©WWFジャパン(名蔵アンパルから周辺山地を望む)

開発事業の「経済効果」を巡る問題点~石垣島ゴルフリゾート計画

この記事のポイント
沖縄県石垣島で計画が進められている大規模ゴルフリゾート開発について、石垣市は年間「約250億円」の経済効果をもたらすと説明しており、これが開発を推進する一種の錦の御旗とされてきました。しかし、この経済効果の算定には重大な問題があり、これに基づく開発が行なわれるならば、悪しき前例として、沖縄県ひいては南西諸島全体の生物多様性が危機に瀕することが強く懸念されます。そこで、本件開発計画の経済効果に関する問題点について、解説します。
目次

経緯

現在、沖縄県石垣島では、石垣市と開発事業者である株式会社ユニマットプレシャス(以下「ユニマット社」)によって、大規模なゴルフリゾート開発計画が進められています。

開発用地は、国の特別天然記念物カンムリワシの営巣地であり、日本最南端のラムサール条約湿地・名蔵アンパルの水源の一つでもあります。

開発用地から名蔵湾へ流入するこの水系には、石垣島固有の淡水魚イシガキパイヌキバラヨシノボリやヤエヤマセマルハコガメなど複数の絶滅危惧種が生息しています。

また開発用地には、石垣島の畜産業振興を目的に公費で整備された100ヘクタール超の広大な農地が含まれ、周辺の農地や集落は、開発用地から流れる小河川や地下水を貴重な水源として利用してきました。

©WWFジャパン

ラムサール条約湿地・名蔵アンパルからゴルフリゾート建設が計画されている前勢岳を望む。前勢岳は中央右側の山でこの中腹に建設予定地が広がる。前勢岳山頂には石垣島天文台があり、一帯は星空観察やヤエヤマホタル鑑賞の場として親しまれてきた。

©WWFジャパン

ゴルフリゾート計画地周辺の小河川。石垣島内には方言名が確認できる川・小川が約90本あり、「〇カーラ」「〇ガーラ」と呼ばれるものが多い(石垣市総務部市史編集課「石垣の地名(1)より)。近年の開発・改修等により消失しつつある水系もある中で、本件計画地は、古くから地元の人々に「ウガドーカーラ」「トゥンタカカーラ」と呼ばれてきた複数の小河川の水源地となっている。これらの水系は、営農や暮らしに使う水を供給し、また水辺の生き物の貴重な生息地となっている。

©中本純市

ゴルフリゾート計画地内で営巣が確認されたカンムリワシ。国の特別天然記念物、種の保存法の国内希少野生動植物種、石垣市の市鳥。石垣島の古謡にも歌われ、古くから石垣の人々に愛されてきた。

©鈴木寿之

ゴルフリゾート計画地周辺の水系に生息している石垣島の固有亜種イシガキパイヌキバラヨシノボリ。絶滅危惧IB類(環境省)、絶滅危惧IB類(沖縄県)、沖縄県希少野生動植物保護条例に基づく指定希少野生動植物種。

この開発計画は、周辺の暮らしや営農、保全の必要性が高い自然環境や野生生物に深刻な影響を与える懸念があることから、WWFジャパンは、アンパルの自然を守る会などの地元団体、日本野鳥の会などの全国の団体、日本魚類学会などの研究者とともに、ユニマット社、石垣市、許認可権を有する沖縄県および関連省庁に対し、計画の見直しや必要な調査を要請してきました。

<参考>

また、着工に向けた諸手続きが進められる中、アンパルの自然を守る会やWWFジャパンでは、石垣市および沖縄県に対し複数回にわたって情報公開請求を実施しました。

それにより開示された数多くの公文書を分析した結果、本件開発計画の特殊事情として、ゴルフリゾート開発が石垣市長の強力なリーダーシップのもとで推進されてきたこと、このことが石垣市の所管する行政上のさまざまな手続きにおいて斟酌され、ユニマット社に対する特別の便宜が図られてきたこと、そして、石垣市農業委員会を含む様々な会議や審査の場で、「経済効果約250億円」をもたらす計画であることが、事業を推進する根拠として繰り返し説明されてきたことが判明しました。

新型コロナ感染拡大の影響を受ける厳しい経済状況が続く中で、この数字が大きなインパクトと説得力をもって市民の皆さんに伝わったことは、想像に難くありません。

石垣市が主張する「経済効果約250億円」の中身

沖縄県が毎年公表している八重山観光統計によれば、直近令和3年度の八重山諸島全体(石垣島、竹富島、西表島、小浜島、黒島、波照間島、鳩間島、新城島、加屋真島、与那国島を含む)の年間観光消費額(宿泊費、交通費、土産・買物、飲食、娯楽・入場、その他の合計額)は総額436.1億円でした。

