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南西諸島の両生・爬虫類に迫る密猟・密輸の危機

この記事のポイント
九州から台湾にかけて連なる南西諸島。この島々には、世界でここにしか生息していない、クロイワトカゲモドキ、イシカワガエルなど固有の爬虫類や両生類が数多く生息しています。しかし、その希少さが人気を呼び、高価なペットとして密猟、密輸される事件が多発しています。こうした問題の解決には、日本国内で起きる密猟などの違法行為と共に、海外への持ち出しを厳しく取り締まる必要があります。国際社会と連携した、違法取引の阻止をめざす動きをお伝えします。

南西諸島に生息する固有の生きものたち

九州南端の薩南諸島を北端とし、トカラ列島、奄美諸島、沖縄諸島、宮古諸島、南端の八重山諸島に加え、大東諸島、尖閣諸島を含む日本の南西諸島。
「東洋のガラパゴス」とも呼ばれる、これらの島々には、それぞれ違った生態系が広がり、世界でここだけでしか見られない貴重な野生生物が数多く生息しています。

たくさんの固有種が生息する奄美大島
©WWFジャパン

たくさんの固有種が生息する奄美大島

とりわけ、イシカワガエルやイボイモリなどの両生類と、クロイワトカゲモドキ、ミヤコカナヘビといった爬虫類については、南西諸島の中でも限られた島にしか生息していない、国際的にも希少な固有種です。

こうした野生動物は、いずれも国や沖縄県、鹿児島県、また市や町が指定する天然記念物や、保護すべき希少種などに指定されてきました。
しかし、生息地の森や湿地といった環境が、宅地や観光開発、また道路網の整備などによって減少。また、人が県外から持ち込んだ外来種による捕食などの影響を受け、多くの種が数を減らしていると考えられています。

さらに、大きな脅威となっているのが、「ペット」にすることを目的とした捕獲です。

皮肉にも、これら南西諸島の両生・爬虫類は、国際的にも希少であることが災いし、高価なエキゾチック・ペットとして愛好家の間で、取引が行なわれているのです。
またこれは、日本国内に限った話ではなく、海外にも日本から違法に持ち出す「密輸」も起きていることが確認されています。

年々、絶滅の危機が大きくなる中、日本では2015年以降に「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」で、「国内希少野生動植物」に指定される南西諸島の固有種が増えてきました。
この「国内希少野生動植物」は、日本が国として保護を義務付けた野生の動植物のことで、捕獲や取引も禁止されます。

しかし、これだけで、実際に密猟や違法な取引が抑えられるわけではありません。

イボイモリ 肋骨が背中と体の両側に張り出していて、いぼ状の突起のある皮膚を持つイボイモリ。怒ると肋骨を傘の骨のように広げて体を大きく見せます。<br>
©TRAFFIC

イボイモリ 肋骨が背中と体の両側に張り出していて、いぼ状の突起のある皮膚を持つイボイモリ。怒ると肋骨を傘の骨のように広げて体を大きく見せます。

クメトカゲモドキ TRAFFICの調査では、海外での活発な取引が確認された。
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クメトカゲモドキ TRAFFICの調査では、海外での活発な取引が確認された。

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クロイワトカゲモドキ 肢はトカゲと同じ構造を持つので指に吸着版がなく、木登りは苦手。地上を歩き回って昆虫などの餌を食べます。
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クロイワトカゲモドキ 肢はトカゲと同じ構造を持つので指に吸着版がなく、木登りは苦手。地上を歩き回って昆虫などの餌を食べます。

日本国内での保護政策の限界

2018年、WWFの野生生物取引監視部門であるTRAFFICは、南西諸島の爬虫類・両生類の取引状況を調査しました。
その結果、トカゲモドキやミヤコカナヘビなどが、海外でペットとして販売されていることが確認されました。

これらの販売されていた個体の全てが、密猟や違法取引されたものとは限りません。

「種の保存法」や条例などで規制される前に、捕獲や取引が行なわれていたり、繁殖されていた場合は、違法性が問われないためです。
しかし一方で、販売個体の全てが合法であるということも、実際には考えにくいことです。

こうした可能性が指摘される背景には、日本が抱える、取り締まりの現状があります。
国の法律で守られている野生動物は当然ながら、生息地での密猟や、捕獲した個体を日本から海外へ持ち出されないよう、厳しく取り締まらねばなりません。

