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南米ペルー 水産物の電子トレーサビリティシステム「トラスアップ(TrazApp)」

この記事のポイント
世界的に深刻な問題となっているIUU(違法・無報告・無規制)漁業。日本がイカをはじめとした水産物を輸入する南米ペルーでも、水産資源や海洋環境を脅かしています。そこでWWFでは、ペルーの水産サプライチェーンへの電子漁獲証明・トレーサビリティシステム「トラスアップ(TrazApp)」の導入に取り組んでいます。特にIUU漁業リスクが高く、日本にも輸出されるペルー産アメリカオオアカイカのトレーサビリティの確保を進めています。
目次

ペルーの海を脅かすIUU漁業

違法(Illegal)・無報告(Unreported)・無規制(Unregulated)で行なわれる漁業を示すIUU漁業。

ルールを無視して操業されるIUU漁業は、水産資源や生物多様性を脅かす、世界的に深刻な問題となっています。

WWFジャパンでは、2017年に日本の水産物市場におけるIUU漁業リスク分析を実施し、とりわけIUU漁業由来のリスクの高い魚種を10種特定しました。

そのうちの一つであるアメリカオオアカイカは、主に南米のペルー沖で漁獲され、日本では主にシーフードミックスなどの冷凍イカとして消費されています。

ペルーのアメリカオオアカイカ漁業は、年間漁獲量が40~60万トンで世界のアメリカオオアカイカ漁獲量の50%以上を占め、4,000隻以上の漁船で20,000人以上の小規模漁業者が携わっていると推定されており、ペルーでは重要な漁業となっています。

アメリカオオアカイカを漁獲する漁業者
© Yawar Films Motion / WWF-Perú

アメリカオオアカイカを漁獲する漁業者

一方、外国漁船によるIUU漁業により、アメリカオオアカイカ資源やペルーの海洋生態系、さらには小規模漁業者の収入への影響が懸念されています。

ペルーは、日本のイカ類輸入量で中国に次ぐ第2位の15%を占めており、日本のイカ消費を支える重要な国の一つです。

日本の消費者も、知らず知らずのうちにIUU漁業由来のイカを食べ、ペルーの海や人に関わる問題に関与してしまっている可能性があるのです。

2022年の日本のイカ類輸入量(財務省貿易統計をもとに作成)

2022年の日本のイカ類輸入量(財務省貿易統計をもとに作成)

【参考:IUU漁業について】
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/282.html

電子漁獲証明・トレーサビリティシステム「トラスアップ(TrazApp)」

トラスアップ(TrazApp)の開発・導入

IUU漁業対策を進めるうえで重要となるのが、トレーサビリティ(追跡可能性)の確保です。

生産・加工・流通・販売を通じた一貫したフルチェーン・トレーサビリティを確保することで、誰が、どこで、いつ漁獲し、どういう経路で流通したかが明確になり、IUU漁業由来の水産物の市場での流通を防ぐことができます。

アメリカオオアカイカ漁業では、外国漁船によるIUU漁業の脅威や、ペルー国内で非正規漁業の割合が大きいことが問題となってきました。

そこでWWFペルーは、電子漁獲証明・トレーサビリティシステムの無償のスマートフォンアプリ「トラスアップ(TrazApp)」を2018年に開発。

このアプリを用いることで、漁業や流通に関わる関係者は誰でも、リアルタイムで水産物の漁獲や流通に関するデータの記録や確認を簡単に行なうことができます。

【参考:トラスアップ(TrazApp)】
https://www.trazapp.org/

トラスアップ(TrazApp)
© Yawar Films Motion / WWF-Perú

トラスアップ(TrazApp)

またトラスアップは、トレーサビリティの国際標準であるGDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)に準拠しています。

GDST標準は、フルチェーン・トレーサビリティの構築に必要な主要データ要素(Key Data Elements)を定めており、IUU漁業由来の水産物をサプライチェーンから排除するうえで非常に有効なツールです。

【参考:GDSTについて】
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4283.html

現在WWFペルーは、アメリオオアカイカをはじめとしたペルーの小規模漁業において、トラスアップの導入・普及に取り組んでいます。

アメリカオオアカイカについては、漁業関係者への研修を通じてアプリの導入を進めるとともに、加工業者ともトラスアップの活用に関する話し合いを行なっています。

2019年に導入を開始して以来、毎年ペルーの年間漁獲量の5%程度に相当する2万トン前後、累計10万トン以上のアメリカオオアカイカの漁獲データがトラスアップに登録されています。

トラスアップに関する漁業関係者への研修
© José Carlos Álvarez / WWF-Perú

トラスアップに関する漁業関係者への研修

ペルーの政府機関との連携

アメリカオオアカイカ漁業をはじめとしたペルーの小規模漁業でトレーサビリティの確保と持続可能な漁業への転換を推し進めていくうえでは、政府機関や研究機関との連携・協力が重要です。

ペルーでは、生産省(PRODUCE)が漁業・養殖業に関わる管理等を担っており、電子漁獲証明・トレーサビリティシステムの導入にも取り組んでいます。

そのため、生産省のシステムとトラスアップのシステムの連携を通じた、ペルーの水産サプライチェーンにおける効果的なトレーサビリティ確保の推進に向けて話し合いを進めています。

加えて、沿岸警備港務総局(DICAPI)とも協力し、トラスアップでの出漁許可証の電子申請・発行の試験運用を行なっています。

電子申請・発行が可能になることで、許可証の取得手続きの効率化や透明性の向上を通じた漁業管理の改善につながることが期待されます。

また、ペルー海洋研究所(IMARPE)との連携を通じて、トラスアップで収集された漁業データが調査研究にも活用されています。

漁業データは、ペルー海洋研究所から、南太平洋における水産資源の保存と持続可能な利用を目指す南太平洋地域漁業管理機関(SPRFMO)にも提出され、国際的な漁業管理にも寄与しています。

沿岸警備港務総局(DICAPI)との出漁許可証の電子申請・発行に関する話し合い
© José Carlos Álvarez / WWF-Perú

沿岸警備港務総局(DICAPI)との出漁許可証の電子申請・発行に関する話し合い

日本の調達企業の責任と役割

IUU漁業が世界的に大きな問題となる中、世界第3位の水産物輸入大国である日本の企業にとって、フルチェーン・トレーサビリティを構築し、自社が調達する水産物のサプライチェーン全体の、自然環境や労働・人権に関する現状を把握し、リスクを管理することは不可欠です。

アメリカオオアカイカなど、IUU漁業のリスクが高いと考えられる水産物については、その重要性は特に高くなります。

水産物を取り扱う企業は、IUU漁業由来の水産物を排除とともに、持続可能な水産物の調達に取り組む責任を担っています。

ペルー産アメリカオオアカイカについては、トラスアップが導入されたサプライチェーンから調達を行なうことが、トレーサビリティの確保に向けて企業ができる有効な手段の一つです。

また、現地のサプライヤーに対して、トラスアップを活用しトレーサビリティの確保に取り組むよう働きかけることも効果的です。

トレーサビリティの確保を通じたIUU漁業由来のイカの排除をはじめ、ペルーのアメリカオオアカイカ漁業を持続可能なものに転換させていくために、ペルー産アメリカオオアカイカの主要な輸入国の一つである日本の調達企業による積極的な行動が求められています。

アメリカオオアカイカ漁業者の方々
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アメリカオオアカイカ漁業者の方々

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