© Ola Jennersten / WWF-Sweden

シベリアトラの野生復帰を断念


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

極東ロシアの現場で活動するWWFロシアのスタッフから、残念な報告がありました。
保護していた一頭のメスのシベリアトラ(アムールトラ)の野生復帰を断念した、というものです。

保護されたメスのトラの「カザーチカ」

このトラは今年2月、沿海地方のアレクセイ・ニコルスコエという町に出没して捕獲され、野生に戻すことを目指してリハビリセンターでトレーニングを受けていました。

このトレーニングは、保護したトラが再び、自然の中で獲物を獲れる力を身につけ、自立して生きていけるようにするものです。また、人への警戒心を維持し、野生復帰後に里に近付くことのないように、トレーニングは人が直接接触することなく行なわれます。

リハビリセンター。人なれしないように、スタッフはなるべく近づかないよう、最大限の配慮をしています。

実際、毎年数頭のシベリアトラが、このトレーニングを受け、野生に戻されてきました。
しかし、すべての例で取り組みが成功するとは限りません。

保護され、「カザーチカ」と名付けられた今回のメスのトラは、たくさんのスタッフが半年以上にわたるトレーニングを施してきましたが、狩りの力と人への警戒心を十分に取り戻すことができませんでした。

結局、10月9日、カザーチカはクラスノヤルスクの動物園に運ばれ、そこで余生を過ごすことになりました。

トラの命を救うことはできましたが、これは保護活動としては残念ながら失敗です。
野生生物の保護は、あくまで「野生で生きる生きもの」の未来を存続させていくこと。目の前の一頭がとにかく死ななければそれでよい、というものではないのです。

麻酔で眠らされ、動物園へ送られるカザーチカ。スタッフたちは丁寧にカザーチカを扱い、送り出しました。

野生にトラを戻すのは大変な取り組みです。
年間たとえ数頭でも野生に戻せるならば、いまだ500頭ほどしかいないシベリアトラにとって貴重な数になります。

すみかの森と、その自然の豊かさのシンボルでもあるトラを守っていく取り組みは、これからも続きます。

【動画】動物園に運ばれるシベリアトラ(アムールトラ)のカザーチカ

リハビリセンターでは、カザーチカがフェンスに体当たりして突き破り、WWFロシアのトラの専門家パベル・フォメンコが頭と顔に大けがをする事故もありました。2度の手術を受けて一命を取り留めたパベルは、再び現場に戻ってカザーチカとの別れに立ち合い、優しく声をかけながら現場の様子を動画で報告しています。フェンスは事故の後、さらに強化されたそうです。

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自然保護室長(森林・野生生物・マーケット・フード・コンサベーションコミュニケーション)、TRAFFICジャパンオフィス代表
川江 心一

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修士課程修了。
小学生の頃に子供向け科学雑誌の熱帯雨林特集に惹きつけられて以来30年間、夢は熱帯雨林保全に携わること。大学では、森林保全と地域住民の生計の両立を研究するため、インドネシアやラオスに長期滞在。前職でアフリカの農業開発などに携わった後、2013年にWWFに入局。WWFでは、長年の夢であった東南アジアの森林保全プロジェクトを担当し、その後持続可能な天然ゴムの生産・利用に関わる企業との対話も実施。2020年より現職。

小学生の頃に科学雑誌で読んだ熱帯雨林に惹きつけられると同時に、森林破壊のニュースを知り「なんとかしなきゃ!」と思う。以来、海外で熱帯林保全の仕事に携わるのが夢でしたが、大学では残念ながら森林学科に入れず・・。その後、紆余曲折を経て、30半ばにして目指す仕事にたどり着きました。今でもプロジェクトのフィールドに出ている時が一番楽しい。

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WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

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