ペット利用される南西諸島固有の両生・爬虫類 最新報告書発表

この記事のポイント
九州南端から台湾にかけて連なる、沖縄、奄美などの島々。南西諸島と呼ばれるこの地域には、この地域でしか見られない固有の動植物が数多く生息し、世界自然遺産の候補地にもなっています。とりわけ両生類・爬虫類は固有種と希少種の宝庫。しかし、その多くが今、ペットとして捕獲され、国内外で取引されています。WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるトラフィックでは、その最新の市場調査の結果を2018年5月23日に発表しました。

南西諸島固有の生きものたち

沖縄諸島を中心に九州南端から台湾まで連なる南西諸島。温帯と亜熱帯、双方の気候をあわせもつこの島々には、世界的に貴重な自然環境が今も残っています。

南西諸島は、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギ、キクザトサワヘビなど、世界のこの場所でしか見ることのできない固有種・亜種の宝庫。

特に両生類・爬虫類は、種数、固有種ともに非常に多いことで知られています。

しかし、こうした南西諸島固有の希少な両生類・爬虫類が、「ペット目的」で捕獲・取引される例は少なくありません。

実際、日本国内で捕獲や取引が禁止されているキシノウエトカゲやクロイワトカゲモドキ、イボイモリが海外に持ち出され、海外の空港などで差し押さえられた事件も報告されています。
一方、捕獲や取引が規制されていない種も少なくありません。国内外のエキゾチックアニマルの愛好者やコレクターによる南西諸島の固有種・亜種への関心が高まれば、これらの野生生物の保全は、非常に難しくなることが懸念されます。

こうした状況を踏まえ、WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるトラフィックは、2017年1月~2018年1月にかけて南西諸島固有の両生類・爬虫類のペット取引の現状を把握するため、市場調査を実施し報告書にまとめました。

南西諸島固有 両生類・爬虫類のペット取引(報告書)

調査の結果:実店舗とオンライン広告、関係者へのヒアリング

市場調査は、下記の3種類の方法で実施しました。

  1. 60以上の販売業者やブリーダーが出店する展示即売会で目視および聞き取りを行なう実店舗調査
  2. 日本、欧州、米国のインターネットサイト上の販売広告を確認するオンライン調査
  3. 環境行政担当者、地元監視員、研究者、NPO(民間団体)メンバー、ペット取扱事業者、観光事業者へのヒアリング

この一連の調査では今回調査対象とした、南西諸島固有の67種・亜種(両生類17種2亜種、および爬虫類33種15亜種)の55%にあたる37種が国内・海外で活発に取引されていることを確認しました。

中でも、環境省レッドリストによる評価で「絶滅危機種」として分類されている種が公然と販売/広告されていたほか、国際取引規制または、国内の捕獲や取引が規制されている種の販売も確認されました。

環境省のレッドリストで特に絶滅のおそれが高い絶滅危惧ⅠA類(CR)に指定されている種の中では、ミヤコカナヘビ、クメトカゲモドキ、イヘヤトカゲモドキの3種の海外での販売を確認。

また、国の天然記念物であり、国際取引(輸出)にも規制のあるリュウキュウヤマガメやヤエヤマセマルハコガメの販売も確認しました。

これらは特に重視すべき結果でした。

海外市場の問題:規制なく取引される日本の希少種

このほかにも、今回の調査では20種の両生類・爬虫類が、海外のインターネット上のサイトやFacebookの愛好家グループ内で、販売広告が掲載されているのを確認しました。

特に広告などの掲示が多かったのは、トカゲモドキ属の5種。
また、数こそ多くなかったもののミヤコカナヘビとイボイモリも、取引の対象になっていました。

この7種は、日本の国内法「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」により保護すべき種として捕獲や取引が禁止されている種です。

しかし、海外への持ち出す際に法的に手続きは求められず、すなわち国際取引については、規制がありません。

7種のいずれもが、野生生物の過剰な捕獲と取引を規制する「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」の対象に指定されていないためです。

