南西諸島固有の爬虫類及び両生類のワシントン条約附属書III掲載に関する要望書


環境省自然環境局長
正田寛殿
(公財)世界自然保護基金ジャパン 会長 末吉 竹二郎

 

平素より自然環境保護行政にご尽力いただき、誠にありがとうございます。

WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるTRAFFICが2017年~2018年に実施した調査によると、南西諸島に生息する固有な爬虫類・両生類67種・亜種のうちの29%にあたる20種が海外でペットとして取引されていることが確認されました。取引が確認された種のうち、一部の種は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」の国内希少野生動植物種の指定を受け、また地方自治体の自然保護条例で捕獲が禁止されているにもかかわらず、海外で活発に取引されており、保護政策が十分に機能していないことがわかっています(添付資料参照)。とりわけ、ワシントン条約で国際的な取引規制の対象となっていないために、ひとたび違法捕獲され、日本から持ち出されてしまえば、持ち込みされる諸外国において密輸取り締まりの協力を得ることが難しい状況にあります。

また、南西諸島については、貴省のご尽力により、奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島が国際連合教育科学文化機関(UNESCO)世界自然遺産の候補地に推薦されています。しかし、近年、野生個体の捕獲を目的として南西諸島を訪れる外国人の存在が知られるようになり、イボイモリEchinotriton andersoniやリュウキュウヤマガメGeoemyda japonicaの密輸出事件 も相次いで発覚しています。こうした状況の下、海外で取引が確認されている南西諸島の固有種が、その希少性から海外の愛好家の高い関心を引き付けていることは明らかです。

さらに、日本政府は世界自然遺産候補地の推薦にあたり、同地域が「国際的にも希少な固有種に代表される生物多様性保全上重要な地域である 」ことを普遍的価値の基準を満たす根拠の一つとしていることからも、生息域が極めて限定的ですでに絶滅のおそれの高いこれら固有種について、違法な国際取引を阻止する体制を構築することが必要です。

同時に国際的にも、世界遺産登録地におけるワシントン条約附属書掲載種やIUCNレッドリストの絶滅危惧種の持続可能性に欠いた利用や違法捕獲が課題として指摘されるようになり、2019年開催予定の第18回ワシントン条約締約国会議でもワシントン条約と世界遺産条約の連携措置 について議論されることが決定しています。自然保護や持続可能な野生生物利用のために条約間の連携が重要視されていることを踏まえると、日本政府が進んでワシントン条約による保護政策を実現することは、南西諸島固有の自然及びその構成要素である固有種の保全に対する取り組みの推進に大きく寄与することに加え、国際社会に日本の自然保護対策における前向きな姿勢を示すことにもつながり、ひいては、世界自然遺産登録にも貢献すると考えられます。

以上から、WWFジャパンは、日本政府が南西諸島に生息する下記固有種についてワシントン条約附属書Ⅲ掲載に向けた手続きを早急に進めることを強く要望いたします。

I. トカゲモドキ属※ 6種


クロイワトカゲモドキ Goniurosaurus kuroiwae、
マダラトカゲモドキ G.orientalis、
ケラマトカゲモドキ G.sengokui、
オビトカゲモドキ G.splendens、
イヘヤトカゲモドキ G.toyamai、
クメトカゲモドキ G.yamashinae

※ここではIUCNの生物分類及び表記を使用する。
環境省のレッドリスト及びレッドデータブックでは、
クロイワトカゲモドキGoniurosaurus kuroiwae kuroiwae、マダラトカゲモドキ G.k.orientalis、
ケラマトカゲモドキ G.k.sengokui、オビトカゲモドキ G.splendens、イヘヤトカゲモドキG.k.toyamai、クメトカゲモドキG.k.yamashinae と分類、表記されている。

国内の取引規制の現状


種の保存法の国内希少野生動植物種、沖縄県天然記念物(オビトカゲモドキを除く5種)、鹿児島県天然記念物(オビトカゲモドキのみ)に指定

理由


上記国内法や自治体の条例で保護されていながら活発に国際取引されていることが確認されました。今般予定されているワシントン条約締約国会議では、トカゲモドキ属の附属書Ⅱ掲載提案がなされており、取引圧がトカゲモドキ属の種の存続の脅威になっていることが国際的にも認識され始めています。しかしながら、この提案には上記の日本のトカゲモドキ属が除外されており、採択された場合、日本の6種については引き続き国際取引が無規制の状態となるため、取引需要が益々高まる可能性が懸念されます。


II. ミヤコカナヘビTakydromus toyamai



国内の取引規制の現状


種の保存法の国内希少野生動植物種、宮古島市自然環境保全条例保全種に指定

理由


上記トカゲモドキ属同様、日本国内で保護されていながら海外のペット市場で活発に取引されていることがわかっています。環境省のレッドリストでも絶滅危惧IA類(CR)に分類され絶滅のおそれが非常に高く、このまま国際取引が続けば種が危機的状況に陥ることが想定されます。


III. イボイモリ Echinotriton andersoni



国内の取引規制の現状


種の保存法の国内希少野生動植物種、鹿児島・沖縄県天然記念物に指定

理由


国際取引量は上記のトカゲモドキ属、ミヤコカナヘビほど多くはありませんが、海外における押収事例や違法取引が確認されています。トカゲモドキ属同様、ワシントン条約締約国会議でイボイモリ属3種のうちE.andersoni を除く2種E.chinhaiensisとE.maxiquadratus が附属書Ⅱに掲載提案されています。提案が採択されれば、日本に生息するイボイモリのみ国際取引が無規制となり、取引需要が高まるおそれがあります。

※世界自然遺産の候補地である島々は上記種の生息地にもなっており、クロイワトカゲモドキが沖縄島北部、オビトカゲモドキが徳之島、イボイモリが奄美大島、徳之島及び沖縄島北部に分布している。

以上

 

1.沖縄タイムス(2016). 密輸された天然記念物のイモリ、ベルギーから沖縄に戻る.
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/54358. 2019年4月25日.
2.沖縄タイムス(2018). 天然記念物のカメ密輸/沖縄生息 香港当局が日本人摘発. 
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/357264. 2019年4月25日.
3.環境省 (2016). 平成28年12月26日中央環境審議会自然環境部会(第33回)配布資料.
https://www.env.go.jp/council/12nature/y120-33/mat02_1.pdf. 
4.CITES (2019). Cooperation Between CITES and the World Heritage Convention. CoP18 Doc. 15.6
https://cites.org/sites/default/files/eng/cop/18/doc/E-CoP18-015-06.pdf.

添付資料

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C&M室プレス担当 Email: press@wwf.or.jp

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