熊本県立玉名高校と希少魚類の調査活動を開始
2024/04/25
- この記事のポイント
- セボシタビラやニッポンバラタナゴなど、絶滅が危惧される希少な淡水魚が生息する九州の水田地帯。WWFはこの地域の淡水生態系と希少魚類を守るため、九州大学と共同で、調査・保全活動に取り組んでいます。その取り組みに2024年4月から、地元の熊本県立玉名高校の科学部の生徒の皆さんが参加することになりました。主な活動内容は、地元の菊池川水系での環境DNA調査です。2024年4月3日にはその皮切りとなる講義と現場視察が行なわれました。今後、玉名高校の科学部では、機材や調査に必要な情報の提供を受けながら、実際の調査活動に挑みます。
世界的にも貴重な九州の水田生態系を守るために
九州・有明海沿岸の各県に広がる水田地帯には、セボシタビラやニッポンバラタナゴなど、日本固有種を含む世界的にも希少な淡水魚が数多く生息しています。
しかし、その生息地の多くでは、自然度の高い水田環境の喪失に伴い、淡水魚類の個体数が減少。姿が見られなくなった水系や支流も、増えつつあります。
そうした中、熊本県玉名市で新たな取り組みが始まりました。
ここは、九州中部を流れる菊池川の流域に位置し、一帯に広がる水田とその水系には、アリアケスジシマドジョウをはじめとする、絶滅の危機にある淡水魚類が多数生息しています。
特に、タナゴ類ついては九州に産する、セボシタビラ、ニッポンバラタナゴ、カネヒラ、ヤリタナゴ、アブラボテ、カゼトゲタナゴの6種全てが記録されており、その貴重な生息域となっています。
今回スタートした、玉名市での新たな活動は、WWFジャパンと九州大学の鬼倉徳雄先生の研究室がこれまで行なってきた、希少な淡水魚の調査活動を土台にして、熊本県立玉名高校の科学部の生徒の皆さんが地域の希少淡水魚の分布状況を把握し、保全策の検討を行う試みです。
今後、科学部の皆さんは、実際に玉名市内の小河川・水路等で環境DNA調査に必要なサンプルの採水を行い、それを九州大学で分析にかけ、現在のタナゴ類などの生息状況を把握する取り組みを進める予定です。
地元の自然の素晴らしさを次世代に!
2024年4月3日には、玉名高校でそのスタート・イベントとなる、「地域の淡水生態系保全プログラム会議」が行なわれました。
この日は、玉名高校科学部の皆さんに加え、本取組に関心を持ってくださった国土交通省菊池川河川事務所や、玉名市の水生生物の現状に関心が高い地域の方にもご参加いただきました。
まず、科学部の8名の部員の皆さんに対し、WWFジャパンで九州の水田生態系の保全を担当するスタッフの久保優より、この地の自然の概要や問題、淡水魚の保全の取り組みについて説明。
環境省福岡事務所の鈴木規慈自然保護官からは、日本の絶滅危惧種の現状と国内希少野生動植物種の保全について、詳しくご説明をいただきました。
そして九州大学の鬼倉徳雄先生からは、事前に生徒の皆さんにいただいていたご質問にお答えする形で、淡水魚やその調査・保全について、さまざまなお話をしていただきました。
論文などをしっかり読み込まれていた科学部の皆さんから寄せられたご質問は、実に20問あまり。その内容は「魚の個体が、季節によって流速の早い水域と止水域を移動する理由は何か」「環境DNAの調査では生息の個体数はどこまで具体的にわかるのか」といった、いずれもレベルが高いもので、鬼倉先生もこれには驚かれていたご様子。
それでも一つひとつ、生徒たちの関心に応える形で、面白く丁寧に答えてくださっていました。
午前中のお話の後は、本来は野外に出て実際に川に入り、魚の捕獲を行なう予定でしたが、当日は荒天のため、代わりに事前に捕獲しておいた淡水魚を、教室で見る屋内観察会を実施しました。
タカハヤやカマツカ、オイカワ、アリアケスジシマドジョウなど、実際の生きた魚たちを間近に見ながら、生態やその特徴、また「昔はこの魚は、川で獲ってよく食べていた」といった、人と魚の古い付き合いなどについてお話を聞きました。
この後、生徒の皆さんはこれから調査を行なうことになる川のポイントを、実際に何カ所か回って確認し、「地域の淡水生態系保全プログラム会議」は終了となりましたが、今後は実際の環境DNA調査の実施に向けた準備と計画を立て、これを実施していくことになります。
玉名高校科学部とWWF、九州大学、そして地域の皆さまのご協力によって実現したこの取り組み。進捗についてはまたあらためてご報告いたします。