思い出と想像の混在-「においの惑星」を堪能しよう
2020/12/23
「におい」に着目した環境教育プログラムから生まれたサイト「においの惑星-くんくんPlanetに出かけよう」に掲載している「うんことばホイール」を堪能する企画。今回は、気になる言葉「おじいちゃん・おばあちゃん」に迫ります。
「においの惑星」とは?
「においの惑星―くんくんPlanetに出かけよう」は、動物たちのうんこのにおいを嗅いで表現した言葉を集めた「うんことばホイール」を公開するサイトです。
言葉を書いてくれたのは、においに着目した環境教育プログラム「においでめぐる動物園―くんくんPlanetに出かけよう―」の参加者のみなさんです。うんことばホイールでは、一人一人が書いたそのままの表現を読むことができます。
あなたはどんなにおいを思い浮かべますか?
うんことばホイールを眺めていると、“気になる言葉”がたくさん出てきます。今回、注目するのは「おじいちゃん・おばあちゃん」が登場する言葉です。
「おじいちゃんの家に行ったときに似た匂い」(味覚:すっぱい/分類:場所)
※括弧書きは、言葉の分類です。ホイールで実際に言葉を探す際の目印にしてください
これは、よこはま動物園ズーラシアに暮らすアカアシドゥクラングールという「世界一美しいサル」とも称される、木の葉を主食とするサルのうんこのにおいを書いた言葉です。(2018年のものです)
そんな失礼な、と思われる方もいるかもしれませんが、においの源が何であったかを一旦忘れて考えてみてください。
あなたは、この言葉を聞いて、どんなにおいを思い浮かべますか?
次に、同じく2018年のズーラシア、ボルネオオランウータンのうんことばから。
「おばあちゃんのタンスの匂い」(味覚:にがい/分類:生活臭)
私は、これを読んで、昔、同居して暮らしていたおばあちゃんのタンスのにおいをありありと思い出しました。そこには、もらい物のタオルや石鹸、昔の服などがたくさん詰まっていました。私のおばあちゃんのタンスは、たしかにちょっとにがい感じのにおいでした。
「おじいちゃん家のこたつの中」(味覚:あまい/分類:場所)
「おじいちゃん家の玄関」(味覚:あまい/分類:場所)
上が、上野動物園2019年のアジアゾウ、下が同じく上野動物園2019年のジャイアントパンダです。うんことばホイールからはわかりませんが、実際に手書きで書かれたカードを見ると、同じ筆跡で書かれているようでした。
「こたつの中」と「玄関」という表現で、どちらも草食で繊維質の残るうんこをするアジアゾウとジャイアントパンダを書き分けています。アジアゾウの方が、暖かさのあるにおいに感じられたのかな、パンダの方が屋外に近い感じなのかな、など、書いた方の感覚を想像してしまいます。
きっと、おじいちゃん・おばあちゃんにまつわる場所・物のにおいが、ズバリ動物のうんこのにおいだった、という意味ではないでしょう。「思い出の中のそのにおい」に似た要素があったのかもしれません。
また、おじいちゃん・おばあちゃん、という言葉の響きからは、「古いもの」を連想します。
今の日本では、清潔・快適な暮らしができるようになり、においの出るものにはほとんど接することなく日常を送れるようになりました。
例えば、水洗トイレが普及する前や、いつでもどこでも買い物ができるようになる前の暮らしでは、ネガティブなにおいがもっと生活に密着して存在していました。また、自然物から発生するにおいを嗅ぐ機会も、今よりもっと多かったでしょう。
そんな暮らしの中で嗅いだにおいを、「おじいちゃん・おばあちゃん」という言葉が代弁しているのかもしれません。
私が、おじいちゃん家で思い出すのは、ぬか床のすっぱいようなあまいようなにおいと、裏庭に生えたシダやコケなどの植物が雨に濡れた時のにおいです。
あなたは、どんなにおいを思い浮かべますか?
動物たちが生きているにおい
野生の動物たちは、植物が茂り、雨が降れば水たまりができて地面がぬかるむような環境で暮らしています。今の日本で人間が暮らす環境とは、異なるにおいの中で暮らしているのでしょう。
動物たちの出すうんこのにおいは、彼らが生きていることの証です。
うんことばホイールを眺めながら、ぜひ野生に生きる動物たちのことにも想像を巡らせてみてください。
(文:熊谷香菜子)
シリーズ一覧
においの言葉でさぐる、野生動物のこと
動物たちのうんこには、彼らの生活がぎゅっと詰まっています。
そのにおいを言葉にして集めた、においの惑星、を訪ねてみませんか?