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インドネシア ジャワ島のエビ養殖業がASC認証を取得!

この記事のポイント
持続可能な養殖業と海洋保全を目指し取り組んできた、「インドネシア エビ(ブラックタイガー)養殖業改善プロジェクト」。2021年7月からは、ジャワ島中部ジャワ州ブレベス県に取り組みを拡大し、現地エビ加工会社のMISAJA MITRA(ミサヤミトラ)社、日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)、WWFインドネシア、WWFジャパンの4団体の協働でエビ養殖業の改善を進めてきました。取り組みの開始から3年弱の月日を経て、2024年3月29日に、持続可能な養殖業の国際認証である「ASC認証」の取得が実現しました。
目次

エビ養殖業改善プロジェクトの開始

1990年代以降、世界の天然の水産物の漁獲量が頭打ちになる中、養殖水産物の生産量が大きく増加し重要性が高まってきました。

一方で養殖生産の拡大は、養殖場の開発や養殖操業に伴う自然環境への影響や、周辺の地域住民や労働環境に関わる問題も引き起こしています。

特にエビは、日本で人気が高く最も多く消費される水産物の一つですが、日本のエビ類輸入量(2022年)第3位の16%を占めるインドネシアでは、養殖池を開発するためにマングローブ林が伐採されるなど、自然環境に大きな影響を与えてきました。

また近年、養殖池の管理が不十分なことで生産性が低下し、エビ養殖に従事する小規模零細の生産者の生計への影響も懸念されています。

上空から見たインドネシアの沿岸域。マングローブ林(緑色の部分)の多くが失われ、エビ養殖池が広がっています。
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上空から見たインドネシアの沿岸域。マングローブ林(緑色の部分)の多くが失われ、エビ養殖池が広がっています。

こうした状況を改善するために、WWFは、インドネシアのエビ加工会社と、同社からエビを調達する日本生協連とともに、「インドネシア エビ(ブラックタイガー)養殖業改善プロジェクト」を2018年7月にスラウェシ島で始動しました。

その後2021年7月にジャワ島にも取り組みを拡大し、中部ジャワ州でもエビ養殖業改善プロジェクトに着手。

現地のエビ加工会社のMISAJA MITRA(ミサヤミトラ)社、日本生協連、WWFインドネシア、WWFジャパンの4団体の協働で、自然環境、労働者や地域社会に配慮した持続可能な養殖業の国際認証である「ASC(水産養殖管理協議会)認証」の取得に向けて、取り組みを進めてきました。

プロジェクトの現場となるインドネシア(上)とジャワ島(下)の地図。ミサヤミトラ社とのエビ養殖業の改善は、(2)のジャワ島中部ジャワ州ブレベス県で取り組んでいます。
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プロジェクトの現場となるインドネシア(上)とジャワ島(下)の地図。ミサヤミトラ社とのエビ養殖業の改善は、(2)のジャワ島中部ジャワ州ブレベス県で取り組んでいます。

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ジャワ島でのエビ養殖業改善の取り組み

ジャワ島でのエビ養殖業の改善は、養殖池や生産者について調査を行なった結果をもとに、中部ジャワ州ブレベス県のバンスリ村をプロジェクト対象地域として選定しました。

選定後、バンスリ村のエビ養殖の現状とASC基準とのギャップの分析を実施。その結果、基準への適合率はわずか25%で、対処が必要な要件が山積していました。

また、最初に行なった試験養殖でも、対象とした21面の養殖池のうち20面で病気が発生。収穫まで至った1面でも生残率(池に入れた稚エビが大人まで育つ割合)がASC基準の要件の半分程度で、改善が一筋縄ではいかないことが予想されました。

ジャワ島中部ジャワ州ブレベス県バンスリ村のプロジェクト現場のエビ養殖池
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ジャワ島中部ジャワ州ブレベス県バンスリ村のプロジェクト現場のエビ養殖池

