GPSNR第4回総会 前進するも課題が山積
2022/08/08
- この記事のポイント
- 自然環境や人権などに配慮した天然ゴムの生産と利用を目指す国際的な枠組み、「GPSNR(持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム)」の4回目の総会が2022年7月13日に開催されました。生産現場での課題をサプライチェーン全体で責任を共有し、解決を目指すための「1:共有責任」の枠組みや、あるべき環境・社会上の課題解決のための具体的な取り組みを示す「2:実施ガイドライン」、「3:進捗報告の開示要件」などに関して決定がありました。
天然ゴムのサステナビリティ、多くの課題が生産現場に
かつてはその収益性の高さから「白い黄金」とも呼ばれた天然ゴム。
現在もタイヤやゴム手袋のみならず、日用品や家電製品まであらゆるものに使われており、私たちの生活に欠かせないものになっています。
その一方で、天然ゴム生産地では、生産のための農地の拡大による森林減少や、人権侵害など、サステナビリティにかかわる課題が顕在化しています。
こうした課題は、誰がどのように解決していけばよいのでしょうか?
生産者たちが取り組まねばならないのはもちろんですが、彼らの多くは貧困に苦しんでいたり、そうでなくともこれまでのやり方を変えるのに必要な資金や知識、技術が不足していたりします。
そのため、こうしたサステナビリティの課題を解決するためには、生産者のみならず天然ゴムのサプライチェーンに関わる全てのステークホルダーが協力して取り組まなければなりません。
このようなことを背景に2018年、天然ゴム生産量の70%以上を使用するタイヤ業界の主導により、持続可能な天然ゴムを推進するためのプラットフォーム、GPSNR(Global Platform for Sustainable Natural Rubber:持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム)が設立されました。
2022年7月に開催されたその第4回総会では、「サプライチェーン全体での責任の共有(Shared Responsibility)」が大きな議題の1つとなりました。
採択された主な決議は、次の3つです。
- 共有責任(Shared Responsibility)の枠組み:生産現場で生じている課題への責任や改善に必要な貢献をサプライチェーン全体で分担しながら、取り組みを進めることについて。
- 実施ガイドライン(Implementation Guideline):「持続可能な天然ゴム」に求められる具体的な取り組みを示すガイドライン策定について。
- 進捗開示の要件(Disclosure Requirements):各参加企業に求められる取り組みの進捗報告における開示要件について。
生産現場の課題はサプライチェーン全体で解決へ
GPSNRには、テーマごとにいくつかのワーキンググループが設置され、それぞれ個別の課題に特化した議論が行なわれています。
共有責任ワーキンググループもその1つで、責任の共有や課題解決のための貢献をどのように実践に結び付けていくのか、その枠組みを作りが、今回の総会に向けて急がれていました。
その過程において、共有責任における状況分析の結果、次の3つの実施課題に整理されました。
- 共有責任を果たすために必要な費用を共同で負担する仕組みをつくること
- 共有責任の対象となる課題に関する情報を共有する仕組みをつくること
- 進捗をモニタリングする仕組みを作ること
これらはどれも、持続可能な天然ゴムに向けて公正かつ効果的な共有責任の仕組みを作る上で欠かせない課題です。
そして今回の総会では、それらの課題の解決に向けて今後取り組んでいくことを定めた枠組みが採決されました。
GPSNRにとってはこれも一つの成果ではありますが、単にスタートラインに立ったに過ぎません。
ここから大きなステップを踏み出せるかどうかは、今後、GPSNRメンバーがサプライチェーン全体の持続可能性を考えた貢献を果たせるかどうかにかかっています。
実施ガイドラインはベストプラクティスの提示にとどまる
GPSNRに参加する企業や生産者は、GPSNRが定めている「持続可能な天然ゴムのための8つの要素」に基づいて自社の方針を策定し、それに沿った取り組みを実施していくことが求められています。
持続可能な天然ゴムのための8つの要素
- 法令遵守
- 健全で機能する生態系の維持
- 先住民や地域住民、労働等に関する全ての人権の尊重
- コミュニティの生計支援
- 生産効率の改善
- 方針の効率的な実施のためのプロセスとシステムの構築
- サプライチェーン評価、トレーサビリティ確保とその管理
- 方針への適合、進捗報告とモニタリング
実施ガイドラインは、持続可能な天然ゴムの生産と調達をどのように実施していくのが良いかを、要素ごとに具体的に示すものです。
しかし今回採択されたものは、ベストプラクティスを示すにとどまっており、「こうすべき」や「最低でもこの程度まで実施すべき」といった参加企業への要求が含まれていません。
そのため、現行の実施ガイドラインは、言い換えれば進むべき方向性を示す参考情報であり、必ず達成しなければならないものではありません。
GPSNRとその参加者が足並みをそろえて有効な取り組みを進めるためには、必要とされるアクションが明確に示されたものに改良される必要があるとWWFは考えます。
いよいよ始まる進捗報告、透明性の確保は?
