© Michael Caroff

動物愛護管理法の課題とは?法改正に向けた要望書を発出

この記事のポイント
動物の飼養や管理について定めた法律、動物愛護管理法。今、この法律の改正に向けた動きが加速しています。論点の多くはイヌやネコに関わる内容ですが、ペットやふれあいのために日本でも多く利用されているサル、フクロウ、トカゲといった野生動物にもこの法律は関係しているのです。法改正では、生態系への配慮や野生動物との適切な関わり方を示す枠組みを構築することが求められます。WWFジャパンでは、生物多様性回復と野生動物の適切な利用の観点から、国会議員や日本政府に、動物愛護管理法の改善を求める働きかけを行なっています。
目次

生物多様性と野生動物のペット利用

現在、地球の生物多様性は危機的状況にあります。

WWFは『生きている地球レポート』の中で、1970年から2018年の約50年間に、世界の生物多様性の豊かさが、平均69%も失われている現状を指摘しました。

これは生物多様性を構成している多種多様な野生生物が、世界の各地で深刻な絶滅の危機にさらされていることを示すものです。
国際社会でも、近年はこうした生物多様性の損失を停止、反転させ、回復に向かわせる「ネイチャー・ポジティブ」の実現が、喫緊の課題とされるようになってきました。

そして、生態系や希少種の保全だけでなく、生物多様性の減少につながる農作物などさまざまな産品の生産や、消費の見直しも求められています。
ペットやふれあいを目的とした野生動物の利用も、その例外ではありません。

現に日本でも、海外産の種を含む、フクロウやトカゲ、サルといった野生動物が、家庭やアニマルカフェなどで飼養・利用されています。

しかし、こうした利用が、野生動物の過剰・違法な捕獲を誘発し絶滅の危機を加速させたり、不適切な管理による動物の脱走、外来種化を招くなど、生物多様性に大きな負荷を与えているのです。

ペットとして人気があるトカゲの一種、コバルトツリーモニター。絶滅のおそれが指摘されており、野生個体数もわかっていない。
© WWF / Lutz Obelgonner

ペットとして人気があるトカゲの一種、コバルトツリーモニター。絶滅のおそれが指摘されており、野生個体数もわかっていない。

生物多様性と動物愛護管理法

生物多様性と野生動物利用の関係は、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国の法定計画「生物多様性国家戦略2023-2030(以下、国家戦略)」でも明確に示されています。

この計画では動物の飼養に関し、以下2つのことを定めています。

  1. 動物の遺棄や放出が自然生態系に影響を及ぼすことを認めたうえで、野生由来動物の飼養については動物の本能、習性等に即した適正な飼養の確保が困難なことから限定的であるべきこと。
  2. 飼養動物の飼養やふれあいなどの経験は、動物を愛護する気持ちや人と動物の共生の理解が醸成されるきっかけのひとつとなり、野生動物を含む人と動物の適切な関係に関する考え方や態度の変革が促され、生物多様性の保全に寄与すること。

つまり、国が定めた法定計画の中でも、動物の飼養はきちんと飼うことのできる動物種に限って行なわれるべきであり、そうした体験を通じた意識によって、生物多様性保全に資する人と動物の関係が作られ得る、ということを言及しています。

つまり、生物多様性を保全する上で、野生動物のペット利用の在り方の見直しは欠かせないということです。

© naturepl.com / Ross Hoddinott / WWF

国家戦略を確実に実行するためには、社会のルールである法律に、こうした法定計画を下支えし、後押しする理念や規制を盛り込むことが重要です。

「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」は、動物の飼養や管理を定めた法律。
動物を愛する気持ちを養い、さらに動物を管理することによって「人と動物の共生する社会の実現」を目的としています。

しかし、ここで示される共生社会とは、飼い主やその周辺住民、飼養される動物に適用される狭義の共生にとどまったもの。

ペットとして利用するため、時には海外でも捕獲される野生動物の生息環境や生態系の保全、またそうした生きものが外来生物となり、日本在来の生物に悪影響を及ぼす可能性は考慮されていません。

