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危機すすむメコン川流域で234種の新種を確認

この記事のポイント
2024年12月16日、WWFはメコン川流域の5カ国で、234種の新種の野生生物を確認したことを発表しました。これは2023年の1年間に行なわれた調査の結果分析に基づいたものです。メコン川流域は近年急激な自然破壊により、世界の中でもとりわけ、熱帯林や亜熱帯林の消失が深刻化している地域の一つ。またメコン川流域の大小の河川でも過剰な水の利用や開発が進んでいます。今回発見された新種も、多くがこうした自然環境に生息していることから、WWFはその保全を強く訴えています。
目次

東南アジアで発見された234種の新種

2024年12月16日、WWFは東南アジアのメコン地域で、新たに発見された野生生物についての報告書『New Species Discoveries in the Greater Mekong(大メコン地域における新種の発見)』を発表しました。

この報告は、2023年の1年間に、世界各国の大学や、自然保護団体、研究機関の多くの科学が、メコン川流域の5カ国、すなわちカンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの野生生物を対象に行なってきた、貴重な学術研究・調査の結果をまとめたものです。

その結果、234種の新種の野生生物が確認されたことが、明らかになりました。

調査結果で確認された、分類群ごとの新種の種数は以下の通りです。

哺乳類 3種
爬虫類 26種
両生類 17種
魚類 15種
植物(維管束植物) 173種
合計 234種

また、国別にみると、これらの新種には調査で確認された地域にしか生息していない「固有種」も多く含まれている可能性が明らかになりました。

国名 確認された新種の数 固有種と考えられる種
カンボジア 2種 0種
ラオス 19種 3種
ミャンマー 15種 14種
タイ 80種 71種
ベトナム 112種 106種
合計 234種 194種

実際に固有種であるかどうかについては、今後さらなる生息域が確認される可能性もあるため、あくまで現時点での評価となります。

しかし、現在まで存在が知られず学会で報告されてこなかった点や、生息地の多くが自然破壊の危機にある点を考慮すると、これらの種はいずれも希少性が高く、すでに絶滅の危機に瀕しているおそれが高いものと考えられます。

タイ南部で発見された新種のヘビ。マレーシアとの国境地帯にある石灰岩の地形でのみ生息が確認されています。新種はさまざまな方法で発見されていますが、中には新種と確認されるまでに、長い時間を要する例もあります。現地の調査で収集された後、分析が行なわれ、分類が定まるまでに、時には数十年もの時間がかかる例もあるためです。)
© Parinya Pawangkhanant

タイ南部で発見された新種のヘビ。マレーシアとの国境地帯にある石灰岩の地形でのみ生息が確認されています。新種はさまざまな方法で発見されていますが、中には新種と確認されるまでに、長い時間を要する例もあります。現地の調査で収集された後、分析が行なわれ、分類が定まるまでに、時には数十年もの時間がかかる例もあるためです。)

危機にさらされる野生生物の宝庫、メコン

政情が安定せず、科学的な調査が十分になされてこなかったメコン地域では、1990年代後半以降、新種の発見が相次いできました。

これまでWWFが発表してきた報告書だけでも、1997年以降、今回の発表を含めて、合計3,623種もの新種が、この地域では確認されています。

同時に、この30年あまりの間に同地域が遂げてきた急激な経済発展は、各地で持続可能とはいえない開発を引き起こし、野生生物の宝庫ともいうべき自然を著しく損なってきました。

この傾向は今も続いており、2030年までには更なる森林破壊が進む可能性も危惧されています。また、現在も紛争が続く地域では、保全活動のための調査さえも困難を極めます。

出典:WWF GMP (2013) Ecosystems in the Greater Mekong Past Trends Current Status Possible Futures)

出典:WWF GMP (2013) Ecosystems in the Greater Mekong Past Trends Current Status Possible Futures)

また、メコン地域に生息する野生生物の中には、植物のランや熱帯魚のなどをはじめ、ペットや観賞を目的に行なわれる過剰な捕獲や取引によって、絶滅の危機に追い込まれている種(しゅ)も少なくありません。

今回発見された新種の中にも、すでにこうした問題にさらされている種や、今後ターゲットにされる可能性がある種も含まれていることから、保護のためには国際取引の規制を含む、早急な対応が必要です。

今回ベトナムで発見されたランの一種。こうした種が野生の生息域ではなく、取引の現場で発見され、新種として知られるケースもあります。
© Truong Ba Vuong

今回ベトナムで発見されたランの一種。こうした種が野生の生息域ではなく、取引の現場で発見され、新種として知られるケースもあります。

「ネイチャー・ポジティブ」を実現するために

2024年10月に締約国会議(CBD-COP16)が開催された国連の生物多様性条約では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を定め、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復に転じることを、世界の目標として掲げています。

この生物多様性の回復、すなわち「ネイチャー・ポジティブ」を実現していくためには、今回まさに明らかになった、未知の野生生物とそれが息づく自然環境を、いかに保全し、回復させていく取り組みが欠かせません。

そして、こうした世界各地で起きている生物多様性の消失や劣化には、野生生物の生息国はもちろん、開発や国際取引などさまざまな形で世界の自然とつながっている、日本をはじめとした世界中の国々が、深く関わっています。

失われゆく自然と共に、その存在が知られないまま絶滅に追い込まれ、姿を消してしまう野生生物をこれ以上増やさないために、各国の協力に基づいた生物多様性の保全に向けた取り組みが、これまで以上に強く、必要とされています。

© WWF-Japan

メコン地域は今、生息地の喪失や劣化、乱獲や違法な野生生物取引、さらには気候変動、汚染、外来生物といった、さまざまな問題にさらされています。WWFジャパンでは皆さまからのご支援を受け、現地のWWF事務局と協力しながら、その環境保全に取り組んでいます。ぜひWWFの活動をご支援ください。

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