世界で沖縄県の宮古諸島だけに生息する希少種ミヤコカナヘビの保全
2024/09/20
- この記事のポイント
- 沖縄県宮古諸島の島々の陸域には、世界でそこにしかいない希少な野生生物が生息しています。その一種であるミヤコカナヘビは、近年急速に進む開発や外来生物、またペット目的の乱獲の影響で個体数が減少。その危機的状況ゆえに、爬虫類として初めて「種の保存法」に基づく保護増殖事業の対象種となっています。宮古諸島の地史の謎を解く存在とも言われている宮古固有の生物を絶滅からまもるために、WWFジャパンが実施している活動について、報告します。
宮古諸島の生物多様性と陸域の自然
沖縄県宮古諸島は、沖縄島から約300km南西、石垣島から約130km北東の海上に位置し、宮古島とその周辺の池間島・来間島・伊良部島・下地島・大神島、さらに西方の多良間島・水納島の計8つの島で構成されています。
宮古諸島の陸域には特異な生物相が見られ、その代表ともいえるミヤコカナヘビ(トカゲの仲間)は、世界で宮古諸島にしか生息していない固有種です。
2016年から琉球大学(戸田守准教授チーム)が実施した野外調査の結果、亜熱帯の温暖な気候に適したミヤコカナヘビの興味深い生活史特性が明らかにされています。
※琉球大学プレスリリース(2024年7月29日)「宮古諸島固有の絶滅危惧種ミヤコカナヘビの生活史特性~年に2世代が回ることもある早熟で短命なトカゲ~」(参考資料1.)
この短いライフサイクルを延々と繰り返して存続してきた固有種ミヤコカナヘビは、宮古諸島の成り立ちの謎を解く、地史の生き証人とも言われています。(参考資料2.)
宮古の島言葉で「クースファヤ」と呼ばれるミヤコカナヘビは、古来より宮古の人々の暮らしに身近な生きものとして親しまれてきました。(参考資料3.)
しかし、近年急速に進む土地開発による生息地の消失、捕食者となる外来生物のインドクジャクやニホンイタチ、ネコ等の影響、営利目的の乱獲などによって、ミヤコカナヘビの個体数は減少の一途を辿り、絶滅危惧種となっています。
その危機は次のように評価されています。
評価リスト | 危機レベルの評価 |
---|---|
レッドデータおきなわ | 絶滅危惧IB類(EN) |
環境省レッドリスト | 絶滅危惧IA類(CR) |
IUCNレッドリスト | 絶滅危惧種(EN) |
官民連携で進むミヤコカナヘビの保全活動
1. 爬虫類として初めて国の保護増殖事業の対象種に
ミヤコカナヘビの危機的状況を受け、2018年から「宮古諸島の希少種保全・外来種問題に係る複数の事業関係者による連絡会議」(環境省・宮古島市が共同開催)が毎年開催され、行政・研究機関・動物園水族館・地元団体等とともにWWFジャパンも参加し、活動の報告や提案・議論を続けています。
この連絡会議のメンバーである自治体や研究機関を中心に、ミヤコカナヘビの脅威となっている外来生物対策も継続して実施されてきました。
沖縄県は、2020年に沖縄県外来種対策行動計画に基づく「ニホンイタチ防除計画」を策定し、宮古諸島においてニホンイタチの防除活動を実施しています。
また、宮古島市は、2018年に発表したエコアイランド宮古島宣言の2050年目標に「市全域のクジャク根絶」を掲げ、インドクジャクの防除活動を続けています。
同じく連絡会議メンバーである日本動物園水族館協会に所属する水族館や動物園の協力によって、ミヤコカナヘビの飼育繁殖と教育普及の取り組みも全国各地で進められています。
各施設で飼育繁殖に成功したミヤコカナヘビの生体が、宮古諸島へ「里帰り」(野生復帰)できる日を目指して、さまざまな活動が実施されています。
2021年には、環境省が「ミヤコカナヘビ保護増殖事業計画」を策定・公表し、爬虫類として初めて、種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)に基づく保護増殖事業の対象種となっています。
2. ミヤコカナヘビの密猟・違法取引の実態を明らかに
WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるトラフィックは、2017年1月から2018年1月にかけて南西諸島固有の両生類・爬虫類のペット取引の現状について市場調査を実施し、2018年5月、その結果をまとめた報告書を公開しました。(参考資料4.)
