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気候変動に関するCOP29会議について

この記事のポイント
気候変動問題の解決を目指し、ほぼ全ての国が参加して脱炭素化に取り組むことを約束した「パリ協定」。石油や石炭に依存した今のエネルギー社会を、大きく変える方針となった「パリ協定」は、今や世界経済をも動かす世界共通のルールとなっています。そのパリ協定に関する国連会議COP29が、アゼルバイジャン・バクーで、2024年11月11日から11月22日まで開催されます。気候資金に関する新しい目標設定や、2035年削減目標に向けた機運醸成、炭素市場に関する詳細ガイダンス作りが期待されるほか、非国家アクターの動きにも注目です。
目次

気候危機を議論する国際会議COP29

基本情報

会議名:国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)
開催期間:2024年11月11日~22日
議長国:アゼルバイジャン
開催地:バクー(アゼルバイジャン首都)

2024年の日本の夏は、2023年に引き続き記録的な暑さに見舞われました。気象庁によれば2024年6月~8月の日本の平均気温は基準値と比べ+1.76度で、統計を開始した1898年以降の夏として、2023年の記録と並び、1位でした。
2024年の夏、南西諸島では大規模な白化現象が発生。石垣島と西表島の間に広がる日本最大のサンゴ礁の海、石西礁湖でも、その深刻な被害が確認されました。
また、8月には過去最大級の台風を含む大型の台風が相次いで日本列島を襲い、9月には記録的豪雨が能登半島を襲う等、各地で深刻で悲惨な被害をもたらしています。

世界の生物多様性を脅かし、人の暮らしを根本から揺るがす気候危機について、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書は、気候変動が人為的活動を原因とすることには疑いがないこと、世界全体の平均気温の上昇を1.5度に抑えるためには、もはや一刻の猶予もなく対策の強化が必要であることを強調しています。

このような中、2024年11月11日から11月22日までカスピ海西岸に位置するアゼルバイジャン・バクーでCOP29(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)が開催されます。

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COP29はカスピ海西岸のアゼルバイジャンで開催。写真は2022年のアゼルバイジャンにおけるアースアワーの様子。

なぜCOP29が重要なのか

気候危機を止めるには、世界中の国々が協力して対策を進めなければなりません。そのためのルールを決めているのがパリ協定であり、COPはそのルールを議論するための場です。

さらに近年は、COPの場で様々なイニシアティブ(先導的な誓約や取り組みなど)が発表されることも多くなっています。COPで議論・発表されるルールやイニシアティブは、気候危機を止めるだけでなく、私たちの経済や暮らしにも大きく関わってくるという点で非常に重要です。

COPでは毎年様々な論点について議論がされますが、以下ではWWFジャパンがCOP29で特に注目している、3つの主な注目点、そして近年活発になっている非国家アクター(政府以外の自治体や企業、市民団体などのアクター)の動きのポイントについてご紹介します。

注目点① 気候資金に関する新たな目標の設定
注目点② 野心的な2035年の削減目標に向けた機運の醸成
注目点③ 炭素市場(カーボンマーケット)のルール交渉(パリ協定6条)
注目点④ 非国家アクターの動き

注目点① 気候資金に関する新たな目標の設定

気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局長サイモン・スティル氏は、COP29において新たな資金目標に合意することが、極めて重要であることを様々な場面で強調しています。

またCOP29議長国アゼルバイジャンも、公正で野心的な新たな資金目標に合意することがCOP29交渉における最優先事項だとしています。

多くの関係者も口をそろえてCOP29は「資金(ファイナンス)COP」だと言いますが、なぜ今回のCOPで気候資金が最も注目されているのでしょうか。

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COP28開会式の気候変動枠組条約事務局長サイモン・スティル氏(左)の様子。COP29では気候資金目標の合意が重要と強調します。

気候資金とは

気候危機を防ぐには途上国を含め、全ての国が温室効果ガス(GHG)の排出削減を急速に進めていかなければなりません。

また、気候変動による悪影響に対して、多くの途上国が先進国よりも脆弱だとされています。

そんな途上国が洪水や干ばつなど深刻な気候災害に適応していきながら、同時に温室効果ガス(GHG)の排出削減を進めていくには、巨額の資金が必要となり、各国の予算だけでは対応ができないのが現状です。

途上国が気候変動対策を進めるために必要な資金を国際的にどのように用意し、途上国に提供していくか。それがCOPにおける気候資金の議論です。

© Marcio James / WWF-Brazil

2021年記録的な洪水に見舞われたブラジルの村の様子。途上国は気候変動の悪影響に脆弱と言われる。

気候資金に関するこれまでの取り決め

COP15(2009年、コペンハーゲン)において先進国は、途上国が必要とする気候資金を2020年までに毎年1000億ドルを動員するという目標を約束しました。

また、パリ協定が採択されたCOP21(2015年、パリ)では、先進国は2020年までに年間1000億ドルの気候資金供与を達成し、それを2025年まで継続すること、さらに2025年以降の新しい資金目標を2024年中に合意することが決まっています。

こうした合意を受け、COP26(2021年、グラスゴー)において2022年~2024年にかけて、気候資金に関する新たな目標(新規合同数値目標、NCQG:New Collective Quantified Goal)を議論することが決定していました。

© WWFジャパン / Naoyuki Yamagishi

気候資金に関する新たな資金目標について

しかし、COP15で約束された年間1000億ドル目標については、目標とされていた2020年までに達成することができず、経済協力開発機構(OECD)によれば、2022年にようやく先進国が動員した資金が1159億ドルに達し、2年遅れで目標を達成したことが発表されました。

目標達成が約束より遅れたことに対して、途上国は不満と不信を募らせています。

COP29における気候資金の議論

2025年以降の新しい資金目標の合意期限が迫る中、その議論をする最後のチャンスがCOP29となります。

しかし、これまでの議論の中で各国は意見の隔たりの溝を埋めることができていません。特に意見が分かれるのが、次の3点です。

  1. どれだけの量の資金支援が提供されるべきか
  2. 誰が資金を提供すべきか
  3. 誰が資金を受け取れるのか

COP15で約束された、年間1000億ドルという目標は、もともと途上国のニーズに応じて計算された数値ではなく、国際的なコミットメントとして政治的に定められた数値目標でした。

一方で、気候変動枠組条約事務局によると、実際に途上国が気候変動対策を進めるためには、2030年までに累積で5.8兆ドルから5.9兆ドルが必要であると推計されています。

新たな資金目標は、こうした途上国のニーズを考慮しつつ、既存の目標である年間1000億ドルを下限として検討することとなっており、一部の途上国グループは、年間約1兆ドルを目標とすることを求めています。

ところが、多くの先進国グループは具体的な数値目標を提案することには後ろ向きで、むしろ公的資金だけでなく民間資金の動員や開発銀行の改革などの重要性を主張しています。

また、これまでの年間1000億ドル目標の責任を負うのは1992年時点でOECDに加盟していた先進国24カ国のみでした。

しかし先進国は、今後は中国や中東の産油国など経済的に豊かで、多くのGHG(温室効果ガス)を排出している新興国に対しても資金貢献をするように求めています。

多くの途上国グループは、気候変動枠組条約およびパリ協定で資金提供義務を負いGHG排出について歴史的な責任を持つ先進国が負担するべきだという立場です。

加えて先進国は、資金の提供先を気候変動に最も脆弱な国やより野心的な目標を掲げる途上国に限定したい一方で、途上国側はすべての途上国が資金を受ける権利を持つべきだと主張しています。

途上国の主な意見 先進国の主な意見
  • 年間約1兆ドルを目標
  • 先進国が負担する

  • すべての途上国が資金を受ける権利を持つべき
  • 具体的な数値目標を定めることに慎重
  • 経済的に豊かで、GHGを多く排出している新興国に対しても資金貢献を求める
  • 資金の提供先は気候変動に最も脆弱な国やより野心的な目標を掲げる途上国に限定
※上記は簡素化した整理であり、各国の立場・意見を網羅的に整理したものではありません。

なぜ気候資金の議論が重要なのか

途上国としては気候変動対策に必要な資金を確保するために、より多くのコミットメントを先進国から引き出したい一方で、多くの先進国は財政上の負担が増えることを懸念して大きな金額の拠出を約束することが難しいのが現状です。

資金の交渉において、各国が歩み寄りを見せられるかは、政治的な判断も重要となります。

COP29で野心的な資金目標を打ち出すことができれば、2025年2月までに提出することが求められている各国の2035年に向けた削減目標(NDC)をより野心的なものに引き上げることにもつながります。