また、同法が定める野生動物を飼養する際の管理のあり方についても、対象となる動物の生態や習性に十分配慮していないケースが見受けられます。
日本では今、ペットやふれあうことのできる動物として不向きな野生動物も、ほぼ無規制に利用できる状況にあります。

WWFジャパンが動物愛護管理法に求めること

さまざまな課題が指摘される現行の動物愛護管理法の改正に向け、WWFジャパンは、2024年4月に「動物の愛護及び管理に関する法律の改正についての要望書」を日本政府、国会議員に提出しました。

これは、法律の改正にあたり、「人と動物の共生する社会」という考えの中に、野生動物や生態系との健全な関係の構築も含めた、より広い意味での「共生」を実現するよう求めたものです。

そのために、改正・動物愛護管理法には、生物多様性配慮の考えが反映され、さらにアニマルウェルフェア(以下、動物福祉)(※)に則った動物管理を推進する仕組みが盛り込まれる必要があります。

※本稿では「動物が生きて死ぬ状態に関連した、動物の身体的及び心的状態」を指し、動物福祉を同義として用います。

数年前から日本でもペット販売やアニマルカフェで展示されるようになったアフリカ原産のスナネコ。スナネコのように新たにペット利用される動物種は増している。
© WWFジャパン

数年前から日本でもペット販売やアニマルカフェで展示されるようになったアフリカ原産のスナネコ。スナネコのように新たにペット利用される動物種は増している。

この要望書の中で、WWFジャパンは以下6つの重要な点を指摘しています。

1. 目的規定の変更

法律内の他の規定の解釈や指針となる目的規定。その変更は法律の全体像を根本から変えるものです。

【要望1-1】目的規定に「生物多様性」及び「動物福祉」の要素を取り入れること。

第一条(目的)この法律は、動物の虐待及び遺棄の防止、動物の適正な取扱いその他動物の健康及び安全の保持等の動物の愛護動物福祉に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物やその利用による人の生命、身体及び財産に対する侵害並びに生活環境及び生物多様性の保全上の支障を防止し、もつて人と動物の共生する社会の実現を図ることを目的とする。

通常、法律の第1条にはその法律の制定目的、つまり「どのような方法で、どのようなことを実現したいのか」という内容が簡潔に記されています。

動物愛護管理法の第1条には、動物の虐待防止及び動物を管理し、人の生命や身体、財産への侵害や生活環境の保全を防止することのみが記され、生物多様性は法律で守るべき対象に含まれてはいません。

しかし、国家戦略では、飼養動物の不適切な管理が生物多様性に悪影響を及ぼすことや、野生由来動物の飼養は限定的であるべきことが明記されていることに加え、生物多様性基本法でも生物多様性は人類存続の基盤であり、人類が生物多様性の恩恵を受け生存している、との記述がされています。

つまり、動物愛護管理法においても、法律の根幹である目的規定の中に「生物多様性への配慮」を明記し、「国家戦略」が定める、生物多様性の保全とネイチャー・ポジティブを進めていくことが求められるべきなのです。

海外の市場で販売されるフクロウ。日本は多くの野生動物を海外から輸入しているが、こうした日本の消費を見直すことは動物の生息国の生態系保全にも大きな意味を持つ。
© M. Phassaraudomsak / TRAFFIC

海外の市場で販売されるフクロウ。
日本は多くの野生動物を海外から輸入しているが、こうした日本の消費を見直すことは動物の生息国の生態系保全にも大きな意味を持つ。

また、「動物の愛護」という文言についても見直しが必要です。

動物愛護管理法の方向性を示した基本指針によると「動物の愛護及び管理の考え方は、普遍性及び客観性の高いものである」と明記されています。

これは「科学的視点から動物を正しく理解し、管理すること」だと考えます。

動物福祉はまさに動物の状態を科学的に評価するもの。
動物の生理や習性、生態への理解を促し、動物との適切なふれあいや管理の考え方を醸成する普遍性、客観性の高い基準を示す手段となります。

