COP26 1週目報告:初めて今後の気温上昇を2度未満に留めるに足る各国目標が提出された!
2021/11/08
- この記事のポイント
- ほぼ全ての国が参加して脱炭素化に取り組むことを約束したパリ協定。2021年10月31日〜11月12日にイギリス・グラスゴーで開催されている国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、1週目に世界120ヶ国から首脳陣が集まり、今後の気温上昇を2度未満に留めるに足りる目標が提出されました。また脱石炭の機運も高まっています。COP26の1週目の成果について報告します。
コロナ禍による1年の延期を受けて、2021年10月31日~11月12日にイギリス・グラスゴーにおいて開催されているCOP26では、大きく分けて2つの成果が求められています。
1つ目は、パリ協定が目指す目標、つまり、世界の平均気温の上昇を「2度より充分低く保ち、1.5度に抑える努力を追求する」ことに向けて、明らかに足りていない各国の取組み強化を打ち出せるかどうか、です。
2つ目は、パリ協定の「ルールブック」議論の中で、最後まで積み残された、「市場メカニズムのルール」などの議論について結論を得ることです。
はじめて気温上昇2度未満が視野に入ってきた!
1.5度を目指すためには、2050年に温室効果ガスの排出をゼロに、そして2030年にはほぼ排出量を半減する必要があります。これだけの大きな削減を約束するには、やはり国のトップではないとなかなか難しいものです。
そこで今回のCOP26では、1週目のはじめの2日間に、議長国イギリスのジョンソン首相が呼び掛けて「ワールドリーダーズサミット」が開催されました。世界120ヶ国から各国首脳が集まり、それぞれに削減約束や資金援助などを発表してもらったのです。
先進国のほとんどはCOP26までにすでに2050年ゼロと2030年に50%前後の削減目標を公表していたために、今回は特に新興国の目標に注目が集まりました。残念ながら中国とロシアの首脳は欠席で、世界一の排出国である中国から目標の引き上げはありませんでした。
しかし世界第4位の排出大国であるインドは、2030年に再生可能エネルギー50%を目指し、さらに2070年には排出ゼロを初めて公表。またタイやベトナムといった発展著しい途上国も2050年カーボンニュートラルを目指すことを初めて発表しました。
また同日に、メタンガスを2030年までに2020年比で30%削減する「グローバル・メタンガス・プレッジ」を欧州連合とアメリカが中心になって呼び掛け、世界100か国以上が賛同しました。メタンガスはCO2の20倍の温室効果を持つガスであるため、この効果は少なくありません。
これらの結果として、IEAのビロル事務局長は、「今後の気温上昇の予測は、1.8度までさげられた」とCOP26会場で発表したのです!
COP26が始まる前には、各国の削減目標を足し合わせても世界の平均気温は2.7度まで上がると予測されていただけに、COP26のこの二日間で各国の目標引き上げによって1.8度が視野に入ったことは画期的な成果です。
もちろんこれは各国が2030年の半減目標や2050年ゼロなどの長期目標を実現したら、という前提です。実際には各国はまだその具体的な実現策を示せていない中、数字上の仮定の成果であることは確かですが、はじめてパリ協定の長期目標である2度未満が視野に入ったことは今後に希望を与えるものだと言えます。
※今後の気温上昇予測は、IEAのみならず、オーストラリアの研究機関Climate Resources なども11月3日にブリーフィングペーパーを発表し、「1.9度」などの計算結果を示しています。今後Climate action tracker などの研究機関の結果も発表されることになっています。
脱石炭に取り組む国が急増
さらに1週目の成果としては、最もCO2排出量の多い石炭火力の廃止に取り組む国が急増したことが挙げられます。
実は議長国のジョンソン首相は、COP26の前に各国に4つのことを呼びかけていました。石炭火力の廃止計画、電気自動車、資金支援、それに植林です。
中でも石炭火力については明確に「先進国は2030年に廃止、途上国は2040年に廃止」を呼びかけていました。
その声に応えて、1週目に開催された「脱石炭火力国際連盟」のイベントでは、新たに28の国や地域などが石炭火力の廃止を約束したのです。
