日本の温暖化防止を左右する「エネルギー基本計画」改定に向けて
2018/06/13
第5次エネルギー基本計画の案
日本のエネルギー政策の基本的な方針を定める「エネルギー基本計画」の改定案が公表され、2018年5月19日から6月17日の期間でパブリックコメントにかけられました。
同計画はエネルギー政策基本法に基づき、3年ごとの改定が決まっています。近年では、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故の後、2014年に一度改正されています。今回は2017年8月から改正にむけた議論が審議会(総合資源エネルギー調査会基本政策分科会)にて行われ、2018年5月に改定の案が提示されました。
今回の改定案では、従来の2030年に向けての中期方針に加え、2050年に向けた長期方針も検討されているのが大きな特徴です。再生可能エネルギーの「主力電源化」や「脱炭素」といったキーワードが登場するなど、ポジティブな兆候も見られる一方で、化石燃料や原子力への依存から移行していく意志が不明確な点など、問題も多く見られます。
WWFジャパンの提出意見
WWFジャパンは、今回のエネルギー基本計画(案)(以下「計画(案)」)に対して、以下の8つのポイントを含む意見を提出しました。
1.再生可能エネルギー目標の強化:
計画(案)は、再生可能エネルギーの「主力電源化」という表現が入るなど、再生可能エネルギーの位置づけが向上していることはうかがえる。しかし、2030年の具体的な数値目標(電力シェアの22~24%)を引き上げ、少なくとも電力の35%以上を目指すべきである。
2.再生可能エネルギーに適した系統運用:
再生可能エネルギーの一部は、変動電源(発電出力が風や太陽の状況等で変動する)であるが、国際的には、運用次第で十分に高い割合の再生可能エネルギーを活用することができることがすでに実証されている。解決可能な変動の課題を、根本的な問題であるかのように強調するのではなく、旧来型の電力系統の運用方法を改めるべきである。
3.再エネの持続可能性を担保する仕組み:
再生可能エネルギーが普及するにつれて、一部の地域では問題も起きている。真に持続可能なエネルギーを進めていくために、WWFジャパンでは「ゾーニング」と呼ばれる手法を推奨している。再生可能エネルギー推進にあたって、ゾーニングの実施や持続可能性基準設定など、持続可能性を確保する仕組みが必要である。
4.エネルギー消費量削減目標を設定:
省エネに関しては、現状では原単位目標がエネルギーミックスと共に設定されているが、将来的には、エネルギー消費量そのものを削減することが必要である。最終エネルギー消費ベースで、2030年までに20%削減(2010年比)という目標を設定することを提案する。
5.住宅・建築物への省エネ規制の強化:
日本は住宅・建築物に関する省エネが遅れており、同分野における規制を強化することが必要である。新築にくわえ、既設の建築物に関しても、より強制力を持った規制が必要である。
6.石炭火力発電所の規制:
「脱炭素化」への潮流があるにもかかわらず、日本では現状、石炭火力発電所の、新規増設が大量に計画されている。一度建設されてしまえば40年以上使われてしまう可能性があるため、CO2排出基準の規制もしくはカーボン・プライシングの強化を通じて、規制を強化していく必要がある。
7.気候変動目標強化:
パリ協定の下、各国は2020年までに、既存の温室効果ガス排出量削減目標を再提出することになっている。日本の目標は、パリ協定の目的達成に対して不十分なため、改善する必要がある。
8.原発の段階的廃止:原発は:
安全性・廃棄物の問題等から、持続可能な電源と呼べず、国民の支持も得られていない。すでに安定的に電気を提供できている状況でもない原子力発電所は段階的に廃止していくべきである。
WWFジャパンの長期シナリオ
上述のような意見のベースとなっているのは、WWFジャパンが2017年に発表した『脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ』です。
同シナリオでは、日本のエネルギーを100%自然エネルギーでまかなっていく「100%自然エネルギーシナリオ」と、政府目標である2050年温室効果ガス80%削減を達成する「ブリッジシナリオ」という2つのシナリオの検討を行っています。
結果、日本でも再生可能な自然エネルギーを中心としたエネルギーシステムの構築は十分に可能であることがわかりました。
今回の計画(案)が、そうした方向に少しでも近づいていくことをWWFジャパンは引き続き、求めていきます。