気候変動に対策を ~カギを握る「エネルギー基本計画」とは~
2024/10/02
- この記事のポイント
- 毎年のように世界の各地で発生している異常気象。日本もひんぱんに大型台風や猛暑に見舞われるようになりました。その日本では、排出している温室効果ガスの8割以上を、石油や石炭などの化石燃料の使用による二酸化炭素が占めています。この日本のエネルギー政策の方向性を決めているのが、「エネルギー基本計画」です。2024年度中の改定を目指し、議論されているこの計画の中で、いかに化石燃料から転換し、再生可能エネルギーの比率を高める方針を示せるかは、日本の気候変動対策を左右する大きなカギとなります。こちらでは「エネルギー基本計画」について、わかりやすく解説します。
「エネルギー基本計画」とは?
地球温暖化と私たちが使うエネルギー
世界の平均気温は産業革命前と比較して既に約1.1度上昇しており、日本でも猛暑の連続や雨の降り方の変化など、社会や自然環境に影響が生じ始めています。
また、地球温暖化がこのまま進んでしまうと、さらにそうした影響が深刻化することも予測されています。
その進行を少しでも抑えるために、原因となる温室効果ガスの排出量を減らすことは待ったなしの状況です。
日本では、排出される温室効果ガスのうち8割以上を、石炭や石油、天然ガスといった化石燃料を使うことで発生する二酸化炭素が占めます。
その削減に向けて、化石燃料に頼らない形でエネルギーをまかなっていくことが求められます。
温暖化対策とはエネルギーのあり方を考えることに他ならないのです。
「エネルギー基本計画」の内容
日本では、国が法律に基づいて、中長期的なエネルギーのあり方を「エネルギー基本計画」という計画の中で定めています。
そこには、将来のエネルギー需要の見通しや、使用していくエネルギー源とそれらの比率、実現に向けた政策の方向性などが盛り込まれます。
「エネルギー基本計画」は、次の視点に基づいて議論、策定されていきます。これらは、S+3Eと呼ばれています。
安全性を大前提として、エネルギーの安定的な供給、経済性の確保(エネルギーコストの抑制)、そして環境負荷の低減が重要な要素とされています。
しかし、近年エネルギーを取り巻く状況は大きく変化しており、これらの要素に影響を与えています。
例えば環境の観点では、2015年に合意されたパリ協定が重要な契機となりました。
この協定は、世界全体での平均気温上昇を産業革命前に比べて1.5度に抑えることを目標として掲げます。その達成のために、エネルギー利用に伴う温室効果ガスの排出削減が国際的に求められているのです。
また、2022年から始まったロシアによるウクライナ侵攻は、化石燃料の供給の不安定化や世界的なコスト上昇をもたらしました。
こうした事情を加味しながら、エネルギーのあり方を考えていく必要があるのです。
「エネルギー基本計画」と日々の暮らしの関係性
「エネルギー基本計画」は略して「エネ基」と呼ばれることもありますが、言葉を聞いただけでは自分に関係ないと思う方も多いのではないでしょうか。
しかし実は、縁遠い話のようで、日々の生活に密接していることなのです。
例えば、家庭で毎日使う電力は、その多くが石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料から生み出されています。2022年度の時点では、国内の電源構成のうちの約7割が、二酸化炭素を排出する石油・石炭・天然ガスを燃料とする火力発電で構成されています。
こうした比率は、「エネルギー基本計画」に基づく政策の結果であると言えるのです。
火力発電に依存する状況とそれをもたらす計画が変わらない限り、無意識に電気を使えば使うほど、温室効果ガスを排出することにつながってしまうのです。
もし「エネルギー基本計画」に、発電時に温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギー(以下、再エネ)を将来にかけて大きく増やしていく方向性が組み込まれれば、国を挙げての体制・政策が整い、生活で使う電気も脱炭素化がいっそう進むことが期待されます。「エネルギー基本計画」で定められる内容は、日々の暮らしが地球温暖化に与える影響をも大きく左右するのです。
第7次エネルギー基本計画の論点
2021年に策定された「第6次エネルギー基本計画」では、2050年カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)の実現に向けて、例えば2030年度の電源構成で再エネを36~38%とすることなどが定められています。
この計画は3年に1度のペースで見直すこととされており、2024年度中には次の「第7次エネルギー基本計画」が策定される予定です。