これらの種が、実際に海外の市場で取引されているということは、国内で違法に捕獲された個体が持ち出された可能性があります。

ミヤコカナヘビ。日本国内では捕獲・取引が禁止されているが、国際取引は規制されていない。

リュウキュウヤマガメ。1975年から国の天然記念物、2013年より国際取引が規制されているが、海外での取引が継続している。

また、いったん何らかの形で日本から持ち出され、輸入国に持ち込まれてしまえば、合法的に取引できるケースがほとんどで、そうなればもはや取り締まることもできません。

このような状態が続けば、日本固有の希少な種の存続への大きな脅威となるでしょう。

現在、世界中で絶滅の危機が懸念されている野生生物は2万5,000種以上。その危機の要因のひとつが、こうしたペットとしての利用を目的とした過剰な捕獲です。

飼育下で繁殖させた個体がペットになる例も少なくありませんが、その元となる個体は、やはり野生から捕獲されることを考えれば、飼育繁殖は必ずしも解決にはなりません。

野生生物の国際取引を規制するワシントン条約では、取引対象となる種を「附属書」に記載してレベルに応じた国際取引の規制を行なっています。

しかし、現在のところ、このワシントン条約の「附属書」に記載されている、南西諸島固有の両生類・爬虫類は、わずかに3種。

ヤエヤマイシガメと、ヤエヤマセマルハコガメ、リュウキュウヤマガメのみにとどまっています。

国内市場の問題:守られない捕獲禁止と規制の欠如

調査では、国内で違法性が疑われる取引が確認されました。

石垣島、西表島、黒島に生息し、石垣市の条例により捕獲が禁止されているサキシマカナヘビが、調査した静岡県の展示即売会で販売されていた例です。

この事例では、サキシマカナヘビを展示販売していたペット事業者が、「石垣市内で捕まえた野生の個体を繁殖させたもの」を販売している、と回答。捕獲時期は確認していませんが、捕獲が条例施行後であれば条例違反です。

また、この他にも捕獲地が「不明」の野生のサキシマカナヘビを販売している例が認められました。

サキシマカナヘビは、石垣島では石垣市の条例により捕獲禁止となっていますが、西表島と黒島は竹富町に属し、自治体が異なるため特に規制がありません。

そのため、このように捕獲した野生個体が販売されていたとしても、その違法性を断定することが難しくなります。

実際、この捕獲地「不明」のサキシマカナヘビの個体は、合法か違法かを判断することができませんでした。

展示即売会の様子

2015年11月、ベルギーの税関で差し止められたイボイモリ。日本から違法に持ち出され、今回は研究者たちの尽力により無事に日本に帰ってくることができましたが、稀な事例です。

捕獲は禁止、でも取引は?

もう一つの大きな問題としては、南西諸島の各自治体では「捕獲を禁止」する条例は設けていても、「取引」を直接規制する条例がないことがあります。

仮に、いずれかの野生生物を条例などで「保護種」に指定したとしても、同時に、その捕獲や取引を規制するルールを設けなければ、その種を守ることはできません。

今回の調査で確認された、いくつもの販売事例では、こうした実質的な保護のための施策の不足と不徹底により、ペット利用による固有種・希少種の危機が生じている懸念が認められました。

また、違法性の問題は、自治体の条例への違反のみにとどまりませんでした。

国の法律である「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」の規則では、生体(生きた個体)を販売する時に、捕獲地や生年月日といった個体の情報を表示することが義務づけられています。

しかし、調査で確認した事業所の中で、すべての事項を記載・開示しているところは皆無と言える状態でした。

さらに、販売店のスタッフへの聞き取りに際しても、販売個体の来歴や捕獲地、捕獲時期などの質問に対して答えられないなど、生体を実際に取り扱う事業者の認識・関心の低さを浮き彫りにする結果となりました。

「世界自然遺産登録」に向けて求められる取り組みと責任

本調査の対象種が生息する南西諸島のうち、奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島は現在、日本で5例目の世界自然遺産の候補地となっています。

世界自然遺産の登録には、その地域にどのくらい貴重な自然や野生生物がいるかが評価されるだけではなく、将来にわたり守られ、維持される確実性が求められます。

この南西諸島の世界遺産登録については、2017年10月に現地を視察した、自然遺産の評価を行なう国際自然保護連合(IUCN)により、生態系の持続可能性に対する懸念などが指摘され「登録の延期」が勧告されました。

沖縄島北部の亜熱帯林「やんばる」

この懸念と指摘は、トラフィックの行なった調査結果にも合致するものです。

世界の中で「ここにしかいない野生生物」を守るための抜本的な意識と制度の改革が今、求められている、ということです。

日本としては特に、絶滅のおそれが高く、海外で活発に取引されている種を、国際的な規制=ワシントン条約の規制対象とするための提案を行なうこと。

また、地方自治体レベルの条例による捕獲規制しかない種については、国レベルの規制や、国際的な規制対象とすることを検討する、などの政策が必要です。

さらにペット事業者は、法令遵守の徹底や違法取引の排除、トレーサビリティの確立、また、消費者に対する適正な情報の提供などに取り組むことが重要といえるでしょう。

こうした生きものをペットにしたいと考える消費者の側にも、売られている個体がどういった経緯をたどったのかを確認することや、野生生物の生息状況を知る努力をすることが求められます。

これらはいずれも、生きた生物を扱うビジネスを手掛けるペット業者が、そしてその飼育を求める個々人が、当然に負うべき責務といえます。

世界自然遺産への登録は、必ずしも自然保護のゴールではありません。

しかしせめて、その水準に届くよう、現状の改善を目指した取り組みを、行政、法執行機関、企業、市民団体が連携して行なうことが求められます。

報告書

概要版

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