このイニシアティブはもともと2017年にイギリスとカナダが始めたものですが、年々参加メンバーが増え、160もの国や地域などが参加しています。
また、石炭火力の新設を辞めるイニシアティブにも、新たに20ヶ国が参加、その中にはポーランドなどの石炭国やベトナムなどのアジア諸国も含まれています。
HSBCなどの世界の機関投資家や金融機関も、CCS(二酸化炭素回収・貯留)などのついていない石炭火力には融資しないことをCOP26で約束。
さらに石炭のみならず、イギリスがリードした「2022年までに排出削減措置のついていない化石燃料エネルギー部門に対する公的支援を止めて、クリーンエネルギーへの移行を優先する」の声明に、アメリカやイタリア、カナダなど25ヶ国が署名しています。
議長国イギリスは、「石炭を過去のものに」とのスローガンのもと、このCOP26で石炭火力廃止に力を入れ、結果としてアジア諸国を含む石炭火力廃止へ向かって大きな潮流が出来てきています。
日本の温暖化対策の評価はミックス
世界120ヶ国から首相が集まった中、日本の岸田首相も参加し、演説しました。衆院選を終えたばかりの中、COP26に駆け付けたことは、この気候変動問題に対して日本も真剣に取り組んでいることを世界に示す機会となりました。
日本も2030年に46%削減、さらに50%の高みを目指す、そして2050年にゼロという目標を持っていることで、1.5度を目指すCOP26において一定の評価を得ており、新興国に削減目標の引き上げを迫る先進国グループ側に入っています。
さらにこのCOP26の大きな議題である途上国への資金支援に対しても新たに5年間で、最大100億ドルの追加支援を行なう用意があると表明し、ジョンソン首相から感謝の言葉をかけられていました。
一方で、いかに46%削減を目指すかについては、再エネを中心とする世界の流れとは異なって、「太陽光などの再エネの普及のためには火力発電が必要」として、アンモニアや水素などによって火力発電のゼロエミ化をはかっていくと表明。それを国内のみならず、アジアにおいても「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ」として1億ドル規模の事業で展開するとしました。
これは、石炭火力の廃止や、ガスなどの化石燃料からの脱却をも志向している世界の潮流とは逆行する意思表明で、むしろ石炭火力発電の延命をはかっていると受け止められることになりました。
そのため日本に対する評価は二分しました。特に世界環境NGOの国際ネットワーク「気候行動ネットワーク」(CAN)は2日、温暖化対策に後ろ向きな国に贈る不名誉な賞「化石賞」に日本を選びました。理由は「アンモニアなどは今のところ製造時に褐炭など化石燃料を使うことが前提で、混焼してもCO2の排出削減効果は限定的であり、さらに商業化されていない技術であるため非常にコストもかかる。そのため2030年半減、2050年ゼロが必要とされる1.5度を実現するには非現実的」というものです。
せっかくの2030年50%の高みを目指す削減目標や、資金援助の増額などに対する評価がかすんでしまう残念な結果となっています。世界の潮流に沿った現実的な2030年の削減目標達成の政策を国内で早急に検討する必要があります。
パリ協定のルール作りはいまだ深刻な対立
さてCOP26の本来の議題は、パリ協定においてまだ決まっていない残りのルールに合意することです。
中でも大きいのは、世界で削減クレジット(排出枠)を取引する市場メカニズムを決めるパリ協定第6条です。
二国間で取引するもの(6条2項)と、国連主導型で取引するもの(6条4項)の二つがあります。日本が進める二国間クレジット制度(日本と対象国の2国間で削減プロジェクトを実施し、削減クレジットを2国間で分けあう制度)もこの中に含まれることになるため、日本にとってはぜひ合意が欲しいところです。
1週目には、各国はそれぞれこれまでの主張を繰り返すにとどまり、溝は埋まっていません。とりあえずは各国交渉官レベルの交渉は終えて、政治的な判断が必要な論点をオプションとして掲げた合意文書案が、2週目に送られました。2週目の最後に大臣級会合で対立点が埋まるかが注目されます。
特にこの6条は、2015年にパリ協定が成立して以来、すでに数回にわかって合意が先送りされているもので、今回のCOP26ですべてのルールが合意されてパリ協定のルールブックが完成してほしいものです。