試験養殖の結果は思わしくありませんでしたが、参加した20名のうち4名の生産者の方から改善への意欲が示され、本格的な取り組みを進めていけることになりました。

生産方法の改善では、稚エビを池入れする前の養殖池の水抜きや日干し、池入れ後の水質や成育状況のモニタリングなどを実施。生産者の方が実践できるよう研修も行ないました。

これらを試行錯誤しながら進めていったことで、準備を含め2023年6月から12月にかけて行なった生産で、プロジェクト対象のすべての養殖池で生残率が25%を超え、ASC基準の要件を満たすことができました。

水質や成育状況のモニタリングの方法などエビ養殖の改善に関する生産者の方への研修
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水質や成育状況のモニタリングの方法などエビ養殖の改善に関する生産者の方への研修

また、生産改善とともに、養殖池の開発によって失われたマングローブの再生を実施。生物多様性が高く人の暮らしにとっても重要な、マングローブ生態系の回復に取り組んできました。

加えて、エビ養殖に関する環境影響や社会影響の評価、養殖業に関するライセンスの取得や労働環境に関する資料の作成を行なうなど、自然環境、労働者や地域社会に配慮したエビ養殖業への転換を包括的に進めてきました。

こうした関係者の協力による粘り強い取り組みの結果、2023年12月11日にASC認証審査に入ることができました。

生産者の方にも協力いただきマングローブの再生を進めています。
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生産者の方にも協力いただきマングローブの再生を進めています。

ASC認証の取得の実現

ASC認証審査は、改善に共に取り組んできた4名の生産者が所有する養殖池6面を対象に行なわれました。

現地審査では、現地エビの収穫状況の確認や関係者への生産方法などに関するインタビュー、また基準で求められている書類の確認などを実施。その後、現地審査で出てきたいくつかの指摘事項への対応を進めてきました。

ASC認証審査員による養殖池でのエビの収穫状況の確認
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ASC認証審査員による養殖池でのエビの収穫状況の確認

そして2024年3月29日、ジャワ島でのエビ養殖業改善プロジェクトの開始から3年弱の月日を経て、ついにASC認証の取得が実現したのです。

共に取り組んだ生産者の方からは、生残率が改善したこと、また国際的な認証を取得できたことについて、喜びの声が聞かれました。

プロジェクト対象の養殖池で収穫されたエビ
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プロジェクト対象の養殖池で収穫されたエビ

ミサヤミトラ社と生産者の方の現場での尽力はもちろんですが、プロジェクトの前進とASC認証実現の大きな原動力となったのが、現地からエビを調達する日本生協連の積極的な関与です。

これにより、ミサヤミトラ社の意欲や主体性を高め、ひいては生産者の方が改善に前向きに取り組む動機づけにもつながりました。

日本でも大手の小売企業はASC認証製品の調達を推進していますが、ほとんどの場合、取引価格や数量に対する優遇がないため、ASC基準にもとづく養殖業改善や、認証取得と維持にかかるコスト負担が生産現場に偏りがちです。

特にインドネシアのブラックタイガーのような小規模零細の養殖業の場合、現地の関係者だけで改善を進めるのは容易でなく、現地から水産物を調達する企業や団体の積極的な関わりが鍵となります。

日本は世界中から水産物を輸入しており、それらの持続可能性を確保していくためには、本プロジェクトのようなサプライチェーンの関係者による協働が他の企業や団体にも広がっていくことが重要です。

WWFとしても引き続きミサヤミトラ社と日本生協連と協働し、インドネシアでの持続可能なブラックタイガー養殖業の拡大に向けて取り組んでいきます。

エビ養殖生産者の方とミサヤミトラ社、日本生協連、WWFインドネシア、WWFジャパンのプロジェクト関係者
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エビ養殖生産者の方とミサヤミトラ社、日本生協連、WWFインドネシア、WWFジャパンのプロジェクト関係者

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