© Kevin Schafer / WWF

「ジャーニー・オブ・ウォーター」流域全体のコミュニティで水源を守る

この記事のポイント
2023年3月24日に閉幕した国連水会議で、WWFは動画「ジャーニー・オブ・ウォーター ニューヨーク:キャッツキル山地から都市へ」を紹介しました。「ジャーニー・オブ・ウォーター」は、2013年にWWF南アフリカが設立した適切な水の利用管理の促進を目的としたイニシアティブです。動画では「水は自然から生まれる」というメッセージとともに、ニューヨーク市の水利用についての先進事例を紹介。水がどこから来て、どのように利用されているのかを伝え、流域全体のコミュニティによる水の適切な利用・管理の促進を訴えています。
目次

「ジャーニー・オブ・ウォーター」とは

水はどこからやってきて、どこへ流れていくのか。

地上に降る雨や雪は、川となり、あるいは土壌に浸み込んで地下水となり、様々なところへ流れていきます。そして、生活用水・工業用水として人々の生活を潤し、川や海に排水されていきます。

人間の生活にとって水は不可欠なものです。同様に、水源・流域に生息するありとあらゆる生きものたちも、命を育むために水を必要としています。各地へ行き渡る、一滴一滴の「水の旅」が、人間、そして、流域に生息する生きものたちの命を支えています。

そうした認識を広め、水の持続可能な利用を目指す「ジャーニー・オブ・ウォーター(水の旅)」は、2013年にWWF南アフリカが設立したイニシアティブです。

イニシアティブでは、「蛇口から水は生まれない」つまり、水は自然から生まれるのだというメッセージを掲げ、水がどこから来て、どのように利用されているのかを各地で撮影。
動画として視覚的に伝え、流域全体での水の適切な利用・管理の促進を目指しています。

とりわけ、人々に水を提供してくれる河川や湖沼、周辺の森林といった自然環境を守るためには、小さなコミュニティ(個人、地方)から大きなコミュニティ(国・企業、都市部)まで、「流域」全体を視野に入れた、適切な水の利用管理をどのように進めていくべきかは、重要な視点。
これを実践するために、国家や企業といった大きな主体が、政策・方針の策定・転換など実際の行動に移すことを求めています。

2023年現在、11年目を迎えた「ジャーニー・オブ・ウォーター」の取り組みは、ザンビア、マレーシア、ブラジル、中国などさまざまな国々にも広がりを見せています。

ニューヨークの水の取組

このイニシアティブが制作した新たな動画「ジャーニー・オブ・ウォーター ニューヨーク:キャッツキル山地から都市へ」が、2023年3月22日~24日にアメリカ・ニューヨークで開催された国連水会議で紹介されました。

「ジャーニー・オブ・ウォーター ニューヨーク:キャッツキル山地から都市へ」

©WWF/SIWI

この動画は、ニューヨーク市の水の取り組みを紹介。
流域単位・コミュニティ単位での、持続可能な水資源管理の重要性を強調しています。

大都市ニューヨークで用いられる水。その約90%の水源となっているのが、同州北部のキャッツキル山地です。

ニューヨーク市では現在、このキャッツキル山地の保全を通じた水源の保護に、大きな投資を行なっています。

植物や土壌が自然の力で水をろ過し、きれいな飲み水を提供してくれること、つまり、土地の健康=水の健康という考え方に着目した、「自然に根差した解決策 (NbS: Nature based solutions )」を推進する、「ブルー・ベルト・プログラム」という取り組みです。

25年にわたり継続されてきたこのプログラムでは、ウェットランド、すなわち河川、遊水池、都市の緑地といった、グリーンインフラの回復や管理への投資を通じた、NbSによる洪水対策・水質管理が行なわれてきました。

コンクリートの道路は水を吸収しませんが、グリーンインフラとして機能するウェットランドは雨水を貯め、徐々に下流に水を供給していく調整作用を持っています。

実際、これを活かしたブルー・ベルト・プログラムでは、洪水リスクの低減や、水質の改善に成功してきました。

同時にニューヨーク市は、キャッツキル山地をはじめ、流域の湿地や河口部の湾を含む広域で、野生生物の保全活動も展開。


また、地元の学校教育では、人と自然との「つながり」を守る上で、水がなぜ重要なのか、水がどんな環境からきているのか、実体験を通して学ぶ授業も組み込まれています。

きれいな飲み水の確保だけでなく、土壌の浸食の軽減や、野生生物の生息地の保全にもつながる、 NbSへの投資。
そして、人々の健全な心身を育むことにも貢献する、自然豊かなレクリエーション・スペースとしての活用と、人と水のかかわりを理解する教育。

ニューヨーク市では、これらの取り組みを、行政、教育機関、企業、地権者、納税者といった、コミュニティのさまざまな人々の協働により、実現しているのです。


このニューヨーク市の取り組みが示す通り、水資源を適切に管理していくためには、「水のつながり」だけでなく、政府や企業、個人といった、組織・人、すなわち「コミュニティのつながり」が重要です。

流域・地域のコミュニティ、国というコミュニティ、ひいては地球という世界全体のコミュニティで課題に向き合い、集団行動を加速化させていく必要があります。

持続可能な水の利用管理と淡水の生物多様性の保全に向け、日本においても今後、水に関連した国内政策や地域政策、ビジネスの展開が求められることになります。

国際的な関心が、水をめぐる取り組みに集まる中、どれだけの具体的な政策・行動を形にしていけるのか。日本の動きが注目されています。

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