持続可能な漁業の推進
2019/07/11
世界の水産資源の危機
私たちが普段消費している魚や貝、エビやカニなどの多くは、豊かな自然の海の賜物であり、日本人の暮らしにとっても、身近で馴染み深いものです。この、魚や貝などの水産資源は、陸上の動物と同様に卵や子を生み、繁殖するので、再生する量や速さを考えながら利用すれば、いつまでも「持続可能」な形で、その恵みを受けることが出来ます。
しかし、乱獲や、資源を生み出す母体である海の環境を壊すような形で、水産物を獲ったりすれば、資源は枯渇し、再生する力も失われてしまいます。そして今、世界の海では、特にこの「獲りすぎ」が大きな問題になっています。
世界の水産物の漁獲量は、この半世紀の間に、飛躍的に増えてきました。
1950年に2000万トンだった漁獲量は、1980年までに3倍に増加。1980年代までは、右上がりに上がってきました。そして、増え続けてきたこの漁獲の現状は、世界の水産資源の状態を、明らかに悪化させることになりました。
その結果、1990年代以降、漁獲量が頭打ちになっています。
1975年から2015年までの水産資源の状態を比べてみると、健全な資源状態の水産資源が占める比率が確実に下がり、一方で、枯渇の危機にあるものが増えてきています。
日本の状況は?
それでは、日本周辺の水産資源はどうでしょうか。
水産庁の資料を基に見てみると、枯渇しているものが49%で5割を占めており、豊富なものは17%で、2割に満たない状態であることがわかります。
世界の海と同様に、日本の水産資源も非常に危機的な状況にあるということです。
日本の漁獲量は、327万トンで、世界第7位。かつてはもっと上位だったのが、徐々に国内の漁業が衰退してきた結果ですが、それでもまだ7位を維持しています(2017年)。
しかも、水産物の輸入金額は、142億ドルで、アメリカの207億ドルに次いで世界第2位(2016年)。日本は、水産資源を獲る国としても、輸入する国としても、重要な国なのです。
世界の漁業資源の現状を考える時、日本人の水産物の消費がいかに大きな意味を持っているか、責任を負っているかが分かります。
資源管理の問題
世界的に起きている、水産資源の危機問題。
これを解決するためには、漁業の方法をふくめた、資源管理の徹底を行なう必要があります。
通常、世界でも、日本でも、科学者が国や国際会議の場などで、一定期間内に漁獲してよいその総量(ABClimit)を勧告します。この勧告は、科学者が、資源の現状や回復力を考え、資源を維持する上で許容できる、と判断して提言するものです。
しかし、この科学者の勧告が、そのまま実際の漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)として、決定されるわけではありません。マグロやサケなど、日本の排他的経済水域をこえて回遊する魚種を除いた日本周辺で漁獲される50魚種84系群のうち、TACが設定されているのはわずか7魚種19系群のみ。しかも漁業に携わる国際機関や各国政府は、漁業者の短期的な利益を優先するあまり、この勧告を上回る量の漁獲枠を設定してしまうことがあるのです。
日本もかつてABClimitをはるかに上回るTACが設定されていた期間があり、資源量が低位のまま回復していない魚種もあります。またTACが設定されていない魚種(非TAC魚種)の場合、今もなお約半数がABClimitを上回る量で漁獲されており、中にはABClimitの3倍以上に達する魚種もあります。
資源状態が悪い魚種ほど、多く漁獲されている傾向にあり、この状態が続けば、資源状態はなおさら悪くなる悪循環におちいることになります。これは、消費者だけでなく、長期的には漁業者にとっても困ることになるのです。
IUU漁業の問題
IUU(アイ・ユー・ユー)漁業とは、違法(Illegal)・無報告(Unreported)・無規制(Unregulated)な漁業のことを言います。IUU漁業は、毎年、1,100~2,600万トンの水産資源を水揚げしていると推定され、その金銭的価値(損失額)は、毎年100~235億USドルと推計されています。この推計金銭的価値は、日本の年間生産額とほぼ同等の規模にあります。
IUU漁業は、資源への圧力を増しており、さらに適切な漁獲を行っている漁業者にとっての脅威ともなっています。
