持続可能な町づくりに向けた気仙沼での活動
2019/10/03
水産業の盛んな気仙沼
気仙沼市は宮城県の沿岸北部に位置する人口6万人ほどの水産業を基幹産業とする市です。漁船漁業のほかに、リアス式の海岸地形を活かし、隣町の南三陸町と同様、カキやワカメ、ホヤなどの養殖も盛んに行なわれています。
WWFジャパンは養殖による自然環境や地域社会への影響を軽減するため、国際的な養殖認証制度の取得支援を通じて、三陸沿岸地域の環境保全を進めてきました。
2016年に南三陸町戸倉のカキ養殖がASC(水産養殖管理協議会)認証を取得したのを皮切りに、石巻市にも拡大し、現在県内で生産されるカキの6割が認証を取得するに至りました。
強化が求められる課題
しかしながら認証基準を順守する以上の取組みが求められる環境問題が、注目を集めるようになってきました。
それは、マイクロプラスチックによる海洋汚染です。
プラスチックをはじめとする海洋ごみの問題は決して新しいテーマではありませんが、紫外線や波によって細かく砕けたプラスチック片は回収不可能なだけではなく、多くの海洋生物が摂取していることが判明し、その影響が危惧されるようになりました。
また海洋ごみはペットボトルやプラ容器など陸域起源のものが大半を占めますが、網やブイなどの水産業由来のものも少なくありません。
ASC認証でも、流出した漁具の回収や廃棄物の適切な処分が求められています。
ESD講座の開催(持続可能な開発のための教育)
ESDとは「持続可能な開発のための教育」(Education for Sustainable Development)のことです。環境、貧困、人権、平和、開発といった様々な課題が現代社会にはありますが、こうした課題を自らの問題として捉え、問題解決につながる価値観や行動を生み出そうとするのがESDです。
WWFジャパンは、横浜市ESD推進コンソーシアムの一員として、2017年から横浜市で、「環境」と「国際理解」に焦点を当てたESD講座「明日の授業に活かせるESD講座」を開催してきました。
実践的な教材を参加者のみなさんに提供する講座は、開催のたび、好評を博しています。
いっぽうで、WWFジャパンは宮城県の南三陸・気仙沼地域でもたびたび環境教育の支援を行ってきました。
今回、地球温暖化や海洋プラスチック問題について相談を受け、2019年8月19日、気仙沼市でも、同様にESD講座を開催するに至りました。
これは、2011年の東日本大震災の後、震災からの復旧・復興の力になるべく、WWFジャパンの水産担当者が南三陸町や気仙沼市を訪問して、漁業や養殖業の支援を続けてきたことが契機になっています。
特に、気仙沼市は市内全校が、ESDの推進拠点となるユネスコスクールに登録し、日本でもESD志向の強い地域として知られています。
海洋教育にも熱心で、WWFジャパンからのプラごみ問題を含むESD講座の提案を前向きに受け止めて、実現のために多くの便宜を図ってくださいました。
今回は、気仙沼市教委、現地の海洋教育推進連絡会が主催し、WWFジャパン、気仙沼ESD/RCE推進委員会、EPO東北が共催して実施されました。会場は気仙沼市立大島小学校とその近くの田中浜です。
参加者は34名。大半が教員ですが、市の職員も6名ほどが加わりました。
レクチャーとアクティビティの組み合わせ
気仙沼での「明日の授業に活かせるESD講座」は、プラスチックごみ、地球温暖化、ライフスタイルなどのテーマで構成しました。
各テーマの基礎的レクチャーに加えて、アクティビティという学習者も自ら考え、答えを見つける学習方法(アクティブラーニング)を組み合わせることで、知識を習得するだけにとどまらない研修内容としました。
アクティビティで用いる道具も、イラストを貼り付けたカードや毛糸、ひも、ペットボトル、ポスター裏など身の回りにあるもので用意できるようにしているため、思い立ったらすぐにでも学校の先生方自身で、教室内で実施することができるようになっています。
注目を集めるプラスチックごみ問題
プラスチックごみは、近年、国内外で大きな注目を集めるテーマとなっています。
なかでも、ペットボトルやレジ袋、プラスチック製のストロー、フォーク、スプーンなどの1回きりの使い捨てプラスチック製品は大幅に削減すべきという声が日増しに大きくなっています。
生活を豊かに、便利にしてきたプラスチックは、世界全体で、50年間で20倍にも生産量が拡大しました。
中国が2017年末で廃プラスチックの輸入を禁止としたこともあって、日本をはじめ、国内で処理しきれない大量のごみを抱えた国々は、いかにプラごみを抑制するかという課題に直面しています。
小学4年の社会科などで、ごみ問題を扱う学校現場でも、この問題は真摯に受け止められています。
プラスチックごみには、次のような現代的な問題がいくつも詰まっています。
- 大量生産、大量消費、大量廃棄の典型であるプラスチック
- もとをたどると燃やせばCO2を排出する石油製品
- 便利なためにプラスチックの利用が進むものの、廃棄後の問題には関心を向けないライフスタイルの問題
これらの問題としっかり向き合えば、自分たちの環境問題全般への向き合い方を見直すことにもつながります。
プラごみを減らすために、どうやってペットボトルの消費量を減らしていくか、どうやってレジ袋をもらわないようにするか、子どもたち同士でアイデアを出し合う姿があちらこちらの学校で見られます。
アクティビティを含め、プラごみ問題をいろいろな角度から考える教材をESD講座で提供しました。
残暑の厳しい一日でしたが、参加者のみなさんは熱心に、ひとつひとつの活動に取り組んで下さり、充実した講座となりました。
講座修了後、各学校などで、子どもたちに還元されることを祈りながら、午前の部を終えました。
なお、8月6日には、南三陸町と気仙沼市をあわせた本吉地方教育研究会の招きで、プラごみに絞った講習会を、気仙沼市内の施設「気仙沼市まち・ひと・しごと交流プラザ」で開催しています。
※参加者みなさんのESD講座への感想を一部、ご紹介します。
「アクティビティで活動したことで、さらに分かりやすかったです。環境問題は自分たちだけでなく、これからを生きる子どもたちにも関わる大きな問題であるため、今後も知識を身につけ、少しでもよい環境を保てるように自分にできることをしていきたいと思います」
「読んだり書いたりと机上の活動だけではない研修内容に感心しました。ひとつひとつのアクティビティに意味があり、考えさせる内容になっていました。授業の参考にしていきたいと思います」
「子どもに活用できるということが1番大きな成果でした。自分が学んだことを教育現場に生かし、子どもに現状を伝えて、考えさせていくことがとても大切だと考えており、今日はとてもいい内容でした。ありがとうございました」
午後はビーチクリーンとプラごみ分類法
午前のESD講座に続いて、午後は、近くの田中浜に移動し、ビーチクリーンをしました。
でも、清掃するだけでは、その場所が一時的にきれいになるだけです。
そこで、ごみを元から減らすために、集めたごみの調査をする「International Coastal Cleanup」(ICC)の手法を体験しました。
これは世界共通の手法で、ごみの内容を調査しながら、ごみの問題点に参加者一人ひとりが気づき、改善方法を見つける活動です。
これによって、ごみ拾いをしながら、自分たち自身がごみを減らさなければ海ごみ問題は解決しないことを理解することができるようになっています。
分類法を指導してくださるのは、日本のICCのナショナルコーディネーターを務めている一般社団法人JEAN。
JEANの事務局長小島あずささんの室内レクチャーのあと、浜に降り、班に分かれてプラごみを回収しました。
分類シートを見ながら、どのようなプラごみが何点集まったのか記入し、記録シートを完成させていきます。
ペットボトルやレジ袋などのどこの海岸でも見つかるゴミはもちろん、漁具から出たと思われるゴミもみられました。
清掃活動前に海岸を見渡した時には、多少のゴミは見えるものの、比較的きれいな浜だと感じられましたが、実際には30名あまりの参加者の手で大量のゴミが集められました。
気仙沼の学校から世界へ
横浜ではESD講座のあと、いくつかの学校が香港の学校と交流する活動を進めています。
今年度は小中高それぞれ1校ずつが、環境問題を題材にした作品の交換やテレビ電話会議(スカイプ)などで、国際交流に臨みます。
そして、気仙沼からも小学校1校が香港との交流活動に挑戦することになりました。
WWF香港は学校現場との接点が厚く、毎年、たくさんの学校を訪れて、環境学習を支援しています。
WWF香港が政府から運営を委託されている自然観察施設も複数あります。海について学ぶ海洋公園、渡り鳥の飛来する湿地など。
こうした場所で学んだことを日本向けの作品にすることの多い、香港の子どもたち。
気仙沼の小学生はごみ問題や地球温暖化問題などについて学習のまとめを作り、香港の子どもたちと共有する予定です。
作品は英語に翻訳されて交換されるため、英語学習の動機付けとなり、総合学習のテーマ「国際理解」につながる交流活動となります。
今後の気仙沼、南三陸での活動の展望
気仙沼市は、プラごみ削減を目指して、宮城県や民間団体も交えた「市海洋プラスチック対策推進会議」を5月に立ち上げ、周辺自治体からも注目されています。
気仙沼市が9月5日にまとめた、海洋プラごみ排出ゼロに向けたアクションプランには、漂着ごみを回収するための回収ステーションを漁港に設けること、会議やイベントではペットボトル以外の缶や紙容器の利用を勧めることなどが書き込まれています。
自治体によるこうした意欲的な取り組みに加え、学校教育を通じて家庭や地域へと海洋保全の取り組みが広がりつつあります。
いっぽう隣の南三陸町では志津川湾がラムサール条約に登録され、地域内外と協力連携しながら、保全を進めていくことが求められており、気仙沼市の先進的な取り組みが南三陸町にも広がっていくよう、支援を続けていきたいと考えています。