これに照らせば、本件ゴルフリゾート事業がもたらすと石垣市が説明している年間「経済効果約250億円」がいかに大きな金額であるかが分かります。

また、本件ゴルフリゾート開発事業に関して石垣市が作成した調査書(2021年7月作成「石垣市土地利用調査書」)によれば、本件ゴルフ場の年間利用者数を4万人から4万6千人と想定した上でゴルフ場の年間売上を約4.6億円~7.7億円と推計し、ホテル運営による年間売上高を約70.5~79.9億円と推計しています。

その上で、地域経済への波及効果として、雇用創出355~370人、税収合計1.85~1.89億円に加え、「関連産業への効果」として、ゴルフ場開設による波及効果として約27.9~37.9億円、ホテル事業による波及効果として約138.8~144.9億円との推計が行なわれています。

これらを合計した金額として、石垣市は、本件開発による経済効果を年間「237.7~268.9億円」と総括しており、これが石垣市長や石垣市農業委員会等の説明にある「経済効果約250億円」の根拠となっています。

石垣市による今回のゴルフリゾートの「経済効果」の計算。2021年7月作成「石垣市土地利用調査書」よりWWFまとめ。

しかし、この石垣市による経済効果の算定は、利益ばかりに焦点をあて、費用(コスト)を過小評価している等、重大な問題があります。

このような経済効果に依拠した政策によって開発が実施されるならば、石垣島の水資源や自然環境に不可逆的な損失が生じるだけでなく、悪しき前例として、世界自然遺産に登録され世界的な価値が認められた南西諸島全体の生物多様性保全やSDGs目標達成を大きく阻害する結果を招くことが強く懸念されます。

そこで以下では、これまでに開示された公文書等の資料を引用しながら、本件開発計画の経済効果の算定に係る問題点を解説していきます。

問題点その1:本件開発の費用(コスト)が十分考慮されていない

(1)周辺農地や自然環境への負荷を費用(コスト)として考慮するべきこと

近年は、公共事業の計画立案においても、生態系や水系への影響を適切に評価することが通常求められています※注1。今回の事業用地が、カンムリワシの営巣地であり、ラムサール条約湿地である名蔵アンパルや名蔵湾へ注ぐ水系の水源となっている等、極めて貴重な自然環境に近接した場所であることからすれば、なおさらのこと、これらの影響を経済効果の算定において考慮することが必須です。

そこで本件の経済効果を算定する際は、ゴルフリゾート事業から得られる収益面だけでなく、事業の実施により失われる価値が費用(コスト)として適正に考慮される必要があります。

かかる費用(コスト)には、水系や景観を含む自然環境への負荷、周辺の農地・漁場に対する汚染等による影響、環境教育・市民の憩いの場として活用できなくなることによる機会費用などが含まれます。

この中には、値段が付いていない価値や次世代へ継承されるべき価値など、直ちに定量化することが難しいものも含まれますが、だからといって、これらの価値を勘案しなくてよいことにはなりません。

Hodge, I. (2016) The Governance of the Countryside, Cambridge University Press, p.4 の Figure1.1 を日本語訳。京都大学大学院人間・環境学研究科浅野耕太教授ご提供

しかし、石垣市による経済効果の算定においては、これらは一切考慮されていません。

注1:国民の生活や産業に必要な道路建設の現場でも「多元的な評価を行い、適正な総合評価に基づいてプロジェクトを峻別する」ことが求められており、「生産や消費のような経済活動への効果だけでなく、建設事業により発生するもう一つの重要な影響は、道路建設によって山間部や都市郊外部ではそこにある自然空間が減少したり、生態系・水系の状態が変わるなどの環境質変化が生じることである。自然が社会全体にとって貴重な資産であるという認識が定着している今日では、この影響を適切に評価することが事業の成否を左右するほどに重要である」とされ、公共事業の計画においても、生態系・水系への影響を適切に評価することが通常求められている(「道路投資の社会経済評価」中村英夫編、東洋経済新報社より)

