© Cayetano Espinosa / WWF Chile

グローバルリスク報告書から考える、南米チリの海洋保全


世界経済フォーラムが毎年発行している「グローバルリスク報告書」。

先日出された最新版では、「国家間の武力紛争」が2025年における最大のリスクとして挙げられた一方、今後10年の長期的なリスクとして「異常気象」と「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」が1位と2位になり、環境リスクに対する大きな懸念が示されました。

これらのリスクは、ラテンアメリカ・カリブ海地域の長期的なリスクとしても最上位に挙げられていますが、実際に南米チリの海でも、異常気象の原因となる気候変動による影響が心配されています。

特に、より強力なエルニーニョ現象を引き起こし、その発生頻度も増やす可能性があることは、大きな脅威のひとつとなっています。

南米のペルーからチリ沖にかけて分布する、アンチョベータ(ペルーカタクチイワシ)の群れ。エルニーニョ現象が発生すると海面水温が上昇し、プランクトンやそれを食べるこうした小魚が減少してしまいます。
© Santiago Cabral/Silverback/Netflix

南米のペルーからチリ沖にかけて分布する、アンチョベータ(ペルーカタクチイワシ)の群れ。エルニーニョ現象が発生すると海面水温が上昇し、プランクトンやそれを食べるこうした小魚が減少してしまいます。

チリイルカ(Cephalorhynchus eutropia)。世界でチリの沿岸域にのみ生息する固有種で、南部のパタゴニア地域の豊かな生態系を象徴する種のひとつです。アンチョベータなどの小魚は、チリイルカなどの鯨類、またマゼランペンギンなどの海鳥などにとっても大切な食物です。
© Sonja Heinrich / WWF-Chile

チリイルカ(Cephalorhynchus eutropia)。世界でチリの沿岸域にのみ生息する固有種で、南部のパタゴニア地域の豊かな生態系を象徴する種のひとつです。アンチョベータなどの小魚は、チリイルカなどの鯨類、またマゼランペンギンなどの海鳥などにとっても大切な食物です。

また、南部のパタゴニア地域の景観を象徴する氷河の状況も無視できません。

氷河からの雪解け水は、海に流れ込むことで、アンチョベータなどの小魚の主食となるプランクトンの増殖を促します。

そのため、気候変動により氷河が後退することで、この地域の海の食物連鎖や海洋生態系にも影響を及ぼす可能性があります。

上空から見たチリ南部のパタゴニア地域。この地域の海が豊かであるために、氷河(写真奥)の存在も重要です。
© WWF-Japan

上空から見たチリ南部のパタゴニア地域。この地域の海が豊かであるために、氷河(写真奥)の存在も重要です。

こうしたことから、気候変動に対する取り組みがより重要になる一方、それによってもたらされる変化に適応していくためにも、現場での保全活動を推進していくことも同様に重要です。

そのため私たちWWFは、チリ南部のパタゴニア地域で、サーモン(サケ)養殖業やその餌の原料となる小魚の漁業を持続可能な形に転換するための活動をはじめ、固有種チリイルカの保全や海洋保護区の管理の強化に取り組んでいます。

豊かな生物多様性と生態系が広がるこの地域の海を守っていくために、引き続き取り組み進めていきます。(海洋水産グループ 吉田)

この記事をシェアする

自然保護室(海洋水産)
吉田 誠

チリ、インドネシア、中国のフィールドプロジェクトを担当。

田舎生まれの田舎育ち。こどもの頃から自然の中で遊ぶことが好きで、自然を守る仕事がしたいと思っていたところ、WWFと出逢いました。海の環境、海の生きものを守るため、頑張ります。

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP