© Brian J. Skerry / National Geographic Stock / WWF

混獲―解決すべき漁業の環境課題―

この記事のポイント
漁業において漁獲対象以外の生物を捕獲することを「混獲」と言います。推計によると、毎年絶滅危惧種を含む多くの魚類や海鳥、ウミガメなどの海洋生物が混獲され、その多くは死亡していると考えられています。混獲は様々な漁具・漁法で発生しますが、混獲を減らす、あるいは防ぐ装置・技術や操業方法も開発されており、漁業者の取り組みの強化やそれを後押しするサポートが必要となっています。
目次

混獲とは

混獲(こんかく)とは、主として天然漁業の操業中に、対象魚種以外の海洋生物を捕獲してしまうことを言います。混獲される生物は、ウミガメ、海鳥、イルカ類といった、絶滅危惧種を含む大型の海洋生物から、食用に適さないまたは商品価値が低い魚類やその他の無脊椎動物まで含まれます。
こうした混獲された生物の多くは、消費されることもなく、海上または水揚げされた漁港で投棄されますが、多くはすでに死亡しているか、傷つき弱っているため間もなく死亡してしまいます。
混獲は持続可能な漁業を達成するうえで、解決しなければならない重要な課題です。

スリランカの刺し網漁で混獲されたヒメウミガメ
© Vincent Kneefel / WWF-Netherlands

スリランカの刺し網漁で混獲されたヒメウミガメ

混獲の発生率についてはいくつかの推計があります。それによると、

  • イルカ・クジラ類:年間300,000頭以上 1)
  • ウミガメ類:年間380,000~440,000頭(はえ縄漁による)2)
  • 海鳥:年間320,000羽(はえ縄漁による)、年間400,000羽(刺し網漁による)3)

など、毎年多くの海洋生物が混獲されていることが分かります。
1) IWC website: https://iwc.int/entanglement
2) NOAA (2007) Environmental Assessment Sea Turtle Bycatch Reduction Research Activities at the Pacific Islands Fisheries Science Center
3) NOAA (2007) Environmental Assessment Sea Turtle Bycatch Reduction Research Activities at the Pacific Islands Fisheries Science Center

ただし、こうした推計は、観測されたデータ数が少ないこと、漁法や魚種、国や海域によって大きく異なるため、かなりの不確実性を含んでいます。しかしながら、それでもなお相当数の混獲が起きているとみられており、種の絶滅や海洋生態系への影響だけではなく、漁獲を不安定化させ、水産業の持続可能性を危うくします。

混獲を防ぐための方策

混獲は海洋生物や生態系、さらには長期的な漁獲への影響もありますが、短期的にも、網の破損や餌の損失、作業時間の増大など、漁業者にとっても回避すべき課題です。そのため様々な回避・軽減策が考案、実施されています。混獲対策の技術や手法には、日本で発案されたものも数多くあります(後述のトリラインなど)。

漁具の改良や装置の追加

様々な漁具において混獲を防ぐ工夫や装置が開発・提案されています。例えば、延縄漁においてウミガメが混獲された場合でも、ウミガメへのダメージを抑えるために針先がより内側に湾曲したサークルフック。

マグロはえ縄に用いられるサークルフック(左)と通常の釣り針。丸みを帯びた形状により、ウミガメが飲み込みにくく、また引っかかっても取り外しやすい形をしているので、ウミガメへの影響が少ない。
© Jürgen Freund / WWF

マグロはえ縄に用いられるサークルフック(左)と通常の釣り針。丸みを帯びた形状により、ウミガメが飲み込みにくく、また引っかかっても取り外しやすい形をしているので、ウミガメへの影響が少ない。

同じく延縄漁において海鳥が延縄に近寄りすぎるのを防ぐトリライン(トリポールともいう)。

はえ縄漁船に設置されたトリライン(船尾より垂れ下がる複数本のロープ)これにより投縄直後のエサが付いたはえ縄に鳥が近寄らなくなり、混獲を防ぐことができる。
© Peter Chadwick / WWF