IUU漁業は、実際の漁獲が行われる現場海域だけではなく、漁船が帰属する国、寄港(帰港)先の国や最終消費地である市場国の管理システムの不備によっても起こります。遠い海外からの輸入水産物での問題と思われがちですが、日本でもIUU漁業は起こっています。
絶滅危惧種であるニホンウナギは、ほぼすべてが養殖で生産されていますが、稚魚の人工ふ化技術は確立しておらず、河口で採取した稚魚(シラスウナギ)もしくは海外から輸入した稚魚を養殖池に放流して育てます。しかし報告されたシラスウナギの漁獲量と養殖池に放流された量には、輸入量を差し引いても大きな開きがあり、IUU漁業によるものだと考えられています。
さらに輸入されたシラスウナギの大半は、実際の漁獲が行われていないはずの香港からであり、台湾などから不透明なルートで輸入されていると考えられています。
混獲
漁業による生態系への影響としては、「混獲(こんかく)」の問題があります。
これは、漁をする際に、目的以外の生物を網や針などの漁具にからめて、誤って獲ってしまうことです。アホウドリなどの海鳥、イルカやクジラなどの鯨類、そしてウミガメ類など、中には絶滅の危機にある海の野生生物も、数多くこの混獲の犠牲になっています。
また何らかの理由により放置された網や糸などの漁具に野生生物が絡まる「幽霊漁業/ゴーストフィッシング」も深刻な問題となっています。
漁具の多くはプラスチック製です。海中に放置された漁具は長い間ゴーストフィッシングの温床となるだけでなく、やがてはマイクロプラスチックとなり、世界的な海洋汚染の原因となるのです。
また、本来獲る必要がなく、商業的にも価値の無い魚なども、混獲されたものはただ捨てられてしまうケースが数多くあります。また、サメのように、漁獲した後、高く売れるヒレの部分(フカヒレ)のみを切り取って、身を海に捨ててしまう例もあります。
毎年、混獲の犠牲になっている海の生きものは、膨大な数になると見られており、海の環境を悪化させる大きな要因としても、問題視されています。
増大する養殖水産物
乱獲や漁業による海洋環境へのダメージ。世界で海の水産物の漁獲量が頭打ちになっている一方で、養殖による水産物の生産量は近年増大しており、総生産量の過半数を占めるほどになっています。
2050年には、世界の人口が現在の76億人から98億人まで増加すると予想される中で、養殖業は安定的な食糧供給の観点からも、引き続き拡大が見込まれます。
しかし、こうした水産養殖業には、問題があるケースも少なくありません。
たとえば、養殖場を作るために干潟やマングローブなど沿岸の自然が破壊されてしまったり、養殖場から出される排水や廃棄物が、富栄養化や有害物質による環境汚染を引き起こし、土地や河川、海の環境を変えてしまうことがあります。
また、海外から持ち込まれて養殖されていた魚などが、養殖場から逃げて外来種となり、野生種と交配して遺伝子を汚染したり、病害虫をばらまいてしまうこともあります。
さらに、養殖であっても海の漁業資源に悪影響が及ぶケースもあります。魚種によっては、その元になる卵や稚魚が、自然の海から大量に獲られたり、養殖魚の餌となる魚粉を作るため天然魚が大量に使われているからです。
実際、漁獲される天然の魚全体の3分の1は、魚粉や魚油に加工され、その多くが養殖魚の餌などに使われているといわれています。
養殖業にとっても健全な海洋環境は不可欠なものなのです。
海の恵みをいつまでも!
水産資源の管理や海洋環境の保護は、養殖業も含めて、漁業を営む人々にとって、損をするものではなく、長期にわたり漁業が続けられるという面で利益に繋がるものです。
しかし、資源管理や海の環境にも配慮した、しっかりとした、まじめな取り組みをしている漁業というものは、それなりにコストが掛かります。つまり、その分、水産物の値段に反映されます。その上、違法な、また資源や環境を犠牲にして漁獲された、ただ単に安いだけの水産物を消費者が選ぶようなことがあれば、そのような漁業者は、まじめにやっているだけ損をしてしまい、次第に漁も続けられなくなってしまいます。
その解決策としてWWFなどは、しっかりと資源を守るための取り組みをした水産物が、一目で分かるラベルを付けて「これならば資源や生態系に配慮した、安心して食べられる魚だ」ということを示し、消費者がそれを選べる、世界的な仕組みを作りました。
それが、海のエコラベル「MSC」の漁業認証制度や「ASC」の水産養殖認証制度です。
これらの仕組みが広がれば、まじめな取り組みをしている漁業者や養殖生産者が、いつまでも漁を続けることができ、消費者もいつまでも魚を食べられる、ということになります。