震災を経て改めて問われる日本のエネルギー計画
2024/03/11
- この記事のポイント
- 2011年3月11日の東日本大震災とそれによる原発事故から13年。2024年の今年 、国内では国のエネルギー政策の根幹ともいえる「エネルギー基本計画」の見直しが行われる予定です。震災後は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入を図るべく、各種エネルギー制度(ルール)の見直しが行われてきました。エネルギー基本計画は、これら制度の上に立ち、国が中長期的に目指すエネルギーのあり方(割合)を示すものです。震災後4度目となる2024年の改定では、現状まだ不十分な再生可能エネルギーの目標値の引き上げが焦点となります。
震災で明らかになったエネルギー選択の大切さ
2011年3月11日、三陸沖を震源とするM9.0の東日本大震災が発生し、近海に隣接した福島第一原子力発電所が被災した事故により、日本のエネルギー政策は大きな転換を迎えました。
安全神話を前提に、それまで電力供給の約3割を担っていた原子力発電所は全基が停止(※1)(※2)。不足する電力を旧来の火力発電で緊急代替してしのぎつつ、今後の中長期的なエネルギー供給をどう確保するかの議論が急ピッチで進められました。
この時、明らかになったのは、日本のエネルギー供給の脆弱性でした。原発は、想定外の事故を起こした際に取り返しのつかない規模の被害をもたらすだけでなく、事故処理の困難さが明らかになりました。
また従来の日本の電力供給の仕組みでは、大規模発電所で一度に大量に発電した電力を、送電線を経て各地に分配するため、依存する発電所の規模が大きいほど、万一停止した場合の代替供給にリスクが生じることが分かりました。
さらに日本の原発や火力発電はその燃料を海外輸入に大きく依存しているため、国家間の問題が生じればエネルギー供給に支障が生じる恐れがあることも、議論の焦点となりました。
こうした脆弱性を踏まえて、より安全に、自国の資源で 発電できる分散型の電源として、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)に注目が集まることとなりました。
そして震災後ほどなくして、国は大きな指針となる「革新的エネルギー・環境戦略」を策定(※3)。クリーンエネルギーを拡大し、2030年代原発ゼロを目指して、原発の40年運転制限の厳格化などが明記されました。
しかし、それでも震災後の当時 は、再エネ による発電コストはまだ高く、日本が目指すエネルギー社会の選択として、その全てを再エネで供給するような大きな転換を、国は決断することが出来ませんでした。
電力改革と3度のエネルギー基本計画の改定
こうしたなかで、グリーンエネルギーの拡大を具体化するために、電力の発電・送配電・小売の体制見直しに関する 議論が、震災後の2012年に経産省に設置された「電力システム改革専門委員会」を中心に進められました。
従来の原発・火力依存型のエネルギー構造から、徐々に再エネを増やしていけるように、その障害となっていた既存の電力ルールの見直しを委員会が提案(※4)。「電力システム改革」と呼ばれるこの改革提案を国も実行してきました。
2015年には、既存の大手電力会社の枠を超えて、広域で電力の送配電計画・管理を担う「電力広域的運用推進機関」を設置。
2016年には、これまで規制されていた家庭部門への電力の小売が全面解禁されました。
さらに改革の最終段階として、2020年には、それまでの大手電力会社の発電・送電・小売部門を別会社に独立させる「法的分離」の措置がとられました。
またこれらの大きな改革にくわえ、再エネの環境価値を取引する市場など、新たな各種市場整備が今日まで進められてきました。
しかし、これらの制度改革を経てなお、再エネの普及はいまだ諸外国に比べて十分には進んでいません。
その背景には、そもそも国の「エネルギー基本計画」で十分な再エネの目標値が設定されていない事情があります。
日本のエネルギー政策の根幹を成す計画であり、ここに示される数値目標を目指して、国の対策や予算が組まれる重要な数値です。
およそ3年に一度のペースで見直されるこの計画は、震災以降計3回の見直しが行われました(※6)。2014年の改定で示された電源構成における再エネの目標値は22~24%。その後の2018年改定では数値は据え置かれ、直近2021年の改定でようやく36~38%へと引き上げられました。
2024年は、 震災から4度目の改定となる「第7次エネルギー基本計画」の策定が予定されています。日本があらためて、脱原発・火力依存からの脱却を示せるか、そのエネルギーの選択(エネルギーミックス)に注目が集まります。
脱原発だけではない再エネにかかる期待
