減災・防災の観点から求められる生物多様性


先日、損害保険料率算出機構が、全国一律だった保険加入者向け水害補償の保険料の料率を、地域の災害発生のリスクの高さに応じて5段階に変更する、という報道がありました。

これは簡単にいえば、洪水などの起こりやすい、水害のリスクの高い地域ほど、支払う保険料が高くなる、ということです。

最近の気候変動(地球温暖化)による異常気象は、日本をはじめ世界の各地で、多くの被害をもたらしていますが、その影響が、普段の暮らしにも直接的にかかわっていることを、あらためて実感させる報道でした。

水害は、予測の難しい災害です。
ここはそれほど雨も降っていないし大丈夫、と思っていても、川の上流で大雨が降ったりすれば、やはり災害に見舞われることになります。

川の流れがつなぐ「流域」という視点で考えなければ、そのリスクを正しく理解し、対応することは難しいのです。

逆に、この流域という観点でリスクを低減させることも可能です。
たとえば、上流域で水を蓄えてくれる豊かな森を守ったり、中流で水田や湿地などを一時的に遊水池(あふれた水を逃がす場所)として活用することで、流域全体を水害から守ることができます。

最近、NbS(Nature based Solutions:自然に根ざした解決策)という考え方が、防災の観点からも全国的に注目されていますが、これはまさに、こうした自然の力を、防災や減災の助けにしよう、という試みです。

今も現役で活躍する九州の伝統的な石造りの堰。石畳の段差には水の流速を落とす効果があります。その地域の歴史や文化の中で取り組まれてきた減災や防災には、現代のNbSが学ぶべき、多くの知恵が秘められています。
© 九州大学 林博徳

今も現役で活躍する九州の伝統的な石造りの堰。石畳の段差には水の流速を落とす効果があります。その地域の歴史や文化の中で取り組まれてきた減災や防災には、現代のNbSが学ぶべき、多くの知恵が秘められています。

堤防やダムによる水の管理は、確かに有効な手段の一つではありますが、現代の水害は、もはやそれだけでは防ぐことが難しくなっています。

流域の自然と共に、人自身の暮らしを守っていく。そうしたこれからの環境保全の取り組みを、しっかり進めていかねばと思います。

アメリカのニューヨーク市では、流域全体のコミュニティで水源を守る取り組みを行なっています。大都市ニューヨークで使われる水の約90%は、同州北部のキャッツキル山地が水源。市では、このキャッツキル山地の自然保護を通じた水源と流域の保全に、大きな投資を行なっています。

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自然保護室(コンサベーションコミュニケーション グループ長)
三間 淳吉

学士(芸術学)。事務局でのボランティアを経て、1997年から広報スタッフとして活動に参加。国内外の環境問題と、保全活動の動向・変遷を追いつつ、各種出版物、ウェブサイト、SNSなどの編集や制作、運用管理を担当。これまで100種以上の世界の絶滅危惧種について記事を執筆。「人と自然のかかわり方」の探求は、ライフワークの一つ。

虫や鳥、魚たちの姿を追って45年。生きものの魅力に触れたことがきっかけで、気が付けばこの30年は、環境問題を追いかけていました。自然を壊すのは人。守ろうとするのも人。生きものたちの生きざまに学びながら、謙虚な気持ちで自然を未来に引き継いでいきたいと願っています。

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

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