日本のサンゴ礁生態系とその保全
2023/02/01
- この記事のポイント
- 日本列島の琉球諸島の海には、400種類以上のサンゴが生息し、さまざまな形や大きさのサンゴ礁が広がっています。サンゴ礁生態系は豊かな生物多様性を育み、人間に多様で多くの恵みをもたらしますが、脆弱性が高いことで知られ、1970年代以降の人間活動や気候変動の影響を受け、生息そのものや生息環境が危機的な状況にあります。この記事では日本のサンゴ礁生態系と、WWFジャパンを含む産官学民によるその保全活動について紹介します。
1. 日本のサンゴ礁生態系の現状
「青い惑星」と呼ばれる地球、その表面の約70%は海に覆われています。日本は海に囲まれ、豊かな海は日本人の暮らしを支える重要な存在です。(*1、2)
また、海の自然環境には、人の文化や歴史、社会や経済と深い関わりを持ち、複雑かつ絶妙なバランスで成り立っています。
しかしいま、人為的な海の埋め立てや工事、海洋汚染、不適切な漁業などにより、海の環境問題は深刻な状態が続き、人の暮らしにも影響が出ています。
そして気候変動の影響によって、海は確実に変化しています。
海の現状を理解し、状況の悪化を食い止め、変化に適応していくにはどうしたらよいでしょうか。
実は、サンゴのいる海を知り、守ることもその一歩となり、豊かな海と人間の暮らしを守ることにつながっています。
ここでは、サンゴのいる海と人間の暮らしのつながりや、人間がサンゴから得ている恵み、人間がサンゴに与えている脅威、さまざまな主体による保全の取り組みについて紹介します。
2. サンゴのいる海の重要性
(1)サンゴとは
サンゴは大きく2種類、宝石サンゴと造礁サンゴに分けることができます。
ここでは、サンゴ礁という海の地形を形成する、「造礁サンゴ(以下サンゴ)」について紹介します。
サンゴは、一見、植物のようにも見えますが、イソギンチャクやクラゲと同じ動物の一種です。
大きく見えるサンゴも、実は小さなイソギンチャクのような個体(ポリプ)が骨格を作り、たくさん集まったもので、その一つ一つが触手を持ち、海中の動物プランクトンなどを摂食しています。(*3)
それと同時に、ポリプの体内では、共生している褐虫藻(植物プランクトンの一種)が光合成を行ない、その栄養をサンゴに供給しています。
このポリプの細胞中に存在する褐虫藻の数は、1平方センチメートルあたり150万個にものぼり、サンゴという動物にみられる、珍しい共生関係をつくり上げています。
(2)サンゴのいる海
造礁サンゴは、赤道周辺の熱帯から、亜熱帯にかけての海に広く分布しています。
太平洋やインド洋の島々の周辺、また日本を含む東アジアやインド洋西部、紅海、カリブ海など、見ることができる海域は世界の各地に広がっています。
しかし、その生息には、海水の温度や、清澄度、栄養塩濃度、塩分濃度、光環境、海水の流速など、複数の条件がそろうことが必要です。
また、この造礁サンゴが生息する海域では、サンゴ礁の地形が発達しています。
サンゴ礁とは、生きたサンゴや貝などの生物の石灰質の骨格(遺骸)が、長い年月をかけて積み重なることで形成される地形で、地理的にはおよそ北緯30度から南緯30度、熱帯から亜熱帯の海で見ることができます。
このサンゴ礁についての理論的考察を最初に行なったのは、進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンだと言われています。
1835年、ビーグル号に乗船していたダーウィンは、南太平洋のタヒチ周辺を航海中にサンゴ礁を観察し、サンゴ礁を3つの形態(裾礁、堡礁、環礁)に分類しました。
これらのサンゴ礁の形状と分け方は、現在も使われています。(*4、5)
(3)サンゴの恵み
サンゴ礁は、海の生きものや人間に多くの恵みをもたらします。
例えば、世界全体の海底に占めるサンゴ礁の面積はわずか0.2%未満ですが、全ての海洋生物種の、実に25%が、その環境をすみかにしていると言われています。(*6、7、8)
また、サンゴは光合成などによって酸素やタンパク質などの生産を行うことで、他の生物に必要な栄養を提供していますが、サンゴ礁と藻場の有機物の生産量(単位面積当たりの純一次生産量)は、2,500 g/㎡・年と他の生態系より高く、地球上で最も生物生産の高い場所とされています。(*9、10)
こうしたサンゴ礁の海の生産性の高さは、人間にも豊かな漁場をもたらし、古くからさまざまな文化を、世界の各地で育んできました。
現代においてもそれは変わらず、サンゴ礁は漁業や観光の場として広く活用されているほか、そこに生きる多様な生物からは、新たな医薬品の原料となる物質が見つかるなど、人にさまざまな恵みをもたらしています。
このように、サンゴやの海が生み出す便益は、世界全体で少なくとも年間3兆4,752億円と試算されており、日本だけでも、2,500~3,200億円もの経済価値になる(沖縄・奄美・小笠原の合計)という指摘もあります。(*11、12)
また、これらの直接的な恵みのほかにも、大気中の二酸化炭素を取り込んで調節する機能や、島々の周りをとりまくサンゴ礁の地形が天然の防波堤となって、高波などの被害を抑えるなど、間接的な恵みも数多くあります。(*13)
こうしたサンゴやサンゴ礁生態系から得られる、大きな恵みや価値を、他の動植物や人工的に作った代替品などで置き換えることはできません。
そして、一度失われた豊かで複雑なサンゴやサンゴ礁を元の姿に戻すことは、自然の力に任せるにせよ、人が手を加えて繁殖させるにせよ、限りなく難しいのが現状です。
3. 日本におけるサンゴの生息範囲
(1)サンゴ礁域と高緯度サンゴ群集域
日本には、北は千葉県や神奈川県から、南は鹿児島県南部や沖縄県などの亜熱帯の島々まで、沿岸域を中心に広く造礁サンゴが生息しています。
しかし、サンゴ礁という地形が形成される海域は、基本的には鹿児島県の大隅諸島より南方の地域だけです。
このサンゴ礁が形成される海域を「サンゴ礁域」、それ以北のサンゴが生息する海域「高緯度サンゴ群集域」と呼びます。
「高緯度サンゴ群集域」の海では、造礁サンゴが生息はしていても、サンゴ礁という地形が発達することはないのが通常です。
実際にその地の海で育っているサンゴは、遠い場所から潮に乗って運ばれてきたものである例も少なくありません。
無性生殖や有性生殖によって生まれた、サンゴの卵や幼生は、対馬暖流や黒潮といった海流に乗って浮遊しながら、流れ着いた先の海で、新たな生息地を獲得することがあるからです。
小さなポリプの集まったサンゴは、一年に数センチメートルほどしか成長しません。
これが、大きなサンゴ群集やサンゴ礁を形づくるには、何十年・何百年という長い歳月が必要です。
(2)日本のサンゴ礁と高緯度サンゴ群集域の特徴
日本の南方に見られる「サンゴ礁域」は、裾礁(きょしょう)と呼ばれ、陸域のすぐ近くに形成されるのが特徴です。
日本のサンゴ礁域とそこに生息するサンゴは、人との距離や関係性が他の国や地域のサンゴ礁に比べて近く、こうした地域の住民は、サンゴ礁の自然を利用した暮らしや文化を育んできました。
世界では約800種類のサンゴが確認されていますが、日本のサンゴ礁域にはその半数にあたる約400種類のサンゴが生息し、サンゴ種の多様性が高く、沿岸域にサンゴ礁を基盤とする生態系が築かれているのも特徴です。(*14)
また、日本のサンゴ礁域は、サンゴ礁が形成される地理的な北限でもあり、海流に乗って日本より南方の熱帯・亜熱帯の海から流れてくる、サンゴの幼生が育ち得る海域としても重要な位置にあります。
サンゴの多様性が高く、サンゴのある海と人とのつながりが顕著な日本のサンゴ礁域は、サンゴ礁を守り、次世代にサンゴ礁とその恵みをつなぐために大切な場所と言えます。
一方、「高緯度サンゴ群集域」は、鹿児島県南部から千葉県や神奈川県の沿岸域で見られます。
地域によってサンゴの種類や群集の規模はさまざまですが、サンゴ礁域に比べるとサンゴの種類は少なく、群集も小規模で、浜辺から離れた沖合の少し深い場所にあるケースも見受けられます。
日本の高緯度サンゴ群集域では、約200種類のサンゴが確認されていますが、地域住民のなかには、地元の海にサンゴが生息することを知らない人も多く、生活・文化・経済などとの関わりは比較的薄い傾向があります。
また近年、高緯度サンゴ群集域では、海洋の温暖化により、分布域の北上やサンゴ種の増加が確認されており、サンゴ種や生物多様性の保全、海洋資源の利活用の観点から、注目され始めています。
高緯度サンゴ群集域は、世界的に見ても、亜熱帯系・温帯系のサンゴの分布北限として、貴重な環境と目されています。
そうした海域で、今後、サンゴ群集が急激に増えることにより、地域本来の生態系が変化することも予測されます。
しかし、この高緯度サンゴ群集域に関する調査研究は少なく、人間との関わりも限定的なため、サンゴ礁域に比べて分かっていないことも多くあります。
今後の基礎研究や将来予測、科学的データに基づく高緯度サンゴ群集域と人間との関わりの検討が重要になると考えられます。
4. 危機的な状況にあるサンゴ礁生態系
現在、日本を含む世界各地で、これまでにない規模や速度で、サンゴの死滅や生息環境の悪化が起きています。
その要因や発生規模は、地域ごとに異なりますが、いずれにも共通しているのは、人間の活動が大きく影響しているということです。
(1)各海域のサンゴ礁で起きている問題
1960年代以降、サンゴ礁域のある沖縄諸島や鹿児島県薩南諸島の各地では、人間による沿岸開発・埋め立て、さらに農地や開発地からの赤土流出が続いてきました。
また、農業や畜産、生活や工業などによる排水、海への栄養塩の流出も増加。
さらに、観光利用や開発によって、サンゴが大きく傷つけられたり、その資源を過剰に使う問題が次々と起こりました。
サンゴが育ち、再生するよりも、速い速度で大規模に、生息環境の悪化が進んでしまったのです。
こうした問題は、日本だけでなく、サンゴが生息する世界各地の国々でも、急激な経済発展などにともなう形で、深刻化しています。
(2)国際的な問題がもたらす脅威
このような、各地域での脅威に加えて、1990年代はじめ頃からその影響の深刻化が指摘されるようになったのが、気候変動です。
気候変動の主要因である地球温暖化、すなわち人間による温室効果ガスの過剰な排出は、日本や世界各地で海水温を上昇させ、さらに海洋を酸性化させる原因となっています。
海水温の上昇は、特に水温が高くなる夏季、各地でサンゴの白化現象を引き起こしています。日本各地もその例外ではなく、元々自然のプロセスの中でも発生していた白化現象の発生頻度が高まっています。
白化現象とは、高水温や低塩分などの環境ストレスを受けたサンゴの体内から、共生している褐虫藻が抜けてしまい、見た目が白っぽく変色する現象です。
白化現象によって、サンゴ体内の褐虫藻の密度が低下することで、サンゴは光合成による栄養が得られなくなり、次第に弱っていきます。
水温が下がれば、褐虫藻が戻りサンゴも回復しますが、弱った状態が長く続くと、サンゴ群集が広く死滅してしまうこともあります。
この大規模な白化現象は、1990年代以降、世界の各地でたびたび起きるようになり、沖縄諸島でも、1998年、2007年、2016年、2022年に大規模な白化が起きました。
2022年には石垣島にある国内最大のサンゴ礁・石西礁湖で、過去最大に迫るサンゴ全体の92.8%で白化現象が発生。そのうち17.7%のサンゴが死んでいることが確認されました。
こうした問題は今後、さらに深刻化する事が懸念されています。
サンゴの分布についての科学的な予測によれば、温室効果ガス高排出シナリオ(SRES A2:経済発展が重視され、各地域の独自性が強まる多元的社会)どおりになると、2070年代には日本近海からサンゴが生息可能な場所が消滅する、という結果が示されています。
海水温の上昇によって、サンゴの生息に適した水温域が減少するのと共に、海洋の酸性化が進み、酸性度の高くなった海水がサンゴの骨格を形成するカルシウムを溶かしてしまうことで、その成長を阻害するためです。
より温暖化の進みが遅い、温室効果ガス低排出シナリオ(SRES B1:経済発展と環境との調和が図られ、地域格差が縮小し国際化が進む世界)では、日本海側や関東は、サンゴの分布域として適さなくなり、四国から九州、それ以南の地域にサンゴの分布域が残ると予測されています。
こうした気候変動の影響は、人間活動がもたらした各地域での直接的な脅威を、はるかに超える勢いと規模で、サンゴを危機においやることが懸念されます。
(3)サンゴを脅かす、その他の問題
開発や富栄養化、さらに気候変動といった問題のほかにも、各地でサンゴを脅かしている脅威は数多くあります。
たとえば、サンゴを食べる、オニヒトデや巻貝などの大量発生、サンゴの病気、大型化した台風による強力な波浪によるサンゴ礁の破壊、大雨による陸域からの土砂や、大量の淡水の流入です。
これらのサンゴの生息環境の悪化や死亡の要因は、自然現象によるものではありますが、その背景には、人間活動の影響が強く及んでいます。
たとえば、オニヒトデなどサンゴを食害する生物の大量発生は、1950年代から発生の記録があり、もともと海洋の生態系の中で自然に発生してきた現象といえるかもしれません。
しかし近年の大量発生は、陸域からの排水にともなう栄養塩の流入が、オニヒトデの幼生の栄養源となることで、増加している可能性が指摘されています。
また、こうした海水の富栄養化や、土砂や淡水の過剰な流入は、サンゴを弱らせ、病気にする要因となります。
さらに、台風の大型化も、気候変動による海水温の上昇が、大きく影響していることが、今では広く知られるようになりました。
こうした人間活動によって助長された自然の脅威も、サンゴを脅かす大きな原因となっているのです。
5. 保全に向けた取り組みと目標
サンゴやサンゴ礁を守ることは、多種多様なサンゴ種を保全することに加え、サンゴを基盤とする生態系の保全や、人間が得ている恵みを維持・回復させる、といった多面的な意義があります。
日本でのサンゴの保全活動は、人間活動や気候変動の影響が目立ち始めた1970年代以降、国や地方自治体、民間企業、研究機関、地域組織、環境保全団体といった多様な主体によって実施されてきました。
また、2010年以降は、国際条約での取り決めをふまえ、そうした活動の目標や、取り組みの根拠となる国内法の制定と運用が進められています。
(1)サンゴ礁保全の制度的枠組み
国際協定、および日本国内で、サンゴ礁生態系の保全に関連する条例や法令、計画には主に以下のものがあります。
■ 昆明-モントリオール生物多様性枠組み
2030年グローバル目標として、劣化した生態系の再生や生物種の管理と利用による福利の確保を含む。生物多様性条約第15回締約国会議(COP15、2022年12月)で採択。
■ 持続可能な開発目標(SDGs)・ゴール14
持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する。持続可能な開発のためのアジェンダ2030(国連総会、2015年9月)で採択。
■ 第5次環境基本計画(2018年度~2023年度)
環境基本法に基づく国内環境保全の総合的な施策の体系。サンゴ礁の保全、サンゴ礁の波浪防止機能の活用、サンゴ礁生態系保全行動計画などに基づく回復のための適応策やモニタリングの実施など。
■ サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030
第3次生物多様性国家戦略(2007年)で策定が定まり、現在第三期。サンゴ群集に関する科学的知見の充実と継続的モニタリング・管理の強化のほか、4つの重点課題を掲げる。
(2)日本でのサンゴ保全の取り組み
地域の自然環境や生活基盤を守りたいという思いや、上記のような条例や法令、計画の存在を背景に、日本の各地では、国や地方自治体、民間企業、研究機関、地域組織、環境保全団体といった多様な主体が連携して、サンゴにとっての脅威発生のメカニズムの解明や、対策の検討と実施に取り組んでいます。
今後、この日本各地でのサンゴ礁生態系とその保全状況に関する情報は、各全活動主体と環境省によって一元化され、公開される予定です。(*15)
サンゴやサンゴ礁、そしてその生態系を保全するアプローチは、大きく2つに分けることができます。
一つは、サンゴの生息環境の保全と、維持・管理の改善です。
これは、各地域で行なわれる海洋保護区の設置や、海を利用する際のルールの策定、その運用等を通じて、環境の劣化・悪化を低減することで、生育環境の維持や改善を図るものです。
例えば、沖縄では、農地からの赤土流出を防止するために、農地周辺に月桃やベチバーなどの植物を植えて「グリーンベルト」と呼ばれる植生帯を設け、赤土を含んだ水の流れを弱めたり、流出を抑えたりする取り組みがあります。
また、観光での不適切・過剰な利用に対しては、観光船が海上で停泊する際に、アンカー(錨)でサンゴが傷つくのを防ぐため、係留ブイを設置・利用したり、ダイビングのフィンでサンゴにダメージを与えないよう、観光事業者が観光客に対して事前の情報提供や注意喚起を行なったりしています。
もう一つの取り組みは、サンゴが減少したり、死滅してしまった海域での、人工的な繁殖・移植です。
一部の地域や研究機関では、海水温の上昇や海洋酸性化への耐性が強いサンゴの種類を特定してその人工繁殖と移植を行なう事業や、地域のサンゴの多様性や遺伝子情報に配慮した人工繁殖や移植を行なう事業が試みられています。
しかし、これらの取り組みは、あくまで規模の限られたものであり、広域で起きたサンゴの死滅などを回復させることなどは、極めて困難です。
また、研究施設の中ではともかく、絶えず変化する海の環境の中で生き続けるサンゴを、完全に人の手で復活させることは、容易ではありません。
サンゴの保全を行なっていく上で、まず重要なことは、自然な状態で生息するサンゴが生き続けられるように、その生息環境をしっかりと保全することです。
(3)サンゴ礁保全の成果と達成状況
1970年代頃から本格化したサンゴの保全活動は、現在も多くの地域で継続され、また新たに始められています。
サンゴ礁域では、サンゴの死亡や生息環境の劣化・悪化が起きている各地域で、関係者の意識と行動の変容、脅威の低減に向けた具体的な取り組みが推進されており、サンゴ保全への機運が醸成されるなど、変化が見られています。
また、それぞれの脅威がサンゴに与える影響や、そのメカニズム解明、脅威を低減する解決策の具体化・体系化、そして各地に共通したサンゴのモニタリング(調査)手法の確立も進みました。
保全活動を継続していく上での課題は、まだ残されています。
各地域に共通した課題点としては、海の中の状況は科学的な把握が難しく、複数の脅威が複合的に影響している場合も多いため、活動結果がサンゴの保全にどれだけ貢献したかを明確にするのが難しいことがあります。
例えば、赤土流出防止対策の取り組み結果が、サンゴの海にどのように表れるか、どの程度であれば有効な成果と言えるかは、判断がとても難しいとされています。
また、その地域で大規模な白化現象が発生したりすると、対策を行なっていた赤土流出以上の影響が生じてしまうため、活動の成果が見えなくなったり、地域の活動を継続する意欲を低下させてしまうことがあります。
しかしその一方で、サンゴの保全活動に取り組む人や組織の知見、サンゴがいる海への理解と行動は着実に増えています。
沖縄でグリーンベルトを複数年実施している農業者の方は、雨水が地面を流れる方向を見極め、植える植物の場所や特性を活かした、より効果的・効率的な手法を確立しています。
観光での不適切・過剰な利用への対策に取り組んだ地域住民の方の中には、生存サンゴの被度や、海域で確認できる魚類や棘皮動物(ウニ、ナマコ、ヒトデなど)の種類や数が増えたと実感している方もいます。
サンゴを知り、サンゴのいる海と自分とのつながりを理解することが、よりよい変化への行動につながっていると言えます。
ここ数十年で、サンゴのいる海の状況が悪化していること、その要因が人間活動にあることは明らかです。
その影響を取り払い、元の状態に戻すことは不可能ですが、産官学民が連携してサンゴの保全に取り組み、その知見を共有しながら、広げていくことで、理解と活動の継続・拡大が期待されます。
この先もサンゴ礁生態系の保全は必要な状況は続きます。
WWFジャパンでは、サンゴの海を未来につないでいくため、今後もサンゴ礁生態系保全活動に取り組んでいきます。
*1 https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h22/html/hj10010401.html#:~:text=1%20%E5%9C%B0%E7%90%83%E4%B8%8A%E3%81%AE%E6%B0%B4,%E5%9C%B0%E4%B8%8B%E6%B0%B4%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
*2 https://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary03
*3 https://www.cole.p.u-tokyo.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2020/09/chap.7_OCEANATRISK_WEB.pdf
*4 https://www.darwinproject.ac.uk/commentary/geology/darwin-coral-reefs
*5 http://dges.es.tohoku.ac.jp/iryulab/iryulab/Research9.html
*6 https://gcrmn.net/2020-report/
*7 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982214016236
*8 https://www.wwf.or.jp/activities/lib/pdf_marine/coral-reef/cesardegradationreport100203.pdf
*9 https://www.sciencedirect.com
*10 https://www.wwf.or.jp/activities/lib/pdf_marine/coral-reef/cesardegradationreport100203.pdf
*11 https://www.jfa.maff.go.jp/j/seibi/attach/pdf/sango_houkoku_h21-78.pdf
*12 https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/initiatives/files/2012-2020/01_honbun.pdf
*13 https://coralreef.noaa.gov/education/coralfacts.html
*14 https://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/pamph/C-project2022-2030_F.pdf#page=34
*15 https://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/pamph/C-project2022-2030_F.pdf#page=34