シリーズ:自治体担当者に聞く!脱炭素施策事例集 省エネ・省予算を両立しながら街灯をLED化


© Bruno Arnold / WWF

青森県弘前市「弘前市街灯LED化ESCO(エスコ)事業」

【施策部門】 業務その他
【施策タイプ】 新規事業
WWFの「ここに注目」
 
  • 初期費用ゼロで地域内の街灯まるごとLED化
  • 省エネで浮いた光熱水費を、設備設置・維持管理の委託費に活用
  • 省エネをしながら、経費の削減を実現

施策概要

ESCO(エスコ)事業は、省エネルギー改修にかかる経費を、LED化などによる光熱水費の削減分でまかなう事業のこと。弘前市は平成25年、町会単位で管理していた市内の街灯(防犯灯)を無償で譲り受け、LED照明への取り替え工事と、設置後10年間の保守・維持管理業務を、弘前地区電気工事業協同組合に委託した。同組合は、加盟する電気工事業者に業務を依頼し、約3カ月で市内の街灯の取り替え工事を終了した。
同組合への委託料には、LED化により浮いた光熱水費を充てており、市の初期費用はゼロとなる。あらかじめLED化による光熱水費の削減を見込んだ契約となっているため、削減分が想定を下回る場合は差額を受託者が負担する。これにより、市が支払う電気料金の削減が受託者により保証されている。また、工事に必要な設備資金は委託業者が調達し、委託業者は市から支払われる委託料から金融機関等に返済する。

弘前市内の街灯の設置・管理は、それまで町会や商店街が行っており、市は電気料金に基づいて算定される額を交付金として町会に助成していた。しかし、東日本大震災以降の電気料金の上昇に伴い交付金の支出が年々増え、市の財政を圧迫していた。一方で、町会活動を担う役員の高齢化、地域コミュニティの活動の減少などにより、街灯の増設や修繕にかかる費用、交付金の申請業務などが町会等の負担となっていた。こうした中で、街灯のLED化により電気料金などのランニングコスト削減を図るとともに、街灯管理を市に移管することで、町会等の負担を軽減した。

予算

ESCO事業 未実施の場合
約8700万円(平成26年度推定)
  町会交付金(街灯の維持管理、電気料金などを含む)

ESCO事業 実施後
約7400万円(平成26年度)
  ESCO事業委託料 約3500万円
  街灯電気料金 約3100万円
  町会交付金 約800万円

→約1300万円の費用削減効果


削減効果

温室効果ガスの削減効果は算定していないが、1灯あたりの電気料金は年約1400円削減しているので、市内の街灯約2万灯で約2800万円分の省エネによる温室効果ガス削減効果があると想定できる。

その他効果

・街灯の所有権と維持管理が町会から市に移ることで、街灯の増設や修繕にかかる費用、交付金の申請業務、電気料金の支払いなど、町会の負担がなくなった。
・落雷等で街灯に不具合が生じた場合、市民が直接工事業者に連絡することができ、迅速な故障対応が可能となった。
・LED照明は、それまでの白熱灯、蛍光灯、水銀灯などに比べて明るいため、市民にとっての安心につながる。そのためか不審者の認知件数が減少しており、防犯効果も高まっていると考えられる。

施策を通して

<実施前の課題>
・電気供給契約がない古い街灯もあったため、町会が所有していることが明確なものをLED化対象とした。
・建物の壁に設置されている街灯は、所有権移転に伴い近くの電柱に付け替えることにした。
・町会等で設置した20VA以上のLED照明は、市がそのまま引き継ぎ、壊れたときに10VAに取り替えることにした。
・より早くLED化の効果を多くの市民に届けるため、人口の多いところからLED化を進め、作業効率を高めることにした。

<実施における課題や改善点>
LED照明は発熱量が少ないため、冬季になると街灯に積もった雪が消えにくい。そのため、LEDの光が雪に反射し、明るさを感知するセンサーが夜間を昼間と誤判断し消灯してしまう問題が起きた。そこで、LEDの光がセンサーに届かないように配置し、さらに黒い板で仕切り、街灯のカバーにも黒の塗料を塗った「弘前仕様」のLED灯を開発した。

<施策のメリットとデメリット>
メリット:
・初期費用なしで省エネ改修工事を進めることができる。また万が一、電気料金が想定よりも削減できなかった場合には受託業者が補填するので、市にはリスクがない。
・ESCO事業終了後(委託期間終了後)は委託費が不要となるため、電気料金の削減分すべてが自治体の利益となる。

デメリット:
ESCO事業終了後(委託期間終了後)は、LED灯の維持管理費が必要となってくる。

こんな自治体にオススメです

省エネやコスト削減に関心があるが、削減効果が確実でなく導入に踏み切れないという自治体にとって、省エネ改修工事として効果的な施策である。

今後の方針

設置から10年を迎えることから、今後は既設LED灯の交換を含めた維持管理事業に移行していく。また街灯とは別に、道路照明のLED化も徐々に進めていきたいと考えている。

弘前市

弘前地区電気工事業協同組合 弘前市防犯灯LED化ESCO事業とは

自治体担当者からのコメント

弘前市市民生活部市民協働課
対馬真さん

ESCO事業は、省エネ改修工事にかかる全ての経費を光熱水費等の削減分で賄う事業です。自治体は新たな財政支出を必要とせず、リスク不要で省エネ推進や温室効果ガス排出削減が可能です。省エネやコスト削減に関心があるが、リスクに不安がある自治体が地球温暖化防止や持続可能な未来を実現する効果的な施策であると思います。

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