未曽有の原発事故を経験した日本では、当初、再エネへの期待は、主に脱原発を実現するためのものでした。
しかし、そのきっかけとなった震災から、10年以上の歳月を経たいま、再エネを取り巻く状況は大きく変わりました。
国内でも再エネのコストは大幅に低下し、もはや世界的には火力電源に比べむしろ経済性の高い現実的な発電手段として認識されるようになりました(※7)。
さらに、再エネには気候変動問題という新たな災害を防ぐための手段として、別の大きな期待が寄せられています。
地球温暖化に関して最新の科学的知見を集約する国際機関であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した最新報告書では、人類の引き起こしている気温上昇がさらに進んだ場合、数十年に一度の極端現象の増加や、社会基盤を支える生態系への影響に至るまで、取り返しのつかない被害が生じることが警告されています(※8)。
社会がこの甚大な被害を避けるためには、脱炭素の手段として、安全かつCO2を排出しない再エネの普及が急務とされているのです。
再エネの普及を図ることは、もはや一国のエネルギーの安全保障を確保するためだけではなく、世界の存続を担っていくためのものと言えます。
エネルギー基本計画の行く末は国民の声で決める
これから始まる新たなエネルギー基本計画(第7次エネルギー基本計画)の議論を控えて、すでに国内ではさまざまな次世代型の新たなエネルギー源の活用が提案されています。
水素から合成して作ったアンモニアを従来の石炭火力で燃やす混焼技術や、同じく水素と、火力発電所から排出される炭素を回収し合成する合成メタン技術など、これらの開発を後押しし、新たなエネルギー源として基本計画に入れるような動きもあります。
しかし、これらのような、従来の火力発電を温存し、引き続きCO2を排出することを許容する技術ではなく、コストも十分に下がり、技術も確立された再エネを大きく進めていくことがなにより必要です。
今の社会が問題に対処できる残された時間はもう多くはありません。2024年元旦に起きた能登半島地震でも、志賀原発で変圧器破損による油漏れの事案が発生しており、今後の動静に注目が集まっています(※9)。
新たなエネルギーの基本計画で、何を選び、それと寄り添って生きていくのか、選ぶ責任は我々国民にあります。今後の議論の節目には、国民が意見を述べるパブリックコメントの場も用意されますが、議論に影響を与えるためにはそれ以前から声を挙げていく必要があります。
WWFジャパンも、今後の議論をウォッチし、発信を続けていきます。1人でも多くの人がこの議論に関心を寄せて声をあげていくことを、WWFジャパンは期待しています。
(※1)エネルギー・経済統計要覧 2018 より: 原発の発電量が最も多かった1998年には総発電量に占める原子力の割合が約32%、震災前後の2010年度には約25%となった。
(※2)一般社団法人 日本原子力産業協会 より: 2012年6月実績では原発による発電量はゼロに。
https://www.jaif.or.jp/cms_admin/wp-content/uploads/npps/2012-06.pdf
(※3) 革新的エネルギー・環境戦略(2012年9月)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/npu/policy09/pdf/20120914/20120914_1.pdf
(※4)電力システム改革専門委員会報告書(2013年2月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/kihon_seisaku/denryoku_system/seido_sekkei/pdf/01_s01_00.pdf
(※5)https://www.renewable-ei.org/statistics/international/
(※6)資源エネルギー庁: エネルギー基本計画について
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/
(※7)IRENA, RENEWABLE POWER GENERATION COST IN 2022: Figure S.4 では、太陽光(Solar Photovoltaic )や陸上風力(On shore)、水力(Hydro)において、 LCOE(均等化発電単価)が火力発電のコストを下回りつつある。
(※8) https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html
(※9)原子力規制委員会による発生報告より
https://www.nra.go.jp/activity/bousai/trouble/houkoku_new/220000107.html