しかし、きわめて多くの人やモノが、空港や港で移動する中、十分な対応をとることは容易ではありません。
さらに、密猟や密輸の手口も巧妙化。日本の固有種が密猟、密輸される事件も相次いで発覚していますが、実際には明るみに出ないまま、行なわれるケースも多いと考えられます。

また、海外の国々でも、日本の南西諸島の希少種の販売を禁止するような法律を持つ例は稀です。
つまり、日本で違法に捕獲された個体は、ひとたび他の国に密輸されてしまえば、合法に輸入された個体と同じように、ペット取引が行なわれてしまうのです。

ミヤコカナヘビ 全長が約30センチほどですが、体長の約75%を尾が占めるミヤコカナヘビ。湿り気のある林内のほか、石垣などにも生息します。<br>
©Yuya Watari

ミヤコカナヘビ
全長が約30センチほどですが、体長の約75%を尾が占めるミヤコカナヘビ。湿り気のある林内のほか、石垣などにも生息します。

「ワシントン条約」の管理の下で日本の固有種を守る

そこで、国際的な枠組みの中での取り組みが今、注目されています。

そのカギとなるのが、「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約CITES)」です。

ワシントン条約は、絶滅の危機にある野生生物が、過度な国際取引によって、その危機を増大させることのないように、国境を越えた野生生物の取引を管理する国際条約です。

この条約では、25の条文に基づき、野生動植物を国際取引する際のルールや、取引規制の対象となる野生動植物の具体的な種名を定めています。

つまり、日本で保護されている種も「ワシントン条約」の規制対象種として認められると、海外との取引が監視や規制管理の対象となるため、保護実現の一助とすることができるのです。

このワシントン条約の第18回締約国会議(CITES-CoP18)が、2019年8月17日からスイスのジュネーブで開幕します。

この会議では、183の締約国が一堂に会し、絶滅が心配されている種の取引規制や違法取引撲滅への対策について話し合います。

特に重要な議題は「附属書」と呼ばれる取引規制の対象となる種のリストの改正です。
附属書は、取引状況と絶滅危機の状況に応じて、Ⅰ~Ⅲの3つのレベルが設定されており、それぞれどのような取引規制を行なうかが定められています。

附属書Ⅰ 商業取引が全面禁止されている種
附属書Ⅱ 商業取引を行なう場合、特別な手続きが必要となる種
附属書Ⅲ 自国の種を守るために、輸出に際しては当該国の許可が必要となる種


 

会議では各締約国により、こうした附属書に、何の種を掲載し、また削除するかについて提案が行なわれ、議論が交わされます。

日本は、すでに自国で守られている種をより厳しく保護するため、他の締約国や地域の協力を得て取り組む、国際的なルールを使う手段があるのです。

南西諸島の固有種をめぐるCITES-CoP18での動き

今回のCITES-CoP18では、EU、中国などから、ペット目的で取引が活発化しているトカゲモドキやイボイモリを附属書Ⅱに掲載する附属書の改正提案が出されています。

いずれも、これらの動物の生息国として、またペットとして輸入・消費している国として、取引規制を新たに行なうことで、その保護を求めるものです。

しかし、提案されている規制の対象は中国やベトナムに生息する種だけで、日本に生息するトカゲモドキやイボイモリは含まれていません。

むしろ、この提案が採択された場合、附属書に掲載されておらず、国際取引の規制がかからない南西諸島のトカゲモドキやイボイモリは、より人気が高まり、違法捕獲が増える可能性が懸念されます。

そこで、TRAFFICは日本政府に対し、南西諸島固有の両生・爬虫類8種(トカゲモドキ属6種、イボイモリ、ミヤコカナヘビ)について、早急にワシントン条約の「附属書Ⅲ」に掲載し、危機を回避するよう提案を行ないました。

附属書Ⅲは、附属書Ⅱへの掲載提案と異なり、会議の場で各国の政府代表が審議し、採択する手続きが必要ありません。

掲載が実現できれば、これらの野生動物は国際取引規制の対象となり、国際社会の協力のもとで違法な捕獲、取引を阻止する対策となります。

日本の法律が禁止している、南西諸島のトカゲモドキやイボイモリの密猟や密輸の取り締まりが、こうした施策により、さらに強化・充実できるのです。


日本政府は国際社会に協力を求め、ワシントン条約の規制の下、より実効性ある保護政策を実施していくことが求められています。

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