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南米チリ 小型浮魚類の漁業改善プロジェクト

この記事のポイント
南米チリの豊かな海の生態系を支える、アンチョベータやベンティンクニシンなど、表層に生息する小型浮魚(うきうお)類と呼ばれる小魚。主に魚粉に加工され、サーモン養殖の飼料の原料として使われるほか、日本にも輸出されています。チリ産サーモンの主要な消費国でもある日本は、チリの小型浮魚類の漁業が抱える問題と深くつながっています。そのためWWFジャパンは、WWFチリへの支援・協力を通じて、持続可能な漁業への転換を目指す、小型浮魚類の漁業改善プロジェクトに取り組んでいます。
目次

野生生物と人の暮らしを支えるチリの小型浮魚類

南米チリの海は生物多様性が高く、チリイルカなどの鯨類やマゼランペンギンなどの海鳥をはじめ、さまざまな野生生物が息づいています。

この豊かな海の生態系を支えているのは、南極から北上するペルー海流(フンボルト海流)と深層から湧き上がる湧昇流により育まれた無数のプランクトン、そしてそれを主食とする魚類。

特に、カタクチイワシ科の一種のアンチョベータ(Engraulis ringens)や、ニシン科の一種のベンティンクニシン(Strangomera bentincki)など、表層に生息する小型浮魚類と呼ばれる小魚は、海の食物連鎖や生態系にとって非常に重要な存在です。

アンチョベータの群れ。ペルーカタクチイワシとも呼ばれ、南米のペルーからチリ沖にかけて分布する、体長10cm程度の小型の魚です。
© WWF / JURGEN FREUND

アンチョベータの群れ。ペルーカタクチイワシとも呼ばれ、南米のペルーからチリ沖にかけて分布する、体長10cm程度の小型の魚です。

また小型浮魚類は、チリの沿岸地域に住む小規模零細の漁業者の生計、さらには日本の食も支えています。

チリで漁獲された小型浮魚類は、主に魚粉(フィッシュミール)や魚油に加工され、サーモン(サケ)養殖業の飼料の原料として使われるほか、日本にも輸出され、養殖・畜産用の飼料や農業用の肥料の原料となっているためです。

日本にとってチリは、サケ・マス類の輸入量第1位の約60%(2022年)、魚粉の輸入量についても第2位の10%以上(2022年)を占める重要な国。

そのため日本は、チリの小型浮魚類の漁業が抱える問題に深く関わっており、その持続可能性についても責任をもって取り組んでいく必要があります。

2022年の日本の魚粉輸入量(魚の粉、ミール及びペレット)。財務省貿易統計をもとに作成。

2022年の日本の魚粉輸入量(魚の粉、ミール及びペレット)。財務省貿易統計をもとに作成。

チリの小型浮魚類の漁業が抱える問題

小型浮魚類の漁業はチリで最も重要な漁業のひとつですが、主な漁獲対象種であるアンチョベータとベンティンクニシンは、どちらも持続可能な範囲内で最大限に漁獲されている状態にあります(*1)

そうした中、環境・経済・社会に関わるさまざまなリスクが指摘されています。

特に、気候変動や海洋環境の変化による小型浮魚類の資源の変動は、これらを重要な食料源とする野生生物を含め、海洋生態系への幅広い影響が懸念されます。

加えて、小規模零細の漁業者の生計や漁業会社の調達にも不確実性をもたらします。

さらに、小型浮魚類の魚粉を飼料の原料として使用する、サーモン養殖業や日本の養殖業・畜産業に影響が及ぶことも考えられます。

小型浮魚類を漁獲するための漁船
© Camila Lasalle

小型浮魚類を漁獲するための漁船

また、世界的な問題となっているIUU(違法・無報告・無規制)漁業の存在も無視できません。

過去には、小型浮魚類の違法漁業や未報告の魚粉の摘発が行なわれたこともあり、資源や生態系、小規模零細の漁業者の生計を脅かしています。

こうしたことから、小型浮魚類の漁業の持続可能性の確保が急務となっており、WWFジャパンは、WWFチリへの支援・協力を通じて、持続可能な漁業への転換を目指す漁業改善プロジェクトに取り組んでいます。

小型浮魚類の漁業改善プロジェクト

WWFチリでは、小型浮魚類の漁業改善プロジェクトを2024年3月に正式に開始。漁業者や漁業会社、研究機関やNGOなどと協力のもと、MSC漁業認証規格にもとづき取り組みを進めています。

MSC漁業認証規格は、1)資源の持続可能性、2)漁業が生態系に与える影響、3)漁業の管理システム、の3つの原則で構成されており、これらの原則で定められた要件を満たし、MSC漁業認証を取得することで、持続可能な漁業であることが認められます。

小型浮魚類の漁業改善プロジェクトでは、チリ中南部地域のアンチョベータとベンティンクニシンを対象に、2029年3月までにすべての要件で持続可能な水準にまで改善させることを目標としています。

【参考:Chile Central-South Araucanian herring and anchovy (Regions V-X) – purse seine | Fishery Progress


プロジェクトではまず、MSC漁業認証規格にもとづいた予備審査を通じて、現時点で要件を満たしていない課題を洗い出し、現状評価を実施。

特に原則1の資源の持続可能性と原則2の漁業が生態系に与える影響について、対処すべき課題が多いことが明らかになりました。

今後、資源評価のプロセスやMSC漁業認証規格の要件に沿った漁獲戦略への改善、混獲調査や生態系への影響を考慮した漁業管理への改善、また漁獲戦略と整合したより明確な中長期の目標の設定や、意思決定プロセスの改善などに取り組んでいく予定です。

小型浮魚類を漁獲する漁船に集まる海鳥。こうした野生生物が誤って漁網にかかってしまう「混獲」の状況を調査し、対策を行なうことも重要な課題のひとつです。
© Diario La Tribuna

小型浮魚類を漁獲する漁船に集まる海鳥。こうした野生生物が誤って漁網にかかってしまう「混獲」の状況を調査し、対策を行なうことも重要な課題のひとつです。

日本企業の関与・支援の重要性

漁業改善プロジェクトのような持続可能な漁業への転換に向けた取り組みを推進していくうえでは、漁獲された魚を調達・販売する企業の関与や支援が重要です。

チリの小型浮魚類の場合、現地の漁業関係者だけでなく、チリからサーモンや魚粉を調達する日本企業も、その持続可能性に対する責任を負っています。

そのためにまずは、調達先と、魚粉の原料となる小型浮魚類のトレーサビリティや持続可能性について、積極的に協議を行なうことが求められます。

そのうえで、調達先の漁業改善プロジェクトへの参加の促進や、プロジェクトへの支援を行なうなどの協力が望まれます。

漁業改善プロジェクトは、時間や労力、また資金も必要となり、現地の関係者だけで進めていくのは容易ではありません。

サプライチェーンでつながる関係者の関心や支援は、現地の関係者が改善に取り組む動機づけにもつながります。

チリの小型浮魚類の漁業の持続可能性を確保するために、日本企業の積極的な関与や支援が期待されます。

日本の小売店で販売されるチリ産の養殖サーモン。サーモンの責任ある調達にとっても、養殖用の飼料の原料の持続可能性の確保は欠かせません。
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日本の小売店で販売されるチリ産の養殖サーモン。サーモンの責任ある調達にとっても、養殖用の飼料の原料の持続可能性の確保は欠かせません。

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