(2)水の価値が費用(コスト)として考慮されていない

石垣市による本件開発計画の「経済効果」の算定においては、事業を実施するために消費することが明らかな「水」の費用(コスト)が全く算入されていません。

ユニマット社は、本件ゴルフリゾート施設を運営するため一日約1,000トン(963立方メートル/日)の水を使用することを報告しています。

これは約3,355人分の生活用水に相当します(国土交通省「令和3年版日本の水資源の現況」生活用水の一日平均使用量は287ℓとされていることに基づき、963÷287=3,355.4≒3,355人分と計算)。

ロングコースのゴルフ場とプールを併設した複数棟から成る宿泊施設の維持管理・運営には、かかる大量の水の使用が不可避であることをユニマット社は自ら説明しています。

本件事業では、この使用する水の約7割(678立方メートル/日)を地下水で賄う計画となっています。日々かかる大量の地下水を汲み上げることによる周辺農地や水系・自然環境、下流域の名蔵アンパルや名蔵湾への深刻な影響が懸念されますが、ユニマット社は、必要なシミュレーションを行なう等の調査を一切実施していません。

かかる給水計画が示されているにもかかわらず、石垣市の経済効果の算定においては、このような地下水を含む水を使用する費用(コスト)は一切考慮されていません。

島の水は、市民の暮らしにとっても、営農にとっても、自然環境を維持する上でも、欠くことのできない重要な資源です。また、水の費用(コスト)を算定する手法は、既にさまざまなものが考案され実施されています。それにもかかわらず、ユニマット社と石垣市は、本件開発計画で消費する水の費用(コスト)計算を回避していることは不当です。

このように、本件開発計画の経済効果を算定する際は、以上述べた水の費用(コスト)や水系・自然環境への負の影響を適切に計算し反映する必要があります。

しかし、石垣市による経済効果の算定では、必要なコスト計算を行なっておらず、費用(コスト)を過小評価し、利益のみを算定したもので、適切なものではありません。なお、この利益の算定にも問題があることについては、「問題点その3」で説明します。

問題点その2:本件開発により利益を得る人と損失を被る人の乖離~利益の帰属と公平性の問題

本件ゴルフリゾート施設から得られる売上と利益は、いうまでもなく事業者であるユニマット社に帰属します。仮に本件開発用地が農地からリゾート用地に転用される等によって地価が上昇した場合に得られる利益も、土地所有者であるユニマット社に帰属することになります。

他方、このゴルフリゾート施設が消費する大量の水資源やゴルフ場維持管理のために使用される農薬等による汚染など周辺環境への悪影響によって生じる損失は、周辺の住民や営農者、自然や野生生物が負担することになります。

本件ゴルフリゾート開発により利益を得る人と損失を被る人の乖離~利益の帰属と公平性の問題

本来、汚染者負担原則に則れば、汚染の原因となる主体が損失を補償する義務を負いますが、本件開発計画においては、上記の通り、ユニマット社は水や自然環境に与える負荷に相当する費用(コスト)を全く負担していません。

市民の利益をまもる立場にあるはずの石垣市が、かかる利益の帰属と損失の負担の乖離、それによる不公平な状況を是としているのは非常に疑問です。

問題点その3:本件開発事業により新たに生み出される価値は何か~地域未来投資促進法の限界

(1)地域未来投資法の適用要件

今回のゴルフリゾート開発計画は、2017年7月に施行された地域未来投資促進法(地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律)の適用事業として、最終的に沖縄県の承認を受けています。この県の承認は、あくまでも同法の要件が満たされていることに対するものであり、石垣市が喧伝する「経済効果約250億円」を追認したものではありません。

地域未来投資促進法および同法ガイドラインによれば、本件開発事業が地域未来投資促進法の適用事業として認められるための要件は、

  • 要件1:地域の特性を活用すること
  • 要件2:高い付加価値を創出すること
  • 要件3:経済的効果が見込まれること

となっています。

このうち、要件1「地域の特性を活用すること」については、石垣市は、【1】「市の魅力ある豊かな自然環境と景観を活用した観光・スポーツ分野」と、【2】「特徴ある農水畜産物を活用したブランドの確立や海外市場獲得を目指す地域商社等の事業分野」のいずれかを採用すると説明してきました。

しかし、公開された公文書からは、石垣市が当初から【1】のみを推進する方針であり、【1】と【2】の各事業が地域に生み出す価値についての比較検討は全く行なわれていないことが判明しています。のみならず、石垣市とユニマット社は、当初から、【1】の事業として、本件開発予定地にゴルフリゾートを建設することを企図していたことも明らかになっています。

要件2に関しては、事業による付加価値増加分が3,415万円を上回ること、要件3に関しては、事業者の売り上げが開始年度比で4.2%以上増加するか、従業員数が開始年度比で2.0%か事業所あたり1名以上増加するかのいずれかが認められれば要件を満たすとされています。

