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世界の先進事例から:韓国で進む野生動物利用に関する法整備

この記事のポイント
世界的に野生動物へのペットや展示需要が高まる中、諸外国で野生動物の利用に対する規制強化が行なわれています。韓国では2022年の法改正により、輸入可能な野生動物種を限定する規制の導入や、アニマルカフェにおける野生動物の展示禁止、動物園・水族館を現在の登録制から審査を伴う許可制に変更することなどを決定しました。日本でも海外の先進事例を参考にしながら、野生動物の適切な販売や飼育について検討を行なっていく必要があります。
目次

野生動物のペット利用がもたらすリスク

フクロウ、サルにトカゲやヘビ。

近年、こうした野生動物が、ペットとして国際的に取引される例が増えています。

イヌやネコのような家畜化された動物(※1)ではない、これらの野生動物は、SNS等でも人気を博し、日本の一般家庭でも飼育されるようになっています。

また、野生動物がアニマルカフェなどの商業施設で展示され、利用客とのふれあいサービスが行なわれている場合もあります。

※1.長期間ヒト社会で暮らし、元の野生種とは形態的・生態的・遺伝的に異なっている動物をさす。イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ハムスター、金魚、カイコなどの動物

© Adriano Gambarini / WWF-US

中南米に生息するコモンマーモセット(Callithrix jacchus)。日本のペットショップやアニマルカフェでも確認されていますが、社会性が高く、おしっこでなわばりを主張する習性があるなど、ペットとしての飼育が不向きな野生動物です。

しかしながら、野生動物のペット利用は、次のような「5つのリスク」をもたらすことが指摘されています。

1. 野生動物を絶滅に追い込むリスク

野生動物をペットとして求める需要が、過剰な野生個体の捕獲や取引を招き、個体数を減少させ、絶滅のおそれを高めます。

2.密猟・密輸を増加させるリスク

ペットとして利用される野生動物の中には各国の法律や国際条約により捕獲や輸出が規制されている動物もいます。その希少性から高値で取引されるため、違法に捕獲し取引を行なう「密猟」や「密輸」を招くおそれがあります。

3.動物由来感染症(人獣共通感染症)に感染するリスク

野生動物は、さまざまな「動物由来感染症(動物から人に感染する病気)」の病原体を保有している可能性があります。ペットとして直接接触することは、感染症の感染リスクを増加させます。

4.動物福祉を維持できないリスク

野生動物の飼育に関する知見は限られており、生息地に近い環境や入手や管理が難しいエサを必要とする場合も多いことから、動物福祉の指標である「5つの自由(※2)」を十分に満たすのは容易ではありません。

5.外来生物を発生・拡散させるリスク

ペットとして飼育されている動物が逃走や遺棄により野外に定着し、外来生物として在来の野生動物を捕食したり、すみかを奪ったりするなど生態系のかく乱を招くおそれがあります。

© Sarah Pietrkiewicz

アライグマ(Procyon lotor)は1970年代に放送されたテレビアニメの影響でペット飼育が広く行われましたが、遺棄や逃走により野外に定着し、現在は特定外来生物に指定。ペットとしての販売や飼育が禁止されています。

※2 国際的な動物福祉指標「5つの自由」:

  1. 飢えと渇きからの自由
  2. 不快からの自由
  3. 痛み・傷害・病気からの自由
  4. 恐怖や抑圧からの自由
  5. 正常な行動を表現する自由

(参照:公益社団法人 日本動物福祉協会(2017).「動物福祉について」https://www.jaws.or.jp/welfare01/

韓国で進む野生動物利用に関する法整備

世界的に野生動物へのペット需要が増加し、取引量や対象種が拡大している中、一部の国でこうした野生動物のペット・展示利用に対する規制強化の検討や実施が進んでいます。

中でも、韓国では2022年に、国としての野生動物の利用のルールを定める法律の抜本的な見直しを実施。

2023年12月以降、改正法を順次施行する中で、野生動物の輸入管理や展示、さらに動物園や水族館に関する規制を、大幅に強化する姿勢を明らかにしました。

特に重要だったのは、下記の2つの法律の改正です。

  • 野生生物法(正式名称:野生生物保護および管理に関する法律)
  • 動物園・水族館法(正式名称:動物園および水族館の管理に関する法律)

この見直しの背景には、多くの野生動物の無秩序な取引や、アニマルカフェ等の商業施設における飼育展示が、種(しゅ)の絶滅や動物福祉、公衆衛生や安全上のリスクにつながることへの懸念の高まりがあります。

「野生生物法」改正のポイント

野生動物の輸出入・取引管理の強化

韓国では、これまで野生動物(哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類)と定める約3万2,000種のうち、約1万3,000種について、従来の法律で輸出入や取引の規制を行なってきました。

しかし、それ以外の約1万9,000種は無規制のままでした。

そこで、今回の法改正では、それらを新たに指定管理野生動物に定め、原則輸出入や取引を禁止。国が認めた一部の動物種に限り、「ホワイトリスト」に掲載の上、輸出入や取引を可能とすることが決まりました。

これは、野生動物の取引や利用を規制する上で、きわめて大きな意味を持つ方針の転換です。

日本もそうですが、多くの国では、規制を行なう場合、原則的に取引はどの野生動物種でも行なってOK、リスクがある種のみ取引を禁止・制限する「ブラックリスト形式」をとっています。

しかし、今回の韓国での法改正は、この点を抜本的に改め、取引は原則禁止、取引可能な種を「ホワイトリスト」に記載する、という逆の規制に踏み切りました。

これは、ヒトの安全性や生態系への影響が定かでない動物を、不用意に持ち込むリスクを回避する上で、きわめて有効な手段です。

主な2022年の「野生生物法」改正内容【取引関連】

  • 韓国の現行法上輸出入や取引が法的に管理されていない野生動物を「指定管理野生動物」と定め、輸出入や流通を原則禁止とする。
  • 指定管理野生動物のうち、感染症の伝播や生態系に及ぼすリスクが低いと判断された種のみを国内に輸入・流通させることを可能とする「ホワイトリスト」制度を導入する。
  • 野生動物の輸入や販売を行なう事業に対する許可制度を導入し、野生動物の流通過程で状況に変化があった場合には自治体に申告する制度を新設する。
  • 野生動物の遺棄などから生態系および国民の安全を守るため、野生動物を扱う事業者に対し販売記録作成や保管、野生動物保護や衛生管理に関する講義履修などを義務化する。

(参照:韓国環境省 報道・声明「動物園水族館法等5つの環境法案国会通過」)

© Kari Schnellmann

現在、韓国では爬虫類を対象にホワイトリスト掲載種の選定が行なわれています(2023年12月時点)。

動物園・水族館以外の施設における野生動物の展示を禁止

韓国国内では、2022年時点で、150軒を超えるアニマルカフェが野生動物の展示を行なっていました。

しかしその多くで、動物が本来の行動特性を十分に発揮できないことや、不適切なふれあいで人や動物に対する衛生管理が徹底されていないことが指摘されていました。

そうした懸念を受け、今回の法改正では今後、動物園・水族館以外の施設での野生動物の展示が原則禁止されることになりました。

主な2022年の「野生生物法」改正内容【展示関連】

  • 動物園・水族館(※3)以外の施設で生きている野生動物を展示することを原則禁止とする。ただし、一部安全性が認められた、または動物由来感染症の伝播のおそれが少ない種を扱う施設、公益目的の施設は例外的に許可される。

※3 韓国における動物園・水族館とは、「動物園および水族館の管理に関する法律」により、展示・教育を通して野生動物に関する多様な情報を伝えることが目的として運営されている施設を指す。

(参照:韓国環境部 報道・声明「動物園水族館法等5つの環境法案国会通過」)

© Martin Harvey / WWF

南部アフリカ原産のミーアキャット(Suricata suricatta)。韓国のアニマルカフェで広く展示されていましたが、アライグマなどと共に動物園・水族館以外の施設では展示が禁止されます。

「動物園・水族館法」改正のポイント

動物園・水族館を登録制から許可制へ

韓国の動物園・水族館法では、これまで動物園・水族館の開業・営業を「登録制」としていました。

これを、今回の法改正では、審査を伴う「許可制」に変更。許可の条件として、展示動物の動物福祉の向上を求めることなどが定められました。

これは、従来の動物園や水族館の「あり方」そのものに踏み込んだ、大きなルールの改正であり、動物福祉の徹底をはじめ、野生動物に関する研究や保全を行なうより専門的な施設として発展していく上で重要な礎となることが期待されます。

主な2022年の「動物園・水族館法」改正内容

  • 動物園・水族館を現在の登録制(※4)から許可制に変更する。許可を受けるためには、飼育動物種別の飼育環境、専門知識を有する人材や飼育動物の疾病・安全管理計画などに関する要件を満たす必要がある。
  • 許可基準の検査については、動物の生態や福祉に関する専門性を備えた検査官により行なう。
  • 来園者に野生動物について学ぶ機会を提供する目的で行われる展示動物との体験プログラムにおいて、配慮の欠いたエサやりなど動物福祉を十分に満たさないものは規制の対象とする。
  • 展示により死んだり、疾病が発生したりするリスクの高い種を新規に保有することを禁止とする。鯨類(クジラやイルカ)がこの対象となり、国内水族館ですでに飼育されている21個体(2022年11月時点)を除き、鯨類を展示することはできなくなる。

※4 すでに登録されている動物園は、改正法公布後6年以内(2028年12月まで)に改正法の基準を満たし、許可を受けなければならない。

(参照:韓国環境部 報道・声明「動物園水族館法等5つの環境法案国会通過」)

© Kari Schnellmann

動物園で飼育展示されるキリン。野生動物の飼育管理には栄養学や獣医療などに関する高い専門性が求められます。

日本における法整備の必要性

日本は欧米に並ぶ、野生動物の輸入大国とされており、2021年にペット目的で輸入された野生動物の頭数は、推定40万頭。

感染症予防や保全の観点から商業目的での輸入が禁止されている種を除き、毎年、非常に多くの野生動物が輸入され、ペット利用されています。

また、こうした野生動物のペット利用に伴う種の絶滅危機や動物福祉、外来生物化など、さまざまな問題が生じています。

© John E. Newby / WWF

さらに、現在の日本では、アニマルカフェなどの商業施設であっても野生動物の飼育や展示が可能なだけでなく、動物園・水族館と名乗り運営が出来る状態です。

日本では、動物の輸入や販売等は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」や「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」などによって管理されていますが、その規制は限定的で一部の種にしか及びません。

また、どのような施設であれば野生動物の飼育や展示が可能であるか、動物園や水族館と認められるかといった法的に明確な基準もありません。

多種多様な動物をペットや展示目的に数多く輸入し、利用する消費国として、既存の法的枠組みでの検討や改正では、その責任を十分に果たしているとはいえません。

国際的にも関心が高まっている、野生動物のペット・展示利用と、その規制の在り方について、日本でも根本から見直しを行なう必要性があります。

WWFジャパンでは、韓国など他国の事例も参考にしながら、研究者や専門家と連携し、抜本的な法律の見直しを日本政府に働きかけていきます。

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