例えば、次のような論点が挙げられています。
【論点の例】
- データセンターや半導体工場の誘致・立地も目指されるところ、将来の電力需要はどうなるのか。そうした中、再エネや原発などの脱炭素電源への投資を拡大するには。
- 脱炭素化を進めていくにあたって、天然ガスなどの化石燃料をどう位置づけるか。
- 将来のどの時点でのエネルギーの構成を考えるべきか。
こうした点の議論を通じて、省エネの更なる深掘りや国内での再エネの十分な拡大を明確に打ち出すことができるか、そして国際的に求められるペースで温室効果ガスの排出を削減することにつなげられるか、取りまとめられる計画の内容が注目されます。
再エネ100%の未来へ。WWFジャパンが考えるエネルギーシナリオ
最近の報道では、脱炭素社会へ進むことは必須でありながら、「再エネのみでまかなうことは難しい」という考え方も散見されます。
しかし、WWFジャパンは2050年までに再エネ100%の社会を実現できると考えています。
もちろん、それは決して容易に達成できるものではありませんが、日本が持つポテンシャル(資源量)を活かせば、十分に実現可能です。
また、東日本大震災・福島第一原発事故という未曾有の危機の経験も、エネルギーの将来像を検討していく上で忘れられてはなりません。
こうした背景を踏まえ、これまでWWFジャパンでは、2050年に温室効果ガス排出ゼロを実現するための道筋を描いた「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ」を数回発表してきました。
2024年に、このシナリオをアップデートし、国際的な要請である2030年までに再エネを3倍(太陽光2.9倍、風力10倍)にすることが日本国内でも可能であり、その延長線上で2035年に温室効果ガス排出量を2019年比で60%以上削減できることがわかりました。
またエネ基の議論で焦点の1つとなっている”AI技術による電力需要の急増の可能性”についても、関連する省エネ技術の開発・導入が同時に進むであろうことも、シナリオでは提起しています。
このほか、再エネについての様々な疑問は、こちらのページでも詳しく解説しています。
『ここが知りたい!再エネの疑問に答えるQ&A』
https://www.wwf.or.jp/activities/eventreport/5756.html
意見箱やパブコメを活用しよう
資源エネルギー庁のウェブサイトには、政策決定者に向けて「エネルギー基本計画」への意見を伝えることができる「意見箱」や「パブコメ」の窓口が期間限定で用意されています。
再エネへの賛同の意思を、ぜひこうした窓口を通じて届けてみませんか。
■意見箱に投稿する
「エネルギー政策に関する意見箱/資源エネルギー庁」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/opinion/2024.html
書き方や具体的な投稿例などは、こちらのページで詳しく説明しています。
『もっと再エネを!「エネルギー基本計画」に声を届けよう』
https://www.wwf.or.jp/event/other/5757.html
もっと知りたい方へ
下記のリンクからWWFジャパンの活動をご覧ください。
夏の風物詩が風物「止」に?第7次エネルギー計画策定を前に、猛暑からエネルギー問題を考えるパネル展を開催(2024年)
https://www.wwf.or.jp/activities/eventreport/5716.html
温暖化対策に関する国の議論が本格始動!(2024年)
https://www.wwf.or.jp/staffblog/news/5641.html
震災を経て改めて問われる日本のエネルギー計画(2024年)
https://www.wwf.or.jp/activities/opinion/5566.html
【WWF声明】石炭火発の廃止時期明示に足並みを揃えられなかったG7首脳宣言、その要因である日本政府に抗議し、国内議論の前進を要請する(2024年)
https://www.wwf.or.jp/activities/statement/5663.html
開催報告:【アーカイブ動画あり】企業が知っておきたい「気候変動に関する国連会議COP28」報告 ~2024年に向けて役立つCOP28からの示唆~(2024年)
https://www.wwf.or.jp/activities/lib/5535.html
日本の温暖化防止を左右する「エネルギー基本計画」改定に向けて(2018年)
https://www.wwf.or.jp/activities/opinion/3639.html