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漁業由来のプラスチック汚染とその対策セミナー 第3回「軽減策、回収策」を開催

この記事のポイント
世界の人口増加に伴う水産物の需要の拡大を受け、漁業で使用されるプラスチック製の漁具も増え続けています。しかし、この漁具が海洋に流出することで「ゴーストギア」となり、深刻なプラスチック汚染を引き起こす問題が発生。世界的な環境問題の一つとして注目されています。WWFジャパンでは「ゴーストギア」問題に対して日本でとのような対策が行なわれているかを紹介する連続セミナー「漁業由来のプラスチック汚染とその対策オンラインセミナー」を開催しています。2023年11月21日にはその3回目として広島県、香川県のご担当者にご登壇いただき、瀬戸内海における「軽減策、回収策」事例編を実施いたしました。当日は約80名の方にご視聴をいただきました。
目次

瀬戸内海のゴーストギア問題に県はどう取り組んでいるか

今、日本をはじめ世界の各地で、漁網や浮き、ロープなど、漁業で使われるさまざまなプラスチック製の漁具が、事故や荒天などで流出したり、誤った形で海洋に廃棄されることで、プラスチックごみとなり、海の環境を損なう大きな問題となっています。

この、漁業由来の海洋プラスチックごみ「ゴーストギア」問題の対策として、WWFジャパンは現在、海の中でその実態を把握し、改善に役立てる「ゴーストギア調査隊」の取り組みを、ダイバーと漁業者、自治体との協力により取り組んでいるほか、同じく自治体や漁業者と連携しながら、使用済みの漁網を回収・リサイクルする対策プロジェクトなど、ゴーストギアの「予防」、「軽減」、「回収」を目指した活動を展開しています。

その一環として、WWFでは2023年6月より、日本でどのようなゴーストギア対策が始まっているかをご紹介する「漁業由来のプラスチック汚染とその対策オンラインセミナー」を開始。
11月21日にはその第3回目として「「軽減策、回収策」事例編を開催しました。

前回の「予防策」に続き、「軽減策」「回収策」をテーマにした今回は、瀬戸内海に面する広島県、香川県の各県庁でプラスチックごみ問題に取り組むご担当者にご登壇いただきました。

瀬戸内海は周りを本州、四国、九州に囲まれている閉鎖性の高い海域であり、瀬戸内海における海ごみの多くは、このエリアで発生したものと考えられています。

一方で、瀬戸内海は、豊かな漁場であり、地場産業を支える海でもあることから、周辺の県では、いずれも自分たち自身の問題として、ゴーストギアについても積極的な取り組みをおこなっています。

県という立場としてどのようなテーマで何に重点を置いて取り組みを行なっているのか、県の役割とは何か、今回のウェビナーでは、その具体的な事例をお話いただきました。

当日は約80名の方が参加。たくさんのご質問をいただきました。

イベント概要:漁業由来のプラスチック汚染とその対策オンラインセミナー 第3回「軽減策、回収策」事例編

開催日:2023年11月21日
会場:オンライン開催
参加者:約80名
登壇(敬称略):
広島県 環境県民局 環境保全課 主査 増田晶次
                主任 樽谷帆奈美
香川県 環境森林部 環境管理課 課長 中西正光
WWFジャパン海洋グループ 前川聡、浅井総一郎
主催:WWFジャパン

(敬称略)

各講演の概要

前回のセミナー振り返り
WWFジャパン 海洋グループ 浅井総一郎


冒頭、WWFジャパンでゴーストギア対策プロジェクトを担当する浅井から、セミナー「基礎編」「予防編」の振り返りとして、ゴーストギアの発生原因についてお話ししました。
瀬戸内海のようなふくそう海域に特徴的で多発しているゴーストギア発生原因の一つに、船舶との接触事故などがあり、地域毎に異なる発生原因に対応した対策が必要なこと。
ゴーストギアがもたらす問題の一つにゴーストフィッシングの被害があることなどを説明。
そして、前回も訴えたようにゴーストギア問題の解決は漁業者にのみ求めるのではなく、漁業に係る方々がそれぞれの立場でできること、連携する必要があることを話しました。

広島県 環境保全課 増田様

広島県における海洋プラスチックごみ対策
~2050年 瀬戸内海に新たに流出するプラスチックごみの量“ゼロ”を目指して~


広島県よりお招きした環境県民局環境保全課の増田主査、樽谷主任からは、広島県の海洋プラスチックごみ対策の概要をご紹介いただきました。

広島県 環境保全課 増田様

広島県では毎年県内海岸135海岸で海岸漂着ごみの調査を行っており、県内の海岸漂着ごみの量は2022年度で約22.6トン。

©広島県 環境保全課

カキ養殖が盛んな県西部をメインに半数以上が発泡スチロールフロート、カキ養殖パイプなどの漁業由来であり、残る半数が生活由来のプラごみであることから
1)漁業活動(カキ養殖等)由来ごみの流出防止、
2)生活由来のプラごみ流出防止
の2つを対策の柱にしています。

このような海洋プラスチックごみの現状を踏まえ、県民や事業者と一緒になって取組みを進めるため、瀬戸内海に新たに流出する海洋プラスチックごみを2050年までにゼロを目指す「2050輝くGREENSEA瀬戸内ひろしま宣言」を発表。これを目指す事業者、団体、行政が連携、協働する官民連携プラットフォーム「GSHIP」を設立し、有機的な連携が生まれているとのことです。

広島県環境 樽谷様

●広島県の海ごみ対策の具体的な取組みについて
環境県民局環境保全課の樽谷様からは、県の海ごみ対策の具体的な取り組みのご説明をいただきました。

広島県の海ごみ対策には、1)プラの使用量削減、2)プラごみの流出防止、3)プラごみの清掃回収、4)情報の収集発信の4つがあります。

©広島県 環境保全課

1)の中でもリーディングプロジェクト支援補助金を活用した実証事業事例として紹介されたのがダイセル社による海洋生分解性プラスチック(酢酸セルロース)のカキ養殖パイプへの活用の実証実験です。

©広島県 環境保全課

3)の清掃活動では環境学習を含めた理解促進、GSHIP参画会員と清掃活動を行なう団体とのマッチング、漁業者等の協力による立入困難エリアの清掃などが挙げられます。
その他、GSHIP会員企業と連携した取組みが幅広く行なわれています。

●漁業活動(カキ養殖等)由来のごみの対策
また、令和元年度から、広島県では全てのカキ養殖事業者が資材の適正処理計画を作成し、養殖用パイプおよび発泡スチロール製フロートの流出防止対策を徹底化させるなど、業界全体での取組みが推進されている他、漁業による定期的な清掃活動の実施、前述のカキ養殖パイプの海洋生分解性素材の実証事業等を実施。
さらに漁協が主体となり、発泡スチロール製フロートのポリウレア被膜による破砕防止策を行なったり、使用済み発泡スチロール製フロートの回収や減容処理などにも取り組んでおり、漁業活動でも積極的な取り組みが進められていることをご紹介いただきました。

里海づくりを基盤とした香川県の海ごみ対策

香川県 環境管理課 中西様

香川県よりお招きした環境森林部環境管理課の中西課長からは、香川県の里海づくりと海洋プラスチックごみ対策をご紹介いただきました。

香川県では、香川の海が抱える問題として
1)改善できない有機汚濁、
2)栄養塩類のバランスの崩れ、
3)増加傾向にあるものの依然として少ない藻場、
4)プラスチックによる海ごみ、
5)人と海の関わりの希薄化、
という5点を掲げています。
特に人と海の関わりについては、県民の調査でも希薄化の傾向が見えるそうです。

「里海」づくり
これら香川の海が抱える問題を解決する為に、県では、かがわ「里海」づくりビジョンを策定。
そもそも「里海」というのは物質循環の考え方で、森は海の恋人という言葉があるように、海の問題についても海だけを考えるのではなく、地域の自然を大きな視点で捉える必要があります。
そこから、かがわの里海づくりは、県内全域が瀬戸内海の沿岸域であることや、県内どこでも海が近いといった特徴を活かし、全県域、県民みんなで、山・川・里(まち)・海をつなげる、というキャッチフレーズで取組んでいます。

©香川県 環境管理課

このかがわの「里海」づくりの推進には、環境だけでなく農林、水産、観光、土木など多岐に渡るステークホルダーが参加しています。

実際、県、県民などが連携し、県内の21の団体が参加するかがわ「里海」づくり協議会を発足。「人と自然が共生する持続可能な豊かな海」をめざし、その結果としてかがわ「里海」づくりビジョンを発表しました。

このかがわ「里海」づくりの実現、にあたっては、まずは人材づくりが重要であるとの考えから、県と香川大学が共同して、かがわ里海大学を開校。この取り組みは2023年で8年めを迎えました。
そして、この里海づくりの中で最重要の課題が「海ごみ」になります。

内陸の市町も参加する香川県システム

香川県の海ごみ対策では、海に出てしまったごみの回収・処理と海にごみが出る前に発生抑制するということの両方に取り組んでいます。

その回収・処理の中でも海底堆積ごみの対策でポイントとなっているのが香川県海ごみ対策推進協議会による「香川県方式の海底堆積ごみ等回収・処理システム」、香川県システムです。
この香川県システムの特徴は、漁業者がボランティアで持ち帰った海ごみを、内陸の市町も費用を負担して処理するというところにあります。

©香川県 環境管理課

この香川県システムには県内34の漁協の内、21の漁協が参加しており、2022年度は約12トンの海底堆積ごみが回収されました。

県内全体の400トンから見ると3%とわずかですが、内陸も含めて県民みんなで取り組むという考えが大事だと中西課長は強調されました。

©香川県 環境管理課

●かがわ海ごみリーダー
また、本来海岸漂着するごみの回収処理は、県や市町の海岸管理者がしなければならないのですが、全ての海岸でごみを回収するのは難しい現状があります。

そこで頼りになるのが、各地で中心となって活躍している、現在32名の海ごみリーダーです。

海ごみリーダーには、FMラジオのパーソナリティやダイビングのインストラクター、お魚大使、先生、宮司さんなどさまざまな方が参加。それぞれぞんぶんに活躍してもらう為に、県としてもいろいろなプロモーションも行なっています。

県としては、海ごみリーダーと海ごみについて学ぶイベントなども実施しており、ただ海ごみを拾うだけでなく、海に関心を持ってもらうことにもつながっているそうです。

●瀬戸内オーシャンズX
また、岡山、広島、香川、愛媛の瀬戸内4県と日本財団が連携協力して瀬戸内海の海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて広く発信していくより広域的なプロジェクト「瀬戸内オーシャンズX」も展開。広島県とも一緒に取り組んでいます。

クロージング

質疑応答の後、最後に司会を務めたWWFジャパン海洋グループ長の前川から閉会のご挨拶をさせていただきました。

WWFジャパンの「漁業由来のプラスチック汚染とその対策オンラインセミナー」ですが、次回の第4回目は2024年1月頃の開催を予定しています。

詳細はこのウェブサイトであらためてご案内いたしますので、ご関心をお持ちの方、ゴーストギア対策にビジネスで関与を考えている方、また地元行政の参考にしたいという方は、WWFジャパン海洋水産グループ(fish@wwf.or.jp)までご連絡ください。

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