2050年ゼロを見据えた 「2030年エネルギーミックス」と「パリ協定国別削減目標(NDC)」提案


WWFでは2021年9月にエネルギーシナリオのアップデート版を発表しております。

地球温暖化対策の国際条約である「パリ協定」の実施が2020年から始まった。気温上昇を1.5度に抑えるために必要な「2050年に温室効果ガスゼロ」を目標とする動きは、欧州諸国から始まり、中国が2060年ゼロを表明した後、日本・韓国が続けて2050年ゼロを表明。さらに、2050年ゼロを選挙公約としたアメリカ・バイデン政権誕生を控えて、今や世界のスタンダードとなっている。
 今の日本に最も求められることは、パリ協定へ提出した国別削減目標(NDC)の引き上げと、それを可能とする2030年エネルギーミックスの改定である。現行の目標(2013年比-26%)は2050年ゼロへの道筋からは遠く、改定は必至だ。おりしも未曽有の新型コロナ危機によって、DX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れなど日本の課題も鮮明となり、構造的な社会改革の必要性が浮かび上がっている。
 WWFジャパンは2011年から6回にわたって2050年に自然エネルギー100%を実現するエネルギーシナリオを提言してきたが、このたび、新型コロナ後も見据えて、日本の産業構造の変革と強化にも踏み込み、改めて2050年ゼロを実現する日本のエネルギーシナリオを提言したい。そこへ至る道としての現実的な2030年のエネミックスの在り方とパリ協定へ再提出するべき日本のNDCを提言する。

2030年エネミックスとパリ協定国別削減目標(NDC)に対する提言のポイント

  • 最もCO2排出量の多い石炭火力は、2030年までに全廃止することが可能
  • その穴埋めとしては、既設ガス火力の稼働率が現状35~50%と余裕があるため、その稼働率を60~70%程度にあげることで賄える(火発を新設する必要はない)
  • 自然エネルギー(風力・太陽光中心)の電力に対する比率は47.7%に引き上げが可能
  • 10電力地域において、石炭火力を使用せずに、想定した自然エネルギーと既設のガス火力・石油火力で、過不足がないか、全国 842 地点の AMEDAS2000 標準気象データを用いて1 時間ごとの太陽光と風力の発電量のダイナミックシミュレーションを行った結果、現状のインフラ(地域間連系線など)の範囲内で可能 (沖縄のみバイオマス発電等の増強が必要)とわかった
  • 省エネルギーにより最終エネルギー需要は21.5%減(2015年比)となり、政府見通し(2013年比正味で10%減)よりも多くすることが可能(経済成長前提)
  • 原発は稼働30年で廃止、現状を反映して、稼働中及び再稼働が見込まれている原発のみを想定に入れた結果、2030年には約2%、2040年までに全廃
  • このエネミックスの実現で、エネルギー起源CO2排出量は2030年に2013年比49%削減(GHGでは45%)、2040年に70%削減(同68%)、2050年ゼロ(同ゼロ)が可能

WWFエネルギーシナリオの考え方「2050年に100%自然エネルギー社会は可能」

① 使うエネルギーを減らす

  • 人口減とコロナ禍で加速した産業構造の転換で、重厚長大型からサービス産業型へ変化
  • 産業構造の変化と、現在想定できる省エネ技術・対策の普及により、一次エネルギー換算でエネルギー需要は2050年までに約3割まで減少する(2015年比)
  • 化石燃料による発電は投入したエネルギーの6割が損失になるが、自然エネルギーに変わっていくことで、最終エネルギー需要に占める損失は非常に小さくなる

② 自然エネルギーに替えていく

  • 化石燃料(石炭は2030年全廃)と原発は段階的廃止
  • 全国 842 地点の AMEDAS2000 標準気象データを用いて1 時間ごとの太陽光と風力の発電量のダイナミックシミュレーションを実施して24時間365日電力需要を賄えることを確認
  • 可能な限りの燃料や熱のエネルギー需要を電化(電気自動車等)
  • 電力以外の燃料・熱需要は、グリーン水素(余剰電力を使った水の電気分解で作成)も活用して賄う
  • 鉄鋼産業における高炉は電炉への置き換えとグリーン水素活用

③ CO2がゼロになる

  • エネルギー起源CO2排出量はゼロ、温室効果ガス排出量もゼロ
図1 一次エネルギー供給構造の推移

図1 一次エネルギー供給構造の推移

WWF提言「2030年のエネミックスとパリ協定国別目標」

WWF提言「2030年のエネミックスとパリ協定国別目標」

(1) 石炭火力は2030年までに全廃止が可能

日本の石炭偏重は国際的に強い非難の対象となってきたが、2020年夏に石炭火力の輸出原則廃止、非効率石炭火力の廃止が決まってきた。一方で高効率の石炭火力は使い続ける意思が示されている。しかし今回のエネミックスの見直しでは、高効率でもCO2排出量の多い石炭火力については、廃止計画を明示することが2050年ゼロ達成のためには不可避である。

