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APP社「森林保護方針」から5年 WWFからのアドバイザリー(勧告)

この記事のポイント
2018年6月、WWFインドネシアは製紙メーカーAPP社に関するアドバイザリー(勧告)を発表しました。主にインドネシアにて1980年代から自然の熱帯林を大規模に破壊し、植林地へ変えることによって製紙原料を調達してきたAPP社。環境を損なうだけでなく、地域社会にも害を及ぼすその操業のあり方と、それを覆い隠すように環境配慮をPRする同社の姿勢は、世界から強い批判にさらされてきました。このアドバイザリーのなかでWWFインドネシアは、APP社製品の購入および同社への投資を避けるよう呼びかけています。

約200万ヘクタールの自然林破壊に関与

主にインドネシアのスマトラ島とカリマンタン(ボルネオ島インドネシア領)で過去30年にわたり、熱帯林を製紙原料調達と製紙原料となるアカシアやユーカリなどを植える植林地とするために開拓してきたAPP社。同社の操業のために破壊された自然の熱帯林は200万ヘクタールを超えると報告されています。これは東京都の面積の約10倍に及ぶ広さで、その操業が周囲の環境や社会、そして地球温暖化(気候変動)問題に及ぼしてきた影響は計り知れません。

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インドネシアの自然の熱帯林

©Eyes on the Forest

自然林(上)と伐採された森(下)ここに植林地が造られる

©WWFインドネシア

泥炭湿地の森で植林のため進められる伐採。火災で煙があがっている。

©WWFインドネシア

熱帯林を伐採した後につくられた植林地で、罠にかかった野生のトラ。スマトラ島にのみ生息する亜種スマトラトラは推定で300頭ほどしか残っていない。

日本にも輸入される紙製品 その背景

日々の暮らしに欠かせない紙製品。日本は多くの紙原料や紙製品を海外の森林資源に依存し、インドネシアも日本に多くの紙製品を輸出する国の一つです。このことは、生産国の森林から遠く離れた日本に暮らす私たちのビジネスや生活も、現地の環境や社会問題に関係があることを意味します。

WWFジャパンではWWFインドネシアとも協力し、日本の市場関係者に対し、責任ある調達を求めるとともに、消費者にもより環境に配慮した製品の購入を呼びかけてきました。 世界的な流れとしても、責任ある調達行動を求める声は高まりつつあり、問題のある企業からの調達を見合わせる対応を取る企業も増えています。

その一方で、アスクル株式会社などのインターネット通信販売、ホームセンターなどの量販店などでは、現在もこうした製品の取り扱いが継続されています。 また製造企業名こそ明示されていないものの、植林木原料を使用したインドネシア産のノートやルーズリーフなどの紙製品も、株式会社良品計画や100円ショップなどの文具・雑貨店で販売されています。
WWFは、インドネシアの全ての植林地が非持続可能なかたちで開発されたわけではないことを理解しつつも、このような植林木を使用したという製品の背景に周辺環境や地域社会、そして地球温暖化への悪影響があったのだとすれば、持続可能な製品とはいえないと考えます。

「森林保護方針」から5年、進捗は

約30年におよんだ自然林破壊の末、2013年にAPP社は「森林保護方針」を発表し、以降の自然林破壊をやめ、この方針に違反するサプライヤーとの取引を停止することを宣言。翌年の2014年には100万ヘクタールの森林を回復させる支援をすることも表明しています。WWFはこれらの発表を歓迎しつつも、確実な実施こそが重要あり、完全に独立した第三者の評価によって十分な進捗が確認できるまでは、同社が本当の意味で改善の道をたどっているとは言えないとの姿勢を保ってきました。

そして「森林保護方針」から5年が経過した2018年2月、WWFインドネシアは他のインドネシアで活動するNGOとともに、APP社が掲げた誓約によって、これまで指摘されてきた数々の問題はどうなったのか、現状を報告する共同声明を発表。

その中で、残念ながら同社は持続可能性への道筋を順調には歩んでいるとはいえず、誓約の進捗も十分ではない5つの理由が示されました。

  1. 原料不足と自然林破壊への関与
  2. 地域社会との社会紛争の多くが未解決
  3. 100万ヘクタールの自然林再生の誓約は進捗が欠如
  4. 木材サプライヤーや新工場建設(生産能力)に関しての誤った情報と透明性の欠如
  5. 第三者によるモニタリングの欠如

FSCとの関係 

こうしたAPP社による問題のある行為は、国際的な森林認証制度「FSC®(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)」の対応でも明らかになっています。

遡ること2007年、自然環境や地域社会に配慮した森林管理の拡大を目指すFSC®(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)は、「アソシエーション・ポリシー」を適用し、製紙メーカーのAPP社と関連企業に対して関係を断絶することを発表しました。これにより同社とその関連企業は、一切のFSC認証取得ができない状態が続いています。

「アソシエーション・ポリシー」は、管理する森林の一部の区画や工場では認証が取得できても、その事業者全体の操業をみれば、違法伐採や社会紛争といった問題に関与する事業者に対し、認証取得を許可しない、あるいは取り消す制度です。

APP社は、「森林保護方針」を発表した2013年頃から、これまで以上にFSCにこの断絶状態の修復を求めてきました。そして2017年、FSCは同社の要請に応じ断絶関係の修復にむけたロードマップ作成を検討するため、NGOや企業からなるワーキング・グループを設置。WWFインドネシアもこのワーキング・グループに参加してきました。

このロードマップとは、同社によるこれまでの自然林破壊や社会紛争といった負の影響の全容をまず把握し、そこから、今後FSCとの関係を修復するにあたって、その負の影響に適切に対処するためにどのような行動が求められ、現場で実行され、またそれらがどのような指標で評価され、どこまでの進捗があるべきかをまとめるものです。

操業の「全容把握」に課題  

しかし、こうした動きもある中、2018年5月、環境団体グリーンピースは、APP社と関係があるとは公表されていなかったものの、実は同社と、同社の属するシナル・マス・グループと関係がある2つの企業の伐採許可地において、自然林と泥炭湿地8,000ヘクタールがAPP社の「森林保護方針」に違反して2013年の「森林保護方針」の発表後にも皆伐が続いていたことが明らかになったと発表しました。

その直後にWWFインドネシアも他のNGOと共同で、シナル・マス・グループとAPP社が「森林保護方針」の影で、法人や個人の代理人を使って土地を拡大していた実態を詳細に示す報告書を発表。

ここに来て、そもそもAPP社の操業が与えてきた負の影響の全容を把握することの難しさが浮き彫りとなったのです。

数々の誓約が本当に実施されているのかを評価するために、APP社は傘下の系列・関係会社とサプライヤーを明らかにし、まずその環境及び社会的負荷の全容を把握可能な状態にする必要があるのは言うまでもないことです。

これらの発表を受けAPP社は、自社のサプライチェーン上にないものも含め、インドネシアの全木材サプライヤーを見直し、サプライヤーの役員や自社の株主、従業員等との関係をすべて明らかにすると発表しました。

このような状況を受け発表されたアドバイザリーでWWFインドネシアは、「企業と投資家に対し、APP社がFSCとの断絶関係を回復し、真に独立した第三者による定期的検証の結果、同社がFSCのロードマップの要求事項について十分な進捗を遂げたことが証明されるまで、SMG/APP社及びその関係会社との取引をしないよう勧告する」と述べています。

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