世界全体で削減を進めていく協力関係の土台を作ることができるかが、注目されます。

注目点② 野心的な2035年の削減目標に向けた機運の醸成

パリ協定の長期目標は、世界全体の平均気温の上昇を産業革命前と比較して1.5度に抑えることです。

しかし、現状各国が国連へ提出しているGHG排出削減目標(NDC)は、全て足し合わせても、地球の平均気温の上昇を、1.5度はおろか、2度未満に抑えるにも全く足りていません。

そのためパリ協定には、各国がそれぞれ自主的に決める排出削減目標(NDC)を段階的に引き上げていくための仕組みが設けられています。

5年という期間ごとに新たな排出削減目標(NDC)を掲げ、かつ次の期間の目標は以前のNDCを上回ることが義務になっています。

この5年ごとの目標引き上げがパリ協定の長期目標の達成に十分なレベルで行われるよう、パリ協定には同じく5年ごとに世界全体での取り組みの進捗確認をするプロセス「グローバル・ストックテイク」が設けられています。

© WWFジャパン / Masako Konishi

パリ協定における目標改善のための仕組み

COP28では、パリ協定が開始してから、初めて開催されたグローバル・ストックテイクの結果が合意文書としてまとめられ、2023年4月に発表されたIPCC第6次評価報告書(AR6)で示された、2035年までにGHG排出量を2019年比で60%削減が必要であるということなどが盛り込まれました。

関連リンク:COP28結果報告

COP29で目標引き上げの機運を盛り上げることができるか

各国はグローバル・ストックテイクの結果を踏まえて、より野心的な新しいNDCとして2035年削減目標を2025年2月までに国連に提出しなければなりません。この期限を前に、今回のCOP29でもいつくかの国が削減目標を発表する見込みです。

COP29の場で、主要国や多排出国をはじめとする、少しでも多くの国が高い削減目標を発表することができれば、それに続く国々にもポジティブなメッセージを送ることができます。

2024年9月にニューヨークで開催された国連総会では、イギリスのスターマー首相がCOP29でNDCを発表することを表明しています。また報道によればCOP28議長国のアラブ首長国連邦もCOP29前に新たなNDCを提出するとしています。

2025年2月のNDC提出期限に向け、盛り上がりを作れるかが注目されています。

注目点③ 炭素市場(カーボンマーケット)のルール交渉(パリ協定6条)

もう一つの注目点は、パリ協定6条の炭素市場(カーボンマーケット)のルールについての交渉です。

パリ協定6条は、いわゆる国際的な炭素市場のルールを決める条項です。

6条2項は、二国間などの分散型のカーボン取引、そして6条4項は、京都議定書時代のクリーン開発メカニズム(CDM)の後を継ぐもので、国連主導型のカーボンメカニズム、さらに6条8項は、非市場型のメカニズムのルールを決めるものです。

COP26において、二重計上を防ぐことや、利益の一部を適応支援のために拠出することが推奨されることなどパリ協定6条の大枠のルールは決定していますが、パリ協定6条に基づき、実際に炭素市場を運用するには、さらに詳細のガイダンスや方法論を決定する必要があります。

しかし、COP28では6条2項、4項、8項のすべてにおいて、こうした詳細なルールに関する合意ができずに終了しました。

炭素市場は気候変動対策の薬?毒?

パリ協定6条のメカニズムは、正しく活用されれば気候変動緩和のための予算が不足する途上国に、気候資金の流れを作ることに貢献しますが、きちんとした規制やルールがなければ、かえって気候変動対策を妨げてしまう恐れもあります。

実際に、パリ協定6条4項国連主導型炭素市場の前身であるCDMでは、温室効果ガス削減の実態がないクレジットの大量創出につながってしまったという批判があります。

専門的・技術的な交渉論点が特に多い6条の議論ですが、各論点の主な意見の隔たりは、つまるところ、より緩やかなルールを設けることで積極的に炭素市場を活用し、気候資金の流れを作りたいと考える国と、厳しいルールや規制を設けることで炭素市場の「質」を確保し、確実に気候変動対策に資する仕組みづくりに重点を置く国の考えの違いに起因しています。

複数ある論点のうち、特に注目されるのが「除去(Removal)」に関するルールです。除去とは、その名のごとく、技術的な方法もしくは森林などの自然の働きを活用して大気中のCO2を取り除き半永久的に貯蔵することを言います。

6条4項の運用を開始するためには、この除去に関するルールを含めどのようにクレジット創出するかの方法論を決める必要があります。

国連主導型炭素市場におけるルールは、民間が先行して進めている自主的炭素市場の議論にも影響を及ぼすことが想定され、企業の脱炭素戦略にも影響を及ぼす可能性があります。

確実に気候変動対策に貢献し、かつ途上国に必要な気候資金が効果的に流れる炭素市場の仕組みが作れるのかが、この専門・技術的な詳細ガイダンスの交渉にかかっています。

© WWF-US / Des Syafriza

COP29では、炭素市場における森林吸収や技術的な方法によるCO2の「除去」の扱いが論点に。

注目点④:非国家アクターの動き

最後に、交渉の「外」で発表されるイニシアティブやパートナーシップの発信にも注目です。

近年のCOPでは、国連会議としての正式な合意とは別に、会期中に、自主的に国を超えた有志で発表される様々なイニシアティブやパートナーシップ等の発表も、交渉を良い方向に導くための重要な後押しとなっています。

各国政府だけでなく、非国家アクターと呼ばれる企業、自治体、市民団体、消費者団体、労働組合など、様々な主体が互いに連携して発表するケースが増えています。

COP28では、COP公式イベントとしては初めて、自治体の首長をはじめとする、都市や地域のリーダーたちを招いて行われた地域気候行動サミットが開催されました。サミットで立ち上げが発表された「高い野心のマルチレベルパートナーシップ連合(CHAMP)」には日本を含む70か国以上が参加し、次期NDCの策定を各国の都市や地域の知見を取り入れながら進めていくことを約束しました。COP29では、各国政府がこの約束を実行に移した成果が見られるのか、次期NDC策定に向けた機運の高まりに注目です。

また、非国家アクターのネットゼロ実現に向けた取り組みの「質」を追求する動きも活発になっています。

COP27で発表された、非国家アクターによるネットゼロ宣言のあり方を10の提言にまとめた報告書を受け、COP28では、その提言の実行に資する政策や規制を推進していくことを目的とし「ネットゼロ政策に関するタスクフォース」の立上げが発表されました。同タスクフォースは、COP29までに、G20諸国におけるネットゼロ政策を包括的にまとめた報告書を発表する見込みです。

さらに、1.5度目標に整合する脱炭素政策や規制を、企業や自治体などの非国家アクターが求めていく、いわゆるアドボカシー活動も交渉外での注目点です。

脱炭素社会の実現に取り組む非営利団体の連合体 We Mean Businessは、COP28に向けて「Fossil to Clean」キャンペーンを開始し、年間収益約220兆円に相当する200以上の企業と連名で各国政府に対し化石燃料からの脱却を求める公開書簡を発出しています。

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Fossil to Cleanキャンペーンでは、年間収益約220兆円に相当する200以上の企業と連名で各国政府に対し化石燃料からの脱却を求める公開書簡を発出

また日本の非国家アクターの連合体「気候変動イニシアティブ(JCI)」は、COP28で、日本のカーボンプライシング制度に関する政策提言を発表し、186団体が賛同の名を連ねました。

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COP28ではJCIは日本のカーボンプライシング制度に関する政策提言を発表した。

COP28に引き続き、COP29でも非国家アクターによるこうした交渉外の動きが活発に行われることが想定されており、パリ協定の実現に向けた交渉にポジティブな影響を及ぼすことが期待されます。

WWFは今回のCOP29に以下を期待

WWFジャパンは、COP29に専門家3人を送り、WWFネットワークの一員として各国政府や事務局への働きかけに取り組みます。

そうした活動を通じ、次の成果がCOP29で達成されるよう、期待しています。

  • パリ協定の「1.5度目標」を達成するために、必要な行動及び気候変動の影響に適応を実現するための新たな資金目標が合意されること
  • 気候上昇を1.5度に抑え、化石燃料からの公正で公平な転換をするための新たなNDCに向けた進捗を見せること
  • 特に適応及び損失と損害のための、新たな資金拠出とこれまでの拠出コミットメントが履行されること
  • 気候変動を最優先事項とした国際協力を拡大するための政治的シグナルが発出されること
  • 世界の生物多様性保全の国際枠組み(GBF)と気候変動に関するこれまでの決定のつながりを強化・実施するための気候・自然ワークストリームを創設すること

WWFジャパンでは、COP29 の開催期間中、現地会場より随時会議の様子や、議論の重要なポイントを、本サイトやSNSを通じて発信する予定です。
ぜひご注目ください。


★WWFジャパンは現地からの最新情報をX(旧Twitter)で発信しています。

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