© Jürgen Freund WWF

海洋プラスチック問題への取り組み「ゴーストギア調査隊」活動開始

この記事のポイント
人の暮らしに欠かせない水産物。しかし、それを漁獲する際に使われる漁網などのプラスチック製の漁具が、さまざまな形で海に流出し、海洋生物を絡めとってしまうなどの深刻な問題を引き起こしています。「ゴーストギア」の現状はどうなっているのか。WWFジャパンは2023年7月、海中の「ゴーストギア」を市民ダイバーの力を借りて調査する取り組み「ゴーストギア調査隊」を開始しました。最初の調査地域となったのは、静岡県西伊豆町。同町との協力のもと、調査に取り組んでゆきます。
目次

漁業に由来する海のプラスチックごみ「ゴーストギア」とは?

海洋プラスチックごみというと、レジ袋や食品包装などの使い捨てプラスチックごみが真っ先に思い浮かびます。

実際に海洋プラスチックごみの約9割は、これらの陸域から発生したごみで占められている*1と言われています。

しかし、海で発生する、漁網やロープなど漁業に由来したプラスチック製の漁具がもたらす環境問題については、社会的な認知が進んでおらず、その実態についても詳しくわかっておりません。

*1: PEW and SYSTEMIQ (2020) Breaking the Plastic Wave: A Comprehensive Assessment of Pathways Towards Stopping Ocean Plastic Pollution


そして、その影響は、年々各地で深刻化していると見られています。

海洋に流出した漁具は、「ゴーストギア」と呼ばれていますが、これは、自然に分解しないプラスチックの丈夫さゆえに、いつまでも海を漂いながら、魚や海鳥などをはじめとするさまざまな生物に絡まり、その多くは死に至ります。さらにはこうして死亡した生物にほかの捕食生物が集まるという連鎖が起こり、海洋生態系に影響を及ぼす大きな原因になっています。

また、こうした影響は漁業者にも及びます。
本来は漁獲できたはずの水産物が、ゴーストギアによって横取りされ、漁獲量の減少につながるからです。

「海洋ごみ実態把握調査のとりまとめについて」令和2年(環境省)環境省が国内28地点を巡回して行っている海岸漂着ごみ実態把握調査によれば、陸から流れ出たボトルキャップやロープ、木材などが個数ベースの上位を占めています。一方で、漁業で使われている漁網やブイ、仕掛け等の漁具も多く見つかっており、重量ベースでは4割近くに上っています。

ゴーストギアの被害にどう対応する? 始まった調査活動

このようにゴーストギアは、海洋生態系を脅かし、水産資源を減少させ、持続可能な水産業を妨げる脅威となっています。

しかし、こうした海洋ごみ(漂着ごみ・漂流ごみ・海底ごみ)が、海洋生態系、漁業や船舶の航行等の経済活動、景観や観光に影響を与えていることはわかっているものの、実際には未解明な部分が多く、その実態を把握することが必要とされています。


その解明すべき実態の一つが、「ゴーストギア」が発生する経緯です。

そもそも漁業者にとって漁具は大切な商売道具であり、また高価な備品でもあります。これをわざと流出させるような漁業者はいません。

しかし、荒天や急な潮流変化による流出、他の漁船や船舶による引っ掛け、根がかり(海底の岩などの突起部に引っかかること)などによる事故も発生しており、これらが「ゴーストギア」を生み出す一因にもなっていると考えられます。

© Fredrik Myhre _ WWF Norway

海底で見つかった「ゴーストギア」に甲殻類などが絡まっている様子。漁業者の方々は、漁具の流出を防ぐため、悪天候前に漁具を避難・移動させたり、適正な保管を心がけたり、漁業者間での連絡や調整などの対策を取っていますが、自然を相手にする以上、漁具流出を完全に防ぐことは困難です。

ダイバーによる海底ごみ調査「ゴーストギア調査隊」

多くの場合、海中に存在するゴーストギアは、人の目に触れることはありません。

そこでWWFジャパンでは海中で活動しているダイバーの力を借りて、日本の沿岸水域でゴーストギアの実態を調査することにしました。

すでに香港では、2019年よりWWF香港がダイバーによるゴーストギア調査「Ghost Gear Detective」が行なわれていることから、日本でもこれを参考にプロジェクトを立案。