目的規定の冒頭には「動物の虐待及び遺棄の防止、動物の適正な取扱いその他動物の健康及び安全の保持等」とありますが、これは動物の取扱いにかかわる内容であり、「動物福祉」に則った対応が求められることから、「動物の愛護」ではなく、より適切な「動物福祉」に置き換えるべきです。

ヨウムの群れ。単独でペット飼養されるケースが多いが、野生では仲間と群れを形成して暮らす。
© Ola Jennersten / WWF-Sweden

ヨウムの群れ。単独でペット飼養されるケースが多いが、野生では仲間と群れを形成して暮らす。

2. 新たに導入すべき規制

さらに、動物の飼養と管理の在り方を大きく変える新しい仕組みを要望しています。

要望2-1.【特別動物園動物 (仮称)の新設】

一般的に動物の生態や習性などその種の特性に配慮した飼養環境を整えることが困難であると判断される動物を特別動物園動物とし、特別動物園動物は、種の行動特性および感染症対策に十分配慮した飼養環境を備え、公的機能を有する動物取扱業者のみが扱えるものとすること。特別動物園動物対象種、飼養が認められる動物取扱業者の要件は政令で定め、要件を満たすことができない施設等においてすでに飼養されている特別動物園動物は、地方自治体への登録を義務付け、その個体一代限りの飼養を例外的に認めること。

現行の動物愛護管理法では、人に危害を加えるおそれが高い動物(特定動物)の飼養が原則禁止されています。
これは逆に考えるなら、特定動物を除く動物は、基本的に誰でもペットとして飼養することができる、ということです。

しかし、野生動物については、その多くが本来の生息地とはかけ離れた環境で飼養されるケースも多いため、飼養個体がその生態や行動特性を発揮できる状態にあるとは言えません。

動物福祉の専門家からも、日本では良好な動物福祉の条件が満たせていない、との指摘がされています。

また、不適切な野生動物の飼養は、動物への正しい理解を阻害し、「どのような動物も飼ってよい」という考えを生み、法律が目指す「人と動物の共生する社会の実現」を妨げるおそれもあります。

アニマルカフェで飼養されていたコツメカワウソ​。別のカワウソに噛まれて重傷を負ったが、不適切な管理はこうした事故にもつながる。

アニマルカフェで飼養されていたコツメカワウソの口の中の様子。深刻な虫歯が確認されている。

IUCN/SSC Otter Specialist Group Bulletinより抜粋

また、日本の野生鳥獣の保護と管理を規定した法律に、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)」があります。

この法律は、野生の鳥類や哺乳類(一部の海生哺乳類を除く)を対象とし、それら野生鳥獣について、愛玩飼養の捕獲を禁止し、自然のままに保護することが望ましい、という方針を示しています。

この考え方は爬虫類や両生類といった他のグループや、海外から輸入される動物種・個体にも当然に適用されるべきで、日本の野生鳥獣だけに限定する理由はないはずです。

こうした考え方を踏まえ、野生動物の飼養は動物福祉や感染症などに配慮した環境を有し、さらに保全や研究など公益性の高い目的に限る、というように飼養を制限するべきなのです。

2019年に国内で営業が確認されたアニマルカフェで展示されていた動物の40%がフクロウであった。アニマルカフェの中には、食品を扱うキッチンエリアに動物が侵入する、動物との接触前後の手洗いを推奨しないなどの様子も確認された。
© Ola Jennersten / WWF-Sweden

2019年に国内で営業が確認されたアニマルカフェで展示されていた動物の40%がフクロウであった。アニマルカフェの中には、食品を扱うキッチンエリアに動物が侵入する、動物との接触前後の手洗いを推奨しないなどの様子も確認された。

ヨーロッパの一部の国ではペット利用できる種を制限したホワイトリストを導入し、野生動物の利用を大幅に制限していたり、韓国では野生動物カフェを禁止する規制を導入したりするなど、野生動物の飼養・展示利用に厳しい規制を設けています。

