サンゴ礁生態系保全行動計画(案)へのパブリックコメントを提出

この記事のポイント
1980年代から、沖縄と鹿児島に連なる南西諸島の島々でサンゴ礁の保全活動に取り組んできたWWFジャパンは、2022年3月、その経験や見えてきた課題を踏まえ、環境省の「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030(案)」にパブリックコメントを提出しました。気候変動の影響等、将来を予測しながら、サンゴやサンゴ礁の持続可能な保全と利活用が進むよう、行動計画の策定と実施がなされることを期待します。
目次

日本のサンゴ礁とその危機

サンゴ礁とは、イソギンチャクの近縁でもある動物のサンゴが中心となって作り出す水深の浅い地形のことを言います。

このサンゴ礁が海底に占める面積は0.2%に過ぎませんが、多くの生きものにすみかや食物を提供しており、すべての海洋生物のうち25%の生存を支えているとされています。

サンゴ礁が、地球上で最も生物多様性の豊かな自然環境の一つとされるのは、そのためです。

日本では、九州南端から沖縄かけての南西諸島の多くで、海岸のすぐ近くに形成されたサンゴ礁を見ることができます。

また、本州(舘山や串本等)、四国(大月や愛南等)、九州(坊津や天草、壱岐)の各地でも、サンゴ礁のような地形を伴わない、サンゴ群集と呼ばれる生息域を見ることができます。

サンゴ礁は、漁業、観光、地域の文化の基盤として、多くの恵みを人間にもたらしてきました。

しかし、1970年代以降、南西諸島では海水温の上昇や、オニヒトデ等の食害、大規模な沿岸開発や陸域からの土砂や排水による汚染等人為的なさまざまな要因により、サンゴの白化や死亡、生育阻害が多発。

各地で生態系の急激な劣化が進行しています。

とりわけ、気候変動による海水温上昇や海洋酸性化が今後さらに進んだ場合、2070年頃には日本沿岸にサンゴが生育できる場所がほぼなくなるという予測もあり、サンゴを守るための行動をより広げ・加速させていくことが必要です。

「サンゴ礁生態系保全行動計画」のこれまでと2022年以降の新計画

日本では、国内の環境政策の大方針である「生物多様性国家戦略」の下、2010年4月に「サンゴ礁生態系保全行動計画」が策定されました。

環境省がとりまとめたこの行動計画は、サンゴ礁生態系の保全及び持続可能な利用を促進し、地域社会の持続的な発展を図ることを目的として作られたものです。

サンゴ礁を守るために、これまでも地域の人々、研究者、企業、NGO、行政などさまざまな立場の関係者が取り組みを行なってきましたが、保全の取り組みを加速させるためには、さまざまな関係者の活動を、さらに連携させていくことが重要です。

この行動計画には、連携体制の基盤となり、保全と地域社会の持続的な発展を実現する仕組みづくりを行ない、具体的な行動を示す役割が課されています。

「サンゴ礁生態系保全行動計画」が示されて以降、関係者の連携によって保全の取り組みが具体的に進んだ面もありました。

例えば、サンゴ礁生態系への影響が大きい農地からの赤土などの流出問題については、沖縄県や県下の市町村、農家、企業の連携のもと流出防止対策が前進。

農地の周りに根を張り、赤土の流出を抑える植物(月桃やベチバー)を植え付ける方法が広く推進されるようになり、その取り組みを評価するための重点監視海域の設定や、定期的なモニタリングも行なわれるようになっています。

参考情報

沖縄県赤土等流出防止対策基本計画・行動計画について(沖縄県のサイト)

赤土流出防止プロジェクトのサイト

また、WWFジャパンもこの行動計画に則って、白保や喜界島での地域の暮らしとサンゴ礁生態系のつながりの構築や、久米島や与論島での赤土の流出対策活動に取り組んできました。

久米島応援プロジェクト

「喜界島」サンゴの島の暮らし発見プロジェクト

与論島のサンゴ礁を守ろう!教育冊子『ヨロン島とサンゴ礁』

新たな計画に求める改善点をパブリックコメントにまとめ提出

しかし、こうした取り組みの進展が見られた一方、サンゴ礁の保全にはまだ多くの課題が残されています。

取り組みについての具体的な目標を定める必要があるほか、気候変動に対する適応策の推進(優先地域の特定や保全)、また観光による影響の把握、エコツーリズムの普及や知見の蓄積と共有、これまでに実施したモデル事業の継続や水平展開といった点について、よりいっそうの工夫や取り組みが必要です。

そうした中、2016年に改訂された「サンゴ礁生態系保全行動計画2016-2020」が2020年に期限を迎えたことを受け、2022年2月に新たな「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030」(案)が公表されました。

これに対するパブリックコメントの募集にあたり、1980年代から南西諸島でのサンゴ礁生態系保全に取り組んできたWWFジャパンは、これまでの活動で得た経験と、そこで見えた課題に対する現状認識をふまえたコメントを提出しました。

特に、重視すべき点として対応を求めたのは次のポイントです。

  • 気候変動の影響については、サンゴのモニタリングや管理を継続するにあたって、将来予測シミュレーションに基づいたサンゴの減少・消滅の危機度を表す「リスクマップ」や、残される可能性の高い場所を示す「ポテンシャルマップ」を作成すること。
  • 家畜の排せつ物を起源とし、海水の富栄養化につながる、陸域からの栄養塩について、モデル事業の実施を通じた、サンゴ礁への影響と対策を検証すること
  • 脅威となる観光行動の洗い出しを行なうことと、観光に関連した開発は小規模であっても環境アセスメントや地域住民との自由意思に基づく事前の十分な合意形成をすること ほか

WWFジャパンが提出したパブリックコメントの詳細は、こちらからご覧ください。

WWF「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030」(案)へのパブリックコメント(全文)

これからのサンゴ礁保全には、気候変動(地球温暖化)への適応や、地域間の緊密な連携、知見の共有などが、より求められていくことになるでしょう。

今回の「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030」が、どのような協力体制のもと、実行に移されるのかは、日本のサンゴ礁の未来を左右する確かなカギの一つとなることは間違いありません。

この計画の実施状況を確認しながら、WWFジャパンは今後も、メディア、地域のNPO、市民や研究者の方々と共に、国内外のサンゴ礁生態系の保全活動に取り組んでいきます。

(参考情報)環境省「サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030」(案)

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP