サンゴ礁生態系保全行動計画2022-2030(案)に対する意見
2022/03/03
環境省自然環境局自然環境計画課 御中
公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)は、「環境省サンゴ礁生態系保全行動計画(2022-2030)」案に対して以下の通り提言いたします。
1. 「重点課題 1:サンゴ群集に関する科学的知見の充実と継続的モニタリング・管理の強化」に関して
・ 1-1.
<該当箇所>案72行目~78行目、案106行目~107行目、案325行目~335行目
<意見内容・理由>地球温暖化に伴う海水温の上昇に関連して、生物学的な手法を用いたモニタリングを継続・拡充することは大いに歓迎するが、単なるモニタリングにとどまらず、今後の気候変動予測モデル・シミュレーションに応じたサンゴ群集の将来分布について、サンゴ群集の減少・消滅の危機度を表す「リスクマップ(仮称)」や将来残される可能性の高い場所を示す「ポテンシャルマップ(仮称)」等を所管官庁が中心となって研究者とともに策定することを期待する。
策定する「リスクマップ(仮称)」や「ポテンシャルマップ(仮称)」を基に、各地域で求められるサンゴ群集ならびにサンゴ礁生態系の保全のための施策を、関連省庁、地方行政、研究者、NGO、市民が参画し策定・実施することを本計画において明記すべきである。
・ 1-2.
<該当箇所>案453行目~456行目、940行目~942行目
<意見内容・理由>サンゴ礁生態系保全行動を推進するには、関係省庁、関係地方自治体、日本サンゴ礁学会、すでに行動の一部を担っている(行動の一部となる動機や意思がある)ステークホルダーにとどまらず、その他のさまざまなステークホルダーの参加が不可欠である。そうしたステークホルダーにとって、現状を知ることは参加の端緒として重要である。データの発信においては、そうしたステークホルダーにも広くデータを届ける・データ活用による現状の認知獲得を図る方策も検討すること。
2. 「重点課題2-1:陸域に由来する赤土等の土砂及び栄養塩、科学物質等への対策の推進」に関して
・ 2-1.
<該当箇所>案85行目~90行目
<意見内容・理由>2070年には日本沿岸でサンゴが生育可能な海域が消滅する可能性が指摘されており、陸域からの過剰な負荷の軽減対策が、今までに対策が取られてきた地域以外でも応用され拡大していくことは急務である。
モデル事業やその他取り組みの整理・提供の方法は、他地域にも理解・アクセスしやすいものとなることを期待する。
・ 2-2.
<該当箇所>案500行目~507行目
<意見内容・理由>家畜排せつ物を起源とする栄養塩のサンゴへの影響は以前からその可能性が指摘されており、家畜排せつ物法の施行後18年が経過し適切な対応が図られていない事業者も確認できるとの指摘もあるが、因果やメカニズム、影響度の解明や体系化は非常に困難である。
ただし、顕著な影響が認められる場合には、対策を検討する必要がある。畜産を主な産業とする地域等でのモデル事業の実施により、家畜排せつ物の影響と対策を検証し、家畜排せつ物に対する今後のあり方を検討すること。
・ 2-3.
<該当箇所>案508行目~512行目
<意見内容・理由>与論島に対して前行動計画で実施した提言に関して、提言で示された内容の対策の社会実装を実現するため、与論島、あるいは同提言に基づく栄養塩流出低減策の拡大展開が可能な地域において、モデル事業を展開すること。
3. 「重点課題 2-2:サンゴ礁生態系における持続可能なツーリズムの推進」に関して
・ 3-1.
<該当箇所>案520行目~571行目
<意見内容・理由>現状では、ダイビング・スノーケリングなどの海域を直接人が利用する行動に関する記載が主要な視点だが、観光に関連した開発によるサンゴ礁生態系への局所的な著しい影響や地域住民との軋轢も懸念される。例えば近年では、奄美大島におけるロイヤルカリビアン社による大型クルーズ船誘致問題、白保リゾートホテル問題、竹富町コンドイビーチリゾート問題、石垣市スーパーシティ構想など、沖縄・奄美地域での大型な観光関連開発計画が立ち上がり、地域住民との合意形成や環境アセス、環境保全施策が十分に策定・実施されずに訴訟や反対運動などの社会問題となるケースが頻発している。こうした状況を踏まえ、環境アセスメント法の対象とならないような小規模な開発であっても、サンゴ礁生態系に影響を及ぼし得る場合には適切な環境アセスメントを実施すること、また地域住民との自由意思に基づく事前の十分な合意(FPIC:Free Prior Informed Consent)を形成する必要がある。本計画において、環境省が主体となり、環境アセスならびにFPIC実施のための政府ガイドライン等の策定を実施すること。
(参考資料:南西諸島のサンゴ礁生態系の開発と利用に関するポジション)
・ 3-2.
<該当箇所>案118行目~119行目
<意見内容・理由>ここで示される情報発信は、主に観光客や地元のマリンレジャー事業者を対象にしたものを推察されるが、先に挙げたように域外からのクルーズ船・遊覧船の事業者に対する情報提供・意識啓発・対策促進も併せて検討すること。加えて、慶良間諸島以外の地域においても同様の発信・普及啓発を実施すること。
・ 3-3.
<該当箇所>案352行目~362行目
<意見内容・理由>脅威となる観光行動の洗い出しと影響の推定の現状を明記すること。
4. 「推進する主体」に関して
・ 4-1.
<該当箇所>案294行目~309行目
<意見内容・理由>行動計画内には、関係省庁・自治体・日本サンゴ礁学会の取り組みが記載されているが、同計画の前期間(環境省サンゴ礁生態系保全行動計画(2016-2020))に実施されたようなモデル事業の展開を環境省として対策事業費を確保し、実施すること。