声明:奄美大島のマングース根絶宣言を受けて 南西諸島の未来のために


2024年9月3日、環境省は鹿児島県の奄美大島に1979年に持ち込まれた外来生物フイリマングースの根絶を宣言しました。フイリマングースは同島に生息するハブ対策のため、約30頭が名瀬市内で放されましたが、その後、約20年間で島内に広く生息域を拡大し、個体数も推定で1万頭に増加。アマミノクロウサギやケナガネズミ、アマミヤマシギ、アマミイシカワガエルといった希少な固有種を捕食し、その絶滅危機を深刻化させ、外来生物法に基づく特定外来生物にも指定されていました。

環境省によれば、その捕獲と駆除が本格的に行なわれるようになった2000年以降、その取り組みの中で捕獲されたマングースの総数は3万頭以上、2024年度までの累計の事業費は約36億円にのぼったとされています。そして今回、2018年を最後に島内でのフイリマングースの生息が確認されていないことを受け、根絶が宣言されました。

この奄美大島を含む南西諸島の外来生物問題については、WWFジャパンも1983年に開始した南西諸島の自然保護プロジェクトや、1986年に設置したさまざまな分野の専門家による南西諸島自然保護特別委員会を通じた活動を実施。1991年には報告書『南西諸島の野生生物に及ぼす移入動物の影響調査』を発表するなど、研究者や地域の方々との協力を通じた活動とその支援に取り組んできました。

フイリマングースは日本以外の世界各地にも移入され、外来生物となっていますが、奄美大島のような広い面積を持つ島で、数十年にわたる取り組みが、多くの人々の努力と協力のもとで継続され、その根絶に至った事例は決して多くはありません。また、これは地球上で広く失われつつある生物多様性を回復させる「ネイチャー・ポジティブ」を、世界自然遺産の島で実現した、非常に大きな成果であると考えます。

根絶の宣言にあたり、WWFジャパンはこの成果と、関連する取り組みを長年手掛けてこられた皆さまに、心からの敬意と感謝を表します。

一方で、奄美大島のフイリマングースの例は、生物多様性を脅かす外来生物の問題が、いかに解決が難しく、対応に時間と費用が必要とされるかを、如実に示すものとなりました。地球の自然環境や野生生物に対する理解の不足や安易な導入が、こうした外来生物問題を引き起こしている現状は、きわめて憂慮すべきものです。

実際、南西諸島の島々では、ヤギやノネコ、インドクジャクや島外から持ち込まれたカエル類、魚類や植物などの様々な外来生物が、現在も大きな問題になっています。外来生物は、まず発生させない「予防原則」に基づいた対応が何よりも重要であり、その取り組みの徹底が、人の都合で駆除される動物の命を救う上で一番必要な対策であると考えます。

さらに、世界自然遺産の島々を含む南西諸島では、外来生物問題のほかにも、その貴重な自然と野生生物を脅かす開発問題など、深刻な危機が各地で発生しています。石垣島の名蔵アンパルの流域で計画されているゴルフリゾートの開発や、与那国島の樽前湿原でもちあがっている港湾開発計画、そして沖縄島辺野古での基地建設や、そのために奄美大島などで行なわれている埋め立て用の土砂の採掘などは、そうした危機を代表する事例です。

国際的に見ても、その希少性と固有性の高い南西諸島の自然を未来に引き継ぐことは、日本が世界から託された責任の一つです。WWFは、今回の奄美大島のマングース根絶宣言が、この責任を果たす大きな一歩となることを歓迎しつつ、外来生物問題以外の課題についても、政府や自治体が真剣に向き合い、保全に向けた取り組みを拡充していくことを強く求めます。そして、そうした関係者との協力・連携を強化しつつ、南西諸島の生物多様性を守る取り組みを、今後も継続していきます。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP