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人とアジアゾウの共存の道をさぐる「アジアゾウ・アライアンス」が始動

この記事のポイント
アジアでは最大の体躯を持つ陸生動物アジアゾウ。その生息国は13カ国に及びますが、多くの地域で個体数の減少が起きており、深刻な絶滅の危機が懸念されています。危機の原因である、生息環境である森やサバンナなどの開発や、人とのあつれきの問題をどう解決していくのか。その手段を国境を越えて協力しながら模索していくため、WWFは2023年8月、「アジアゾウ・アライアンス」を発足させました。現在、日本を含む多くの国の保全関係者が協力した取り組みが始まっています。

アジア最大の陸上動物

アジアゾウは、アフリカゾウに次いで2番目に大きな陸上哺乳類です。

世界に約50,000頭が生息していると考えられていますが、その大部分は南アジアに生息しており、東南アジア・中国にはわずか8,000~11,000頭しかいないと言われています。

今も減少し続けている地域も多く、国際自然保護連合 (IUCN)のレッドリストでは絶滅危惧(EN)に選定されています。

知ってる?アジアゾウとその課題
© WWF-Asia Pacific

知ってる?アジアゾウとその課題 © WWF-Asia Pacific

「生態系エンジニア」もしくは「森の庭師」とも呼ばれるゾウは、フンを介して植物の種や栄養を森のあちこちに運んだり、植物が密生したやぶを踏み分けて野生動物の通り道を作ったり、大量の植物を食べることで、その地域の植生を形作るなど、自然界の中で重要な役割を果たしています。

最近の研究では、成長が早く炭素密度が低い木を選択的に食べることで、成長が遅いものの炭素をよく蓄える木の成長を助け、森のバイオマスを1haあたり26~60トンも増加させることが報告されています(※1)。

ゾウの足跡すら、小さな生き物たちの生態系を作り出します。

タイのクイブリ国立公園近くの森でアジアゾウが作った道を歩く。大きなトゲがあってもお構いなしだ。
© WWFジャパン

タイのクイブリ国立公園近くの森でアジアゾウが作った道を歩く。大きなトゲがあってもお構いなしだ。

アジアゾウの危機と「アジアゾウ・アライアンス」の発足

しかし、アジアゾウは現在、生息地の減少や劣化、生息地同士のつながりの消失、密猟などの影響によって減少。

かつては何千頭もいた場所でも数百頭まで減っていたり、地域によって絶滅してしまう事態が起きています。

こうした減少を食い止め、より良い人とゾウの共存関係を実現するため、緊急の取り組みが必要です。

そこでWWFは、2023年8月、アジアゾウが生息している国・地域が力を合わせてアジアゾウ保全を加速させるため、「アジアゾウ・アライアンス」を設立しました。

これは、政府や企業、地域コミュニティなどと協力して、個体数や生息地の減少を引き起こしている要因を減らし、人とゾウが共存共栄することを目指すための、アジアゾウの保全戦略です。

アジアゾウ・アライアンス

このアライアンスには、現在アジアゾウの主な生息国である8つの国が参加。
過去20年以上にわたり続けられてきた、各地のアジアゾウの保護活動をさらに発展させることを目的としています。

アライアンスの主な目標は、次の4つです。

  1. 地域の連携と保全に必要な能力の向上
  2. 生息地域におけるアジアゾウの危機に対する認知度の向上
  3. 大きな成果上げるためのリソースの導入
  4. アジアゾウ保全の取り組みの機運を高めること

また、このアジアゾウ・アライアンスには、生息地域の関係者だけでなく、保全活動を技術的、資金的に支援する、それ以外の地域、国のWWFや協力者も参加。

WWFジャパンも、この「アジアゾウ・アライアンス」を通じて、主にカンボジアとタイでアジアゾウ保全に取り組んでいます。

アジアゾウは現在、カンボジアには数百頭しか生息していないと考えられており、減少を食い止める必要があります。

タイには約4,000頭生息しており増加傾向にありますが、ゾウが人里に出てきて被害を起こす事例が頻発しています。

この2国をはじめ、アジアゾウの生息国の各地で、人とゾウのより良い共存の道を探っていくため、WWFは各国の事務局の協力のもと「アジアゾウ・アライアンス」の取り組みを推進していきます。

※1 Berzaghi, F., et al. Carbon stocks in central African forests enhanced by elephant disturbance. Nature Geoscience 12, 725–729 (2019).
https://doi.org/10.1038/s41561-019-0395-6

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