前回のGPSNR総会では、「取り組みの報告についての要件(Reporting Requirements)」が採択されました。
GPSNRメンバーは、GPSNRが定めている「持続可能な天然ゴムのための8つの要素」に対する取り組みの進捗状況を毎年報告することになっており、この要件はどのような情報を報告に含めるべきかを定めたものです。
その第一回目の報告が提出される予定となっているのが、2022年の後半。今回はまだ一回目ということもあり、進捗を示すというよりもベースラインを知ることが大きな目的とされています。
注目すべきは、「今後どれだけの透明性を持たせられるか」という点です。
GPSNRが持続可能な天然ゴムのために前進していることを内外に示すためには、その進捗具合をどれだけ開示できるかが鍵となります。
これに関わる今回の総会での議決が、進捗報告の開示要件でした。
これは、報告された内容のうち何をどこまで一般に開示するかを規定するものです。
もともとは3年目までの段階的な開示範囲の拡大を示したロードマップとなるはずでしたが、1年目以降の要件については合意が得られなかったため、1年目の開示要件のみとなり、2、3年目は1年目の結果を見て改めて検討するという議決内容となりました。
さらにその採決された1年目の開示要件にしても、かなりの割合の項目が非公開となってしまっています。
今後2年目、3年目と透明性を高めていくためには、GPSNRメンバーの野心的な決断が必要です。
森林リスク・コモディティを扱う産業として果たすべき責任
森林減少を防ぐことや回復させる試みは、単に自然保護の観点からだけでなく、気候危機や生物多様性の損失への重要な対応策として、近年大きな注目を浴びるようになっています。
アメリカやイギリスでは、天然ゴムを含め違法な森林伐採があった土地で作られた産品の輸入を禁止する法案が提出・公布され、事業者は違法リスクの評価と緩和のための十分な情報収集と対応が求められます。
EUでは、合法性の確認を明確に超え、たとえ合法であった場合でも森林破壊リスクに対するデューデリジェンスが課される法案の審議が佳境を迎えています。
GPSNRおよびそのメンバー企業は、こうした世界的な潮流にも対応した取り組みが求められることになります。
関連リンク:気候変動対策と生物多様性保全:「森林リスク・コモディティ」を扱う企業に求められる責任
GPSNRの今後の動き
2018年の発足以来、GPSNRはメンバー数228、世界需要の55%を占めるまでに拡大しました。
総会もこれまでに4回開催され、着実に歩みを進めています。
関連リンク:
持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム 第一回総会開催
GPSNR第2回総会 持続可能な天然ゴムへ向け前進
GPSNR第3回総会 責任ある生産と調達に向けて行動へ
しかしながら、持続可能な天然ゴムのためには、まだまだ解決すべき課題が山積しています。
こうしている間にも、日々、森林破壊などの環境問題や社会問題が発生しており、早急に有効な手立てを打たなければなりません。
課題解決のためにはサプライチェーン全体で足並みを揃え、これまでの慣習に囚われずに、飛躍的な前進を実現できるよう、WWFは今後もGPSNRの一員として活動を続けていきます。