はえ縄漁船に設置されたトリライン(船尾より垂れ下がる複数本のロープ)これにより投縄直後のエサが付いたはえ縄に鳥が近寄らなくなり、混獲を防ぐことができる。

このほかにも、混獲された生物の行動や形状、サイズなどに応じて、対象魚種は捕獲しつつ混獲生物のみを逃がす脱出口を設けた定置網や底引き網、ウミガメが刺し網などにかからないよう魚が感知できない色調の発光を行う点滅灯や、音響発生装置などがあります。

操業手法の改善

また対象魚や混獲生物の習性から漁法を改善することで混獲を低減する方法もあります。
例えば、海鳥のほとんどが昼行性である習性を利用し、夜間に延縄業を行う夜間投縄(漁具の海中への投入)。
また巻き網漁において、魚群を効率的に漁獲するために、FADs(浮き漁礁)に集まる魚群を丸ごと漁獲するFADs巻き操業や、イルカなどを指標とするイルカ巻き操業の停止などもあります。

マグロの巻き網で混獲されたジンベイザメ。ジンベイザメの周りに魚が群れる習性を利用し、意図的にジンベイザメの周囲を網で囲う漁法をジンベイ巻きとも呼ぶ。
© Hélène Petit / WWF

マグロの巻き網で混獲されたジンベイザメ。ジンベイザメの周りに魚が群れる習性を利用し、意図的にジンベイザメの周囲を網で囲う漁法をジンベイ巻きとも呼ぶ。

混獲された生物の取り扱いの改善

残念ながらどんなに工夫や改善を重ねても混獲は発生します。そこで混獲された海洋生物をどのように船上で保護し放流するかは、その後の混獲生物の生存に大きく影響するため重要です。いっぽう時として混獲生物は人より大きく力もあり、また鋭い牙や爪をもっているため、乗組員の安全性を考慮することも必要です。
そのため混獲された生物の行動や生態を把握し、その特徴に応じた器具を積載し、対処法を学ぶ必要があります。またどういった生物が混獲されたのかなど基礎的な情報を収集することも重要です。

ペルーの巻き網漁船に装備されている大型生物(サメ、オットセイ、ウミガメなど)用の捕獲ネットと乗組員の安全を確保する防護盾

ペルーの巻き網漁船に装備されている大型生物(サメ、オットセイ、ウミガメなど)用の捕獲ネットと乗組員の安全を確保する防護盾

混獲のない持続可能な漁業のために

水産業の持続可能性を考える時、IUU(違法・無報告・無規制)漁業や過剰漁獲といった水産資源への直接的影響だけではなく、混獲など海洋生態系への影響も検討する必要があります。
混獲は、海洋生態系に悪影響を与え、長期的には対象魚種の生産性にも影響を与えると考えられます。また網の破損や餌が取られることによる経済的損失、作業時間の増大など、漁業者にとっても短期的な影響を与えます。

大西洋でのマグロ巻き網漁で混獲されたオニイトマキエイ(マンタ)とオサガメ 混獲対策は漁業者の作業負担を減らすうえでも重要です。
© Hélène Petit / WWF

大西洋でのマグロ巻き網漁で混獲されたオニイトマキエイ(マンタ)とオサガメ 混獲対策は漁業者の作業負担を減らすうえでも重要です。

しかしながら、混獲対策は十分に実施されているとは言えないのが現状です。その理由として、混獲による海洋生態系への影響が実感しにくく、混獲対策に要する追加の経費や作業に対する理解やインセンティブが十分ではないことが考えられます。
そのため、政府・自治体や漁業関連団体、水産企業、研究機関、NGOなどが協力・連携して混獲対策に対する情報発信、混獲を回避・低減できる技術や手法の開発と普及、ルール作りなどを進めていくことが重要となります。
WWFジャパンは、海外のWWFオフィスとも連携して、持続可能な漁業を認定するMSC認証の取得支援、水産マーケットにおける持続可能な水産物の普及拡大、国際漁業管理機関への管理強化の働きかけ、漁業者への混獲に関する研修機会・マニュアル・ツールの提供などに取り組み、混獲対策を進めています。

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