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責任ある取引が一歩前進:企業による野生生物のオンライン取引規制

この記事のポイント
ECプラットフォーム国内最大手ヤフーが運営するオークションサイト「ヤフオク!」が、動植物の取引に関するガイドラインの細則を、大きく改定することを公表しました。この改定は、生態系や環境に悪影響を及ぼすおそれがある動植物のオンライン取引を、企業が独自に対象範囲を定め、自主的に規制するものです。今回の規制には、現状では合法的に取引可能な準絶滅危機種の取り扱いの禁止など、従来よりも踏み込んだ規制が盛り込まれており、今後、EC業界で野生生物取引の在り方や取り組み検討が進むことが期待されます。
目次

ヤフオク!が動植物の出品ガイドラインを改定

2022年8月29日、ECプラットフォーム国内最大手ヤフー株式会社(以下ヤフー)が、運営するオークションサイト「ヤフオク!」での動植物に関するガイドライン細則改定を公表しました。

このガイドラインは、プラットフォームのユーザーに対して取引上のルールを示すものです。

ヤフオク!ガイドライン細則の改定予定について(動植物)(外部サイト)

2022年9月29日から適用される、このガイドライン改定による出品禁止物となる動植物の生体と器官について、以下のようになります。

ヤフオク!ガイドライン細則の改定の概要

(出典)「ヤフオク!ガイドライン細則の改定予定について(動植物)」より、WWFジャパンまとめ

(出典)「ヤフオク!ガイドライン細則の改定予定について(動植物)」より、WWFジャパンまとめ
*関連する法令などの概要は文末「関連情報」を参照

このガイドラインでは、動植物に限らず、各種法令違反となるものは当然出品禁止としています。

しかし、今回の動植物の出品規制の改定では、取引が現状の国内法では合法であっても、絶滅のおそれが既に懸念されている種や、取引圧が懸念される種など、注意が必要な野生生物については、新たに規制の対象とすることが明らかにされました。

また、規制はこれまで4項目について設けられていましたが、この改定により、規制は9項目に拡大されました。

注目すべきヤフオク!自主規制のポイント

法的措置の施行前に規制を施行

今回のガイドラインの改定で特筆するべきポイントの一つに、「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」で保護対象とすることが決まった野生生物の取引に関する規制があります。

「種の保存法」では、絶滅のおそれのある日本の野生生物を、「国内希少野生動植物種」に指定。取引の規制を含む、その法的な保全を取り決めています。

ただし、この「指定」が決まった動植物種の保護が、実際に「施行」され、取引などが禁止されるまでには、数か月間の「時差」が生じます。関係省庁や、各自治体などで、対応の準備が必要になるためです。

そのため、日本では規制開始前のこの「時差」の期間に、対象種を狙った集中的な捕獲や、駆け込み需要としての取引増加が生じる問題が起きてきました。

しかし、今回のガイドラインの改定では、「種の保存法の規制」が「施行」されるタイミングではなく、「指定」が発表されたタイミングで、対象となる野生生物の取引を、自主的に規制することが盛り込まれました。

まさに問題となっていた、駆け込み需要に対処するものです。

これについては、ヤフオク!では、小型のサンショウウオ類など国内希少野生動植物種32種について、取引の禁止措置が適用される2022年2月を待たずに、2021年12月27日(閣議決定がされたのは12月24日)より、すでに販売を禁止にした先例があり、今回それをルールとして徹底する形です。

環境省レッドリストの掲載種を独自規制

特に注目すべき内容は、環境省レッドリストの絶滅危惧種(CR、EN、VU)と準絶滅危惧種(NT)を、ヤフオク!上での取引規制の対象としている点です。

日本では環境省が国内の野生生物で絶滅の危機にある種を『レッドリスト』にまとめ、公開しています。ただし、レッドリストに掲載されるだけでは、法的な保護の対象にはなりません。

こうした法的な保護下に置かれていないレッドリストの対象種は極めて多く、これらの絶滅危惧種が、その希少性ゆえに、高値で合法的に取引されている現状があります。

特に日本では、誰でも気軽に利用できるヤフオク!のようなオンラインサイト上で、希少な動植物が取引されるケースが散見され、大きな懸念として指摘されてきました。

そうした中で、今回公表された、ヤフオク!の改定ガイドラインでは、環境省レッドリストの評価に基づいた、自主的な取引規制を行なうことが明記されました。

このことで、絶滅危惧種として指定されていても、法的な規制の網のかかる国内希少野生動植物に指定されていない、両生類や昆虫、魚類などまで対象が拡大されることになります。

とりわけ、絶滅のおそれが現状それほど高くない、ただし生息状況の変化によって絶滅が危ぶまれる「準絶滅危惧種(NT)」も、取引規制の対象としたことは、将来に向けた取引圧を考慮した、予防的措置と言えるものです。

日本の固有種であるシリケンイモリ(Cynops eniscauda)は、TRAFFICが行なった2017年および2021年の市場調査で、販売や広告が国内外で確認されており、取引による影響が懸念されている。種の保存法の国内希少野生動植物種には指定されておらず、環境省レッドリストでは準絶滅危惧種(NT)、IUCNのレッドリストでは危急種(VU)として選定されている)。
©Yuma Kanamori

日本の固有種であるシリケンイモリ(Cynops eniscauda)は、TRAFFICが行なった2017年および2021年の市場調査で、販売や広告が国内外で確認されており、取引による影響が懸念されている。種の保存法の国内希少野生動植物種には指定されておらず、環境省レッドリストでは準絶滅危惧種(NT)、IUCNのレッドリストでは危急種(VU)として選定されている)。

この他にも、各自治体が条例で捕獲や取引を規制している、特定の地域で保護されている野生動植物や、外国産の希少な動植物、希少種ではなくても一度の出品が大量のものなど、生態系や環境に悪影響を及ぼすおそれがあると判断したものを出品禁止物として、削除対象にすることも明らかにしています。

拡大するオンライン取引の課題

今回、国内最大手のECプラットフォームにおいて、法的な規制よりも踏み込んだ自主規制が実施される運びとなったことには、大きな意味があります。

近年、オンライン取引は増加の一途を辿り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大による巣ごもり消費の影響などを受け、その利用はさらに拡大しています。そうした中で、オンラインでの野生生物取引は、野生生物の生息や自然環境を脅かす一因となっているのです。

中でも日本における個人間(CtoC)取引は、リユース市場の拡大によって、高い成長率を維持しており、その主要なツールとして利用されるネットオークションでは、取引規模の8割以上を、ヤフオク!が占めると試算されています。

CtoC取引(フリマアプリとネットオークション)の市場規模

出典:電子商取引に関する市場調査、経済産業省(令和元年度から3年度より)
*CtoC取引は個人間に留まるものではなく、実際にはBtoB、BtoCの取引も含まれ、それらも含む数値

CtoC取引は特に、匿名性が高く、取引のトレーサビリティが不透明なことなどが課題として指摘されており、野生生物の取引においても、これが大きな問題になっています。

WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるTRAFFICでは、このオンライン取引の問題を含む、象牙やベッコウの国内取引、両生類の国内外の取引などについて実態を調査し、それぞれの課題と、取るべき改善策を示してきました。

中南米の熱帯林に生息するグラスフロッグ(アマガエルモドキ科:Centrolenidae)は、取引による影響が懸念されている。日本市場でもペットとしての流通があり、TRAFFICの調査ではフライシュマンアマガエルモドキ(Hyalinobatrachium fleischmanni)のWC表示個体の販売が確認されている。写真はCentrolenella ilex。
©naturepl.com / Edwin Giesbers / WWF

中南米の熱帯林に生息するグラスフロッグ(アマガエルモドキ科:Centrolenidae)は、取引による影響が懸念されている。日本市場でもペットとしての流通があり、TRAFFICの調査ではフライシュマンアマガエルモドキ(Hyalinobatrachium fleischmanni)のWC表示個体の販売が確認されている。写真はCentrolenella ilex。

また、2019年には一般社団法人自然環境研究センターも、環境省のレッドリストに掲載されている、184種の絶滅危惧魚類について、10年間分(2009~2019年)のネットオークションでの取引情報を分析。絶滅危惧種88種の取引状況を確認し、取引件数が年平均で21.5%、合計取引額は年平均で15.6%も増加している傾向を明らかにしました。

こうした状況の中にあって今回、CtoC取引において高い割合を占めるヤフオク!が、ガイドラインを改定し、特に希少な動植物の取引規制に注目した措置を講じたことは、法律の網がかからない両生類や魚類、昆虫や植物など、さらには日本の生物多様性保全に、企業がビジネスを通じて寄与する、大きな一歩といえます。

EC業界による取り組み強化への期待

国際的にも、野生生物の取引規制に向けた、今回のようなEC関連企業の自主的な取り組みは、近年大きく広がりを見せています。

2018年にはWWFとTRAFFIC、IFAWが呼びかけ、違法な野生生物の取引撲滅に向けた取り組みにコミットした関連企業が参画する「Coalition to End Wildlife Trafficking Online(野生生物の不正なオンライン取引終了に向けた連合体)」が立ち上がりました。

Coalition to End Wildlife Trafficking Onlineのサイト(外部サイト、英語)

ここに参画する企業は、世界有数のeコマース、ソーシャルメディア、テクノロジー企業47社(2022年6月時点)で、違法な野生生物取引撲滅に向けて、それぞれのサービスにおける最適な行動計画を策定し、自主的な取り組みを進めています。

2021年に発表されたCoalition参加企業による取り組みの成果概要。ブロックや削除した違法な野生生物取引の出品や投稿などの合計は1,100万件を超え、その他スタッフへのトレーニングやユーザー向けの啓発活動を実施していることが示された。

2021年に発表されたCoalition参加企業による取り組みの成果概要。ブロックや削除した違法な野生生物取引の出品や投稿などの合計は1,100万件を超え、その他スタッフへのトレーニングやユーザー向けの啓発活動を実施していることが示された。

Coalitionがなぜ、このような取り組みを加速させているのか。その理由は、「違法な野生生物取引」が、今や国際的にも深刻な環境犯罪の一つとしても位置づけられ、EC業界としても、その撲滅に向けた対応が求められていることによります。

今回のヤフオク!による法規制を拡大した出品禁止措置は、こうした国際的な潮流にも則したものといえるでしょう。

しかし、日本全体ではいまだ、野生生物取引に対する規制は限定的で、違法性を問える範囲も狭く、官民を問わず、改善すべき課題が多く残されています。

AIやマシーンラーニングなどの技術や、ビックデータを活用したトレンドの分析、ユーザーや消費者を巻き込み監視の目を増やすべく通報制度の活性化など、EC業界が野生生物取引の問題に対して実施できる取り組みの可能性は、まだ多く残されているといえるでしょう。

今後、ヤフーについては同社が定めたガイドラインを実効性のあるものとするため、出店状況や取引内容のモニタリングを強化し、確実に運用していくことができるか、注目されます。

また、政府も、こうした企業の自主的な取り組みに依存することなく、野生生物取引に対する法規制の見直しを、抜本的に進めていくことが必要です。

関連情報

関係する法規制の概略

【動物の愛護及び管理に関する法律】
哺乳類、鳥類、爬虫類の生体販売に際して現物確認と18項目について対面説明が義務付けられているため、原則オンラインで販売することはできません。

【絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律】
法律で指定している国内希少野生動植物種427種について、捕獲・採取、広告、販売が禁止されています。(卵と種子、器官については指定された種のみが対象)
※そのうち、特定第一種国内希少野生動植物種は捕獲のみが禁止対象。広告・販売には事業届出が必要ですが、事業にあたらない1回限りなど個人間の販売が可能(特定第二種国内希少野生動植物については、販売目的の捕獲・採取、広告、販売が禁止されています)
国内希少野生動植物種(2022年1月時点、環境省サイト)

法律で指定されている国際希少野生動植物種807種について、広告・販売が禁止されています。(卵と種子、器官については指定された種のみが対象)
※ 要件を満たし環境大臣による登録票が付された生体・器官は販売が可能
※ 関連法令に基づいて適法に捕獲された生体・器官の販売が可能
国際希少野生動植物種(2021年1月時点、環境省サイト)

【特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律】
法律で指定されている特定外来生物156種の生体について販売が禁止されています。(卵、種子、器官は対象外)
特定外来生物(2021年1月時点、環境省サイト)

環境省のレッドリストについて

・ 環境省レッドリスト:(環境省サイト)
動植物13分類群(2020年3月時点):絶滅危惧種(CR、EN、VU)3,761種、準絶滅危惧種(NT)1,364種、その他(絶滅、野生絶滅、情報不足)668種
海洋生物(2017年3月時点):絶滅危惧種(CR、EN、VU)56種、準絶滅危惧種(NT)162種、その他(絶滅、野生絶滅、情報不足)225種

レッドリストへの掲載は、そのまま法的な保護を意味するものではありません。掲載種の法的な保全は、関連する各法や条令で、あらためて定める必要があります。
また、世界にはこの日本のレッドリストとは別に、IUCN(国際自然保護連合)が取りまとめている国際版のレッドリストがあります。そこには日本の野生生物も含まれていますが、絶滅危機の度合いの評価結果は、日本版のレッドリストと必ずしも一致していません。

WWFジャパン・TRAFFICの調査報告

・ 象牙について(2020年12月)
日本の象牙市場の最新動向、報告書『TEETERING ON THE BRINK:日本のオンライン象牙取引』を発表
楽天グループ(株)と(株)メルカリが2017年に、ヤフーが2019年に、同社が運営するプラットフォーム上での象牙取引を禁止とする自主的措置を講じ、オンラインにおける象牙・象牙製品の取引量減少を確認。しかし、象牙風などと謳った出品の中に本物の象牙と思しき製品があるなど課題が残ります。

・ ベッコウ(タイマイの甲羅)について(2021年5月)
日本へ向けたタイマイ(ベッコウ)の違法取引に関する報告書を発表
2000~2019年の間に71件(564kg)のタイマイの甲羅が日本へ密輸入されたことを確認。ベッコウ製品の国内取引は、剥製や全形の甲羅といったごく一部を除いて、規制がされておらず、密輸由来のベッコウが国内で流通していても区別することができません。

・ 両生類について(2022年3月)
ワシントン条約CoP19を前に-日本の両生類ペット取引調査報告
日本の市場(爬虫・両生類のフェア、専門店のウェブサイト、ECサイト)において、少なくとも255種・亜種の両生類の販売を確認。85%が外国原産種、16%がIUCNのレッドリストの絶滅危惧種。また、野生捕獲(WC)の表示が少なくともひとつの販売個体・広告で見つかった種が27%(68種・亜種)に上りました。

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