本シナリオのダイナミックシミュレーション結果では、現状の石炭火力を日本の10電力地域全域で2030年までに廃止しても、電力供給に問題がないことが分かった。まず原発は稼働30年で廃止、現状を直視して稼働中及び再稼働が見込まれている原発のみ想定に入れた結果、2030年には2.1%となる。石炭全廃の穴埋めとしては、現状稼働率が35~50%以下である既設のガス火力の稼働率を、60~70%程度にあげることで賄える。新たにガス火力を新設する必要はない。そのガス火力も段階的に廃止し、2050年には電力のみならずすべて自然エネルギー供給が可能となる。

(2) 自然エネルギーの電力に対する比率は、ダイナミックシミュレーションの結果、47.7%可能

2018年の日本の電力に占める自然エネルギーの割合は18%、日本の産業界からも2030年50%への引き上げ提案が出されるなど、再エネの真の主流化が問われている。本シナリオでは、風力と太陽光を中心に、2030年に電力に占める自然エネルギーの割合は、47.7%が可能と分かった。
これは、10電力地域に存在する実際のガスと石油火力の設備容量を元に、石炭火力を使用せずに、想定した自然エネルギーと既設のガスと石油火力で、過不足がないか、全国 842 地点の AMEDAS2000 標準気象データを用いて1 時間ごとの太陽光と風力の発電量のダイナミックシミュレーションを通年で行った結果、導き出されたものである。沖縄を除く9地域において、現状の地域間連系線などのインフラを増強することなく、自然エネルギー47.7%が可能であることが示された(沖縄はバイオマス発電等の増強を想定)。すなわち2030年自然エネルギー約50%を目標とすることは、現状の電力システムのインフラ内で可能ということが示された。

(3) 省エネルギー量21.5% (2015年比)が可能

省エネルギーは最もコスト効率的な経済&温暖化対策である。本シナリオでは、新型コロナが加速させた産業構造の変化と経済的に可能な省エネルギーが進展していると想定した。人口減少のため産業の活動が2050年にかけて80%に縮小し、途上国と競合する原材料の輸出はなくなる。代わりにIoT・AI(人工知能)情報機器、自動運転車、ロボットなどの輸出が150%に増大し、機械・情報産業は150%に成長する。これによって人口減にもかかわらず、日本の経済成長率は維持され、GDPは増大する。その結果、2050年には最終エネルギー需要で見ると2015年比で約58%減少する。
その途上である2030年には、最終エネルギー需要は2015年比で21.5%減少する。これは政府長期見通しの10%減(2013年比正味)よりも多く省エネが可能であることを示す。

図2 各部門の最終エネルギー需要

図2 各部門の最終エネルギー需要

(4) 電化の推進と燃料・熱需要のための余剰電力を使ったグリーン水素の活用

脱炭素社会を進めるには、電力よりも脱炭素化が難しい燃料用途と産業用の高熱用途の化石燃料需要を、可能な限り電力に置き換えていくことが有効である。電力は自然エネ等で脱炭素化が容易であるからである。そのためには電気自動車の普及や鉄鋼の電炉化推進などが必要である。
その上で現状化石燃料を利用している運輸部門や産業用の高熱用途を、水素で代替していく。その水素を化石燃料から作るのでなく、自然エネ由来の電力を使っての水分解によるグリーン水素が化石燃料脱却への道筋となる。
太陽光と風力発電など変動電源による発電量と電力需要を合わせるために、電力需要を超える発電が必要となる。したがって余剰電力の発生は必然となる。本シナリオでは、2030年段階で余剰電力が電力需要の約1割、2050年に向けては2倍近く発生する。その余剰電力でグリーン水素を作り、脱炭素化が難しい燃料と熱需要に使うことで、エネルギー全体を脱炭素化していくことが可能となる。
グリーン水素は現状すでに普及段階にある技術であり、電力料金さえ低くなれば採算性があう。すなわち余剰電力を使って作るグリーン水素は理に適うエネルギーで、脱炭素社会の切り札となる。

(5) 鉄鋼業からのCO2削減について

脱炭素社会のためには、鉄鋼や化学産業から排出されるCO2をどうするかが大きな課題となる。中でも日本のCO2排出量の15%を占める鉄鋼業からの排出削減は、2011年から発表してきたWWFシナリオにおいても、最後まで将来の技術革新にゆだねざるを得ない部分が5%ほど残ってきた。それが2020年発表の本シナリオでは、電化と水素活用で2050年脱炭素化への道筋が視野に入ってきた。
まず産業構造の変化で、鉄鋼産業の活動度が国内では53%に低下する(鉄鉱石生産地や需要地へのシフト)。高炉(鉄鉱石を石炭で還元して製鉄)から電炉(スクラップ鉄を電気で溶かして製鉄)へと移行し、電炉由来の製鉄の割合を現状の3割弱から欧米並みの7割へと上げていく。これにより製鉄プロセスからのCO2排出量は4分の1となる。先進国である日本は都市鉱山であり、市中には約15億トン蓄積されているため、2050年頃まではスクラップ鉄の供給不足の問題はないとされている。
そして高炉に代替する製鉄技術として、CO2を排出しない生産技術である電気分解方式と水素製鉄を検討した。すでに小規模だが天然ガスによる直接還元製鉄が行われており、水素製鉄はこの技術の延長線上にある。2020年発表の本シナリオでは以前のシナリオよりも鉄鋼生産由来の排出量の脱炭素化もより現実味を持って示すことができた。

(6) CCUSの使い方について

近年化石燃料を使いながらも、排出された炭素を回収し、地中深くに貯蔵するCCS(炭素回収貯留)や、回収した炭素を水素と反応させてプラスチックや産業用材料などをつくってリサイクル利用を行う(CCUS)の議論が盛んになっている。しかし風力や太陽光などの自然エネルギーの価格が急速に低下する中、輸入される化石燃料のコストを負担しながら、まだ商業化されておらず高額なCCUSを実施することは、経済的に成り立たない。ましてや今後30年で脱炭素化を目指すには、必要とされるCO2の吸収の量的にも時間ラグから見ても無理がある。
一方で、2050年ゼロを達成したのちには、気温上昇を1.5度に抑えるためには、過去に排出されて大気中に蓄積したCO2を除去する技術がいずれ必要となってくる。そのための技術としてDAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)の開発が世界で進められている。本シナリオではその検討も行い、2050年以後には回収した炭素の使い道としてCCUSも検討した。いずれもそのために投入するエネルギーは余剰電力でなければ意味がないことは言うまでもない。

(7) エネルギー起源CO2排出量2030年49%削減、2040年70%、2050年ゼロ

このエネミックスの実現で、エネルギー起源CO2排出量は2030年に2013年比49%削減、2040年に70%削減、2050年ゼロが可能となる。温室効果ガスの排出量でみた場合には、2030年45%削減、2040年68%削減、2050年ゼロとなる。
2030年49%の削減が可能となった背景には、2030年に石炭火力を全廃したことと、鉄鋼業の石炭使用を除いて、セメント業など産業における高熱用途には、石炭からガスとバイオマスへとシフトさせたことがあげられる。これらは、2050年ゼロを目指すには不可避なシフトである。
さらに2030年代後半からは、余剰電力を使ってのグリーン水素が軌道に乗り、FCV用や産業用の高熱利用が徐々に可能となってきて、ガスからの脱却も進んでいく。その途上である2040年には、CO2排出量は70%の削減が可能となり、さらに2050年に向かってはグリーン水素による船舶や航空機などの運輸部門も脱炭素化が可能となってきて、2050年ゼロを達成する。

まとめ

政府が3月にパリ協定に再提出した2030年26%削減は2050年にゼロを目指す道筋とは整合しない。すみやかに50%レベルに引き上げるべきである。そして2050年ゼロを達成する道筋を示していってもらいたい。そのためには、2030年のエネルギーミックスをパリ協定の国別削減目標の改定と一緒に議論していかなければならない。
WWFの本シナリオが示すことは、2030年までに石炭火力全廃止、自然エネルギー47.7%、省エネルギー21.5%(最終エネルギー需要)、そしてCO2排出量49%、GHG排出量45%削減が、技術的には現状のインフラの延長線上で可能であることである。
すなわち省庁の縦割りを打破して、経済政策と環境政策を一体で議論できる体制を整え、社会的な既得権益や前例主義などを排除していくことこそが、今最も求められていることである。菅首相の2050年ゼロを目指す本気度が問われている。
WWFジャパンはその議論の一助となることを強く願って、本報告書を送り出す。なお、これらの転換に必要となる費用は大きな負担額とはならないことが前回までのWWFシナリオで予見されるが、費用も検討した報告書を近く再度発表する予定である。

参考情報

WWFジャパン『脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ』(2020年12月発表)

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