農地からサンゴ礁を守る!サトウキビカレンダーを作成
2018/10/31
サトウキビ栽培とサンゴ礁の関係
鹿児島県の最南端、沖縄本島の北23kmに浮かぶ与論島は、「鹿児島県」に属し、奄美群島の一角をなしつつも、道端にはハイビスカスが咲き、広大なサトウキビ畑が広がる沖縄のような景観を持つ、ちょっと不思議な雰囲気の島です。
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与論島は、河川がないため地下水が最大の水源。また陸域の6割が農地・森林で占められています。
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島の周囲には、サンゴ礁の地形が広がり、外洋に面したサンゴ礁の外側では、色とりどりのサンゴ達を見ることができます。しかし、沖側のリーフに遮られた浅い場所では、1970年代までは、枝状のサンゴでびっしり覆われ、たくさんの魚や生きものたちがいたといいます。しかし現在、浅いサンゴ礁海域では、見た目には変わらず美しく青い海が広がっていますが、サンゴはもちろん魚や小さな生きものの姿は、ほとんど見られなくなってしまいました。
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1970年代まではサンゴがびっしりと育っていた
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現在の浅いサンゴ礁海域
大規模な沿岸開発が行なわれたわけでもないのに、サンゴが減少した理由は、海水の富栄養化です。
与論島の主産業はサトウキビ栽培。
その栽培時に、畑で肥料が過剰に使われると、サトウキビに吸収されなかった肥料の栄養分が水に溶けて地下に染み込み、地下水を汚染します。
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サトウキビの灌漑風景
そもそも、与論島はその大部分が隆起した琉球石灰岩。隙間が多い石灰岩は、水が浸透しやすい構造になっています。与論島には常に流れる河川が無く、この地下水は、最終的には海岸線や島の周囲の海底から湧き出します。
そして、この富栄養化した地下水によって、海中の栄養(窒素やリン)が増え、サンゴを減少、死滅させる一因となっています。
サトウキビ畑からの取り組み
現在、与論島ではサトウキビに肥料を与えるタイミングを変えることで、畑から地下水を通じて海に流れ込む栄養を削減する取り組みをはじめています。
今回、WWFジャパンはそのためのツールとして「サトウキビカレンダー」を作成しました。
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これは、東京農業大学の中西康博教授にご協力をいただき、制作したもので、より少ない肥料で効率よく農作業をおこない、収量を増加させるとともに、余分な肥料が海に流れ出さない農法の普及を目指すものです。
これまでの鹿児島県や沖縄県のサトウキビ栽培、特に夏植え栽培では、とかく肥料を多く使った方がサトウキビの育ちがいいと思われがちで、実際に過剰な肥料の利用が行なわれている可能性がありました。
しかし、サトウキビはその成長の段階によって、栄養を多く吸収する時期がある一方、どれほど肥料を与えても肥料の栄養を吸収しない時期もあります。
そこで、カレンダーはサトウキビの生育状況を3カ月ごとに分けて表示。
いつ、どの種類の肥料をどれくらい畑にまけば、使う量を最小限に抑えられるのか、イラストを用いてわかりやすく説明することにしました。
また、この農法を実践し、効率よく多くのサトウキビを収穫した喜界島の農業者の方の話も掲載し、取り組みの効果を明らかにしています。
従来より少ない肥料でサトウキビの収穫量を増やしながら、サンゴの保全・回復を実現させるこの取り組み。
WWFジャパンでは、この「サトウキビカレンダー」を与論町役場に提供し、今後の広がりを目指すとともに、こうした事例を似た状況にある他の島々でも活用できるよう、サンゴ礁の保全活動を進めていきます。
*この取り組みは、住友生命保険相互会社のご支援により行なわれました。
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島の外側には豊かなサンゴ礁が残っています。