© James Morgan / WWF-US

国連水会議が閉幕!水行動アジェンダの採択と「淡水チャレンジ」の発足が実現

この記事のポイント
2023年3月22~24日にニューヨークで国連水会議が開催されました。水をめぐる問題を世界の最重要課題として位置付けるこの国連会議の開催は、実に46年ぶり。国連のホールは行動を求める声で溢れ、持続可能な開発を推進する上で水と淡水生態系の保全が中心的役割を果たすことに、世界中が目を向けました。「水の国際行動の10 年(2018-2028 年)」の折り返し地点と位置付けられた今回の会議で、参加各国は「水行動アジェンダ」を採択。さらにサイドイベントでは、多様な主体の参画と協力による水問題解決のための世界的なイニシアチブ「淡水チャレンジ」が発足しました。
目次

46年ぶりとなる国連水会議

環境や経済、社会、ビジネス、そして生活に、さまざまな影響を及ぼす水。

国連は2023年3月22日から24日にかけて、アメリカ・ニューヨークにて、世界的にも深刻化しているこの水問題を解決するため、46年ぶりとなる水会議を開催しました。

オランダとタジキスタンが共催したこの会議には、世界の指導者、市民社会、ビジネスリーダー、ユース、科学者など、約10,000人が、オンラインとオフラインで参加。

農業、エネルギー、環境など、淡水にかかわるさまざまなセクターから、水の危機に緊急に取り組み、SDGs目標の6「清潔な水と衛生について」の達成に向け、世界の軌道を修正するため参集しました。

そして、会議ではその成果として、水の危機に対処するための行動を緊急に拡大し、全ての人の水への公平なアクセスを確保することを約束しました。

SDGs の分岐点

安全な水、衛生設備、衛生へのアクセスは、健康と幸福のための最も基本的な人間のニーズであり、人権を守る上でも欠かせない要素です。

しかし、世界中で約 20 億人がいまだに安全な飲料水にアクセスできず、世界人口の 40%が水不足の影響を受けています。

一方で、水への需要とその使用量は拡大の一途をたどり、特に農業の需要は、水使用量の約 70%を占めるほどになっています。

こうした淡水への圧力は、2050 年には40%以上に増加するとも予測されており、さらに、気候変動をはじめとする災害の 90%以上が、水に深く関連しています。

このような背景のもと、今回の国連会議では、緊急に対応が必要とされる、気候変動や強制移住、紛争の要因としての水の危機から、健康、貧困削減、食糧安全保障に関連する重要な役割まで、水をめぐるさまざまな討議が行なわれました。

また、解決策にも注目が集まり、水量に関するデータ収集の改善や、ガバナンスの強化、水分野における資金不足なども議論されました。

そして、水に関するSDGsの目標6の達成に、年間 1,820 億ドルから 6,000 億ドル以上の資金が必要とされる現状を受け、資金調達と、革新的なその手段の重要性が強調され、新しいイノベーションと大規模な投資が呼びかけられました。

変革のための「水行動アジェンダ」に700以上のコミットメント

今回の国連会議では、主要な成果として「水行動アジェンダ」が採択されました。

これは、世界的な水の「危機」を「安全」に転換する取り組みの推進を目的としたもので、今回の会議では、各国政府を含むさまざまな主体から、700 以上のコミットメントが集まりました。

例えば日本政府は、このコミットメントの一環として、アジア太平洋地域が抱える水に関する社会的課題の解決に向け、今後5年間で約5,000億円(36.5億ドル)の資金援助を行ない、「質の高いインフラ」の整備に積極的に貢献することを約束すると発表しました。

また、アジア開発銀行も、水に関連する取り組みに110億ドルの投資を約束。さらに、2030年までに、アジア太平洋地域と世界全体に対し、それぞれ1,000億ドルを提供することを発表しました。

民間セクターでは、5つの企業がアメリカ政府と共同で、ウォーター・アクセス・ファンド(Water Access Fund)に約1億4,000万ドルを投資することを発表。その目標として、水、衛生設備、衛生へのアクセスを、500万人に提供するとしています。

「2023 年国連水会議では、水の未来だけでなく、世界の未来に変化をもたらすために、決意あるグローバルコミュニティが結集しました」と、国連経済社会問題担当事務次長兼会議事務総長の李俊華は述べています。

「この会議で議論したことも踏まえて、9月にSDGs サミットが開催されます。世界が一丸となって、すべての SDGs を実現できるように、健全な地球上で、全ての人が、どの地域においても、持続可能な未来のための行動がとれるように、今回の水会議で生み出されたエネルギーが、その変革をもたらす力になってくれることを期待しています」

実際、今回の会議の成果は、2023 年 9 月の国連総会での SDGs サミット、2024 年の国連未来のサミット、2025 年の世界社会サミット、そして持続可能な開発に関する年次ハイレベル政治フォーラムなど、さまざまな国際交渉の場を通じて、具体化されてゆくことになっています。

「淡水チャレンジ」の発足

今回の国連水会議のサイドイベントでは、コロンビア、コンゴ民主共和国、エクアドル、ガボン、メキシコ、ザンビアなどの各国政府が発足を提唱していた「淡水チャレンジ」が成立しました。

この淡水チャレンジは、河川や湿地といった水環境の生物多様性と生態系サービスを回復させ、その持続可能な利用を支えることを目的とした、各国政府が主導する国際的なイニシアチブです。

これに参加する各国政府や、企業等を含む関連ステークホルダーは、共通の目標を掲げたパートナーシップに基づき、国家の行動計画、関連政策、分野を超えた計画枠組み、国や流域レベルでの取り組みを通じて、淡水の回復を目指します。

淡水チャレンジは、国連水会議の本会議での決議とは異なる、自主的な連携に基づく取り組みですが、その規模の大きさから、国際的にも影響力の大きさが期待されています。

淡水チャレンジの目的

淡水チャレンジは次の 3 つの目的の実現を目指します。

  1. 淡水の回復目標を設定し、その目標を国の政策課題として主流化することで、分野を超えた政策の一貫性を促進し、持続可能な開発目標(SDGs)、昆明・モントリオール生物多様性枠組、パリ協定、その他の多国間枠組みの国レベルの達成を加速させること。
  2. 淡水の回復に携わるすべてのステークホルダーのコミットメント、イニシアチブ、行動を収集し、その貢献を明らかにし、計画の改善、進捗の測定、報告の統合を図ること。
  3. 資金や人的資源などを動員して実施を加速させ、メンバーやパートナーが回復目標を達成できるように支援すること。

2030年までに30万kmの河川と350万平方キロメートルの水環境を回復

淡水チャレンジでは、達成するべき目標として、2030 年までに30万kmの河川と350万平方キロメートルの水環境を回復するため、必要な支援を行なうことを掲げています。

この数字は、劣化した世界の淡水生態系の30%に相当し、目標として過去に例のない規模となることから、世界的にも注目を集めています。

目標の実現のため、淡水チャレンジの参加主体には、各国が定めた優先課題に基づき、資金・人的資源と専門知識を動員して、淡水の回復目標の設定と実施を支援すること。そして、先住民や地域コミュニティ、その他の国内外のステークホルダーと協力し、包括的な観点から解決のためのアプローチをとることが求められます。

その実施内容として、今回発表されたアクションプランには、持続可能な開発、生物多様性、気候変動、災害リスク削減につながる、効果的な計画の実施を支えるため、淡水生態系の回復、保全、持続可能な利用管理に取り組むことが盛り込まれており、目標達成の柱として、次の3つを定めています。

1:知識 定量化及び準備
効果的に対策や資金調達のターゲットを絞るために、国 レベルで必要な科学的根拠や定量データなどを提供する

2:計画と戦略 特定及び主流化
生物多様性回復目標「30×30」の優先地域を特定し、関連する国家戦略や計画を更新する

3:リソース・資金の結集
目標を実施するために、リソースを動員し、財政的な仕組みを整える

日本に求められる取り組み

淡水チャレンジへの参加は、淡水チャレンジ日本を含む世界のすべての国々が、健全な淡水生態系を緊急に回復するために、それぞれの生物多様性国家戦略や行動計画、SDGs の実施計画を通じ、明確な目標の設定を改めて約束するよう求めるものです。

また、各国の企業等の非国家の主体の間でも、水環境の保全と回復、持続可能な開発を推進していく動きが今後、強まっていくことになるでしょう。

WWFインターナショナルの淡水生態系保全活動を主管するスチュアート・オラは、この点について次のように述べています。

「世界的に深刻化する水、自然、気候の危機に対処するためには、水に関する根本的な変革につながる行動が必要です。

そして、大きな変革につながる、水行動アジェンダや淡水チャレンジへのさまざまなコミットメントの存在は、私たちに希望を与えてくれます。

まだ、企業間の協働と金融業界による投資の強化が必要な状況ですが、水に対する新しいアプローチや、健全な河川、湖沼、湿地への投資を、強く支持する動きが起きていることも、かつてなかったことです。
もちろん、今日のコミットメントは、明日からの実際の行動に結びつかなければ意味を成しません。その主体である政府や企業は、半年後にストックホルムで開催される「世界水週間」に、そして1年後の2024年の「世界水の日」に、公約や約束を実践に移したこと、つまりこれが単なる口先だけのものではなかったことを証明しなければならないのです」

これからの持続可能な水の利用管理と、淡水の生物多様性の保全に向け、国連水会議の場で定められた水行動アジェンダおよび淡水チャレンジは、今後の日本の国内政策や、水に関連したビジネスの在り方に、大きな変化をもたらすものとなります。

日本政府と日本企業には、こうした新たな国際潮流を意識しながら、世界各国の政府機関やサプライチェーン上で関係する企業との協力に基づいた行動が求められることになります。

国際的な関心が、水をめぐる取り組みに集まる中、日本がどれだけの貢献と行動を形にして見せるのか。大きな注目が集まっています。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP