国連生物多様性第15回締約国会議第一部の終了と今後にむけて
2021/11/18
- この記事のポイント
- 2021年10月、国連生物多様性第15回締約国会議(CBD COP15)は第一部が、異例の形式で開始催されました。議長国となった中国は、昆明宣言を採択させ、ポスト2020生物多様性枠組み(2020年以降の新たな世界の生物多様性保全のための国際目標)の採択に向けて大きな弾みをつけたといえます。生物多様性の主流化、また気候変動対策との相乗効果が今後求められてきます。
2021年10月、国連生物多様性第15回締約国会議(CBD COP15)は第一部が、異例の形式で開始催されました。議長国となった中国は、昆明宣言を採択させ、ポスト2020生物多様性枠組み(2020年以降の新たな世界の生物多様性保全のための国際目標)の採択に向けて大きな弾みをつけたといえます。生物多様性の主流化、また気候変動対策との相乗効果が今後求められてきます。
国連生物多様性条約第15回締約国会議は異例尽くし!
021年10月11~15日にかけて、国連生物多様性条約(CBD)第15回締約国会議(COP15)、カルタヘナ議定書第10回締約国会合及び名古屋議定書第4回締約国会合の「第一部」が開催されました。
今回のCBD COP15は本当に異例尽くしです。
まず、COP15は当初、2020年10月に開催が予定されていましたが。新型コロナウィルスの影響により対面式の協議ができなくなり、開催が1年以上延期に。
その上、2021年10月の第一部と、2022年4月の第二部に分けて開催される形となりました。
さらに、参加者の2/3がバーチャル参加。WWFの代表団も数名に絞られての開催地入りとなりました。
また、今回のCOP15 第一部ではハイレベルセグメントでの各国からの声明発表や中国主催イベント(生態文明フォーラム)での意見交換が主たる内容となり、2020年以降の新たな世界の生物多様性保全のための国際目標、すなわちポスト2020生物多様性枠組みの内容を直接議論する国際交渉は行なわれていません。
しかし、このCOP15第一部は交渉こそ行なわれなかったものの、高い目標設定を目指す生物多様性交渉に向けた各国の“やる気(モメンタム)”を維持することに、大きな役割を担う形となりました。
昆明宣言はポスト2020生物多様性枠組み採択に向けた重要な布石
COP15第一部では、交渉は一切行なわれませんでしたが、いくつかの点において、重要なポイントが示されています。
大きく分けると、3つほど、挙げられます。
- 議長国となった中国と注目されるそのリーダーシップ
- 昆明宣言の採択
- 生物多様性に向けた資金調達
1. 議長国となった中国と注目されるそのリーダーシップ
10月11日の開催初日、COP議長の引継ぎが行なわれました。COP15の議長国は中国です。中華人民共和国生態環境部部長である黄潤秋(Huang Runqiu) 氏が、議長に就任しました。これからCOP16への議長引継ぎまで、黄潤秋氏が会議全体を指揮することになります。
従来とは異なる会議の実施方法となっていること、生物多様性にとって重要な会合であることなど、中国のリーダーシップが注目されています。
2. 昆明宣言の採択
会期中に、中国が主導して作成された「昆明宣言」が採択されました。昆明宣言では特に生物多様性保全と並んで、生物多様性の「持続可能な利用」が重要な位置づけになっています。また生態系に基づいたアプローチ、気候変動適応策との連動、食料生産やワンヘルスの重要性や、海洋保全についても記載がされています。また、生物多様性の議論の中で重要なポイントとなる先住民の参加や、コミュニティー、ユース、CSO(市民組織)の活動についても重要視されています。
3. 生物多様性保全活動に向けた資金調達
これまで、生物多様性の保全には限られた資金しか充てられてこず、今後活動を進めるためには不十分であることが指摘されてきました。そうした中で今回、議長国中国は昆明生物多様性ファンド(Kunming Biodiversity Fun)を設立、15憶元(およそ23憶USD)の拠出を表明し、保全に向けた取組を進めることを強調しました。これも、議長国となった中国のリーダーシップの一つの表れです。
ポスト2020年生物多様性枠組み交渉は最終局面へ
今後求められるのは生物多様性の主流化
生物多様性条約の議論では、各国政府は主流化を「生物多様性の保全と持続可能な利用を、可能かつ適切な限り、関連する部門別または部門横断的な計画、プログラム、政策に統合すること」と提案。
これに対してCBD条約事務局のオリバー・ヒレル氏は中国中央電視台 の国際チャンネルCGTNの取材に対しこのように述べています。
「主流化には、計画、経済、貿易、金融、地域開発、農業、エネルギー、インフラなどを担当する重要な省庁の任務や業務において、環境や持続可能な開発を担当する省庁と協議しながら、自らの意思決定が自然に与える影響、インパクト、依存性を考慮することが必要です」
「また、責任の範囲に応じて、国、土地・シースケープレベルの地域、地方といった異なるレベルの政府が関与します。都市部、農村部、内陸部や沿岸部など、それぞれのレベルに応じた取り組みが必要です」
「さらに、すべての利害関係者(つまり、政府、企業と金融機関、地域社会、先住民、女性、若者、NGOなど)の参加と協力が必要であり、彼らの利益が考慮され、相乗効果が検討され、貢献が支援されます」
つまり、生物多様性の主流化には、社会全体(Whole of Society)による取組が重要ということになります。
生物多様性交渉の今後:気候変動対策と生物多様性保全で相乗効果を!
これから2022年1月12~28日にジュネーブでCBD補助機関会合並びに作業部会が対面方式で開かれ、交渉の最終の詰めが行なわれます。
そして2022年4月28日~5月8日には、COP15 第二部が中国昆明で開催され、ポスト2020生物多様性枠組みが採択される予定です。
今後一層、議論は活発化していくでしょう。
議論の中では気候変動による生物多様性の影響も検討されており、またと昨今では以下のような表現をよく耳にします。
「生物多様性と気候変動は表裏一体の関係」
裏を返せば、CBD COP15でのポスト2020生物多様性枠組みが十分に高い目標値を持ちながら、実効性を担保し、さらに達成しなければ、気候変動での取り組みもまた、失敗に終わるということ。
生物多様性の保全と気候変動対策、どちらがより重要ということではなく、どちらも本気で、真摯に取り組み、ことが求められています。
WWFとしても今後、両者間によるトレードオフではなく、相乗効果を狙った取り組みを目指し、ぜひその実現を呼びかけていきます。