両生類の国際取引に警鐘!取引データにもとづく種のリスク評価を発表
2021/11/16
- この記事のポイント
- 最も絶滅のおそれれが高い分類群のひとつである両生類。現在8,000種以上が知られるうちのおよそ4割が絶滅の危機にあるとされます。ペットとしての国際取引が脅威のひとつとなっているにもかかわらず、現在ワシントン条約で規制されるのは2%余り。必要な規制の導入を妨げているのが、取引に関する情報の欠如です。WWFとTRAFFICは、世界の主要な消費国の輸入統計や市場調査から得られた情報とIUCNレッドリストを活用し、特にリスクの高い種の評価を行ないました。
両生類と取引の問題
両生類は、脊椎動物の中で最も絶滅のおそれが高い分類群です。現在知られている8,000種以上のうち、実に4割が絶滅の危機にあるとされます。
両生類が絶滅の危機に瀕している背景には、生息地の破壊に加え、カエルツボカビ症と呼ばれる感染症の世界的な拡大による被害が知られます。
カエルツボカビ症は、発見されてから20年あまりの間に、少なくとも501種で個体数の減少を引き起こし、およそ90種を絶滅に至しめたと言われています。こうした感染症の拡大に重要な役割を担ったのが、両生類の「取引」でした。
「取引」は感染症を媒介するだけでなく、野生の個体群への捕獲圧を高めることで直接的な脅威にもなっています。
特にペット目的で国際的に取引される生きた両生類は毎年膨大な数に上ると言われますが、こうした需要の一部は野生から捕獲された個体で賄われていることが知られています。
このように、すでに絶滅が危ぶまれる種が多い中、ペット利用が両生類の個体数減少に拍車をかけている事実は重く受け止める必要があります。しかし、現在ワシントン条約(※)で国際取引が規制されているのは200種余り。世界の両生類の2%に留まります。
必要な規制の検討が進まない理由には、国際的なペット取引に関する情報の欠如が挙げられます。
※野生動植物の国際取引を規制する国際条約。正式名は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」
取引される「種」の情報がない!?
どの種がどれくらい取引されているのかというデータは、実は多くの場合、国際的に統一した形では集められていません。
両生類もそうした分類群のひとつで、輸出入統計の品目を分類する国際統一システム「HSコード」でも、個別の種はおろか、「両生類」を分類するカテゴリーすら存在しません。
つまり、国が独自に集計を行なっていない限り、どれだけの両生類が国際取引されているのか見当がつかないというのが現状です。
日本では、生きた両生類の輸入について独自の税関コードを割り当てているため、両生類全体の輸入量を把握することができるようになっています。
しかし、どの「種」が輸入されているのかまでは記録されていません。このため、取引の影響を受けている種を知るには、実際に市場で売られている生物のデータを集めることが必要になります。
アメリカの場合は特殊で、LEMIS(Law Enforcement Management Information System:法執行管理情報システム)と呼ばれる野生動植物の輸出入に関するデータを「種」レベルで記録するしくみを持っています。
アメリカがこのようなしくみをもっていることは、両生類の国際取引の動向を知るうえで実はとても重要です。なぜなら、アメリカは世界有数の野生生物消費国のひとつで、両生類に関しては、世界一位の輸入国(※ワシントン条約対象種の集計に基づく)となっているためです。
取引規制が必要な種を見つけるために
今回、WWFとTRAFFICでは、アメリカのLEMISの情報をベースに、アメリカに次いで重要な両生類のペット市場である日本とドイツにおける市場調査で確認された種、およびIUCNの評価内容を組み合わせて、リスクの高い両生類のリストアップを行ないました。
目的は、ワシントン条約でまだ規制がされていない種(非掲載種)の中から、取引により影響を受けているリスクの高い種を探すこと。
取引される数百種の一つ一つを個別に検証していくのは困難ですが、今回の評価では、取引と保全状況に関するデータをスコアリング形式で分析することで、特にリスクが高いと考えられる種を体系的にあぶりだしました。
報告書(英文)『Analysing Amphibians: A Rapid Assessment(
タイトル和訳:両生類取引の緊急評価)』
分析結果が示す、ペット市場の持続可能性への懸念
まず、2008~2018年のLEMISのデータの分析から、最大の輸入国であるアメリカの生きた両生類の輸入について以下が明らかになりました。
- 商業目的(※)で輸入されたワシントン条約非掲載種は少なくとも267種(数量で計2,700万頭、重量で計400万キログラム)
- 総輸入数量のおよそ10%は個体数が減少している種
- 総輸入数量のおよそ29%が野生由来として報告
※ペット取引以外の商業目的の輸入も一部含まれる
これらの結果は、現在国際取引が規制されていない両生類の中に、取引の影響が懸念される種が少なからず含まれることを示しています。
また、LEMISでは具体的な種名の記載のないデータが一部含まれていたり、野生捕獲の個体が「繁殖個体」として申告される「ロンダリング」の例も知られているため、実際にはより多くの種、あるいは野生由来の個体が取引されている可能性があります。
さらに、取引と保全状況を組み合わせたリスク分析からは、北米、中南米、アジア、ヨーロッパ、アフリカの各国を原産とする多様なカエルやイモリ、サンショウウオが特定され、両生類の利用と取引が極めて国際的に行なわれている実態が明らかになりました。
日本の固有種であるシリケンイモリ(Cynops ensicauda)とアカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)も高リスク種にランクインしました。両種ともに日本の市場でも見かけられますが、シリケンイモリはIUCNのレッドリストで危急種(VU)、アカハライモリは近危急種(NT)に分類され、いずれも野生の個体数は減少しているとされます。
このほか、日本の市場でも流通量の多い南米のツノガエル属(Ceratophrys.sp)や、近年ドイツや日本の市場で新たな種が流通していることが確認されているアジアのツブハダキガエル属(Theloderma.sp )などからも高リスク評価の種が特定され、ペット市場が持続可能とは到底言い難い状態であることが強く示される結果となりました。
急がれる保全の対策-ワシントン条約CoP19を見据えて
今回の調査報告は、取引により影響を受けている両生類の保全対策を国際的に強く訴えるものです。
また、今回リスクが高いと特定された種については、生息国における状況把握と保全対策の検討、そして、ワシントン条約における規制の検討が早急に求められます。
一方で、今回の評価手法では上位に特定されなかった種の中にも、取引の影響が懸念される種が数多くいると考えられます。
WWFとTRAFFICでは現在、本報告に続き、「日本」にフォーカスを当てた両生類取引の分析を実施しています。この調査では、今回のリスク評価をより詳細な日本市場のデータにもとづき補完するとともに、日本に生息する両生類の取引状況の調査も行なっています。
2022年には、約3年に一度開催されるワシントン条約の締約国会議(CoP)(第19回締約国会議:CoP19)がパナマで予定されています。
WWFとTRAFFICでは、CoP19に向けた新たな規制対象種の提案をはじめ、各生息国における取組が加速するよう、引き続き関係者への情報提供と働きかけを実施していきます。
報告書のダウンロードはこちら
報告書(英文)『Analysing Amphibians: A Rapid Assessment(
タイトル和訳:両生類取引の緊急評価)』
※本活動は、公益財団法人自然保護助成基金第31期(2020年度)プロ・ナトゥーラ・ファンド助成を受けたものです。