衆院選2024選挙公約比較(温暖化対策)
2024/10/24
- この記事のポイント
- 2024年10月27日の衆議院選挙に向けて、各政党が公約で掲げる気候変動・エネルギー分野での政策を、WWFジャパンは比較しました。近く改定される、新たな温室効果ガス削減目標等(NDC)やエネルギー基本計画が1.5度目標に整合するか、今回の結果で大きく左右されます。しかし、全ての政党が十分な政策を掲げるには至っていません。削減目標と地球温暖化対策の強化に向かえるか、有権者の一票にかかっています。
1. 今回の衆院選の位置づけ:2030年までの温暖化対策の方向性に直結
2024年10月27日の衆議院議員選挙に向けて、各政党が選挙公約/マニフェストの中で気候変動・エネルギー分野についてどのような方針を掲げているのか、WWFジャパンでは比較を行ないました。
背景として、地球温暖化の状況は深刻さを増しており、特に2030年までの対策の強化が急がれることが挙げられます。今回の衆議院議員選挙の結果は、その方向性を大きく左右します。
世界の平均気温は既に産業革命前と比べると約1.1度上昇しています。さらに、EUのコペルニクス気候変動サービスによれば、北半球における2024年の夏(6月~8月)は同時期として観測史上最も暑かったとされており、温室効果ガスの排出削減に向けた取り組みを急ぐべきことが指摘されています。
また、IUCN(国際自然保護連合)が公表している、世界の絶滅の恐れのある野生生物のリスト「レッドリスト」では、気候変動によって影響を受ける絶滅危惧種が増加の一途をたどっています。
こうしたなか、地球温暖化対策の強化に向けた機運が国際的には高まっています。
2023年に開催された、国連気候変動枠組条約の第28回締約国会議(COP28)では、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5度に抑えるため、温室効果ガスの排出量を世界全体で2019年と比べて、2030年までに43%、2035年までに60%削減する必要があることが確認されました。
加えて、世界全体で2030年までに、再生可能エネルギーの設備容量を3倍、省エネの改善率を2倍にすること、そして化石燃料からの転換に向けた取り組みを加速させることに合意されました。
各国はこれらの合意内容を踏まえて、温室効果ガス排出削減目標などを盛り込んだ「国が決定する貢献」(NDC)の2030年NDCのさらなる強化が必要です。そして新たに策定する2035年NDCを1.5度に整合させなければなりません。この2035年NDCについては、日本においても2025年2月までの提出に向けて政府内で議論が進められています。
同時に、日本では、国の中長期的なネルギー政策を方向づける「エネルギー基本計画」の改定のタイミングでもあります。日本の温室効果ガス排出量のうち約85%が化石燃料の利用に伴うCO2であることに鑑みると、地球温暖化対策はエネルギーのあり方と直結します。次のエネルギー基本計画の中で、どれだけ化石燃料に頼らない形でエネルギーをまかなうとされるかが重要です。
今回の衆議院議員選挙で、どのような温暖化対策・エネルギー政策を掲げる政党が政権を握るかによって、これらのNDCやエネルギー基本計画の内容にも強く影響するのです。
2. WWFジャパンのチェック項目と結果の概要
(1)チェック方法
今回、WWFジャパンは、気候変動・エネルギー分野で重要な「10の項目」について、各政党が発表している選挙公約/マニフェスト等を確認し、比較しました。
この比較は、総務省「政党・政治資金団体一覧」に記載のある政党を対象としています。
また、政党としての方針全般を評価する観点から、選挙公約/マニフェスト以外に政策集等も評価対象としました。
なお、いずれも2024年10月18日時点の情報を基にしています。
(2)比較の結果
結果は以下のとおりです。
【評価の内容】
○ :気候変動への対応として十分であり、持続可能な社会づくりを目指す方向に合致している。
△ :気候変動への対応として姿勢は評価できるが、依然として一層の改善が求められる。
× :気候変動への対応として不十分である。
××:言及がなく、気候変動対策が欠如している。
(3)全体の傾向
2020年10月のカーボンニュートラル宣言以降、ウクライナ危機や電力需給の逼迫などによる社会的な関心の高まりもあって、ほぼ全ての政党が気候変動や脱炭素について言及するようになっています。