そして、同法の適用事業の実施期間は5年間に限定されています。

開示された公文書によれば、沖縄県が承認したのは、本件開発計画が上記述べた地域未来投資促進法の適用要件を満たすことだけであり、それ以上のものではありません。

加えて、この沖縄県の承認には、「3つの条件」が知事意見として付されていました。この知事意見の内容については「問題点その4」で説明します。

地域未来投資促進法は、要件を満たす事業に対し、税制・金融・予算面での支援や農地法を含む規制の特例措置を定めています(農地法に関する措置については「問題点その4」で説明します)。

しかし、本件のような大規模なゴルフリゾート事業の趣旨・目的や規模・事業主体、周辺地域・自然環境への負荷の大きさ等と比較考慮するならば、これらの優遇措置を与える要件として、同法が定める基準は極めて緩いものとなっています。

今まで全国で地域未来投資促進法に基づく基本計画として国が承認したのは合計約258件(2022年3月末時点)。

これらの事業の目的や内容、規模や事業主体はさまざまですが、「地域の特性を生かして高い付加価値を創出し、地域に経済的効果を及ぼす事業」であることが大前提とされ、「成長ものづくり」分野の計画が201件と最多となっています(2022年6月14日付け経済産業省地域経済産業グループ作成「地域経済産業政策の現状と課題」より)。

そもそも周辺地域や自然環境に大きな負荷を与える本件ゴルフリゾート開発事業が、同法が企図する「地域の特性を生かして高い付加価値を創出し、地域に経済的効果を及ぼす」という趣旨に適合する事業なのか、大いに疑問があります。

同法の適用要件の緩さを利用し、同法が付与する優遇措置を受けることにより、農地法等の重要な法規制をかいくぐり、リゾート開発を推し進めようとするユニマット社と石垣市の姿勢は、同法を悪用するものと言わざるを得ません。

(2)地域に生み出される真の「付加価値」とは

地域の未来に資する新たな付加価値とは、事業の実施後も地域に継承されていく価値であるべきです。

しかし、地域未来投資促進法のガイドラインに基づき、本件ゴルフリゾート開発事業についてユニマット社が作成・提出した「付加価値」は、事業による「売上高」に基づき算定されています。本来であればこの算定には問題点その1で取り上げた、開発の費用(コスト)が含まれなければなりません。

さらに同法の適用要件として求められる「付加価値」は、事業継続を前提としており、事業者側の事情で事業が中止されると消えてなくなります。

一方で、本件開発計画により建設されたゴルフ場やホテル等の施設は地域に残ることから、周辺地域や自然環境に対する影響は発生し続けます。

ラムサール条約湿地である名蔵アンパルや名蔵湾の環境劣化、周辺水系の生態系の改変、野生生物種の絶滅などは、一度失われたら回復が極めて困難な損失となります。

10年後、30年後、100年後の石垣島の未来を考えたとき、真の意味で付加価値をもたらす事業として、当地で展開されるべきものはどのようなものか。

開示された公文書を見る限り、石垣市が関与する手続きにおいて、こうした検討や議論が行われた形跡は確認できませんでした。

今後の各法令上の手続きにおいては、根拠に乏しい「経済効果約250億円」に依拠するのではなく、より正確な情報に基づき、周辺住民を含む石垣市民が参加できる形で、真に地域に価値をもたらす計画とは何かについて、議論が行われることを期待します。



(3)石垣市による「波及効果」算定に対する疑問

石垣市による本件開発事業の「経済効果約250億円」の大半を占める「波及効果」についても、現状を踏まえた調査が行なわれておらず、説得性を欠いたものとなっています。

たとえば、本件開発事業で建設される施設には、ゴルフ場・クラブハウス、ホテル・プール・レストラン・土産物店・サービス店舗等が併設される計画となっています。

かかる複合的な大型リゾート施設に宿泊する観光客が、施設外の消費行動を通じて石垣島の観光業全体にどの程度経済的に寄与するのかという分析は、地域の実情を踏まえて行なわれるべきです。

しかし、石垣市による経済効果の算定においては、専ら県の統計データを基に機械的に「波及効果」を試算しているに過ぎません。

また、石垣市への入域観光客数は(コロナ禍の影響を受けた令和2年度以降を除いて)増加傾向にあり、石垣島は2021年に世界自然遺産に登録された西表島へ玄関口でもあることから、新型コロナ感染症パンデミック後の観光客の増加が見込まれています。

