GPSNR第3回総会 責任ある生産と調達に向けて行動へ
2021/12/23
- この記事のポイント
- 2021年12月14日、自然環境の保全や人権に配慮しながら天然ゴムを生産し、また利用することを目指す「GPSNR(Global Platform for Sustainable Natural Rubber):持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム」の3回目の年次総会がオンラインで開催されました。GPSNRのなかで最も高い意思決定の場である総会で、参加企業が持続可能な天然ゴムのための取り組みをどのように報告すべきか、その要件についての決定がありました。
天然ゴムとサステナビリティ
タイヤやゴム手袋、ラバーブーツなど、暮らしを支えるさまざまなものに含まれる天然ゴム。
この天然ゴムの原料は、ゴムの木から採取される樹液で、その生産量の8割以上がインドネシアやタイなどの東南アジアで生産されています。
またその生産の多くは、小規模な生産農家によって支えられています。
過去数十年間、世界的に天然ゴムの消費は増加傾向が続いてきました。
また、今後も需要が高まることが予測されていることから、木材やパーム油といった農林産物と同様に、天然ゴム生産地での森林減少、そして人権への課題に注目が集まっています。
こうした問題を背景に、2018年10月、「GPSNR(Global Platform for Sustainable Natural Rubber):持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム」が設立されました。
これは、世界の天然ゴム生産が、自然生態系や地域社会に配慮しながら行なわれるよう、サプライチェーンが協力して取り組んでゆくことを目的とした枠組みです。
現在までに、天然ゴム生産者や加工企業、タイヤメーカー、自動車メーカー、NGOなど89社・団体が参加。この他にインドネシアやタイ、コートジボワールなど7カ国から、およそ67軒の小規模な生産農家も参加しています。
またWWFも、創設メンバーの一員として、このプラットフォームに参加しています。
取り組みの報告についての要件が採択
取り組みの報告についての要件が採択
立ち上げ以来、参加する企業・団体数は当初の2倍以上に増え、世界の天然ゴム流通量の約半分をカバーするまでになったGPSNR。
年に1度開かれる、その第3回目の総会が2021年12月14日にオンラインで開催され、世界各地から120名以上が参加しました。
今回の総会で最も注目されたのは、GPSNR参加企業に求められる取り組み報告の要件に関する決議です。
これは2020年9月の第2回総会で採択された、企業のGPSNRへの参加要件である、持続可能な天然ゴムの生産・利用に関する方針策定に続くものとなっています。
持続可能な天然ゴムのための8つの要素
1. 法令遵守
2. 健全で機能する生態系の維持
3. 先住民や地域住民、労働等に関する全ての人権の尊重
4. コミュニティの生計支援
5. 生産効率の改善
6. 方針の効率的な実施のためのプロセスとシステムの構築
7. サプライチェーン評価、トレーサビリティ確保とその管理
8. 方針への適合、進捗報告とモニタリング
第2回総会の後、参加企業がこの天然ゴムの持続可能性のための方針に基づき事業を行ない、その進捗を報告するにあたり、GPSNRとしては、何をどう報告するよう求めるのかについて議論があり、WWFもこれに参加してきました。
この8つの要素には、さらに細かい項目が設けらています。
例えば、生態系の維持については、「森林破壊や『保護すべき高い価値』の劣化を引き起こさずに天然ゴムを生産・調達していること」とあります。
これに対して報告要件では、こうしたリスクにかかわる情報収集の方法や、リスクを低減するために実施している取り組みなどの報告を求めています。
これらの情報は、どのような報告すれば要件を満たしていることになるのか、またはそれに向けて前進していると認められるのか、といったことの判断材料となるものです。
企業は本腰を入れて取り組みを
WWFは、今回の総会で取り組みの報告についての要件が採択されたことを進展として評価する一方で、本当に持続可能な天然ゴムの生産・調達を実現するには、まだ多くの改善点があると考えます。
例えば、トレーサビリティの確立については、企業は天然ゴムをどの地域からどれだけ調達しているのかを明らかにし、報告することが求められていますが、今回採択された要件では国ごとの調達量を報告すれば良いとされています。
これでは、その国内のゴム農園の周辺で生じている、各地域での森林破壊については、リスクの大小を知ることはできません。
確かに、天然ゴムの生産する農家は600万軒にものぼるといわれ、地域によっては、売買を仲介する事業者の理解や協力を得るのが難しいなどの理由で、調達についての情報を把握するのは、容易なことではないでしょう。
しかし、本当に森林破壊と関連がないか確認するためには、少なくとも国単位よりは小さな行政単位で、可能であれば農家や農地ごとの状況まで、たどる必要があります。
小規模農家の支援をサプライチェーン全体で
天然ゴム生産に伴う森林破壊は生産地で生じるものですが、生産者だけに責任を負わせることはできません。
こうした生産者にあたる小規模農家は、経済的に貧しく、弱い立場にあるため、サプライチェーンの構造や商習慣による負の影響を受ける場合が多いためです。
結果的に、生計を立てていくため、農家は新たに森林を切り開いて、農地を広げるという問題が生じています。
そのような農家がより高い生産効率で、自然環境にも配慮しながら天然ゴムを生産し、それによって安定した暮らしができるように、サプライチェーン全体で支援してゆくことは、天然ゴム生産にあたって生じる森林破壊を食い止める上で、重要な取り組みといえます。
これについても、早急に議論を進めてゆく必要があるとWWFは考えます。
気候変動の観点からも追求すべき森林破壊ゼロ
また、この天然ゴムなどの農林産物の生産の現場で生じている森林破壊は、近年、気候変動(地球温暖化)対策の観点からも、注目されています。
2021年11月にイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、2030年までに森林破壊をストップさせるという「森林と土地利用に関するグラスゴー宣言(以下「グラスゴー宣言」)」が発表され、日本を含む141カ国が署名しました。
このような意欲的な宣言は歓迎されるべきものですが、実は2014年にも、国連気候サミットにて同様の宣言がされています。
ところが、宣言とは裏腹に行動が伴わなかったことで、世界の森林減少のスピードは、減速してはいるものの半減には至っておらず、熱帯の自然林に限ってはむしろ増加しているのが現実です。
さらにグラスゴー宣言の直後には、欧州委員会により森林破壊につながる可能性のある農林産物を規制する新たな法案が発表されました。
しかし、天然ゴムもまた、森林減少の一要因となっているにも関わらず、タイヤメーカーなどの働きかけにより、その対象から外されたと報告されています。
こうしたサプライチェーンの中で大きな力を持つ業界が、持続可能性や気候変動の抑止につながる規制や取り組みに消極的な姿勢をとるのではなく、いかに迅速に、そして真剣に前向きな行動を起こすかが問われています。
持続可能な天然ゴムに向けた今後の動き
2021年春には、GPSNR臨時総会の開催が予定され、実施ガイドラインについての採決が行なわれる見込みです。
この実施ガイドラインは、第2回総会で採択された方針の策定、第3回総会で採択された取り組み報告の要件に続き、GPSNRと参加企業が自らも掲げる方針やコミットメントを行動に移す際の指針となるものです。
急速に失われつつある生物多様性への懸念だけでなく、気候変動の観点からも、持続可能な社会の実現に向けて、抜本的な変革を起こし、加速度的に前進していかなければならない時です。
WWFは、この危機感を共有しながら、こうした議論が実りあるものとなるよう、GPSNRの議論に参加してゆきます。