© Richard Barrett WWF-UK

【COP26】パリ協定めざす2度目標が視野に?


イギリスで開催されている、国連の気候変動会議COP26で、初めてパリ協定が掲げる「2度目標」の達成への希望が見えてきました。

しかし、その達成は世界各国の2030年までの具体的な実現策が伴わない限り達成不可能であることが改めて示されました。

パリ協定は、今世紀末までの世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力を追求するという長期目標を掲げています。

しかし、COP26が開幕前には、各国がパリ協定に提出した削減目標では、気温上昇は2.7度になると試算されていました。

ところが、CO26開幕と同時に開催された首脳級会合で、インド、タイ、ベトナムなどの途上国がネットゼロを宣言したほか、100か国以上が強い温室効果をもつメタンの削減に合意。

これによって初めて、世界の平均気温の上昇が1.8度まで抑えられる可能性が出てきたのです!気温上昇の予測が2度を下回るのは初めてのことです。

1週目の11月4日、IEA(国際エネルギー機関)は、COP26の冒頭で発表された各国の削減目標の引き上げを足し合わせると、世界の平均気温の上昇が1.8度に抑制できるとの試算を発表しました。

IEAのビロル事務局長は、11月4日に開催された脱石炭世界連盟の会議で「気温上昇が1.8度に抑えられる」と発表した
©WWFジャパン

IEAのビロル事務局長は、11月4日に開催された脱石炭世界連盟の会議で「気温上昇が1.8度に抑えられる」と発表した

オーストラリアの研究機関であるClimate ResourceやUNEPも同じ試算結果を示し、さらに11月9日には、独立系研究機関であるクライメート・アクション・トラッカーが記者会見を行ない、IEAと同様に、気温上昇が1.8度に抑えられると発表しました。

UNEP(国連環境計画)も、11月9日の記者会見で、COP26での各国の発表を受けた試算で、ほぼ同じ結果(1.9度)の気温上昇予測を発表している
©WWFジャパン

UNEP(国連環境計画)も、11月9日の記者会見で、COP26での各国の発表を受けた試算で、ほぼ同じ結果(1.9度)の気温上昇予測を発表している

しかし、この予測は楽観的シナリオと名付けられています。
なぜならば各国の口約束も入れた目標や長期目表を合わせれば1.8度に抑えられるものの、その実現は2030年までの取り組み次第であり、各国が2030年までに対策を強化しなければ、気温上昇は2.4度に上がると警告されているためです。

1.8度と2.4度の気温上昇には大きなギャップがあります。そのため、研究を率いるニコラス・ホーン教授は、次のように総括しました。

「2050年までの長期目標はリップサービスで言える。だが、本当で気候変動を解決する意思があるなら、2030年までの具体的な取り組みを示す必要がある」

新しい気温上昇の分析結果を発表したクライメート・アクション・トラッカーの記者会見での、研究を主導するニュー・クライメート・インスティテュートのニコラス・ホーン教授
©WWFジャパン

新しい気温上昇の分析結果を発表したクライメート・アクション・トラッカーの記者会見での、研究を主導するニュー・クライメート・インスティテュートのニコラス・ホーン教授

クライメート・アクション・トラッカーの科学者たちと語り合う専門ディレクターの小西雅子
©WWFジャパン

クライメート・アクション・トラッカーの科学者たちと語り合う専門ディレクターの小西雅子

COP26は終盤に入りました。
世界に希望を示すためには、各国が削減目標をリップサービスで終わらせることなく、具体的な政策を策定し、着実に実行することが求められています。

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専門ディレクター(環境・エネルギー)
小西 雅子

博士(公共政策学・法政大)。米ハーバード大修士課程修了。気象予報士。昭和女子大学特命教授、京都大学院特任教授兼務。
中部日本放送アナウンサーなどを経て、2005 年に国際 NGO の WWF ジャパンへ。専門は国連における気候変動国際交渉及び国内外の環境・エネルギー政策。2002 年国際気象フェスティバル「気象キャスターグランプリ」受賞。環境省中央環境審議会委員なども務めている。著書『地球温暖化を解決したい―エネルギーをどう選ぶ?』(岩波書店 2021)など多数。

世界197か国が温暖化対策を実施する!と決意して2015年に国連で合意された「パリ協定」の成立には感動しました!今や温暖化対策の担い手は各国政府だけではなく、企業や自治体・投資家・それに市民です。「変わる世の中」を応援することが好きな小西です♪

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