沖縄県作成の八重山観光統計によれば、2012年以降の観光客の増加要因として、航空直行便の増便やクルーズ船の就航などが挙げられていますが、ゴルフ場利用客による増加は全く報告されていません。

沖縄県作成の令和3年度の八重山観光統計・年間概況より。コロナ禍の影響を受ける前の2019年まで石垣島を含む八重山地方への観光客数は増加の一途を辿っている。

かかる状況下において、石垣市は「本開発により石垣市観光は約16%の伸びが期待される」と予測しています。

しかし、本件ゴルフリゾート単体でこのような観光客の増加を招く効果があるのか、因果関係が不明であり、客観的根拠も何ら示されていません。

石垣市の「波及効果」の算定は、このような現地の実情を全く踏まることなく行われた見込みと推計によって、「約126億円~約147億円」と推計するものです。これが大半を占める本件開発計画の「経済効果約250億円」というのは、都合のよいところだけつまみ食いした「絵にかいた餅」となっています。

問題点その4:着工までに残された法令上の手続きに求められること

本件開発計画に対する地域未来投資促進法に基づく沖縄県知事の承認には、「3つの条件」が知事意見として付されていました。

この知事意見は、石垣市およびユニマット社に対し、同法の手続き後に予定される、[1]森林法、[2]農地法、[3]県環境影響評価条例の各法令に基づく手続きが確実に行なわれ、必要な措置が適切に実施されることを求めています。

<参考>

本件ゴルフリゾート開発に関連する主な法令上の手続き状況

このうち[2]の農地法の規制は、国民の食糧生産に直結し生物多様性保全を含む多面的機能を有する重要な資源である農地をまもることを目的としています。

農地法では、本件開発用地に現状含まれている農地区分の土地をゴルフリゾートに転用することは原則不許可としています。しかし、石垣市とユニマット社は、まさにこの農地法の規制をかいくぐるために地域未来投資促進法の適用を目指してきたものであり、同法の適用事業となることによって、この不許可の例外としてユニマット社による農地転用の申請が可能となりました。

この農地転用に先んじて県知事の許可を必要とする、本件開発用地の農地区分を変更する手続きが現在進められています。

この農地区分変更案に対しては、農畜産業に従事する複数の石垣市民による農振法(農業振興地域の整備に関する法律)に基づく異議申立てが行なわれています。

その申立て内容は、地下水汲み上げや農道廃止による営農への深刻な影響や、石垣島の農畜産業の衰退を心配する内容となっています。

この異議申し立てを石垣市長が一律棄却したことを受け、沖縄県による審査が行なわれている最中です。

沖縄県には、上記の県知事意見に即して、石垣市の農業従事者らの申立て内容を真摯に検討し、ユニマット社に対し必要な確認を行ない、慎重な判断をされることを求めます。

またユニマット社の環境配慮策の現状に関して、開示された公文書からは、本件開発計画に係る環境影響評価を担当した沖縄県環境部は、1)名蔵アンパル・名蔵湾への影響、2)カンムリワシへの影響、3)地下水への影響について、ユニマット社が「一部未対応」であると評価していたことも明らかになっています。

特に、名蔵アンパルや名蔵湾の生物相・生態系への影響に関しては「調査がなされておらず、事業調査も実施されない」、カンムリワシについて「調査が対象事業実施区域及びその周辺を網羅したものとなっているか疑義が残る。求愛期における工事の中止がなされない」といった重要な問題点を指摘しています。

石垣市側で適切な環境配慮策が講じられていない現状では、沖縄県の主導で、こうした問題を改善するために必要な調査や対策を実現されることを求めます。

<参考>

今後、許認可権限を有する沖縄県や関係省庁には、上記の知事意見で石垣市およびユニマット社に対し要請した項目の遵守を厳しく要請し、農地法、環境配慮策、森林法に基づく各法令上の手続きにおいて、慎重な審査と賢明な判断をされることを求めます。

その際は、本件開発計画がもたらす深刻な影響と損なわれる価値の深刻さ・大きさに鑑みて、地域未来投資促進法が扱う「5年間」という短期ではなく、10年後、50年後、100年後といった長期的な視野に立って、SDGsを推進する政策が実践されることを期待します。

<謝辞>

本件の経済効果に関する分析・解説にあたっては、京都大学大学院人間・環境学研究科浅野耕太教授に貴重なご指導とご監修を頂きました。ここに心より感謝申し上げます。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP