2021年トラの保全活動ハイライト
2021/12/14
- この記事のポイント
- 2021年もいよいよ年の瀬、新しい年が近づいてきました。2022年は、トラにとって重要な年です。寅年ということだけではなく、トラが生息する13カ国の政府などが一堂に会するグローバル・タイガー・サミットが開催される年なのです。この会議では、前回2010年の会議で定められた、トラの数を2倍にする目標「TX2」の達成度合いが報告されるとともに、次の目標が定められる予定です。その年明けを前に、2021年には世界でどのような取り組みが行なわれたのか、そのハイライトをお届けします。
1.インドの保全が新たな段階へ
インドは世界のトラの6割が生息する重要な国で、トラの亜種では最も個体数の多いベンガルトラが分布。
近年は、WWFや政府など多くの人や組織の尽力により、その個体数が増加に転じています。
2021年には、CA|TS(※1)と呼ばれる、トラの保全を高い水準で実施している地域にのみ与えられる認証を、国内14カ所のトラ保護区が取得しました。
この認証では、保全のための取り組みのみならず、同じ地域に暮らす人々と、野生のトラがうまく共存できているかについても審査されます。
そのため認証された地域では、人の暮らしとトラの保護、両方に配慮した取り組みが、高い水準で実施されている、ということになるのです。
※1 CA|TS = Conservation Assured Tiger Standards
2.マレーシア ベルムテメンゴール森林地域の罠が激減
東南アジアのトラにとって最大の脅威の一つは、高値で売れるトラの骨を狙った密猟者が、森に仕掛ける罠です。
くくり罠と呼ばれる、金属製のワイヤーで作られる罠は、安価で簡単に仕掛けることができ、トラに限らずさまざまな野生動物を無差別に捕らえてしまいます。
マレーシアのベルムテメンゴール森林地域では、先住民を含む地域住民で結成されたパトロール隊が、罠の回収や見回りなどの活動を展開。
長年にわたり取り組みを続けてきた結果、2017年以降の罠の数は94%減少しました。
マレーシアは、特にトラの減少が深刻な国の一つで、マレー半島に生息する亜種マレートラの推定個体数は200頭以下。
パトロール隊の活動は、その貴重なトラの命を支えています。
3. 中国ではもっと多くのトラが生息できる可能性が明らかに
ロシアとの国境に位置する中国東北部には、最大の亜種シベリアトラ(アムールトラ)が数十頭生息していると推測されています。
また、2021年に発表された論文によると、この地域には300頭以上のトラが生息できるだけの森が残されていることが分かりました。
しかし同時に、これを実現させるために乗り越えなければならない課題も明らかになりました。
一つは獲物となるシカなどの草食動物の数が不十分なこと。もう一つは、森林が分断され、そのつながりが失われていることです。
そのため、パトロールや森林再生などの活動が進められています。
4. タイの新たな希望
インドシナ半島には亜熱帯の季節林などの環境に生息する亜種インドシナトラが分布しています。
しかし、過去20年ほどの間に、ベトナム、ラオス、カンボジアではほぼ絶滅。
その中でタイは、インドシナトラにとって最大の希望の地となっています。
ここ数年の個体数は横ばいで、増加に転じさせる取り組みが各地で行なわれていますが、2021年には明るいニュースが飛び込んできました。
タイ西部のメーウォン国立公園で続けているカメラトラップ調査で、これまで記録のなかったメスが確認されたのです。
その縞模様から個体を照合した結果、隣接するフワイ・カーケーン野生生物保護区で生まれた個体であることが分かりました。
このような分布拡大の様子を確認できたことは、タイのトラの増加に期待を持たせてくれます。
5. スマート・パトロール?
最近「スマート〇〇」という言葉をよく聞くようになりました。
それは保全活動も例外ではなく、SMARTパトロール(※2)というパトロール手法が世界60カ国で取り入れられています。
これは、パトロール中に発見した罠や違法活動、野生動物やその足跡などをその場でモバイル機器に入力すると、そのデータが集約されてパソコンなどで確認したり、分析したりできるシステムです。
ネパールでも6つの国立公園など2013年に導入されて以降、罠の発見率が3分の1に減少した一方、野生動物との遭遇率は数倍に跳ね上がりました(※3)。
ネパールは、トラの生息域が少数の国立公園にほぼ限られている厳しい状況にあります。
しかし、その保護区のパトロールには力が入れられており、密猟や密輸の抑え込みにも、ここ数年成功し続けています。
新たな調査やパトロールの方法の導入によって、この成果が今後も継続されることが期待されます。
※2 SMART = Spatial Monitoring and Reporting Tool
※3 遭遇率は様々な要因が影響するので、パトロールだけの成果とは言い切れません
6. 極東ロシアの「ヒョウの森国立公園」でトラの数が3倍に!
※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。
「ヒョウの森国立公園」は、極東ロシアの沿海地方に、WWFロシアなどの協力によって設立された保護区です。
2012年にこの国立公園が設立された当時、ここで確認されたシベリアトラは10頭に過ぎませんでした。
それがこの10年で、3倍の30頭に増えました!
これは、密猟や樹木の違法伐採を防ぐために続けられてきた、レンジャーたちによる懸命なパトロールの賜物です。
これだけ短い期間にこれだけの成果が得られたことは、驚きであると同時に、トラには高い回復力が備わっていることを示すものです。
極東ロシアでは近年、他の地域でもシベリアトラの個体数が回復傾向にあります。
今後はその生息域をより広く確保し、人との遭遇事故などを起こさないようにしながら、守っていく取り組みが必要とされています。
7. ベトナムで24頭のトラを保護
ベトナムは20世紀まで、インドシナトラの重要な生息国の一つでしたが、2000年以降、全土の開発や密猟により、現在ではトラが絶滅してしまいました。
ところがそのベトナム北部のゲアン省で、2021年8月、24頭のトラが保護されました。
これらのトラは、伝統薬の材料となる骨や、毛皮などを取るために、人の手で飼育していた個体を繁殖させたものと考えられています。
もちろん、希少種であるトラの飼育や、その骨などを売買することは、ベトナムの国内でも違法行為。
しかも、こうした違法な行為は、トラの骨などに対する需要の増加を呼び、結果として野生のトラを密猟の脅威にさらすことにつながるのです。
飼育されていたトラであっても、このような取引を見過ごすわけにはいきません。
WWFは今回の保護を歓迎するとともに、ベトナムでの違法取引根絶のための活動を継続していきます。
いかがでしたか?
トラが生息している国の人々の多くは、トラがいることを誇りに思い、文化的な象徴としてとても大切にしています。
また、多くの草食動物や、縄張りとなる広い自然を必要とするトラは、豊かな森があることを示す指標にもなります。
トラの数が回復し、自由に闊歩する森を守り、広げていくことができれば、それはより多くの野生生物を含めた、豊かな自然を守ることにつながるのです。
野生のトラが絶滅することなく、その姿がこの先もずっと見られるよう、2021年の寅年も、WWFの活動にぜひご注目下さい。