©WWFジャパン

潜水テストの様子。日本でサンゴ礁のモニタリング調査を行なっているコーラルネットワーク、国立環境研究所のアドバイスを受け、ダイバーが潜水できる浅海域での調査方法を検証しました。右はその際に見つかったロープの一部です。

©WWF香港、ゴーストギア調査マッピング

ゴーストギア自体がダイバーにとって大変危険な物体(※)であることから、海中での安全な調査方法などを確認した上で2023年7月より、「ゴーストギア調査隊」プロジェクトが開始されました。

※ダイバーにとっても危険なゴーストギア

漁網はそもそも魚などを引っ掛けるように作られています。ダイバーの装備は色々な突起物があるため、ゴーストギアに近づいた際にタンクのバルブなどが引っ掛かってしまう恐れもあります。潮流でゴーストギア側が移動することもあり、ダイバーにとっても危険な物体ですので、決して一人でゴーストギアに近づいたり、回収しようとはしないでください。

必要とされる自治体と漁業者の協力

「ゴーストギア調査隊」によるダイビング調査を行なう際には、事前に地元の漁業者や自治体に対し、調査に対する了解を得る必要があります。

また、「調査」で、ゴーストギアや海底ごみが見つかった際には、その回収にも漁業者の協力を要請しなければなりません。

もちろん海底ごみの回収や漁場の清掃が行われれば、水産資源の回復など持続可能な水産業というメリットにもつながりますが、漁業者にとっては追加的な負担の生じる作業とも言えます。

これらのほかにも、自治体には地元の漁業者への声掛けだけでなく、回収された海底ごみの産業廃棄物処分の手続きや、環境省の「海岸漂着物等地域対策推進事業」補助金等の申請に際しても主体として動いていただく必要があります。

その一方で、ゴーストギア調査隊により、漁場がきれいになり地域の海の環境が回復すれば、海業(うみぎょう)の活性化にもつながる可能性があります。

ゴーストギア回収による「海業」活性化のイメージ図。漁村では人口減少や高齢化の進行等によって活力が低下しており、漁村のにぎわいを創出していくことが重要な課題となっています。ゴーストギアの回収などにより環境回復をはかることで、豊かな自然や漁村ならではの地域資源の価値や魅力が高まり、雇用機会の確保と地域の所得向上を狙う取組みです。

ゴーストギア回収による「海業」活性化のイメージ図(キャプション)漁村では人口減少や高齢化の進行等によって活力が低下しており、漁村のにぎわいを創出していくことが重要な課題となっています。ゴーストギアの回収などにより環境回復をはかることで、豊かな自然や漁村ならではの地域資源の価値や魅力が高まり、雇用機会の確保と地域の所得向上を狙う取組みです。

「ゴーストギア調査隊」のこれからに向けて

WWFでは、実施に必要なさまざまな条件を勘案した結果、初年度については伊豆半島の西側と東側、静岡県西伊豆町と伊東市の2地区をフィールドにプロジェクトを進めていくこととし、双方の自治体に打診をしつつ、伊豆漁業協同組合安良里支所、いとう漁業協同組合富戸支所、城ケ崎海岸富戸定置網株式会社の各漁業者に「ゴーストギア調査隊」のプロジェクトについて相談を行いました。
またサンゴの調査手法である「リーフチェック」などの調査経験を持ち、地域で活動されているダイビング事業者を選定。
その結果、西伊豆町、伊東市ともに「ゴーストギア調査隊」への実施協力をいただくことになりました。

この2地域では、2023年7月より2024年6月までにそれぞれ4回の調査ダイビングを、「ゴーストギア調査隊」が実施する予定で、最終的には、2026年9月までに全国7か所で調査を検討しています。

ゴーストギアは地域毎の漁業形態によって発生しやすい・しにくいなどの違いがあると推測されるほか、同一海域・同一期間での漁業の過密状況、船舶の航行状況、潮流や地理的特性、地域の取組の違いによってもその実態が大きく異なることが予想されます。

WWFジャパンでは、この地域差を考慮した7地域の調査で、今まで不足していたゴーストギアの情報や実態を把握し、関係者、行政、専門家とその対策を協議の上、具体的な政策提言に活かしていく予定です。

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