©WWF-US_/ Keith Arnold

日本へ向けたタイマイ(ベッコウ)の違法取引に関する報告書を発表

この記事のポイント
熱帯のサンゴ礁に生息するウミガメの1種、タイマイ。タイマイの甲羅は古くから、高級な装飾品などの原材料「ベッコウ(鼈甲)」として重用されてきました。しかし、それが理由で乱獲が続き、現在も世界で最も絶滅の危機が高いとされるウミガメの一種とされています。WWFジャパンは2021年5月、TRAFFIC、認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金と共同で、このタイマイが日本に密輸されている現状をまとめた報告書を発表。日本政府や国際取引に関係する行政機関に対し、状況の改善を求める提言を行ないました。
目次

日本に向けたタイマイ密輸の最新情報

2021年5月31日、WWFジャパンは日本に向けたタイマイの密輸の現状をまとめた報告書『Shell Shocked: Japan's Role in the Illegal Tortoiseshell Trade(日本へ向けたタイマイの違法取引)』を発表しました。

『べっ甲と密輸:ウミガメの甲羅の違法取引と日本の関わり』(日本語版)
『Shell Shocked: Japan's Role in the Illegal Tortoiseshell Trade』(英文)

今回の報告の中で最も注目すべき結果は、日本へ向けたタイマイの甲羅の密輸の最新動向です。
日本税関が2000~2019年の間に報告した押収データから、下記の点が明らかになりました。

  • 71件、合計564kg(タイマイ約530匹に相当)におよぶタイマイの甲羅が違法に輸入されようとして摘発された
  • このうち半数以上を占める289㎏が2015~2019年の直近5年間に押収された

これらの結果は、日本が現在も、タイマイの甲羅の違法取引の仕向け地(消費国)となっていることを示します。

また、日本への輸出元となった国については、2000~2009年までの期間は、シンガポールをはじめとする東南アジア諸国が88%を占めた一方で、2010~2019年はカリブ諸国であるドミニカ共和国とハイチが91%を占めるなど、傾向の変化も見受けられました。

さらに、密輸の輸送手段には、国際郵便が最も頻繁に使用され、全期間の差止件数の93%、重量の78%を占めていたことが分かりました。

(上)2000~2009年に摘発された、日本向けの違法取引は28件。押収された甲羅は合計257kgで、輸出元は53%がシンガポールでした。<br>(下)2010~2019年に明らかになった密輸は43件、合計307kg。カリブ諸国からの密輸が増加し、91%を占めました。

(上)2000~2009年に摘発された、日本向けの違法取引は28件。押収された甲羅は合計257kgで、輸出元は53%がシンガポールでした。
(下)2010~2019年に明らかになった密輸は43件、合計307kg。カリブ諸国からの密輸が増加し、91%を占めました。

タイマイの危機と「ベッコウ」の利用

タイマイは、産卵場所となる熱帯の沿岸域の生息環境の消失や、食用にするための卵の乱獲によって、個体数を減らしていますが、実は、何世紀にも渡って最も大きな脅威となってきたのが、甲羅を目的とした乱獲です。

20世紀初期には、ヨーロッパやアメリカ、アジアのベッコウ産業のために、世界各地の海でタイマイが乱獲され、数が激減しました。

日本も古くからベッコウを利用してきた国のひとつであり、消費国として大きなカギを握る国です。

17世紀から続く日本のベッコウ産業は、明治時代になると輸出産業として拡大。

20世紀には、世界最大のベッコウ消費国となり、日本沿岸での捕獲はもとより、世界各地からタイマイの甲羅を輸入するようになりました。このころの日本では、生産されるベッコウ製品のほぼすべてが日本国内の需要に対応するものとなっていました

1970~1986年に日本が当時、合法的に輸入していたタイマイの甲羅は、合計641.5トン。

これはタイマイ60万頭分に相当します。

絶滅の危機にある野生生物の国際取引を規制する「ワシントン条約(CITES)」が1975年に発効し、タイマイは1977年から附属書Ⅰに掲載され、商業目的の国際取引が禁止されました。

一方で日本は、1980年にワシントン条約に加盟しましたが、タイマイの国際取引禁止に対しては1994年までこれを「留保」し、商業目的の輸入を継続していました。

世界最大の消費国として、当時の日本は、1980~1989年にかけて年間30トン(タイマイ3万頭に相当)の輸入を継続していました。

さらなる危機を呼ぶ「ベッコウ」の密輸

日本では現在も、1994年の輸入禁止以前に国内に持ち込まれた在庫のベッコウを用いた加工・製造と取引が、合法的に行なわれています。

しかし、この合法的な市場の存在は、輸入の禁止後も、日本に向けた違法なタイマイの甲羅の密輸を引き起こす要因となりました。

1995年にはインドネシアから3トンのタイマイの甲羅が密輸される事件が発覚。

2000年以降も、日本を含めた東アジア各地で、違法なタイマイの押収が続いていますが、中でも日本に向けた密輸は、原材料となる未加工のタイマイの甲羅が主である点が指摘されていました。

2019年にもハイチからのタイマイの甲羅7kgを日本に違法に持ち込もうとした、日本人のベッコウ業者1名を含む2名が、密輸容疑で逮捕される事件も発生。

現在も裁判が続いていますが、この事件は、ベッコウの国内製造業者の一部が、タイマイの甲羅の密輸を通じ、組織的かつ違法に原材料の調達を行なっていた実態を明らかにするものです。

国内の製造業者が政府に報告しているベッコウ原材料の在庫量は、1995年時点で188.4トン。2017年時点で、この約15%にあたる28.7トンが残ると報告されています。

しかし、密輸が継続している状況を鑑みると、政府への報告が正確な在庫量を反映しているとは考えにくいと言えます。

1995~2017年に届出事業者が経済産業省に報告したベッコウ(原材料)の在庫量、および在庫を報告した事業者数(出典:トラ・ゾウ保護基金が経済産業省から入手)

1995~2017年に届出事業者が経済産業省に報告したベッコウ(原材料)の在庫量、および在庫を報告した事業者数(出典:トラ・ゾウ保護基金が経済産業省から入手)

密輸品の流通を許す国内市場

製造業者が密輸に手を染める理由としては、やはり国内に残る、ベッコウ製品への需要があると考えられます。

現在の日本の法律では、ベッコウ製品の国内取引は、剥製や全形の甲羅といったごく一部を除いて、規制がされていません。

つまり、製造業者の手に渡った密輸由来のタイマイの甲羅は、製品へと姿を変え、合法なものとして市場に流通しているのです。

近年、その取引規模を急拡大させた、インターネットを使ったオンラインでの取引もまた、こうした密輸由来のベッコウ製品の国内流通を容易にしてしまっている恐れがあります。

今回、2019年の1年間にヤフオクで取引されたベッコウ製品の落札件数を調査したとこころ、総数は少なくとも8,202件、取引の合計金額は最低でも1億円以上にのぼりました。

内訳はその72%が装飾品で、11%がベッコウを使ったメガネのフレーム。金額では特に、メガネのフレームが50%近くを占めます。

また、全体の1%以下ではありましたが、日本での国内取引が規制されている、タイマイの剥製や全形の甲羅についても、53件(54点)の取引が確認され、国内規制がほとんど遵守されていないおそれがある実態も浮かび上がりました。

タイマイの密輸防止のため、求められる対策

今回の報告書の発表にあたりWWFジャパンとTRAFFIC、トラ・ゾウ保護基金は、違法に輸入されたタイマイの甲羅が、従前より国内にあった在庫と混ざり、製品として日本の市場で販売、流通している可能性が高いことに、強い懸念を表明しました。

また、こうした問題への対応として、税関などの海外との水際での違法取引防除対策に加え、ベッコウをあつかう業者が保有する在庫と国内取引の管理の早急な見直しが必要であることを指摘。

これらについて、早急な対策を取るよう、日本政府および税関、警察などの法執行部門と、規制当局にあたる環境省、経済産業省に対し、提言を行ないました。

さらに、オンラインでの取引にかかわるEコマース企業に対しても、違法に輸入された原料から製造されたベッコウ製品の流通が示唆されることから、ビジネス上のリスクとなる懸念を表明。

自社プラットフォーム上での取引を自主的に禁止する措置を取るよう、求めました。


WWFは今回の報告書を、タイマイの違法取引を、国際的な見地からも改善を促すため、2021年5月31日より始まる、ワシントン条約動物委員会でも共有する予定です。

会議での議論を促す一方、今後も国内外の関係機関、および省庁や各保全団体と協力し、タイマイをはじめとする違法取引の撲滅に向けた活動を継続してゆきます。

『べっ甲と密輸:ウミガメの甲羅の違法取引と日本の関わり』(日本語版)
『Shell Shocked: Japan's Role in the Illegal Tortoiseshell Trade』(英文)

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