この調査によって、ミヤコカナヘビが、海外のインターネット等で販売されていることが確認されました。
個体数が減少し、生息地が限定されているミヤコカナヘビにとって、営利目的の密猟行為が、脅威となっている可能性が示されました。
WWFジャパンでは、この報告書を上記の連絡会議で共有するとともに、宮古島市役所や地元警察署の担当部署にも報告し、ミヤコカナヘビの密猟や宮古諸島からの持ち出し防止への協力を求めました。
3. 現地での普及活動
ミヤコカナヘビの生息地をまもるためには、この種の存在と危機的状況、そしてその生息を支えている宮古諸島の陸域の生物多様性の価値について、現地の皆さんに広く知って頂くことが重要です。
そこでWWFジャパンは、2019年から2020年まで環境省生物多様性保全推進支援事業の助成を受け、その後もNPOどうぶつたちの病院をはじめとする沖縄県内の団体と協働して、宮古島市内における普及活動を続けています。
2022年3月には、宮古高校・科学部部員による地域住民へのミヤコカナヘビ生息に関するヒアリング調査の結果をまとめた論文が、沖縄生物学会誌に掲載されました。この調査研究によって、1970年代までは、ミヤコカナヘビは畑・庭・学校などで普通に見られていた身近な生きものだったことが明らかになりました。(参考資料5.)
2023年度からは、宮古島市内の小中学校生を対象に、NPOどうぶつたちの病院沖縄・NPO宮古島 海の環境ネットワーク・WWFジャパンの三者で共同開発した環境出前授業「SDGsの視点にたって~宮古島の海と陸の自然環境を学ぼう、守ろう」が開始されています。
また2023年12月には、宮古島市の協力で、第46回「宮古の産業まつり『島の魅力がいっぱい わくわくどきどき!』」の会場にミヤコカナヘビ関連ブースを出展しました(主催:WWFジャパン・NPOどうぶつたちの病院沖縄、協力:宮古島市環境保全課、日本動物園水族館協会)。
ブースでは出前授業も実施し、来場した多くの宮古島市民の皆さんにミヤコカナヘビという生き物やその生息を支える宮古諸島の生物多様性についてお伝えし、交流する貴重な機会となりました。
ミヤコカナヘビを絶滅からまもるために~今後の課題
このようにミヤコカナヘビの保全に関しては、官民連携のさまざまな取り組みが進められてきました。
しかし、急速に進む土地開発による生息地の消失・縮小など、本来の生息地の保全と回復のためには、まだ多くの課題が残されています。
※ミヤコカナヘビ生息地である宮古諸島・下地島における開発事業に対する合同要請(2024年9月20日提出)
WWFジャパンは、これからも現地の皆さんと協力して、ミヤコカナヘビを絶滅からまもるための活動を進めていきます。
参考資料
- 琉球大学プレスリリース(2024年7月29日)「宮古諸島固有の絶滅危惧種ミヤコカナヘビの生活史特性~年に2世代が回ることもある早熟で短命なトカゲ~」
- 東北大学プレスリリース(2023年7月20日)「宮古島の固有種の故郷は消えた島だった? 地質学と生物学の融合研究が描き出した新たな琉球列島の形成史と生物進化」
- WWFジャパン「ミヤコカナヘビの昔の分布について、高校生のヒアリング調査が論文掲載へ」(2022年4月28日)
- TRAFFIC「ペット利用される南西諸島固有の両生・爬虫類 最新報告書発表」(2018年5月23日)
- WWF合同プレスリリース「『子どものころはミヤコカナヘビが身近にいたよ』沖縄生物学会誌にて論文発表 宮古高校科学部による地元住民への聞き取り調査 ~宮古諸島の絶滅危惧種ミヤコカナヘビ 過去の分布状況を把握~」(2022年4月28日)