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IPCC報告書AR6発表「2035年までに世界全体で60%削減必要」

この記事のポイント
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から最新の科学の知見をまとめた第6次統合報告書(AR6)が、2023年3月20日に発表されました。この新知見の中でも注目されるのは、「パリ協定」の事実上の長期目標である1.5度を達成するためには、温室効果ガスの排出量を「2035年までに60%削減すること」が必要(2019年比)であることが明示された点です。気候危機が進行し、対策は一刻の猶予も許されない状況の中、発表されたこの報告書は、今後の国際交渉や国内政策、さまざまなビジネスの分野にも、大きな影響を及ぼすものとなります。
目次

気候変動をめぐる世界の現状を明らかに IPCCの新たな報告書

2023年3月20日、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」は、最新の統合報告書(第6次評価報告書 政策決定者向けの統合報告書)を発表しました。

IPCCは、地球温暖化に関する世界中の専門家の科学的知見を集約している国際機関で、1990年から5~6年ごとに評価報告書を発表。

その内容は、気候変動枠組条約などの国際交渉はもちろん、各国の気候変動対策の基礎となる、信頼ある科学的知見とされてきました。

報告書の内容は大きく次の3つに分かれています。

 第1作業部会 温暖化の科学(自然科学的根拠)
 第2作業部会 温暖化の影響(影響・適応・脆弱性)
 第3作業部会 温暖化の対策(気候変動の緩和策)

今回で6回目の発表となる第6次評価報告書(AR6)は、2021年から22年にかけて3つの作業部会から出された報告をまとめたもので、この政策決定者向けの統合報告書が最後の内容となります。

「政策決定者向けの要約」を作成に際しては、100カ国以上の政府が集まって全会一致で承認するプロセスがあり、その内容は今後の世界の気候変動対策を左右する、重要な文書となります。

第6次評価報告書(AR6)その内容について

最新の第6次評価報告書「政策決定者向けの統合報告書」は、世界の平均気温は産業革命前からすでに1.1度上昇しており、2030年代には1.5度に達する可能性が高いことを改めて指摘しました。

洪水や熱波などの異常気象の頻度が増しており、すでに人が適応できる限界を超えて、損失や損害にまで至る事象も発生しています。

こうした損失や損害の拡大を食い止めるため、温暖化防止の国際協定である「パリ協定」では、今後の地球の平均気温の上昇を、産業革命前と比べ「1.5度」に抑えることを長期目標に掲げ、各国政府にその実現を求めています。

しかし、現在までに世界各国が示している温室効果ガスの排出削減目標では、全部合わせても、この「1.5度目標」を達成するには不足しているのが現状です。

各国政府には、この排出削減努力の不足を補うべく、すべての分野において急速で大幅な削減を行なうことが求められます。

2035年までに温室効果ガス60%削減(CO2は65%削減)が必要

そうした中、新報告書のAR6では、最も重要な知見として、「1.5度に気温上昇を抑えるためには、2035年までに世界全体で60%の削減が必要である」ことが指摘されました。

これまでに示してきた、「2030年までに温室効果ガス排出を43%削減(CO2は48%削減)」に加え、2050年までにカーボンニュートラルを達成するには、次のステップで削減を行なっていくことの必要性を明示したのです。(いずれも基準年2019年比)(B.6)

  • 2030年までに温室効果ガス排出を43%削減(CO2は48%削減)
  • 2035年までに60%削減(CO2は65%削減)
  • 2040年までに69%削減(CO2は80%削減)

現在、世界各国は「パリ協定」に対して、2030年の温室効果ガス削減目標を提出しており、さらにパリ協定の取り決めのもと、5年ごとに、最新の科学的知見を元に上方修正した、新たな削減目標を提出することになっています。

そのため、次の焦点は2035年の削減目標となります。

各国の2035年削減目標は、2023年末に開催される、国連気候変動枠組み条約会議(COP28)での議論を経て、2024年末のCOP29会議で提出する事になっています。それらの議論に、今回示されたIPCCの「2035年に世界全体で温室効果ガス60%削減が必要」という知見は、大きな指針となります。

日本は現状「2030年46%削減目標(2013年比)」をパリ協定へ提出していますが、次の2035年目標の検討を早期に開始する必要があります。

日本は先進国の一員として、世界平均以上の削減努力を求められますので、今回示された60%を上回る2035年削減目標の検討が必要です。

温暖化による取り返しのつかない被害「損失と損害」が増加

AR6の報告書では、今後のさらなる気温上昇に伴って、温暖化による取り返しのつかない「損失や損害が増加」し、人々や自然がもはや適応の限界に達するであろうことを改めて指摘しました。

地球の人口のほぼ半分が気候変動による被害に非常に脆弱な地域に住んでいることを示し、2020年までの過去10年の間に、洪水や干ばつ嵐による死亡は、これら脆弱な地域では他地域に比べて15倍にも達する可能性を明らかにしたのです(A.2.2)。

脱炭素化、すなわちCO2の排出削減が遅れれば遅れるほど、損失と損害が増加していくことも指摘されています。

2023年末のCOP28では、こうした温暖化におる「損失と損害」に対して資金支援組織が立ち上がることになっており、これらの知見が参照されることになります。

AR6が示す「1.5度目標」の達成に向けた道筋

1.5度に抑える「解決策」はすでにある

1.5度目標の達成は、気候変動による損失と損害といった、破壊的なリスクを避ける上で、欠かせない取り組みです。

そして、今回のAR6の報告書では、それを実現するために、今この時から2030年にかけて、世界全体が総力を挙げて、温室効果ガスの排出量をほぼ半減させることがカギであることが強調されています。

同時に、AR6の報告書では、すべてのセクターが1.5度目標に沿って、2030年までに排出量を半分に削減できる解決策があることも示しています。

しかもそのコストは下がってきており、二酸化炭素1トン当たり20ドル以下の施策で、2030年半減の半分以上が可能だと示されています。

たとえば太陽光発電は、2010年から2019年の間に85%もコストが低下し、風力発電は55%、リチウムイオン電池も85%コストが低下(A.4.2)。

こうした状況の変化が、1.5度目標を実現するための「解決策」の一端になることを明らかにしているのです。

残された時間は少ない 未来に向けた脱炭素の加速を

AR6報告書では、1950年に生まれた人に比べ、2020年に生まれた人が、いかに温暖化による悪影響にさらされるかについて可視化した、図式なども紹介されました。

出典:IPCC 第6次評価報告書政策決定者向けの統合報告書

これは、若い世代が、気候変動による影響、損失や損害により強くさらされる状況についても明確に指摘したものです。

AR6の報告書は、地球温暖化の問題が、世代間の不公平でもあることも、強調しているのです。

1.5度に気温上昇を抑えるための技術もコストも、すでに十分に実現可能な、手の届く範囲にあります。

今の世界を担う世代は、将来の世代をさらなる気候変動のリスクにさらさないためにも、無駄にしている時間はありません。

たった今から、各国政府は実効的な政策を導入し、企業や自治体もそれぞれのビジネスや行政の改善を通じて、脱炭素化を加速させていく必要があります。

【WWFジャパン声明】 温暖化対策に関する科学IPCC報告書のまとめ発表(第6次評価報告書統合報告書)
IPCC第6次評価報告書(AR6)(気象庁のサイト)

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