こうした動向も踏まえ、WWFジャパンでは、一般家庭やアニマルカフェ等などの極めて限られたスペースや設備において、飼養が難しいと判断される野生動物を「特別動物園動物(仮称)」に指定すること。
さらに、そうした動物の飼養は、良好な動物福祉や感染症対策を十分に行なうことができ、また種の保存や環境教育など公益性の高い役割を果たすことのできる事業者に限定する仕組みの導入を求めています。

要望2-2. 【個体識別とトレーサビリティシステムの導入】

哺乳類、鳥類、爬虫類において、所有者に飼養個体の個体識別措置の義務を課し、所有者の責任所在を明確化すること。さらに、個体識別措置を活用したトレーサビリティシステムを導入し、事業者たる所有者には、生産地、動物の由来(野生捕獲、飼養下繁殖など)の登録も義務付け、個体の調達の持続可能性、合法性及び安全性等の向上を図ること。なお、上記措置は飼養されているすべての個体を対象とするが、外来種化や違法取引の発生、動物由来感染症の拡大等の懸念を考慮し、特定の条件を満たす動物種から着手すること。なお、個体識別措置はマイクロチップに限定せず対象となる動物の特性や体の大きさ、年齢等を考慮し、個体への負担を最小限にする方法を検討すること。

アライグマやアカミミガメなど、ペットにするために海外から日本へ連れて来られた動物が遺棄されたり、脱走したりした結果、国内に定着し、外来生物となって生態系に悪影響を与える事例が多く確認されています。

もちろん、これは日本に限ったことではありません。
生物多様性に関する世界の科学的知見である「政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」の報告書によると、侵略的外来種が世界に与える損失は、年間約60兆円を超えることが明らかになっています。

また、外来生物の被害は、その多くが顕在化してからの対策になり、結果的に防除等の対策に膨大な時間と労力を要することになります。

さらに、一度外来生物が侵入した地域では、その駆除が成功しても、自然環境を元の状態に戻すことができない不可逆的な状態に陥る懸念もあり、その被害を未然に防ぐ対策が急がれています。

動物が人の飼養下にいる時点で、責任者の所在を明らかにし、動物管理を徹底することがとても重要になってくるのです。

アライグマは20年近く防除の取り組みが行われているにも拘わらず、近年目撃・捕獲数が増加している。生態系や自然環境へのさらなる悪影響に加え、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)等動物由来感染症の伝播の懸念、農作物被害が拡大している。北海道での農業被害は、令和2年度(2020年度)で1億2,000万円に及ぶ。
© Frank PARHIZGAR / WWF-Canada

アライグマは20年近く防除の取り組みが行われているにも拘わらず、近年目撃・捕獲数が増加している。生態系や自然環境へのさらなる悪影響に加え、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)等動物由来感染症の伝播の懸念、農作物被害が拡大している。北海道での農業被害は、令和2年度(2020年度)で1億2,000万円に及ぶ。

外来種対策にも寄与するとして、2019年の改正では販売されるイヌ、ネコの販売事業者に個体識別のためのマイクロチップの挿入が義務付けられました。

国家戦略においても、生態系への悪影響の観点からマイクロチップの装着率を向上させ、個体管理を推進する目標が掲げられています。

しかし、外来種化のリスクは、イヌ、ネコ以外のさまざまな動物にも当てはまるもので、野生動物を除外する合理的な理由はありません。

また、遺失物として届出されるイヌ、ネコ以外の動物も増加していることから、個体識別措置(足環や甲羅の模様などマイクロチップ以外の方法も広く検討する)の対象動物種を拡大するべきと考えます。


また、野生動物の利用は、これらの他にもさまざまな環境問題に関係しています。

その一つが、野生から過剰に捕獲され、その利用が野生個体群に悪影響を及ぼす絶滅を加速させるリスクも深刻です。

特に絶滅の危機の高い動物種は、その希少性から高値で取引されることもあり、密猟や密輸といった違法取引の標的にもなる可能性があります。

2018年にTRAFFICが行った爬虫類展示即売会の調査では、記録された爬虫類14種71頭のうち11種27頭が野生捕獲されたものであった。写真はトッケイヤモリ。2000年~2022年に4,400頭以上の野生のトッケイヤモリが日本に輸入された。
© Magnus Lundgren / Wild Wonders of China / WWF

2018年にTRAFFICが行った爬虫類展示即売会の調査では、記録された爬虫類14種71頭のうち11種27頭が野生捕獲されたものであった。写真はトッケイヤモリ。2000年~2022年に4,400頭以上の野生のトッケイヤモリが日本に輸入された。

ワシントン条約違反として2007年~2018年の間に日本の税関では差し止められた動物は、1,161頭に及ぶ。サルの密輸事件は2022年、2023年にも発覚。サルは人に重い病気をもたらす可能性があるとされ感染症法でも輸入が禁止されている。
© Martin Harvey / WWF

ワシントン条約違反として2007年~2018年の間に日本の税関では差し止められた動物は、1,161頭に及ぶ。サルの密輸事件は2022年、2023年にも発覚。サルは人に重い病気をもたらす可能性があるとされ感染症法でも輸入が禁止されている。

動物の捕獲・繁殖(生産)から消費者の手元に届くまでの間に輸入業者やペットショップなど、多くの動物取扱業がその取引に関与します。

現行の動物愛護管理法では、個体の由来や繁殖、流通経路などを追跡する仕組みがないため、違法に入手された個体が市場に紛れ込むことを防げません。結果、事業者や消費者が意図せずそうした個体を手にしてしまうおそれがあります。

WWFジャパンでは、違法に入手した個体を市場に流入させない対策として、トレーサビリティ制度を導入し、取引される個体や事業者の情報に、誰もが容易にアクセスできる仕組みの構築を求めています。

こうしたトレーサビリティの確立は、安全な飼養にも寄与します。
野生で捕獲された個体は、飼養下での繫殖個体に比べ、寄生虫を保有していることが多く、消費者が野生個体の入手を避ける声も聞かれるためです。

トレーサビリティ制度の導入は、違法に入手された個体の流入防止という市場の健全性に加え、生態系や動物の健康に配慮した取引の推進という消費者の意識変容の促進、自立にも資すると考えます。

日本の固有亜種であるヤエヤマイシガメ。沖縄県の条例で指定希少野生動植物種に指定されているが、2023年4月に違法に捕獲、飼養された事件が発覚した。日本の在来種も違法取引の対象になっている。 
©WWFジャパン

日本の固有亜種であるヤエヤマイシガメ。沖縄県の条例で指定希少野生動植物種に指定されているが、2023年4月に違法に捕獲、飼養された事件が発覚した。日本の在来種も違法取引の対象になっている。 

さらに、哺乳類と鳥類が保有している未知のウイルスのうち、人間に感染する可能性があるものは80万種を超えると指摘されています。

万が一、感染症のクラスターが発生した場合、感染源や経路の追跡ができ、その被害を最小限に食い止めることができる点でも有用です。

3. 既存の規制の強化

WWFジャパンでは、すでにある規制の対象種の拡大や罰則を強化することによって、動物取扱業者やペット飼養者の責任の強化なども要望しています。

要望3-1. 【第一種動物取扱業の対象動物への両生類の追加】

両生類を第一種動物取扱業の規制対象動物に加えること。

動物の販売や貸出しなどを、営利目的で行なう事業者は、第一種動物取扱業として、地方自治体に登録することが義務付けられています。

そして、販売する場合、事業所にて動物の状態を見せ、対面で飼養や保管の方法、性別の判定結果や病歴等個体に関する情報を提供しなければなりません。

しかし、この対象となる動物は、哺乳類、鳥類、爬虫類に限定されていることが課題でした。

とりわけ日本は、世界有数の生きた両生類の輸入大国であると同時に希少な固有両生類の生息国。
現在も、インターネット市場を中心に、これらの固有種がほぼ無規制で販売されています。

一方で、他の地域から持ち込まれた両生類の中には、外来生物として定着が確認されている動物種もいます。

こうした状況を改善するためには、両生類を販売する者も動物取扱業者として動物愛護管理法の管理下で適切に管理される必要があります。

日本の両生類の輸入量が急増している。2020年以前は毎年20,000頭に満たなかった輸入量が、2021年以降は毎年30,000頭を上回る(貿易統計で2018年~2023年の両生類の輸入頭数を算出)。
© Martin Harvey / WWF