しかし、全ての政党が十分な政策を掲げているとまでは依然として言えません。政党ごとに大きくばらつきのある分野や、いずれの政党も不十分な分野があります。
上記のとおり、温室効果ガスの排出削減目標は、2030年のみならず2035年に向けても設定していく必要があります。しかし、2035年目標を掲げたり、十分に高い2030年目標を目指したりする政党はごく一部でした。
また、再生可能エネルギーの普及策として具体的な政策を提示していた政党はいくつか見られました。他方、カーボンプライシング(炭素の価格付け)について、現状の政府の方向性を上回る改善策を提示している政党はありませんでした。
加えて、気候変動影響への適応策も重要であるところ、温室効果ガスの削減につながる緩和策と比べると全体的に言及が薄い状況でした。緩和と適応はどちらかだけ行なうのでは不十分であり、常に車の両輪として取り組む必要があります。なお、緩和と適応を統合的に規定する地球温暖化基本法の制定を明示したのは1党のみでした。
3. チェック項目の詳細
表の10のチェック項目の詳細は次のとおりです。
(1)温室効果ガス排出量を2030年までに半減(2013年比)以上、2035年までに66%(同)減以上とする削減目標を明示しているか?
上述のとおり、パリ協定の掲げる1.5度目標を達成するためには、世界全体で2030年43%(2019年比)減、2035年60%(同)減が必要です。排出削減の責任と能力を有する先進国として日本はそれを上回って排出削減を進めるべきであり、WWFジャパンの試算では十分に可能だと示されています。各政党が両方の年限について、これらの水準での削減目標を提案しているかを確認しました。
(2)再生可能エネルギーを2030年までに電源構成の50%、2050年までに100%とすることを明示しているか?
化石燃料への依存を止めて、発電時に温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーの割合を増やしていくことが日本の地球温暖化対策では必須であるとともに、国際的にも求められています。WWFジャパンの分析では、再生可能エネルギーが電力に占める割合を、2030年までに約53%、2050年には100%にできます。各政党がその水準での再生可能エネルギー導入を目指しているかを確認しました。
(3)原子力発電の想定を現状に立脚したものにし、2040年までに段階的に廃止することを明示しているか?
岸田前政権の下では、国民的な議論なく拙速に原子力の積極活用に舵が切られました。しかし、再稼働は依然として進んでいません。なにより、再生可能エネルギーの発電コストが大きく下がってきているなか、安全対策コストなどがかさむ原子力に依存し続けることが現実的と言えるでしょうか。各政党が原発の段階的廃止への方向性を示しているか確認しました。
(4)国内の石炭火力発電を2030年までに全て廃止することを明示しているか?
石炭火力発電はたとえ高効率のものであっても、ガス火力の約2倍のCO2を排出します。そのため、年々廃止に向けた国際的なプレッシャーは高まっています。2024年6月のG7プーリア首脳サミットにおける首脳宣言では、不十分ながらも石炭火力発電を廃止する年限として、2030年代前半という具体的な時期が明記されました。1.5度目標に整合的なIEAネットゼロシナリオでは、OECD諸国等の先進国経済で石炭火力発電を2030年までに廃止することが必要とされています。各政党が科学的知見や国際的な動向に沿って、2030年までの石炭火力発電の廃止を明言しているか確認しました。
(5)産業部門について、キャップ&トレード型の排出量取引制度と化石燃料賦課金を早期に導入することを明示しているか?
温室効果ガス排出量を2030年までに半減させる上で、省エネ・再エネの既存技術の普及が必要であり、十分な炭素価格を実現できるカーボンプライシングを早期に導入することが求められます。一方で政府は、排出量取引制度を2026年度から「本格稼働」させ、炭素税に相当する化石燃料賦課金を2028年度から導入する方向性を示し、制度設計が進められています。制度導入へ一歩踏み出し始めたのは歓迎できますが、実現できる炭素価格の水準や導入時期など改善も要します。各政党がこうした改善案を提案できているか確認しました。
(6)国内に残る再エネポテンシャルを顕在化する上で特に重要な政策として、屋根置き太陽光パネルの標準化、ソーラーシェアリングの促進、自然と共生した再エネ導入促進策が明示されているか?
再生可能エネルギーを大幅に増やしていく必要があるなか、日本の国内には依然として導入ポテンシャルが豊富に残されています。特に太陽光発電の場合、建築物の屋根や農地に大きくポテンシャルが残されており、新築住宅への太陽光パネル設置の標準化や、太陽光パネルの下で農作物栽培を行なうソーラーシェアリングといった取り組みが不可欠です。他方、闇雲に発電設備が設置されてはならず、地域の自然環境と共生できるように、例えば地方自治体によるゾーニングの実施にインセンティブを与えるといった工夫も重要です。再生可能エネルギー普及に、特に重要なこれら政策の具体案を各政党が示しているか確認しました。
(7)民生部門のうち住宅について、新築の断熱基準を2030年に十分先立つ形で既存のZEH水準より引き上げること、及び既築の省エネ向上に向けた改修を推進する具体策を明示しているか?
民生部門における省エネも、パリ協定の実現には欠かせないポイントです。特に一度建築されると以後数十年にわたり存続する点で、建築物の省エネ化が重要となります。2022年6月には新築の建築物全てに省エネ基準への適合を義務づける改正建築物省エネ法が成立しました。しかし、特に住宅の断熱基準については、欧米並みに引き上げるべきです。また、既存住宅の断熱改修の加速も求められます。これらの点に各政党がどう対応するのか確認しました。
(8)運輸部門について、2035年までに内燃機関を搭載した乗用車からの脱却に向けて、EVその他のゼロエミッション車(ZEV)新規販売に関する定量的目標を明示しているか?
運輸部門における温室効果ガス排出の削減も必須です。EUでは2035年までに新車のCO2排出量の100%削減が要件となるなど、ガソリン車・ディーゼルエンジン車の販売を事実上禁止することが目指されています。アメリカでもカリフォルニア州では2035年までに州内で販売される新車を全てZEVにすることとされているほか、バイデン政権も自動車の排ガス規制を強化してEVの普及を強く後押ししています。日本の削減目標達成はもとより、自動車産業の維持のためにも、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)への転換を促す規制の導入が求められます。各政党がこの点を明示しているかを確認しました。
(9)熱需要について、短中期的にはヒートポンプの導入など未利用熱の活用や電化の推進を行いつつ、将来的にはグリーン水素も活用することを明示しているか?
化石燃料は発電のみならず、熱需要を満たすためにも使用されます。温室効果ガスの排出削減のためには、熱需要も再生可能エネルギーで満たす必要があります。直近で活用できる技術であるヒートポンプは迅速に導入されていくべきです。また、未利用の廃熱等の活用、電炉製鉄をはじめとした製造プロセスの電化も並行して促進しつつ、将来的には再生可能エネルギーで生成する水素の活用も目指されることも重要です。これらに向けた施策を提示しているか確認しました。
(10)気候変動への適応について、適応法に沿った施策の推進とともに、生態系と適応策を関連づけた施策の実施を明示しているか?
地球温暖化対策では、上述の緩和の取り組みと同時に、地球温暖化の社会・経済への影響を縮減する適応の取り組みが併せて必要です。多岐にわたる分野での取り組みを進めるために、気候変動適応法に沿った包括的な適応策が求められます。加えて、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復傾向に向かわせる「ネイチャーポジティブ」の達成も必須であるなか、気候変動の影響を受ける生態系の保全は不可欠です。更に、生態系の力を借りた適応策の実施は、地球温暖化対策と生物多様性の保全の両方に効果をもたらすことが期待されます。各政党が、こうした適応策の実施を約束しているか確認しました。
上記の10の項目についてのチェックは、主に各政党が開示しているマニフェスト等に基づいて実施しました。
有権者が、投票する政党を選択する際の一つの重要な観点として、こうした情報を是非、活用していただければと思います。
(参考情報)各政党の選挙公約からの一部抜粋
各政党の選挙公約における該当箇所は以下のファイルよりご覧ください。
2024年衆院選マニフェスト比較 各項目の該当箇所一覧