 月以降に転換された土地で生産された大豆は流通させない、という明確なカットオフ・デートを掲げています。世界の大豆生産の75%が飼料用に消費されていることを考えると、森林、サバンナ、草原を保護するためには他の動物性タンパク質産業においてもこのようなセクターアプローチが展開されることが期待されます。
企業連合の働きかけの影響力
EU のデューデリジェンス法
2021 年5 月、40社以上の多国籍企業が、森林破壊や土地転換につながるコモディティと製品の取引を停止するために有効なEU 法を支持する声明に署名し、EU議会に提出しました。森林破壊・土地転換のないサプライチェーンにコミットするなど、責任ある行動をとる企業を保護・後押しし、公平な競争を可能にする形での法案を要求しました。最終的には2022年11月に賛成多数で可決に至りました。このように企業が連携し、法制化のプロセスを形作る機会は、今後ますます増えると考えられます。
WWFはこのような具体的な行動に向けたガイダンスとなるレポートを発表し、日本の企業向けに日本語版に纏めました。今後もさまざまなコモディティを取り扱う企業に対し、調達方針の策定と運用、情報の開示などを求め、生産現場やサプライチェーンの改善を通じた、世界の森林などの生態系の保全に取り組んでゆきます。