日本の両生類の輸入量が急増している。2020年以前は毎年20,000頭に満たなかった輸入量が、2021年以降は毎年30,000頭を上回る(貿易統計で2018年~2023年の両生類の輸入頭数を算出)。

要望3-2. 【特定動物の飼養違反への罰則の強化】

特定動物の飼養に関する規定に違反した場合の罰則を強化すること。

動物愛護管理法では、前回の法改正によって、2020年6月より特定動物の飼養が原則禁止となりました。

2020年5月末日までに飼養の許可を得た個人は、当該個体に限りペット目的でも飼養が認められていますが、所有者の不適切な管理によって、個体が逸走する事例が報告されています。

動物愛護管理法では、個人が許可なく飼養などした場合、6カ月以下の懲役、又は100万円以下の罰金が科されますが、この罰則は他法令と比較しても軽く、抑止力として機能していません。

「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」では、特定外来生物に指定された種の飼養を禁止しています。そして、特定外来生物の野外への放出が人間の生命・身体に対しても影響を及ぼすことを懸念し、個人が許可なく飼養等した場合、最低1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、法人の場合は、5,000万円以下の罰金という重い罰則を科しています。

動物愛護管理法においても罰則を同程度に強化し、違反行為の発生を予防する効果を持たせるべきと考えます。

特定外来生物に指定されているグリーンアノール。希少な在来の小動物を捕食するなど、大きな問題を引き起こしている。
© Elizabeth Henderson

特定外来生物に指定されているグリーンアノール。希少な在来の小動物を捕食するなど、大きな問題を引き起こしている。

要望3-3. 【動物の遺棄、逸走の対応にかかる費用の原因者負担制度の導入】

災害発生等の非常時を除き、所有者が特定動物や大型爬虫類など取扱いが困難な動物を遺棄、逸走させた場合、地方公共団体は捕獲や保管等にかかった費用の負担を所有者に求めることができる規定を盛り込むこと。

許可を得て特定動物を飼養している場合、その動物を飼養する施設の所在地や飼養施設の構造及び規模を変更する場合には、変更の許可を得ることが必要です。

2021年に所有者が飼養ケージの変更を申請せず、特定動物であるアミメニシキヘビが逸走した事件がありました。

この事件では、約半月にわたって、警察や消防など数百人が捜索にあたっています。

また、特定動物に指定されていない動物であっても、オオトカゲなど大型爬虫類が逃げ出し、警察が注意喚起や捕獲作業に対応する事案も確認されています。

こうした動物の逸走事件は、周辺住民への安全面はもちろん、捜索や捕獲にかかる費用も行政の財政を圧迫するおそれがあります。

所有者の遺棄や不適切な管理によって動物が逃げ出した場合は、その原因者がその捜索費用を負担すべきと考えます。

なお、外来生物法では、特定外来生物の防除の実施が必要となった場合、その原因となった行為をした者に、その防除の実施が必要となった限度において、その費用の全部又は一部を負担させることができる原因者負担の規定を設けています。

同様の規定を動物愛護管理法に設けることは、所有者の責任意識の向上に繋がり、外来種化の予防にも寄与すると考えます。

法律改正に向けた今後の取り組み

現在一部の国会議員の間で、動物愛護管理法の改正に向けた議論が行なわれています。

その論点の多くはイヌやネコに関する内容で、野生動物に関する議論が十分になされているとは言えません。

野生動物のペット利用を俎上に載せるためには、課題と改善策を丁寧に説明し、規制強化の必要性を訴えていく必要があります。

また、要望が法律に反映された場合の運用方法や、それによって生じる影響や課題についても同時に検討を進め、要望の有用性まで検証した提案を行なうことが需要です。

WWFジャパンでは、動物園関係者、動物福祉の専門家らと連携し、国会議員への働きかけと要望の実効性の検証を行なっていきます。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP